僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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8歳の旅回り。

舌戦。

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 社交シーズンが始まる。
 王都の空気はどこか浮ついていて、屋敷の使用人たちもみんな忙しそうだった。貴族街ではあちこちで馬車が走り回り、どこかの屋敷では既に音楽隊の演奏が聞こえる。

「…じゃあ、そろそろ行こうか、ストーク」
「はい、リョウエスト様。お召し物は整っております。準備は万全です」

 僕は深く頷く。今日、僕は王宮に赴いて、今年の社交シーズン入りを王様に挨拶しなければならない。それが三年目となる僕の最初の務めだった。

 王宮に入ると、馴染みの衛兵たちが敬礼をしてくれる。僕は馬車を降りてから自分の足で進み、赤い絨毯の先にいる王様のもとへ歩いた。

「陛下。『王国の料理番』リョウエスト・スサンまかり越してございます」
「うむ…リョウエスト、今年も無事に来てくれて嬉しいぞ」

 王様は僕の肩にそっと手を置いて微笑んだ。相変わらず、優しい声だ。
 式典的な言葉を交わしたあと、少し雑談めいた会話もあったけれど、すぐに次の貴族たちが到着しはじめた。僕は深く一礼して、王宮をあとにする。

 次の目的地はエフェルト公爵の夜会だ。

 毎年、社交シーズンの冒頭に開催される夜会。
 今年も招かれている。エフェルト公爵は僕を友人のように可愛がってくれていて、特に「お肉好き」なところで意気投合していた。

 会場に着くと、すでにたくさんの人で賑わっていた。
 豪華なシャンデリアの下、銀の器に盛られた肉料理たちが次々と運ばれてくる。中には、僕が持ち込んだアバーンの珍味も混ざっていた。

「リョウエスト君、今年の肉も素晴らしいなあ」
「公爵様のおかげで、アバーンの調理もかなり広まってきた。ルステインでも評判」
「そうか。それは良かった。今年は我が領の獣人が活躍してくれて美味しい肉料理がたくさん出来たんだ。ウルリッヒスタイルも良いが今年はブュッフェにしたよ」
「良いものがいっぱいあるならブュッフェの方が良い」

 話しながら料理を味わううちに、僕はふと気配を感じた。
近くの貴族たちが、明らかに僕の方をちらちらと見て、なにやら囁いていた。

「…それにしても、十歳にもならぬ子どもが、政治だの技術だのと。滑稽な話だ」
「種族融和? 子どもの理想論に付き合ってられるか」

…来たな、と思った。

 毎年、こういう輩は必ずいる。特に、公爵の夜会には多くの重鎮が集まるから、選民思想や排他主義をこじらせた連中も混じっている。

 僕は彼らの視線を正面から受け止めながら、一歩前に出た。

「…あの。さっきから、僕のことを仰っているようで?」
「ふむ? いやいや、リョウエスト坊や。君が悪いとは言っておらん。だがな、国家の運営というのは、血筋ある者が担うべきものだと我々は考えていてね」
「そう、そうだ。我らのように代々王国に仕えてきた家柄こそが、王政の礎。子どもの理想論では国家は動かぬよ」

 周囲の空気がぴりついた。けれど、僕は怖くなかった。

「なるほど。ですが、『代々王国に仕えてきた』というなら、責任があるのではないの?」
「ほう……?」
「僕は8歳になった。確かに子どもかもしれない。けれど、命を狙われながらも王都に来て、学び、話し、伝えようとしているの。僕のやっていることが『遊び』だと思いますか?」

 男たちは一瞬口を閉じた。

「選ばれた者、という言葉…僕は嫌い。選ばれるのではなく、自ら『選ぶ』のが本当の責任ある者だと思うの。特権の上に胡坐をかいて、子どもに冷笑を向けることが『選ばれた者』のすること?」
「お、おい貴様…!」
「言葉に力がない人ほど、肩書きに頼るものだと、お父さんが言ってた」

 それが決定打だった。
 周囲にいた貴族たちの間から、控えめながらも拍手が起こる。
 エフェルト公爵が口元を緩めてこちらに近づいてきた。

「…君の熱弁には、今年も驚かされたよ。十歳にして、もう“口の剣”を使いこなしておるな」
「ううん、公爵様。口だけでは、王国は守れない。だから、動くの。僕は僕の役目を果たすの」

 拍手が静かに波紋のように広がっていく。
 選民思想者や排他主義者の顔が曇る中、僕の言葉に共感を示す者もちらほら見えた。

 エフェルト公爵は、穏やかで深い声で話し出した。

「リョウエスト君、君の話はいつも鋭く、そして真っ直ぐだ。君のような若者がいてこそ、この王国はまだまだ未来を期待できるというものだ」

 僕は少し照れくさかったけれど、嬉しくて顔が熱くなる。

「公爵様のお言葉、身に余る光栄です。僕はまだまだ未熟ですが、一歩一歩前に進むの」

夜会は次第に穏やかな雰囲気に包まれ、さまざまな話題が交わされていく。
美味しい肉料理の珍味が次々とテーブルに運ばれ、歓談の輪が広がった。

 僕の心はわくわくしていた。
 今年の社交シーズンは、これまで以上に多くのことを学び、多くの人と出会い、いろんな挑戦が待っているのだと確信していた。

 公爵が近づいてきて、低く耳元で囁いた。

「リョウエスト君、君の存在は王都の新たな風だ。これからも気を張りすぎず、時には楽しみながら、この場を楽しむんだぞ」
「はい、ありがとう、ございます、公爵様」

 僕はしっかりと礼をし、これから始まる社交シーズンの幕開けを胸に刻んだ。
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