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15歳の飛翔。
僕は風を受けても立っていられる。
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中立派の夜会は、王都でも静かな格のある館で開かれていた。灯りは控えめ、楽の音も会話の邪魔をしない程度に抑えられている。入口で僕は招待主のマックスさんと、外務副大臣でもあるマリエンティ伯爵に挨拶をした。
「よく来たな、息子よ」とマックスさんが笑う。「今日は肩の力を抜いていけ」
「お招き感謝いたします、マリエンティ伯爵」と頭を下げると、伯爵は目尻に皺を寄せ「君が来ると空気が和らぐ。ありがたい」と杯を掲げた。
少し進むと、エフェルト公爵がセリオ様と並んで立っていた。公爵は手を広げ「やあ、友よ」と迎え入れる。僕は自然と笑みがこぼれる。
「公爵、いつも助けていただいています。領の視察でも学ぶことばかりでした」
「こちらこそ。君の歩は速いのに、音が静かだ。珍しい才だよ」と公爵は肩に軽く触れた。
その脇から、涼しい声が飛ぶ。「それほど親しくしておいて、なぜ我らの旗に入らない?」
人垣が割れ、グロッサム侯爵が現れた。侯爵は僕の背をぽんと叩きながら、周りに聞こえるように笑う。
「こいつは派閥抜きで手を貸す男だ。そういう手が一つ、どの卓にも必要だろう?」
僕は一礼して、言葉を選ぶ。「入らない、と決めているわけではありません。ただ、いずれかに寄ることで、別の卓で働く人の力を弱めてしまうのが怖いのです。僕ができるのは、卓と卓の間に皿を運ぶ役……味を損なわず、やけどもさせない温度で」
「一人で、周りから風を受けて立てるかい?」と別の年長の貴族が問う。
「ええ。優秀な家宰と家令が支え、仲間が動いてくれます。何より、僕が五歳で城に上がって以来、派閥を越えて見守ってくださる方々が大勢いる……この場にも。だから立てます」
一瞬の静けさ。セリオ様が口元を緩めた。「父上、やはり彼はうちの『友』のままが良い。誰の肩も押しのけず、皆の背を少しずつ押す」
エフェルト公爵は頷き、「三公で話した通りだ。潤滑油は、どの歯車にも属さぬ油でこそ働く」と杯を傾けた。
輪がほどけ、さまざまな卓へ招かれる。古参の子爵が「港はどう進む」と訊けば、水竜人との共同運営の骨子だけを短く述べ、若い伯が「新街は誰が棟梁か」と探れば、二人棟梁の制を説明する。どの問いにも、約束できる分だけを差し出し、余計な光は当てない。やがて、遠くで声が少し荒んだ。酒が回った若手二人が、商いの順番で言い合っている。
僕は杯を置き、二人の間に入る。「失礼。順番の議論は、明かりの下が良いですよ。ここは薄明かりの場ですから、目が悪くなる」
「順番こそ命だ」と片方が言う。
「だからこそ、抽選と予約の二本立てにするつもりです。どちらの正しさも半分ずつ通す。今ここで決める話ではありません。決める場は港の部屋、ここは夜会の間。場所の秩序を先に守りましょう」
年長の伯が笑い、「若いの、覚えておけ。秩序は場所ごとに変わる」と収めてくれた。二人は肩をすくめ、互いに会釈する。空気がまた静かに戻る。
「よく止めた」とグロッサム侯爵が耳元で囁く。「刃を抜かずに済ますのが、本当の上策だ」
「刃は袋に……ですね」と返すと、侯爵は「そう、それだ」と満足げに頷いた。
やがて小休止。マリエンティ伯爵が杯を持って近づく。「外務の席から言うと、君のような人間がひとりいると交渉が楽になる。次の外遊、サテラージャとミッソリーナでの話よろしく頼むよ」
「現地の方々の声を、まずは聞きます」
そこへ、マックスさんがのそりと現れた。「どうだ、風当たりは」
「正面から吹いてきますが、涼しい風です」
「よし。それで良い。正面の風に正面で立てば、周りの風よけにもなる」
エフェルト公爵が僕らに合流し、視線だけで輪を作る。「今夜の答えは十分だ。君は派閥の外で、どの卓にも手を伸ばせ。必要な時は私が肩代わりする」
「スクワンジャー公爵とゼローキア侯爵とも同じ話をしました」と僕が答えると、公爵は声をひそめた。
「三公の合意は変わらない。君はどこにも属さず、どこにも顔を出す。王国はそれを歓迎する」
閉宴の合図が遠くで鳴り、客たちが名残の挨拶に回り始めた。退室口の前で、先ほどの若手二人が僕に頭を下げる。
「さっきは申し訳ない。あんたの言った通り、場所が違った」
「港の部屋で、また続きを」と言うと、二人は笑って去っていく。
外気は冷たく、空は澄んでいた。馬車の前でマックスさんが肩を叩く。
「よくやった。今日は何も決めず、何も壊さなかった。それがいちばん難しい」
「学びが多い夜でした」
