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ルステイン狂想曲。
新たな未来を手に入れる。
ルステインの空はどこまでも澄み渡り、秋の匂いが風に混じりはじめていた。そんな清冽な空気の中、工房の門前に、ふたつの影が現れた。
一人は、背筋を真っ直ぐに伸ばし、気品と厳しさをまとう女性。もう一人は、がっしりとした体格に黒鉄のような肌をもつ壮年の男性。どちらも火の民である。
ギピアが客が来たと僕に伝える。横にいるミザーリが目を細めた。
「…来たわね、母様」
ミザーリがぽつりとつぶやき、ゆっくりと外を出て行く。
その女性、ミリカ=レヴェナは火の民の中でも五指に数えられる重鎮。戦でも内政でも多くの実績を残し、部族内では『烈火槍のミリカ』と呼ばれる人物だった。
「…あら、見違えたわね、ミザーリ。ルステインの風が、あんたを育てたのかしら」
「…母様」
感情を表に出さない娘に対し、ミリカは口元を柔らかくした。そして隣に立つ男…ラゴル=レヴェナが、いかつい顔を綻ばせた。
「まったく、ルステインで料理屋の護衛をやってるって話は信じがたかったが…こうして見ると立派になったもんだ」
ミザーリは答えず、ただ一礼する。
そのやり取りを門の内から見ていた僕…リョウエストは、小さく息を吐いて門を開けた。
「ようこそ、ルステインへ。僕はリョウエスト・スサン。ドワーヴンベースの…一応の主なの」
「ほう『料理番にして商会長、異種族の旗手』と謳われる少年ね。噂に違わぬ挨拶ぶり。私はミリカ=レヴェナ。夫はラゴル=レヴェナ」
「聞いてる。『烈火槍のミリカ』様」
ミリカは僕を見つめる。火の民が持つ赤外線視覚で、心の温度を測っているのだろう。彼女の目がわずかに細められ、評価を下すように微笑んだ。
「我々、火の民から50名。先遣隊としてルステインに滞在させてほしい」
「もちろん歓迎するの。拠点のひとつ、居住区用にドワーヴンベースの南側を買ってある。地精がすでに建物を増築してるから、すぐにでも住めるよ」
後ろに控えていた赤髪と褐色の肌の男女たち…火の民たちが、静かにうなずいた。いずれも優れた戦士でありながら、どこか旅人のような自由さを持っている。
「我々はかつて『戦うため』に力を持った種族。しかし、今は『護るため』『生きるため』に火を使いたい。それを学ぶためにも、このルステインは理想の地だと思っているの」
「……ありがとうございます、ミリカ様」
「肩書など気にしないで。私はただ、母として、同族の導き手としてここに来ただけ」
その言葉にミザーリの目がわずかに揺れる。けれど、その思いを言葉にはせず、ただ横に並び立つだけだった。
その翌日、地響きのような足音と共に、小人族のクルムがドワーヴンベースに戻ってきた。背後には、赤いスカーフや色とりどりの帽子を被った小人たちが50人以上。皆、目を輝かせて周囲を見回していた。
「やっぱり、好きだわ、この街!この建物!この匂い!あたしたち、ここに住んでもいい?」
「もちろん!みんなが来てくれるのを、ずっと待ってたよ」
僕が笑顔で応えると、クルムは仲間たちを振り返って叫ぶ。
「ほら!リョウエストくんが言ったでしょ!ここが新しい『わたしたちの居場所』なんだよ!」
歓声と共に、小人たちはドワーヴンベースの一角へと駆けていった。
その列の後ろ、水のように滑らかに歩く姿…それが水竜人たちだった。全身が青みがかった皮膚で覆われ、髪も海藍色。目元は人間に近いが、瞳の奥には水の深さがある。
彼らの代表として立ったのは、ティルシェード。ジェンの弟であり、護り手としての責任感を持つ青年だった。
「…リョウエスト様。地下水脈の調査、感謝する。我らもこの地に『根』を張りたい。まだ一部だが、息ができる地下水路が見つかった。我らが住まうに十分だ」
「ルステインは、君たちの家でもあるの。僕たちは、種族の違いで線を引いたりしないの。だから一緒に暮らそう」
その言葉に、ティルは静かに頭を下げる。彼の背後から、20数名の水竜人たちが次々に礼を取った。
そして夜、火の民の篝火、小人族の歌声、水竜人の静かな調べ。ドワーヴンベースの広場は異種族の共演で溢れていた。
ミリカはその輪の外で静かに杯を傾けていた。種族的に弱いが一杯だけと僕に言い、ワインを注いだのだ。
「…悪くないわね、こういうのも」
彼女の横に立つミザーリは、珍しく酒を口にしていた。ミザーリも一杯だけと言い、僕にワインを注げと頼んだ。
「火を灯し、共に食し、心を交わす。母様がかつて言ってた『平穏』って、こういうことなんでしょう?」
「…そうね。昔はそれが夢物語だと思っていたけど、今は違う。この街なら、それが『現実』になるかもしれない」
