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ルステイン狂想曲。
水が交わる時。
その日、ルステインの生産拠点ドワーヴンベースには、久方ぶりに訪れる“未知の風”が吹き込んでいた。
好奇心に満ちた眼差し、軽快な足取り、そして何よりもその小さな身体から放たれる生き生きとした気配。小人族の一団が、地精たちの誘導のもと、ベース内部を楽しげに歩き回っていた。
「ほぉお、これが鍛造炉ですか。ふふ、ちょっとした小屋くらいあるじゃありませんか!」
代表を名乗る女性・クルムが目を輝かせる。小柄ながら、背筋は真っ直ぐで、動きに無駄がなく、どこか気品すら漂わせていた。
「火の使い方も洗練されている……あら、これ、わたし達でも真似できそうですね。フィナ、おまえ、どう思う?」
「はい、姉さま。きっと調整さえすれば、里でも応用できます!」
小人たちは興奮気味に機械の歯車や木の足場を観察し、職人地精たちに次々と質問を浴びせていた。ヂョウギが誇らしげに胸を張っているのも納得だった。
一方、その後ろに控えるようにして歩いていたのが、水竜人族の数名だった。全身に薄い青鱗を持ち、涼やかな雰囲気を纏う彼らは、騒がしいハーフリングたちとは対照的に、静かに周囲を観察していた。
その中に、一人の若者がいた。
ティルシェード。
彼は青い髪をゆるく結び、整った人間に近い顔立ちに冷たい視線を宿していたが、時折どこか懐かしむような表情を見せた。
ちょうどその時ロイック兄さんとお姉さん達が地精達と打ち合わせに来ていて、それを見学していた。
…そして、彼の姿を見たジェンは、言葉を失った。
「…ティル、なの?」
水場のそばで手を洗おうとしていたジェンの声は、まるで風のささやきのように小さく、それでも確かに、ティルシェードの心に届いた。
ティルはゆっくりと振り向き、その瞳を大きく見開く。
「…ジェン?」
二人の間に沈黙が流れる。すぐにティルシェードが、ほんのわずかだが足を踏み出した。
「まさか…あなたが、僕の…姉さん?…姉さん、ありがとう…生きててくれてよかった」
その言葉をジェンはただ静かに頷いて受け止めた。
「…生きてて、よかった」
それだけを言うとジェンは目を伏せたまま、そっと弟の手を握った。
僕は少し離れた場所から二人のやり取りを見守っていた。まるで時間が止まったかのような空気に誰も口を挟めなかった。
だが、その静寂を破ったのはクルムだった。
「まぁ、血縁の再会ですか?それはめでたい!旅ってのは不思議なもので、思わぬ人と巡り合わせてくれるものなんですねぇ」
にこやかに笑うクルム。その表情には種族の違いも過去の別れも、すべてを受け入れるような温かさがあった。
ティルはジェンの隣で軽く頭を下げた。
「僕は、ティルシェード。水竜人族の探索者です。今回の旅は、小人族との協定に基づいて、守護者として随伴しています。そして…ルステインの地下水脈が我々の生存圏になりうる可能性があると知り、それを見定めに来ました」
「なるほど、つまり移住も視野に入れてるの?」
僕が問いかけると、ティルは静かに頷いた。
「はい。水竜人である僕たちは、淡水の存在と安定した気候を必要とします。ルステインはそれに適していますし、地上との連携を深める必要もある。姉さんがここにいるとわかった以上、なおさらその価値は高まりました」
「ふふ…やっぱり似てる」
僕の隣にいたマリカ姉さんが笑った。
「…どこか、ジェン姉さまに似た雰囲気を感じましたの。瞳が特に…ふふ、お姉さま、よろしいですわね?」
「…ん。まあ、嬉しい…よ」
ジェンは照れくさそうに視線をそらしたが、その尾はゆるく揺れていた。喜びが伝わってきた。
一方、ハーフリングのクルムも、見学を終えて立ち止まっていた。
「ドワーヴンベース気に入りましたよ。道具も面白いし人もあたたかい。このままでは、うちの若い衆が『もう帰りたくない』と言い出すかもしれませんね」
そう言って、くすくすと笑う。
「リョウエストくん。もしよろしければ私達もこの地に拠点を持たせていただけないでしょうか? 正式な判断は一族の評議に持ち帰ってからになりますが、可能性は十分にあると感じています」
「もちろん。歓迎するよ。ルステインは誰にとっても『居場所』であってほしい」
僕はそう答えたよ。心からそう思っているし。
異種族が集まって言葉を交わして知識を分け合い、未来を築いていく。僕の描く夢が、こうして少しずつ現実になっていくのを感じている。
その夜僕は屋上からベースの灯りを見下ろしていた。ドワーフの焚き火に集まるハーフリングの子どもたち。水場で静かに月を仰ぐドラコニアンの一団。彼らの笑い声、囁き声が、風に乗って届いてくる。
「きっと、この先も色々あるけど…僕たちは、ちゃんと『前』に進める」
夜空にそう呟いた時、ふいに隣に立ったティルシェードが言った。
