【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

六自治領の旅の報告。

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 王城の白い階段を上り、侍従の先導で執務室の扉が静かに開いた。王様は窓際から振り返り、僕の顔を見て目尻をわずかに緩める。

「また顔つきが良くなったな。報告を聞こう」

「はい」

 卓に紙束を広げ、順に口を開く。余計な言葉は挟まない。旅の間に見て、座って話して、相手の手で確かめたことだけを置く。

「まずエルフの領です。学校に『歌と体操の時間』を設け、朝の合図で同じ歌を歌う仕組みを入れました。種族同士の垣根を薄くし、同じリズムで一日の始まりを共有する狙いです」

 王様が頷く。僕は次の紙をめくる。

「ドワーフの領では、異種族を受け入れる体制作りを進めました。住まいと工房の区画に明確な受け皿を用意し、手仕事を尊重しながら機械仕事と両立できる流れへ組み替えています。両方の良さを切り分けて配置する方策です」

「ふむ。次」

「獣人の領では、異種族を混合させた窓口を開設しました。読み書きや作法の違いに合わせ、応対の席を混ぜています。あわせて『規格の表記の仕方』を改め、誰が見ても同じ意味になる記し方に統一します。さらに、ヤクザ者やはぐれ者を更生させる方策を整え、働き口と見張りの仕組みを対にしました」

「更生の道を先に置くのは良い」

「水竜人の領では、犯罪対策を強め、港での取引増加のための改革を進めています。手続きの見える化と見張りの割り振りの整理です。下々の意見を吸い上げるため『耳箱』を設置しました。日々の小さな声を拾う器を置いたかたちです」

「王都にも必要だな。続けよ」

「小人の領では、秤の二重表記を採用しました。目盛りを二つ併記し、指差しで二度確認する運用です。『語る場所』を設け、座って話すやり方を定着させています。外に向けて開かれた都となるよう、見学路や説明の場を整えました。人口流出に対しては、里と仕事を行き来できる『帰る道』を太くする方策で対応しています。最後に、侮られ強く命じられる際の作法を前に出し、粗暴に命じられた時も座して応じられる型を周知しました」

「うむ。作法は弱きを守る盾だ」

「火の民の領では、傭兵の運用を改めました。外で戦う役目と内で護る役目を往き来できるようにし、剣を抜かず守る務めも正面から評価します。火の民の技術協力の方策を整え、各地へ教えに出る道筋を用意しました。寡婦や傷兵に対する手当も薄く長く続けられるかたちにしています」

 言い終えると、室内に短い沈黙が落ちた。王様は指で一度だけ卓を軽く叩き、こちらを真っ直ぐに見た。

「ここ王都でも通用するものが多い。ローランにまとめさせ、報告書ならびに王都での運用計画を提出せよ」

「承知しました。順に整え、提出いたします」

「よろしい」

 王様は姿勢をわずかに緩め、別の紙に目を落としたあと、顔を上げる。

「それとだ。静養の家の件だが、しばらくは母が静養のために滞在する。私も母を送りながら、しばらく滞在する。案内を頼んだぞ」

「それはマクシミシアン伯爵の仕事です」

「そうか。ならば二人で案内しろ。手落ちのないようにな」

「はい。責を分かち、段取りいたします」

 王様は満足げにうなずくと、椅子の背にもたれ、いたずらっぽく笑った。

「火の民の新酒は、いつ飲ませてくれるのだ」

 僕は笑い返す。

「手配済みです。口開けの一本を、あの静養の家で」

「それは楽しみだ」

 言葉はそこで切れ、王様は執務の紙に視線を戻した。侍従が静かに一歩進み出て紙束を渡し合図を送る。辞する時刻だ。僕は一礼し、紙束を抱えて部屋を辞した。

 石の廊下に出ると、窓から王都の陽が差し込み、旅の光景が一度に胸の奥へ戻ってくる。歌と体操、混ざった窓口、見える印、耳箱、二重の目盛り、語る場所、帰る道、作法、そして傭兵の運用、技術の道、手当……ひとつひとつが、王都の空気の中で別の輪郭を持ちはじめる。憶測に逃げず、見たことだけを紙に落とす。王様の言葉が背筋を正した。

 階段を降りる途中、控えていたローランが歩調を合わせる。

「今の御沙汰、聞いていました。すぐに骨組みを起こします。王都での運用計画は、元の文言を変えずに『場』の置き方だけ当てはめ直すやり方でいきます。歌は朝の鐘、混合窓口は城下の役所、規格表記は市の掲示、耳箱は城門の脇、小人の二重表記は秤場、語る場所は広場……火の民の件は、静養の家の段取りと合わせて」

「頼む。言葉はそのまま、場を変える。憶測は混ぜない」

「承知しました」

 侍従の足音が遠のき、王城の気配が背に近い風へ変わる。外気に触れると、王都の匂いが濃くなる。門を出るまでの短い間に、僕は紙束の順番を心の中で組み替えた。報告書、運用計画、静養の家の案内の地図と目録……必要なものだけを、必要な順で。

 タウンハウスに戻れば、すぐに書き始めることになる。まずは王様の言葉どおり、ローランにまとめを委ね、僕は見取り図と案内を整える。静養の家の道順、部屋の配置、休む刻、食の軽重、庭の巡り。母上と王様が座って穏やかに過ごせるよう、余計を足さず、足りなさを埋めるだけにする。そこにも、旅で学んだやり方がそのまま入るはずだ。

 門のそばで、アールが待っていた。速文机の準備はできているらしい。彼は短く礼をし、目で問う。

「新酒の件は」

「静養の家へ一本。もう一本は、王城の御前で」

「承りました。手配を」

「そうして」

 僕らは歩き出す。王城の影が地面でほどけ、王都のざわめきが近づく。紙に落とす言葉は、すでに胸の内にそろっている。旅で得たものを、王都に移す。ただそれだけを、正確にやる。余計を付けず、足りないところにだけ手を添える。王様のいたずらっぽい笑みと「楽しみだ」の一言が、背中を軽く押した。
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