「こういう夜を積み上げるのが、伯爵の務めだ。……腹は減ったか?」
「少し」
「ならば、帰って温い汁でも飲め。風は受けたが、体は冷やすな」
僕は笑って頷き、御者台に合図を送った。車輪が静かに動き出す。薄明かりの館が遠ざかるほどに、胸の中で確かなものが固まっていく。どこにも属さず、どこにでも手を伸ばす……今夜交わした視線の数だけ、その道が太くなった気がした。
「よく来たな、息子よ」とマックスさんが笑う。「今日は肩の力を抜いていけ」
「お招き感謝いたします、マリエンティ伯爵」と頭を下げると、伯爵は目尻に皺を寄せ「君が来ると空気が和らぐ。ありがたい」と杯を掲げた。
少し進むと、エフェルト公爵がセリオ様と並んで立っていた。公爵は手を広げ「やあ、友よ」と迎え入れる。僕は自然と笑みがこぼれる。
「公爵、いつも助けていただいています。領の視察でも学ぶことばかりでした」
「こちらこそ。君の歩は速いのに、音が静かだ。珍しい才だよ」と公爵は肩に軽く触れた。
その脇から、涼しい声が飛ぶ。「それほど親しくしておいて、なぜ我らの旗に入らない?」
人垣が割れ、グロッサム侯爵が現れた。侯爵は僕の背をぽんと叩きながら、周りに聞こえるように笑う。
「こいつは派閥抜きで手を貸す男だ。そういう手が一つ、どの卓にも必要だろう?」
僕は一礼して、言葉を選ぶ。「入らない、と決めているわけではありません。ただ、いずれかに寄ることで、別の卓で働く人の力を弱めてしまうのが怖いのです。僕ができるのは、卓と卓の間に皿を運ぶ役……味を損なわず、やけどもさせない温度で」
「一人で、周りから風を受けて立てるかい?」と別の年長の貴族が問う。
「ええ。優秀な家宰と家令が支え、仲間が動いてくれます。何より、僕が五歳で城に上がって以来、派閥を越えて見守ってくださる方々が大勢いる……この場にも。だから立てます」
一瞬の静けさ。セリオ様が口元を緩めた。「父上、やはり彼はうちの『友』のままが良い。誰の肩も押しのけず、皆の背を少しずつ押す」
エフェルト公爵は頷き、「三公で話した通りだ。潤滑油は、どの歯車にも属さぬ油でこそ働く」と杯を傾けた。
輪がほどけ、さまざまな卓へ招かれる。古参の子爵が「港はどう進む」と訊けば、水竜人との共同運営の骨子だけを短く述べ、若い伯が「新街は誰が棟梁か」と探れば、二人棟梁の制を説明する。どの問いにも、約束できる分だけを差し出し、余計な光は当てない。やがて、遠くで声が少し荒んだ。酒が回った若手二人が、商いの順番で言い合っている。
僕は杯を置き、二人の間に入る。「失礼。順番の議論は、明かりの下が良いですよ。ここは薄明かりの場ですから、目が悪くなる」
「順番こそ命だ」と片方が言う。
「だからこそ、抽選と予約の二本立てにするつもりです。どちらの正しさも半分ずつ通す。今ここで決める話ではありません。決める場は港の部屋、ここは夜会の間。場所の秩序を先に守りましょう」
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「よく止めた」とグロッサム侯爵が耳元で囁く。「刃を抜かずに済ますのが、本当の上策だ」
「刃は袋に……ですね」と返すと、侯爵は「そう、それだ」と満足げに頷いた。
やがて小休止。マリエンティ伯爵が杯を持って近づく。「外務の席から言うと、君のような人間がひとりいると交渉が楽になる。次の外遊、サテラージャとミッソリーナでの話よろしく頼むよ」
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そこへ、マックスさんがのそりと現れた。「どうだ、風当たりは」
「正面から吹いてきますが、涼しい風です」
「よし。それで良い。正面の風に正面で立てば、周りの風よけにもなる」
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「スクワンジャー公爵とゼローキア侯爵とも同じ話をしました」と僕が答えると、公爵は声をひそめた。
「三公の合意は変わらない。君はどこにも属さず、どこにも顔を出す。王国はそれを歓迎する」
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「よくやった。今日は何も決めず、何も壊さなかった。それがいちばん難しい」
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「こういう夜を積み上げるのが、伯爵の務めだ。……腹は減ったか?」
「少し」
「ならば、帰って温い汁でも飲め。風は受けたが、体は冷やすな」
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