「姉さんが…幸せそうでよかった。ありがとう、リョウエスト様」
「僕に『様』はいらないよ。家族なんだから」
「…ふふ。そうですね、『兄弟』」
好奇心に満ちた眼差し、軽快な足取り、そして何よりもその小さな身体から放たれる生き生きとした気配。小人族の一団が、地精たちの誘導のもと、ベース内部を楽しげに歩き回っていた。
「ほぉお、これが鍛造炉ですか。ふふ、ちょっとした小屋くらいあるじゃありませんか!」
代表を名乗る女性・クルムが目を輝かせる。小柄ながら、背筋は真っ直ぐで、動きに無駄がなく、どこか気品すら漂わせていた。
「火の使い方も洗練されている……あら、これ、わたし達でも真似できそうですね。フィナ、おまえ、どう思う?」
「はい、姉さま。きっと調整さえすれば、里でも応用できます!」
小人たちは興奮気味に機械の歯車や木の足場を観察し、職人地精たちに次々と質問を浴びせていた。ヂョウギが誇らしげに胸を張っているのも納得だった。
一方、その後ろに控えるようにして歩いていたのが、水竜人族の数名だった。全身に薄い青鱗を持ち、涼やかな雰囲気を纏う彼らは、騒がしいハーフリングたちとは対照的に、静かに周囲を観察していた。
その中に、一人の若者がいた。
ティルシェード。
彼は青い髪をゆるく結び、整った人間に近い顔立ちに冷たい視線を宿していたが、時折どこか懐かしむような表情を見せた。
ちょうどその時ロイック兄さんとお姉さん達が地精達と打ち合わせに来ていて、それを見学していた。
…そして、彼の姿を見たジェンは、言葉を失った。
「…ティル、なの?」
水場のそばで手を洗おうとしていたジェンの声は、まるで風のささやきのように小さく、それでも確かに、ティルシェードの心に届いた。
ティルはゆっくりと振り向き、その瞳を大きく見開く。
「…ジェン?」
二人の間に沈黙が流れる。すぐにティルシェードが、ほんのわずかだが足を踏み出した。
「まさか…あなたが、僕の…姉さん?…姉さん、ありがとう…生きててくれてよかった」
その言葉をジェンはただ静かに頷いて受け止めた。
「…生きてて、よかった」
それだけを言うとジェンは目を伏せたまま、そっと弟の手を握った。
僕は少し離れた場所から二人のやり取りを見守っていた。まるで時間が止まったかのような空気に誰も口を挟めなかった。
だが、その静寂を破ったのはクルムだった。
「まぁ、血縁の再会ですか?それはめでたい!旅ってのは不思議なもので、思わぬ人と巡り合わせてくれるものなんですねぇ」
にこやかに笑うクルム。その表情には種族の違いも過去の別れも、すべてを受け入れるような温かさがあった。
ティルはジェンの隣で軽く頭を下げた。
「僕は、ティルシェード。水竜人族の探索者です。今回の旅は、小人族との協定に基づいて、守護者として随伴しています。そして…ルステインの地下水脈が我々の生存圏になりうる可能性があると知り、それを見定めに来ました」
「なるほど、つまり移住も視野に入れてるの?」
僕が問いかけると、ティルは静かに頷いた。
「はい。水竜人である僕たちは、淡水の存在と安定した気候を必要とします。ルステインはそれに適していますし、地上との連携を深める必要もある。姉さんがここにいるとわかった以上、なおさらその価値は高まりました」
「ふふ…やっぱり似てる」
僕の隣にいたマリカ姉さんが笑った。
「…どこか、ジェン姉さまに似た雰囲気を感じましたの。瞳が特に…ふふ、お姉さま、よろしいですわね?」
「…ん。まあ、嬉しい…よ」
ジェンは照れくさそうに視線をそらしたが、その尾はゆるく揺れていた。喜びが伝わってきた。
一方、ハーフリングのクルムも、見学を終えて立ち止まっていた。
「ドワーヴンベース気に入りましたよ。道具も面白いし人もあたたかい。このままでは、うちの若い衆が『もう帰りたくない』と言い出すかもしれませんね」
そう言って、くすくすと笑う。
「リョウエストくん。もしよろしければ私達もこの地に拠点を持たせていただけないでしょうか? 正式な判断は一族の評議に持ち帰ってからになりますが、可能性は十分にあると感じています」
「もちろん。歓迎するよ。ルステインは誰にとっても『居場所』であってほしい」
僕はそう答えたよ。心からそう思っているし。
異種族が集まって言葉を交わして知識を分け合い、未来を築いていく。僕の描く夢が、こうして少しずつ現実になっていくのを感じている。
その夜僕は屋上からベースの灯りを見下ろしていた。ドワーフの焚き火に集まるハーフリングの子どもたち。水場で静かに月を仰ぐドラコニアンの一団。彼らの笑い声、囁き声が、風に乗って届いてくる。
「きっと、この先も色々あるけど…僕たちは、ちゃんと『前』に進める」
夜空にそう呟いた時、ふいに隣に立ったティルシェードが言った。
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