その視線の先にいたのは、焚火の前で笑う小さな僕…リョウエストだった。
異種族が『共に笑う』その夜。ルステインはまたひとつ、新たな未来を手に入れたのだった。
一人は、背筋を真っ直ぐに伸ばし、気品と厳しさをまとう女性。もう一人は、がっしりとした体格に黒鉄のような肌をもつ壮年の男性。どちらも火の民である。
ギピアが客が来たと僕に伝える。横にいるミザーリが目を細めた。
「…来たわね、母様」
ミザーリがぽつりとつぶやき、ゆっくりと外を出て行く。
その女性、ミリカ=レヴェナは火の民の中でも五指に数えられる重鎮。戦でも内政でも多くの実績を残し、部族内では『烈火槍のミリカ』と呼ばれる人物だった。
「…あら、見違えたわね、ミザーリ。ルステインの風が、あんたを育てたのかしら」
「…母様」
感情を表に出さない娘に対し、ミリカは口元を柔らかくした。そして隣に立つ男…ラゴル=レヴェナが、いかつい顔を綻ばせた。
「まったく、ルステインで料理屋の護衛をやってるって話は信じがたかったが…こうして見ると立派になったもんだ」
ミザーリは答えず、ただ一礼する。
そのやり取りを門の内から見ていた僕…リョウエストは、小さく息を吐いて門を開けた。
「ようこそ、ルステインへ。僕はリョウエスト・スサン。ドワーヴンベースの…一応の主なの」
「ほう『料理番にして商会長、異種族の旗手』と謳われる少年ね。噂に違わぬ挨拶ぶり。私はミリカ=レヴェナ。夫はラゴル=レヴェナ」
「聞いてる。『烈火槍のミリカ』様」
ミリカは僕を見つめる。火の民が持つ赤外線視覚で、心の温度を測っているのだろう。彼女の目がわずかに細められ、評価を下すように微笑んだ。
「我々、火の民から50名。先遣隊としてルステインに滞在させてほしい」
「もちろん歓迎するの。拠点のひとつ、居住区用にドワーヴンベースの南側を買ってある。地精がすでに建物を増築してるから、すぐにでも住めるよ」
後ろに控えていた赤髪と褐色の肌の男女たち…火の民たちが、静かにうなずいた。いずれも優れた戦士でありながら、どこか旅人のような自由さを持っている。
「我々はかつて『戦うため』に力を持った種族。しかし、今は『護るため』『生きるため』に火を使いたい。それを学ぶためにも、このルステインは理想の地だと思っているの」
「……ありがとうございます、ミリカ様」
「肩書など気にしないで。私はただ、母として、同族の導き手としてここに来ただけ」
その言葉にミザーリの目がわずかに揺れる。けれど、その思いを言葉にはせず、ただ横に並び立つだけだった。
その翌日、地響きのような足音と共に、小人族のクルムがドワーヴンベースに戻ってきた。背後には、赤いスカーフや色とりどりの帽子を被った小人たちが50人以上。皆、目を輝かせて周囲を見回していた。
「やっぱり、好きだわ、この街!この建物!この匂い!あたしたち、ここに住んでもいい?」
「もちろん!みんなが来てくれるのを、ずっと待ってたよ」
僕が笑顔で応えると、クルムは仲間たちを振り返って叫ぶ。
「ほら!リョウエストくんが言ったでしょ!ここが新しい『わたしたちの居場所』なんだよ!」
歓声と共に、小人たちはドワーヴンベースの一角へと駆けていった。
その列の後ろ、水のように滑らかに歩く姿…それが水竜人たちだった。全身が青みがかった皮膚で覆われ、髪も海藍色。目元は人間に近いが、瞳の奥には水の深さがある。
彼らの代表として立ったのは、ティルシェード。ジェンの弟であり、護り手としての責任感を持つ青年だった。
「…リョウエスト様。地下水脈の調査、感謝する。我らもこの地に『根』を張りたい。まだ一部だが、息ができる地下水路が見つかった。我らが住まうに十分だ」
「ルステインは、君たちの家でもあるの。僕たちは、種族の違いで線を引いたりしないの。だから一緒に暮らそう」
その言葉に、ティルは静かに頭を下げる。彼の背後から、20数名の水竜人たちが次々に礼を取った。
そして夜、火の民の篝火、小人族の歌声、水竜人の静かな調べ。ドワーヴンベースの広場は異種族の共演で溢れていた。
ミリカはその輪の外で静かに杯を傾けていた。種族的に弱いが一杯だけと僕に言い、ワインを注いだのだ。
「…悪くないわね、こういうのも」
彼女の横に立つミザーリは、珍しく酒を口にしていた。ミザーリも一杯だけと言い、僕にワインを注げと頼んだ。
「火を灯し、共に食し、心を交わす。母様がかつて言ってた『平穏』って、こういうことなんでしょう?」
「…そうね。昔はそれが夢物語だと思っていたけど、今は違う。この街なら、それが『現実』になるかもしれない」
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