僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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ルステイン狂想曲。

ジェンとティルの一時の別れ。

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 翌朝。薄曇りの下、ドワーヴンベースの中庭には小さな手続きの場が設けられていた。小人ハーフリング族のクルムたち、水竜人ドラコニアン一行、そしてティル。出発の準備を整え、それぞれが挨拶や別れの言葉を込めていた。

 僕は横で見守るばかりだったが、そのとき、ロイック兄さんが静かに声をかけてきた。

「ティル、少し時間あるか?」

 ティルシェードはジェンの隣でうなずくと、ロイックたち大人の集まりの中へと歩み寄った。僕は少し距離を置いて、二人のやりとりを見守った。
 木製のベンチに座るロイック兄さんとティル。周囲の声が遠ざかっていくように、二人の世界がそこに生まれていた。

「ティルシェード…聞いたぞ。ジェンがかつて借金奴隷として働いたことがあると」

 ティルは目を伏せた。かつて別れた時に胸元でティルの手を握るジェンの魂の重さを、彼は忘れられず覚えていた。

「はい…姉さんは、僕が幼いとき急な病気でまとまった薬代が必要になったんです。そのために、自ら奴隷身分を選び、引き取られる形で財を作りました。でも、それだけじゃなかった…」
「俺も聞いて…あれは法律で、借金奴隷になった者を剣闘士に使ってはいけないはずだったんだ。しかし、ジェンが訓練所に連れていかれたとき、契約書には『剣闘士候補』と記されていたらしく、彼女はそのままリングで戦う日々を送った」

 ティルの目がかすかに揺れた。過去の記憶の中、少女ジェンが斧を握り、観客の歓声に押されながら歯を食いしばる姿が浮かんだ。

「騙されていたんですか…?」

 ロイック兄さんはそっと視線を落としながら答えた。

「そうだ。借金奴隷の身分で剣闘士になることは違法だったのに誰も止めさせなかった。彼らは『強い娯楽』が必要だった。ジェンはそれでも戦った。弟のために。」

 ティルは拳を握った。

「そんなに…姉さんは強かったんだな…」

 思わず口からこぼれた言葉だった。ロイック兄さんがそっとティルの肩に手を置く。

「ティル、お前は姉さんに感謝してるか?」

 ティルは目を閉じ、深く息を吸う。

「…はい。姉さんがいなかったら、僕はあの病を超えられなかった。今の僕はいない。だから…ありがとうと言いたい」
「それで十分だ」

 ティルは顔を上げた。瞳に乾いた決意が映る。

「ジェン…姉さん、本当に、ありがとう」
「実はな、ジェンは自分で仇を討った。詳しくはまた戻った時にジェンに聞いてもらいたいが、騙した商人とその後ろにいた貴族は処された。だから悔やむなとは言わないが引きずらないようにな」
「ありがとう『お兄さん』」
「じゃあ『弟』よ。しばしの別れをジェンとしてくると良い」
「はい!」

 ティルはジェンを探す。ジェンは門の所で待っていた。

「姉さん!」
「ティル、忘れ物はない?ちゃんとお弁当もらった?」
「ああ、姉さん!」
「なに?」
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「必ず戻ってくるから」
「ええ。待ってるわ」

 そのころ、小人たちとの挨拶が進んでいた。クルムがリュックを肩にかけ、にぎやかに言う。

「じゃあね、リョウエストくん!また来るからね!」

 子どもたちは名残惜しそうにベースを後にし、水竜人も静かに列を成した。その先頭には、ティルシェードがにっこりと笑って歩いていた。

 彼は最後に振り返り、小さく手を挙げてこう言った。

「ルステイン、また会おう!」

 その声には、戻ってくるという強い意志と、姉と共に歩む未来を誓う響きがあった。

 ベースの門が閉じると、ジェンは静かに息をついた。僕はそっと近づいた。

「もうすぐ王都に行くの?」
「…ロイックが準備したら出るわ」
「元気でね、ジェン姉さん・・・。いつでもここはあなたの場所だからね」

 ジェンは少し笑い、うなずいた。

「…ありがとう、リョウ。姉さん・・・これからも頑張るから…戻ってくるわ」

 地精ドワーフ風精エルフ獣人ビーストマン、そして僕たちヒト族がベースの前に立っていた。ロイック兄さんが声を上げる。

「皆、今一度確認するぞ。小人ハーフリング族と水竜人ドラコニアンの協定は一時的なものだが、彼らは必ず戻ってくる。それまでに準備を整える。交渉の続き、補給小屋の設計、そして運送路の安全管理……」

 ミザーリがうなずく。

「了解。夜間体制と魔物対策、任せて」

 ドワーフのヂョウギが自信たっぷりに言う。

「奴隷として働いていた者を守る法律に基づいた援助も必要だな」

 ロイック兄さんもうんと頷いた。

「奴隷出身でも、誇りを持って生きられる場をここに用意しよう。薫陶の場……それがドワーヴンベースの役目だ」

 ロイック兄さんは更に言う。

「異種族の誰もが、今も、そして未来も、誇りを持って暮らせる場所。それがドワーヴンベースだ」

 僕は、父と兄たちの背中を見た。三人の視線は路を見つめ、小人ハーフリングたちや水竜人ドラコニアンたちが戻る日を見据えていた。

「ここは僕だけの夢の場所で無くなったね」
「そうだな。我々の夢の場所だ」
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