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15歳の飛翔。
お疲れにスタミナ丼。
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とある夜会でストラ兄さんに会った。兄さんの目の下にうっすらと影があった。僕が「お腹、空かせといて」と囁くと、兄さんは親指を立てて笑う。マリーダさんとメリンさん、エメイラ、ミザーリも一緒にタウンハウスへ。玄関を入るとレラサンスが湯を用意してくれ、僕は台所へ直行した。
米を研いで火にかけ、豚肩を薄く削いで塩と胡椒と酒で下味。油を温め、潰したにんにくを落とすと、夜の静けさに香りが立ちのぼる。にらは刻んで山のように。甘醤油と酢、少しの味噌を合わせたたれを脇に置く。
「手、いる?」とミザーリ。
「盛り付け、お願い」
「承知」
ミザーリは丼を温め、器の準備をてきぱきと進める。メリンさんは手拭きを配り、卓の上を整え、マリーダさんは「なんだか遠足みたい」と嬉しそうに笑う。エメイラは棚から胃に優しい茶葉を取り出し、湯気の立つ急須にそっと移した。
強火で豚をさっと焼き、たれを回して照りを出す。最後ににらを投入して一呼吸。炊き上がった米にどさりとのせれば、夜会の気疲れを押し流す匂いが台所から居間へ駆け抜けた。
「いただきます」
最初のひと口で、皆の肩がふっと落ちる。兄さんは丼を抱えたまま、スプーンを止めずに言った。
「久しぶりにがっつり食べた。助かった」
「おかわり、ある?」とメリンさん。
「もちろん」
マリーダさんは丼を抱えて目を細める。「このたれ、優しいのに元気出るね」
「酢を少し立てて、後味を軽くしてあるよ」
ひと息つくと、兄さんがスプーンを置いた。
「お前も色々大変だな。派閥関係なく動けって言われてるんだってな」
「兄さんこそ、派閥間を繋いでるじゃん。王太子殿下の相談役で、あっちもこっちも」
兄さんは苦笑した。「橋は両岸に叩かれる。けど橋がないと誰も渡れない」
エメイラが湯呑を兄さんの前に置く。
「叩かれる音は、湯で半分まで和らぐわ」
「残りの半分は飯で埋める」
とミザーリが笑う。
「それでも足りなきゃ、主の丼で満たせばいい」
兄さんは湯をひと口。
「お前のやり方は、油みたいだ。どの歯車にもくっつかず、回りをよくする」
「焦げ付かせないのが目標。約束は短く、返事は早く、線は引いておく。それだけ」
「簡単に言うな」と兄さんは肩をすくめる。「だが、正しい」
メリンさんが帳面を取り出した。
「明日の会合、双方の席順が拮抗しています。中座の余白を一つ増やせば、衝突を避けられます」
「席の余白は心の余白……いいね」と僕。
マリーダさんは頷いて、にらを一枚つまむ。
「ねえ、争いそうなところにはこのにら丼を置けないかな。喧嘩より早く箸が伸びるよ」
「発想は嫌いじゃない」とエメイラ。「けれど香りの強い料理は夜会では難しいわ」
「じゃあ控室で」とミザーリ。「腹が立つのは腹が減ってるからって相場が決まってる」
兄さんが笑い、スプーンでどんぶりの底を軽く叩く。
「腹は満ちた。で、伯爵様、悩みは」
「明日、三つの卓を梯子。港の規程の草案、耳役の返答線、そして宗教区の協議。どれも『場』が違う」
「場を間違えると正論も刃になる」と兄さん。
「だから場を先に整える。席順、時間、合図……兄さんが橋を作るように、僕は床を水平にするだけ」
静かに風が窓を鳴らした。レラサンスがそっと毛布を肩に掛けてくれる。夜更けの気温が落ちて、湯気が白く見える。
エメイラが僕の丼を覗く。
「あなた、食べるときはちゃんと食べて」
「食べてるよ」
「言葉だけは一人前ね」と微笑んで、にらを少し足してくれた。ミザーリは戸口の影に目を流し、「交代の見張り、入れ替え完了」と報告。
兄さんは立ち上がって背伸びをした。
「よし、もう一本いけるな」
「さすがに三杯目はやめて」とメリンさん。
「じゃあ半分」
「それは二杯目と同じだよ」と僕が笑うと、マリーダさんが手を叩いた。「じゃあ皆で少しずつ、争わない量で分けよう」
台所に戻り、追いだれを軽く煮立てる。にんにくの角がとれ、醤の香りが丸くなる。盛り直した小丼を配れば、卓に小さな灯がまた一つ灯ったように見えた。
食後、兄さんは湯呑を両手で包みながら言う。
「派閥に入る入らないは、急がなくていい。必要とされるところに歩いて行け。肩を貸す相手が増えても、背骨は一本でいい」
「背骨は……皆が真っ直ぐ立てる場所を作る、かな」
「それでいい」
帰り際、兄さんは親指をまた立てた。
「うまかった。生き返った」
「次は香りの弱い献立でね」とエメイラがからかうと、兄さんは「夜会の前は、ね」と笑った。メリンさんは空の器を重ね、マリーダさんは手を振る。ミザーリは外まで見送り、夜気を吸い込んで肩を回した。
扉が静かに閉まる。台所に残ったにんにくと醤の匂いが、さっきまでの会話を薄く残している。僕は丼を洗いながら思う。橋にも床にもなれるなら、どちらでもいい。ただ、人が転ばずに歩ける夜を、もう一つ増やせればそれでいい。
米を研いで火にかけ、豚肩を薄く削いで塩と胡椒と酒で下味。油を温め、潰したにんにくを落とすと、夜の静けさに香りが立ちのぼる。にらは刻んで山のように。甘醤油と酢、少しの味噌を合わせたたれを脇に置く。
「手、いる?」とミザーリ。
「盛り付け、お願い」
「承知」
ミザーリは丼を温め、器の準備をてきぱきと進める。メリンさんは手拭きを配り、卓の上を整え、マリーダさんは「なんだか遠足みたい」と嬉しそうに笑う。エメイラは棚から胃に優しい茶葉を取り出し、湯気の立つ急須にそっと移した。
強火で豚をさっと焼き、たれを回して照りを出す。最後ににらを投入して一呼吸。炊き上がった米にどさりとのせれば、夜会の気疲れを押し流す匂いが台所から居間へ駆け抜けた。
「いただきます」
最初のひと口で、皆の肩がふっと落ちる。兄さんは丼を抱えたまま、スプーンを止めずに言った。
「久しぶりにがっつり食べた。助かった」
「おかわり、ある?」とメリンさん。
「もちろん」
マリーダさんは丼を抱えて目を細める。「このたれ、優しいのに元気出るね」
「酢を少し立てて、後味を軽くしてあるよ」
ひと息つくと、兄さんがスプーンを置いた。
「お前も色々大変だな。派閥関係なく動けって言われてるんだってな」
「兄さんこそ、派閥間を繋いでるじゃん。王太子殿下の相談役で、あっちもこっちも」
兄さんは苦笑した。「橋は両岸に叩かれる。けど橋がないと誰も渡れない」
エメイラが湯呑を兄さんの前に置く。
「叩かれる音は、湯で半分まで和らぐわ」
「残りの半分は飯で埋める」
とミザーリが笑う。
「それでも足りなきゃ、主の丼で満たせばいい」
兄さんは湯をひと口。
「お前のやり方は、油みたいだ。どの歯車にもくっつかず、回りをよくする」
「焦げ付かせないのが目標。約束は短く、返事は早く、線は引いておく。それだけ」
「簡単に言うな」と兄さんは肩をすくめる。「だが、正しい」
メリンさんが帳面を取り出した。
「明日の会合、双方の席順が拮抗しています。中座の余白を一つ増やせば、衝突を避けられます」
「席の余白は心の余白……いいね」と僕。
マリーダさんは頷いて、にらを一枚つまむ。
「ねえ、争いそうなところにはこのにら丼を置けないかな。喧嘩より早く箸が伸びるよ」
「発想は嫌いじゃない」とエメイラ。「けれど香りの強い料理は夜会では難しいわ」
「じゃあ控室で」とミザーリ。「腹が立つのは腹が減ってるからって相場が決まってる」
兄さんが笑い、スプーンでどんぶりの底を軽く叩く。
「腹は満ちた。で、伯爵様、悩みは」
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「場を間違えると正論も刃になる」と兄さん。
「だから場を先に整える。席順、時間、合図……兄さんが橋を作るように、僕は床を水平にするだけ」
静かに風が窓を鳴らした。レラサンスがそっと毛布を肩に掛けてくれる。夜更けの気温が落ちて、湯気が白く見える。
エメイラが僕の丼を覗く。
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「言葉だけは一人前ね」と微笑んで、にらを少し足してくれた。ミザーリは戸口の影に目を流し、「交代の見張り、入れ替え完了」と報告。
兄さんは立ち上がって背伸びをした。
「よし、もう一本いけるな」
「さすがに三杯目はやめて」とメリンさん。
「じゃあ半分」
「それは二杯目と同じだよ」と僕が笑うと、マリーダさんが手を叩いた。「じゃあ皆で少しずつ、争わない量で分けよう」
台所に戻り、追いだれを軽く煮立てる。にんにくの角がとれ、醤の香りが丸くなる。盛り直した小丼を配れば、卓に小さな灯がまた一つ灯ったように見えた。
食後、兄さんは湯呑を両手で包みながら言う。
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「背骨は……皆が真っ直ぐ立てる場所を作る、かな」
「それでいい」
帰り際、兄さんは親指をまた立てた。
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