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8歳の旅回り。
疲れた時には中華料理。
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ルステインの街並みは、変わらず温かく僕を迎えてくれた。旅の疲れもありつつ、やっぱり家に帰るとほっとする。商会の敷地に入ると、どこからかパタパタと駆け寄る足音がして、玄関先に立つ僕の前に現れたのは…
「リョウ! やっと戻ってきたのね!」
ハキハキとした声とともに、第一夫人であるマリカ姉さんが僕を抱きしめた。
「うふふ、おかえりなさい。少し日焼けしましたね」
冷静で柔らかい微笑みを浮かべるのは、第二夫人のケリィ姉さん。
「…リョ…おかえり…うん」
ぽつりとつぶやくように言ったのは、三番目の兄嫁、ジェン姉さん。3人とも、久々の再会を喜んでくれている。
リビングに通されると、どこか三人とも、疲れた様子がにじんでいた。旅の影響か、王都とルステインを何度も往復しているせいか。
「ねえ、最近あの子たち、ちょっと疲れてるのよ」
マリカ姉さんが言う。
「支店が好調なのは嬉しいけれど、私たち、正直、少し休みたい気分です」
「…でも、王都の人たち…待ってるから…」
聞けば、僕が考案した魔法瓶、防水布、ジルケル織物の人気はすごいらしく、王都支店には注文が殺到しているそうだ。それに伴い、お嫁さんたちも商品の説明や納品の調整などで大忙しになっていた。
「それなら、ちょっと一息ついてもらわないとね」
僕は思い立ったようにキッチンに向かった。ちょうど豆板醤と甜麺醤が手元にあったから。
夕方の柔らかな光が差し込む食卓で、僕は中華料理を三品並べた。
「回鍋肉(ホイコーロー)風の炒め物、麻婆茄子、あともうひとつは甜麺醤で味つけした鶏の照り焼き風です。召し上がってください!」
マリカ姉さんが目を輝かせた。
「なにこれ、香りがすっごく刺激的! あたし辛いの好き!」
ケリィ姉さんは一口食べて、頷きながら言った。
「この豆の発酵の旨味、深いですね。甜麺醤の甘さとのバランスも絶妙です」
ジェン姉さんも、小さく手を合わせて一口。
「…おいしい…あったかい味…」
しばらくの間、食卓には静かな食べる音だけが響いた。ロイック兄さんが途中で戻ってきて、僕の料理を一口食べると笑った。
「リョウ、おまえ、王都支店の厨房に立て。お嫁さんたちの体力が回復するぞ、これは」
「僕、料理係になっちゃうな」
ロイック兄さんは冗談っぽく言いながらも、少し目を細めて僕を見た。
「…でも、ありがとう。みんな、心がほどけたみたいだ」
お姉さんたちは、料理を食べ終えたあと、少しだけ涙ぐんでいた。おいしさだけじゃなくて、気遣ってくれる気持ちに心が動いたらしい。
食後のひととき、ソファでくつろぎながら、三人の兄嫁はぽつぽつと話し始めた。
「王都ではね、あなたの名前が出ない日はないのよ」
マリカさんが笑う。
「あなたの発明、どれも現地の生活を大きく変えているわ。特にジルケル織物。あれは本当に革命的だったの」
「…防水布…雨の日の…子どもたち…喜んでた…」
三人の言葉を聞きながら、僕は不思議な気持ちだった。自分の作ったものが、誰かの生活を確かに変えている。
「それにね」
マリカ姉さんが言った。
「あなたの優しさが、何より支えになっているの。王都でもルステインでも」
ロイック兄さんが肩をすくめた。
「本当に、リョウは誰にでも気を配る。だからみんなついてくるんだな」
「…兄さんたちだって…僕よりずっと…すごいよ」
僕がそう返すと、兄さんは大げさに笑って、
「よし、じゃあそのうち、また王都に来て腕をふるってくれ。お嫁さんたちが癒されるようにな」
僕は空になったお皿を見つめながら、次はどんな料理でみんなを笑顔にしようかと、もう考え始めていた。
お姉さんたちが眠りに部屋帰ったあと、僕は食器を片付けながら、ぽつりと兄さんに話しかけた。
「…ねえ、兄さん。王都って、やっぱり大変?」
ロイック兄さんは椅子に腰掛けながら腕を組んで、少しだけ眉を上げた。
「…まあな。忙しいし、貴族たちもいちいち面倒くさい。でも、手応えはあるよ。おまえの道具が、あの街の空気を変えてる。空気ってのは人の意識も変えるからな」
「…なんか、すごい話だな」
「でもさ、」
と兄さんは少し目線を落とした。
「その分、マリカたちには苦労かけてる。嫁としての顔、商会の一員としての顔もあるだろ?」
「うん…」
「それに、あいつらおまえのことすごく気にかけてる。おまえが王都に出てこなくても、いつも話題に出てくるらしいぞ。『リョウくんならどうするか』とか、『これ、リョウくんに見せたい』とかさ」
それを聞いて、少しだけ胸があたたかくなった。僕は料理をしていただけだけど、それで誰かが元気になるのなら、それは何よりも嬉しい。
「…じゃあ、また何か作るよ。元気になれるやつ。王都に送るね」
「はは、よろしく頼む。おれも負けないように働くわ」
ロイック兄さんは立ち上がって、僕の頭を軽くなでた。
「あと、おまえのその中華料理。次は商会の軽食に出してみろよ。商会員たち、あれ食べたらやる気出るぞ、きっと」
