324 / 668
ルステイン狂想曲。
新たな未来を手に入れる。
しおりを挟む
ルステインの空はどこまでも澄み渡り、秋の匂いが風に混じりはじめていた。そんな清冽な空気の中、工房の門前に、ふたつの影が現れた。
一人は、背筋を真っ直ぐに伸ばし、気品と厳しさをまとう女性。もう一人は、がっしりとした体格に黒鉄のような肌をもつ壮年の男性。どちらも火の民である。
ギピアが客が来たと僕に伝える。横にいるミザーリが目を細めた。
「…来たわね、母様」
ミザーリがぽつりとつぶやき、ゆっくりと外を出て行く。
その女性、ミリカ=レヴェナは火の民の中でも五指に数えられる重鎮。戦でも内政でも多くの実績を残し、部族内では『烈火槍のミリカ』と呼ばれる人物だった。
「…あら、見違えたわね、ミザーリ。ルステインの風が、あんたを育てたのかしら」
「…母様」
感情を表に出さない娘に対し、ミリカは口元を柔らかくした。そして隣に立つ男…ラゴル=レヴェナが、いかつい顔を綻ばせた。
「まったく、ルステインで料理屋の護衛をやってるって話は信じがたかったが…こうして見ると立派になったもんだ」
ミザーリは答えず、ただ一礼する。
そのやり取りを門の内から見ていた僕…リョウエストは、小さく息を吐いて門を開けた。
「ようこそ、ルステインへ。僕はリョウエスト・スサン。ドワーヴンベースの…一応の主なの」
「ほう『料理番にして商会長、異種族の旗手』と謳われる少年ね。噂に違わぬ挨拶ぶり。私はミリカ=レヴェナ。夫はラゴル=レヴェナ」
「聞いてる。『烈火槍のミリカ』様」
ミリカは僕を見つめる。火の民が持つ赤外線視覚で、心の温度を測っているのだろう。彼女の目がわずかに細められ、評価を下すように微笑んだ。
「我々、火の民から50名。先遣隊としてルステインに滞在させてほしい」
「もちろん歓迎するの。拠点のひとつ、居住区用にドワーヴンベースの南側を買ってある。地精がすでに建物を増築してるから、すぐにでも住めるよ」
後ろに控えていた赤髪と褐色の肌の男女たち…火の民たちが、静かにうなずいた。いずれも優れた戦士でありながら、どこか旅人のような自由さを持っている。
「我々はかつて『戦うため』に力を持った種族。しかし、今は『護るため』『生きるため』に火を使いたい。それを学ぶためにも、このルステインは理想の地だと思っているの」
「……ありがとうございます、ミリカ様」
「肩書など気にしないで。私はただ、母として、同族の導き手としてここに来ただけ」
その言葉にミザーリの目がわずかに揺れる。けれど、その思いを言葉にはせず、ただ横に並び立つだけだった。
その翌日、地響きのような足音と共に、小人族のクルムがドワーヴンベースに戻ってきた。背後には、赤いスカーフや色とりどりの帽子を被った小人たちが50人以上。皆、目を輝かせて周囲を見回していた。
「やっぱり、好きだわ、この街!この建物!この匂い!あたしたち、ここに住んでもいい?」
「もちろん!みんなが来てくれるのを、ずっと待ってたよ」
僕が笑顔で応えると、クルムは仲間たちを振り返って叫ぶ。
「ほら!リョウエストくんが言ったでしょ!ここが新しい『わたしたちの居場所』なんだよ!」
歓声と共に、小人たちはドワーヴンベースの一角へと駆けていった。
その列の後ろ、水のように滑らかに歩く姿…それが水竜人たちだった。全身が青みがかった皮膚で覆われ、髪も海藍色。目元は人間に近いが、瞳の奥には水の深さがある。
彼らの代表として立ったのは、ティルシェード。ジェンの弟であり、護り手としての責任感を持つ青年だった。
「…リョウエスト様。地下水脈の調査、感謝する。我らもこの地に『根』を張りたい。まだ一部だが、息ができる地下水路が見つかった。我らが住まうに十分だ」
「ルステインは、君たちの家でもあるの。僕たちは、種族の違いで線を引いたりしないの。だから一緒に暮らそう」
その言葉に、ティルは静かに頭を下げる。彼の背後から、20数名の水竜人たちが次々に礼を取った。
そして夜、火の民の篝火、小人族の歌声、水竜人の静かな調べ。ドワーヴンベースの広場は異種族の共演で溢れていた。
ミリカはその輪の外で静かに杯を傾けていた。種族的に弱いが一杯だけと僕に言い、ワインを注いだのだ。
「…悪くないわね、こういうのも」
彼女の横に立つミザーリは、珍しく酒を口にしていた。ミザーリも一杯だけと言い、僕にワインを注げと頼んだ。
「火を灯し、共に食し、心を交わす。母様がかつて言ってた『平穏』って、こういうことなんでしょう?」
「…そうね。昔はそれが夢物語だと思っていたけど、今は違う。この街なら、それが『現実』になるかもしれない」
その視線の先にいたのは、焚火の前で笑う小さな僕…リョウエストだった。
異種族が『共に笑う』その夜。ルステインはまたひとつ、新たな未来を手に入れたのだった。
一人は、背筋を真っ直ぐに伸ばし、気品と厳しさをまとう女性。もう一人は、がっしりとした体格に黒鉄のような肌をもつ壮年の男性。どちらも火の民である。
ギピアが客が来たと僕に伝える。横にいるミザーリが目を細めた。
「…来たわね、母様」
ミザーリがぽつりとつぶやき、ゆっくりと外を出て行く。
その女性、ミリカ=レヴェナは火の民の中でも五指に数えられる重鎮。戦でも内政でも多くの実績を残し、部族内では『烈火槍のミリカ』と呼ばれる人物だった。
「…あら、見違えたわね、ミザーリ。ルステインの風が、あんたを育てたのかしら」
「…母様」
感情を表に出さない娘に対し、ミリカは口元を柔らかくした。そして隣に立つ男…ラゴル=レヴェナが、いかつい顔を綻ばせた。
「まったく、ルステインで料理屋の護衛をやってるって話は信じがたかったが…こうして見ると立派になったもんだ」
ミザーリは答えず、ただ一礼する。
そのやり取りを門の内から見ていた僕…リョウエストは、小さく息を吐いて門を開けた。
「ようこそ、ルステインへ。僕はリョウエスト・スサン。ドワーヴンベースの…一応の主なの」
「ほう『料理番にして商会長、異種族の旗手』と謳われる少年ね。噂に違わぬ挨拶ぶり。私はミリカ=レヴェナ。夫はラゴル=レヴェナ」
「聞いてる。『烈火槍のミリカ』様」
ミリカは僕を見つめる。火の民が持つ赤外線視覚で、心の温度を測っているのだろう。彼女の目がわずかに細められ、評価を下すように微笑んだ。
