【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

もっと部下を使いやしょう。

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 初日の紙束をととのえ、封蝋を落とす。表には王城宛、差出しはタウンハウス。中身は出立表、宿の差し替え、受け渡しの要点、道中の静けさを保つための諸注意。アールに託すと、彼はいつもの落ち着いた調子で頷き、門の陰に馬を引かせた。

「承りました。侍従と厨房、近衛詰所に順番どおり回します」

 背を見送る間もなく、ゼクスが影のように現れる。

「宿を押さえてまいりましょう」

「頼む。二日目、三日目、四日目は静かな宿。初日は裏庭の広い宿を一つ」

「書状を一本、持っていきやす」

 用意しておいた書状を渡す。人の流れ、荷の搬入、裏口の位置、夜の灯の具合まで短く書き込んである。ゼクスは目だけで読み下し、肩をいからせずに馬へ向かった。

 廊下の向こうから、ストークが気づかわしげな顔でこちらを見る。呼び止める前に、彼の方から口が開いた。

「仕官と家臣になりたい者の一次面接は、私が受けます。身の回りのことは案じなくて大丈夫です」

「助かる。面談は短く、控室で書付の確認から頼む」

「はい。礼と退けの形は整えておきます」

 広間ではローランが王様からの宿題にかかり切りだ。王都での運用計画の骨組みを、旅で使った言葉を変えずに場だけ当て込み直す作業。紙の上で街がゆっくり息を始めているのが、離れた場所からでも分かる。とはいえ、あちらを立てればこちらが沈む心配が頭をかすめ、肩の力が知らず入る。

 その時、アインスが胸の前で手をぱんと合わせた。

「もっと部下を使いやしょう。わっちらがいるんでさぁ、気軽にいきやしょう」

 その一声で、胸の硬さがほどける。フィアが軽い敬礼をして笑った。

「先遣は私とアインスで行きます。現地の家政の柱と詰所に挨拶して、ご命令通りに動いてきます」

 トーマスが扉際に現れ、簡潔に告げる。

「陽炎隊から数名、前乗りさせます。表の見回りは現地の自警団と組み、こちらは荷の出し入れと門の出入りの整序だけ受けます」

 ミレイユは端に積んだ札の束を肩に抱え、カレルは手帳の角を指で叩きながら出納の順を立て直す。誰も声を荒げない。けれど、動きは早い。仲間と目が合うたびに、輪が強くなっていくのが分かる。

 王城からの返書は、思いのほか早かった。封を切ると、端正な文字で短く要件が並ぶ。献立は料理番とリョウエストで決めてくれ、とある。紙面の白さが一気に広がった気がして、思わず額に手を当てた。

「さて……何をお出しすべきか」

 杞憂気味の独り言に、いつの間にか近くにいたリディアが笑う。

「あんまり考えすぎもいかんぞ。うまいものは、肩の力を抜いて呑み込めるものじゃ」

「そうだね。お二人の好きな傾向と、体に重くないもの……そこから組み立てるよ」

 紙に走り書きを始める。王様は働きながらでも口にしやすい小皿が良い。冷めても味が崩れないもの。先王妃様には温かい汁気を切らさない。香りは穏やかに、塩は控えめに。季節の野菜を主役に、動物性は軽い部位を少しずつ。道中は同じ基調で、揺れる馬車でも食べやすい形に。白身の魚は蒸しに、鶏は薄い香草で炙り、根菜はとろりと炊いて潤いに変える。蕎麦と小麦の平パンは小ぶりに、果実は水で割って甘さをごく弱く。酒は初日の乾杯に清らかな一口だけ、その後は果実水へ。――考えを書いているうちに、背中の力が抜け、目の前の紙が一枚ずつ軽くなる。

 アールが戻り、侍従と台所頭に書状が渡ったこと、近衛詰所とも要点を合わせたことを報せる。続けて、王城の厨房との突き合わせの刻が決まる。場所は王宮の厨房。器の受け渡し場所、温の管理、配膳の順……細かいところは現場で決めよう。

 そこへ、ゼクスの第一報。静かな宿、二日目の一夜ぶん確保の報。初日は裏庭の広い宿。馬の替えの手筈はストークが押さえた。紙の上で道が一本、音もなく延びた気がする。

 青の技は手際が良い。アインスとフィアは夕刻にはもう出立し、ミレイユの図面と札の束を荷に収めた。トーマスは陽炎隊に指示を出し出立させる。カレルは倉の目録を二部作り、礼状の控えを脇に置いた。ローランは王都の運用計画に印を打ち、空いた片手で家政の稽古の順を組む。誰もが自分の持ち場を知っている。その心地よさに、胸の奥が静かに満たされた。

 紙の合間に、ルステインのエメイラへ速文を打つ。静養の家の件で動いてほしい旨、王都からの細かな指示書の控え、必要な器と布の種類、香りの薄い花材の目録。ほどなく返文が来る。

「了解。現地の家政と庭に伝える。器は指示どおりに選る。花は白と青を少し。道具の手当は任せて」

 文字からいつもの静かな自信がにじむ。遠くにいても、こちらの意図がすぐ伝わる人だ。紙を畳み、机の端に置いた時、窓がわずかに軋んだ。レラサンスが静かに現れて、湯気の立つ茶を置く。香りは弱く、舌に重さが残らない。

 夕刻、厨房で料理番と顔を合わせる。互いの目録を広げ、似た項目に印を入れる。温の管理は蓋と布で。汁物は注ぎ口の細い器でこぼれを避ける。器の受け渡しは裏庭側。配膳は人の往復が少ない順に。道中は揺れを見越し、固すぎないまとめ方に。話は短く、決め事は紙に残すだけ残し、余分な口を出さない。職人同士の目配せで、すでに半分決まっていくのが気持ち良い。

 戻る途中、夜気が街路の石を冷やし始めていた。タウンハウスに着くと、玄関脇の控板に新しい紙が増えている。王城からの追加の問いが二つ、現地からの返しが一つ。レイさんと目を合わせ、必要な返答だけを選び取る。紙が飛ぶたび、気配がほぐれていく。

 夜半、机に向かい、献立の骨を一枚にまとめた。朝は喉に優しいものを短く。昼は力を落とさない組み合わせを軽く。夕は温かさを中心に、長くならない皿をいくつか。甘いものは薄い甘さを小さく。道中は同じ基調で揺れに強い形に。体に重さが残らないこと、香りが邪魔をしないこと。紙の端に小さく、使う器の寸法を記す。誰が作っても同じ形になるように。

 ふと顔を上げると、ナビが棚の上で丸くなり、尾だけがゆっくり揺れていた。仲間は皆、もう動いている。遠くの宿で鍵を受け取る影。現地で図面を手にして門をくぐる影。王城の長屋で器を並べる影。誰も独りではない。そう思うだけで、背中が軽くなる。

 最後にもう一本、速文を王城へ。明朝、厨房との再確認の時刻。器の受け渡し場所の印。随員の名簿の差し替えがあれば即時に知らせてほしい旨。封をして、灯を少し落とす。明日はまた紙が飛ぶ。紙が飛べば、人が動く。人が動けば、家が息をする。静養の家は、必要なものが揃っている。僕らは邪魔をせず、見えないところで支えるだけだ。リディアの「考えすぎもいかんぞ」が、茶の余韻みたいに舌に残って、やわらかく笑いが出た。
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