「うん、やってみる!」
そして夜。自分の部屋で、ナビと遊びながら僕はふと思った。
『人を元気にするものは、必ずしも魔法じゃない』
それは料理だったり、優しい言葉だったり、帰ってきたときの笑顔だったりする。そんな当たり前のことが、なんだかとても大事に思えた一日だった。
「リョウ! やっと戻ってきたのね!」
ハキハキとした声とともに、第一夫人であるマリカ姉さんが僕を抱きしめた。
「うふふ、おかえりなさい。少し日焼けしましたね」
冷静で柔らかい微笑みを浮かべるのは、第二夫人のケリィ姉さん。
「…リョ…おかえり…うん」
ぽつりとつぶやくように言ったのは、三番目の兄嫁、ジェン姉さん。3人とも、久々の再会を喜んでくれている。
リビングに通されると、どこか三人とも、疲れた様子がにじんでいた。旅の影響か、王都とルステインを何度も往復しているせいか。
「ねえ、最近あの子たち、ちょっと疲れてるのよ」
マリカ姉さんが言う。
「支店が好調なのは嬉しいけれど、私たち、正直、少し休みたい気分です」
「…でも、王都の人たち…待ってるから…」
聞けば、僕が考案した魔法瓶、防水布、ジルケル織物の人気はすごいらしく、王都支店には注文が殺到しているそうだ。それに伴い、お嫁さんたちも商品の説明や納品の調整などで大忙しになっていた。
「それなら、ちょっと一息ついてもらわないとね」
僕は思い立ったようにキッチンに向かった。ちょうど豆板醤と甜麺醤が手元にあったから。
夕方の柔らかな光が差し込む食卓で、僕は中華料理を三品並べた。
「回鍋肉(ホイコーロー)風の炒め物、麻婆茄子、あともうひとつは甜麺醤で味つけした鶏の照り焼き風です。召し上がってください!」
マリカ姉さんが目を輝かせた。
「なにこれ、香りがすっごく刺激的! あたし辛いの好き!」
ケリィ姉さんは一口食べて、頷きながら言った。
「この豆の発酵の旨味、深いですね。甜麺醤の甘さとのバランスも絶妙です」
ジェン姉さんも、小さく手を合わせて一口。
「…おいしい…あったかい味…」
しばらくの間、食卓には静かな食べる音だけが響いた。ロイック兄さんが途中で戻ってきて、僕の料理を一口食べると笑った。
「リョウ、おまえ、王都支店の厨房に立て。お嫁さんたちの体力が回復するぞ、これは」
「僕、料理係になっちゃうな」
ロイック兄さんは冗談っぽく言いながらも、少し目を細めて僕を見た。
「…でも、ありがとう。みんな、心がほどけたみたいだ」
お姉さんたちは、料理を食べ終えたあと、少しだけ涙ぐんでいた。おいしさだけじゃなくて、気遣ってくれる気持ちに心が動いたらしい。
食後のひととき、ソファでくつろぎながら、三人の兄嫁はぽつぽつと話し始めた。
「王都ではね、あなたの名前が出ない日はないのよ」
マリカさんが笑う。
「あなたの発明、どれも現地の生活を大きく変えているわ。特にジルケル織物。あれは本当に革命的だったの」
「…防水布…雨の日の…子どもたち…喜んでた…」
三人の言葉を聞きながら、僕は不思議な気持ちだった。自分の作ったものが、誰かの生活を確かに変えている。
「それにね」
マリカ姉さんが言った。
「あなたの優しさが、何より支えになっているの。王都でもルステインでも」
ロイック兄さんが肩をすくめた。
「本当に、リョウは誰にでも気を配る。だからみんなついてくるんだな」
「…兄さんたちだって…僕よりずっと…すごいよ」
僕がそう返すと、兄さんは大げさに笑って、
「よし、じゃあそのうち、また王都に来て腕をふるってくれ。お嫁さんたちが癒されるようにな」
僕は空になったお皿を見つめながら、次はどんな料理でみんなを笑顔にしようかと、もう考え始めていた。
お姉さんたちが眠りに部屋帰ったあと、僕は食器を片付けながら、ぽつりと兄さんに話しかけた。
「…ねえ、兄さん。王都って、やっぱり大変?」
ロイック兄さんは椅子に腰掛けながら腕を組んで、少しだけ眉を上げた。
「…まあな。忙しいし、貴族たちもいちいち面倒くさい。でも、手応えはあるよ。おまえの道具が、あの街の空気を変えてる。空気ってのは人の意識も変えるからな」
「…なんか、すごい話だな」
「でもさ、」
と兄さんは少し目線を落とした。
「その分、マリカたちには苦労かけてる。嫁としての顔、商会の一員としての顔もあるだろ?」
「うん…」
「それに、あいつらおまえのことすごく気にかけてる。おまえが王都に出てこなくても、いつも話題に出てくるらしいぞ。『リョウくんならどうするか』とか、『これ、リョウくんに見せたい』とかさ」
それを聞いて、少しだけ胸があたたかくなった。僕は料理をしていただけだけど、それで誰かが元気になるのなら、それは何よりも嬉しい。
「…じゃあ、また何か作るよ。元気になれるやつ。王都に送るね」
「はは、よろしく頼む。おれも負けないように働くわ」
ロイック兄さんは立ち上がって、僕の頭を軽くなでた。
「あと、おまえのその中華料理。次は商会の軽食に出してみろよ。商会員たち、あれ食べたらやる気出るぞ、きっと」
「うん、やってみる!」
そして夜。自分の部屋で、ナビと遊びながら僕はふと思った。
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