「我々、火の民から50名。先遣隊としてルステインに滞在させてほしい」
「もちろん歓迎するの。拠点のひとつ、居住区用にドワーヴンベースの南側を買ってある。地精がすでに建物を増築してるから、すぐにでも住めるよ」
後ろに控えていた赤髪と褐色の肌の男女たち…火の民たちが、静かにうなずいた。いずれも優れた戦士でありながら、どこか旅人のような自由さを持っている。
「我々はかつて『戦うため』に力を持った種族。しかし、今は『護るため』『生きるため』に火を使いたい。それを学ぶためにも、このルステインは理想の地だと思っているの」
「……ありがとうございます、ミリカ様」
「肩書など気にしないで。私はただ、母として、同族の導き手としてここに来ただけ」
その言葉にミザーリの目がわずかに揺れる。けれど、その思いを言葉にはせず、ただ横に並び立つだけだった。
その翌日、地響きのような足音と共に、小人族のクルムがドワーヴンベースに戻ってきた。背後には、赤いスカーフや色とりどりの帽子を被った小人たちが50人以上。皆、目を輝かせて周囲を見回していた。
「やっぱり、好きだわ、この街!この建物!この匂い!あたしたち、ここに住んでもいい?」
「もちろん!みんなが来てくれるのを、ずっと待ってたよ」
僕が笑顔で応えると、クルムは仲間たちを振り返って叫ぶ。
「ほら!リョウエストくんが言ったでしょ!ここが新しい『わたしたちの居場所』なんだよ!」
歓声と共に、小人たちはドワーヴンベースの一角へと駆けていった。
その列の後ろ、水のように滑らかに歩く姿…それが水竜人たちだった。全身が青みがかった皮膚で覆われ、髪も海藍色。目元は人間に近いが、瞳の奥には水の深さがある。
彼らの代表として立ったのは、ティルシェード。ジェンの弟であり、護り手としての責任感を持つ青年だった。
「…リョウエスト様。地下水脈の調査、感謝する。我らもこの地に『根』を張りたい。まだ一部だが、息ができる地下水路が見つかった。我らが住まうに十分だ」
「ルステインは、君たちの家でもあるの。僕たちは、種族の違いで線を引いたりしないの。だから一緒に暮らそう」
その言葉に、ティルは静かに頭を下げる。彼の背後から、20数名の水竜人たちが次々に礼を取った。
そして夜、火の民の篝火、小人族の歌声、水竜人の静かな調べ。ドワーヴンベースの広場は異種族の共演で溢れていた。
ミリカはその輪の外で静かに杯を傾けていた。種族的に弱いが一杯だけと僕に言い、ワインを注いだのだ。
「…悪くないわね、こういうのも」
彼女の横に立つミザーリは、珍しく酒を口にしていた。ミザーリも一杯だけと言い、僕にワインを注げと頼んだ。
「火を灯し、共に食し、心を交わす。母様がかつて言ってた『平穏』って、こういうことなんでしょう?」
「…そうね。昔はそれが夢物語だと思っていたけど、今は違う。この街なら、それが『現実』になるかもしれない」
その視線の先にいたのは、焚火の前で笑う小さな僕…リョウエストだった。
異種族が『共に笑う』その夜。ルステインはまたひとつ、新たな未来を手に入れたのだった。
165
あなたにおすすめの小説
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~
幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位獲得!(2026.1.23) 完結までプロット作成済み! 毎日更新中! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中)★
山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。
神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。
①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】
②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】
③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】
私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること!
のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!?
「私の安眠のため、改革します!」
チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身!
現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……?
気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!?
あれ、私のスローライフはどこへ?
これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。
【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】
第1章 森の生活と孤児院改革(完結済)
第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中)
第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ!
第4章 王都は誘惑の香り
第5章 救国のセラピー
第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション
第7章 領主様はスローライフをご所望です
第8章 プロジェクト・コトリランド
第9章 ヤマネコ式教育改革
第10章 魔王対策は役員会にて
第11章 魔王城、買収しました(完結予定)
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
R8.1.20 投稿開始
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる