【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

マックスさんと段取り。

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 速文机に向かい、一筆したためた。ルステインにいらっしゃいますか、静養の家の件で急ぎ面談を……返ってきたのは、執事レイさんの端的な返書だった。旦那様はいま王都におります。会うならタウンハウスへ。

 馬車の車輪が石畳を軽く叩く。ルステイン家のタウンハウスの門は、いつもどおり控えめに開いた。内庭の噴水が細い弧を描き、レイさんが姿勢よく一礼する。

「旦那様は応接でお待ちです」

 扉が開くと、マックスさんはすでに腰を浮かせていた。大柄な体に柔らかな笑み。目だけはもう段取りの速度になっている。

「どうした?」

「静養の家に、王様と先王妃様が滞在されます」

「おお……大役だな」

 短く言って、視線を卓へ落とす。紙と筆が近づく音。僕は続けた。

「あわせて、僕も担当に加わるよう仰せつかりました」

「そうか。じゃあ一緒に頼む。あの家はリョウのおかげで形になったんだ。うちは骨組みを引く。君は全体を見て、足りぬところを指してくれ」

 胸の奥がふっと温かくなる。ありがたい、と思う気持ちがそのまま息になって出た。

「条件を揃えます。屋内の守りは王城から随行する側付きと料理番、それに近衛の管轄。こちらは余計な手出しをしません。外回りはお爺様……ナフェル騎士爵が現地で自警団を固めています。出立は十三日後。道中は四泊五日。ルステインまでは運河で最速でも一日半なので、今日明日の現地下見は不可能です。先に紙と伝令で走らせます」

「うむ。行程は二日目、三日目、四日目を静かな宿へ振り替えだな。一日目は距離があるから、裏庭の広い宿を押さえて人混みから遠ざけよう」

「こちらで宿の都合を整えます。荷は前々日までに現地受け入れへ。出立当日は身軽に」

 レイさんがいつの間にか筆を取り、控えにまとめていく。僕は机の白紙に、すでに手を入れずに済むところと、こちらが整えるべきところを素早く分けて記した。

「あの家は、部屋の向きや明かりの入り方、回廊の歩きやすさ、敷居や床の具合、湯殿の作りまで、土台はもう満点です。庭の手入れや外回り、備えるべき薬と道具も揃っています。だから、我々は音と匂いと紙の流れ、そして道中の静けさに力を割きます」

「具体に言ってくれ」

「館内は、足音と戸の鳴り、器と棚の当たりを先に潰します。蝶番と戸車の手入れ、床板の調整、食器棚の当てを柔らかいものに替える。報時の鐘と掛け時計は当面止めてもらうのがよいでしょう。呼びかけは近くで、無用の響きを作らないように」

「なるほど」

「香りは弱いものだけに絞り、量を控えます。香炉は儀礼のときだけ。厨房の風は主室側へ回らないよう、板一枚の角度で逃がす。洗い物や洗濯は強い香りの薬剤を避けて、いつもの灰汁と石鹸で」

「食はどうする」

「小分けで軽めを基調に、温かい汁物を軸にします。器は縁の高いもの。配膳の導線は往復が少なく済むように組み替えて、供出の卓は廊下の端へ寄せて雑音を散らします。道中の献立は王城の台所頭と今日中に突き合わせを。二日目、三日目、四日目の宿替えに合わせ、温のものを受け渡ししやすい器具を前日に回送します」

「来客と贈り物の扱いは?」

「面会は少人数で短く。席の間隔を広く取って疲れを残さない。贈り物は主室へ直入れせず、受け置き場で目録を作ってからお部屋へ。読み上げが要る書状は控室で処理して、要点だけをお伝えします。訪問の待合は主動線から外し、出入りと交差しない位置に」

「表示は?」

「扉脇と曲がり角に低い絵札を置きます。部屋名と用途と簡単なお願いだけ。夜の案内は灯の位置と同じ場所に手探りの目印を付ける。随行の方々や職人への案内図は一枚にまとめ、裏面に持ち場の表を載せます」

「連絡は誰に集約する」

「王城側は侍従と厨房、近衛詰所。現地は家政の柱とナフェル隊の詰所。こちらはローランが総括。伝令は書状と口頭の二本立てで、同じ内容を重ねて誤差を減らします。問い合わせは控室の板で回し、滞留しないようにします」

「物資は?」

「第一便は器と布、灯具、茶器、庭の道具、薬箱など音の少ないものから。箱には色札を付け、受け取り順で積みます。搬入は食事や休息の刻と重ねず、静かな時間帯に滑らせる。荷車の床に布を敷き、堅い箱を直置きしない」

「よし。現地の図面はナフェルに起こさせて、伝令二人で往復だな」

「はい。ひとりは書状、もうひとりは補足の口で。王城からの随員の名簿と部屋割りは確定次第差し替えます」

 言葉が紙に変わり、紙が束になる。束を三つに分ける音が、応接に小さく響いた。王城へ送る束。現地へ飛ばす束。こちらの屋敷で動かす束。流れはずれていない。

 そこでマックスさんは、ふっと口調を緩めた。

「……ところで、ナミリアの件だがな」

 卓の端に置かれた封の重さが、言葉より先に伝わる。

「釣り書きが来ているのに、どうにも首を縦に振らん。何か知っているか」

「心当たりはありません。機嫌の波でもなさそうです」

「そうか。なら、話してみるか」

「焦らせないであげてください。時間をとって、向こうから言葉が出るのを待っていただけたら」

「分かっておる。茶を丁寧に淹れて、ゆっくりやる」

 そのやり取りに、レイさんがわずかに口元を緩めた。控えにさらさらと一行が増える。僕はうなずき、話を戻した。

「では、初日の紙は今日中に。王城の侍従へ出立表と行程図、宿の差し替え、受け渡しの要点。現地には部屋の配置図と調度の入れ替え表、庭と回廊の運用表、贈答と来客の手順。こちらは倉から出す物の目録と、荷の積み順、人の割り付け。音と匂いの調整は屋敷内で稽古を一度」

「任せた。俺は役所筋との調整に戻る。リョウは明後日の午前、もう一度寄ってくれ。紙の抜けを拾う」

「承知しました」

 起立の気配と同時に、応接の扉が静かに開く。廊下に出ると、午前の光がほどよい角度で床を撫でていた。王都の空気は、火の民の里とは違う乾き方をしている。けれど、やることは変わらない。余計を足さず、足りないところに手を添えるだけだ。

 馬車に乗ると、車輪の振動に合わせて頭の中の束が自動的に並び直った。王城向けの文、現地への伝令、屋敷の動員。ストークに宿の差し替えの押さえを、アールに王城と現地の窓口の走りを、ミレイユに絵札と案内図を、カレルに出納と礼状を、トーマスに門と裏口の整理を。青の技には、出入りの職人と業者の素性を静かに見てもらおう。

 窓越しに、王都の塔の影が流れる。十三日後、列は王城を発ち、四泊五日の道を経て静養の家へ向かう。二日目、三日目、四日目は静かな宿。道の途中で余計な波を立てず、到着してからは家そのものの力に委ねる。あの家は、必要なものが揃っている。僕らはただ、邪魔をしないことと、見えないところで支えることだけをすればいい。

 タウンハウスへ戻ったら、まず紙だ。紙が飛べば、人が動く。人が動けば、家が息をする。そういう順序に、今年の王都はよく馴染むはずだ。ナミリアの件は、急がないでおこう。焦らされるほど、言葉は遠ざかる。落ち着いた場所と時間さえ整えば、彼女は必ず自分で道を指す。

 石畳の音が少し柔らかくなった。空の色が変わる前に、最初の束を仕上げよう。僕は膝の上で紙片を揃え、ゆっくり息を吐いた。絵札の位置、贈答の受け置き、宿の振り替え、荷の積み順……ひとつひとつが軽い。軽いものほど、積み重なると強い。そんな確信が、王都の風に紛れて胸に残った。
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