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8歳の旅回り。
第二回新作発表会。
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王城の重厚な扉が音もなく開かれ、豪奢な会議室に入った僕は、深く一礼した。玉座には王様と王妃様、その隣にはウルリッヒ王子、左右には宰相、大臣、そしての官僚たちが並んでいた。今年は去年よりさらに人数が増えている。一斉に僕の方を見る。ちょっと緊張するな。
「本日はお時間を頂き、ありがとう、ございます。ルステインよりやってきた、リョウエスト・スサン。本日は第二回となる、新作発表をさせていただきます」
「うむ。リョウエスト。始めてくれ」
「はい、王様」
まず、僕が取り出したのは真鍮と木材で組まれた簡易望遠鏡だった。
「こちらは、遠方の物を拡大して見るための道具、『簡易望遠鏡』。魔力透過を助けるレンズを使って、日中はもちろん、夜間の星や遠景も明瞭に見えるの」
「おお…」
王妃様が身を乗り出す。
「わたくしにも見せてくださるかしら?」
「もちろん」
僕は望遠鏡をそっとお渡しする。
王妃様がレンズを覗き込んだ瞬間、声を上げた。
「まあ! 城の塔の細工までくっきりと見えるなんて!」
「これで敵の接近を早期に察知できるのでは?」
軍務大臣が声を上げた。
「その通り。物見塔や見張り番の装備にも応用できるの」
「魔力が必要ですか?」
宰相が静かに問う。
「微量で済むの。子供でも扱える程度の魔力負荷で、日照下なら無補助でも機能する」
「実に優れている…」
続いて、僕は光触媒消臭装置を取り出した。器の内部には透明な魔力反応板の魔法道具がはめ込まれている。
「こちらは、空気中の臭気成分を分解する装置。陽光か人工光があれば常時作動するの。試しにこちらの臭気瓶を見て欲しい」
封を開けた瓶から立ち上った悪臭に、数名の官僚が眉をひそめる。
「これはひどい…!」
僕が装置を瓶の上に置き、光を当てると、数秒で匂いが消えていく。
「…なくなった?」
王妃様が目を見開く。
「臭いが、どこにも…これは魔法では?」
内務大臣が口を開く。
「魔法ではなく、自然反応なの。これがあれば地下室、牢獄、病院、果ては食堂まで衛生環境が改善されるの」
「このまま王都中に配備したいものだ…」
宰相が呟いた。
「貴族の邸宅でも匂いは問題になりますからな」
外務大臣が言う。
「これは画期的でしょう」
「そうですな」
大臣2人がそう話している。
僕は頷いてから、三つ目を示す。
「次にご紹介するのは、簡易気象装置なの。これは周囲の空気の変化から、風向・気圧・湿度を検知する。急な雨や風を予測するための指標となるの」
「航海や農地管理に良さそうですね」
農務大臣が前のめりになって質問する。
「これは誰でも扱えるのか?」
「魔力ゼロでも使用可能です。天気の変化を色と音で知らせる仕様にしてある」
「村単位でも置けるな…!」
農務担当官が頷いた。
「軍でも使えるぞ!戦には天候が大いに影響されるのだ!」
軍務大臣がそう言って目を輝かせる。
会議室の空気が徐々に熱を帯びてきた。王様がそっと口元に手を当て、僕をじっと見た。
「リョウエスト。君はまだ8歳の子供だったはず…この発明群、誰が設計している?」
「はい、王様。基本設計はすべて僕がやってる。でも、試作と量産にはリョウエスト商会がやってる」
「これは未来の扉だな…」
ウルリッヒ殿下がふっと笑って言った。
「リョウエスト。お前が王都に生まれていたら、我が王立学園が君を手放さなかったと思うよ」
「殿下、恐れながら、王立学園は『今から』でも口説いてこられるかもしれませんよ?」
王妃様が楽しげに言い、会場に笑いが広がった。
「…それでは、中庭にて、さらに大きな発表をお見せします」
僕は会議室を後にし、次なる実演へと向かう。
王城の中庭には、すでに白布をかけた実演台と、特別仕様の馬車が設置されていた。
王様と王妃様、ウルリッヒ殿下、宰相、大臣らが会議室から移動してきて、僕の説明が再び始まる。
「こちらでは、日常生活に関わる新製品をいくつかご紹介いたします。まず、『化粧水』と『洗髪用液(シャンプー)』です」
側に控えた女性使用人が、王妃様の許可を得て小瓶を渡す。
「王妃様、こちらの化粧水をご覧ください。香り付きのタイプと、無香タイプがございます」
王妃様が香りを嗅いだ瞬間、驚いたように目を見開いた。
「…この香り、まるで春の野花の中にいるよう…これを肌に使うの?」
「はい。肌に潤いを与え、乾燥を防ぎ、年齢によるしわを目立ちにくくする効果もあります」
「本当かしら…?」
ウルリッヒ殿下が興味深げに聞く。
「リョウエスト、それは魔法の薬か?」
「いえ。素材は自然由来です。水竜人の持つ海藻知識、エルフの香料知識、そして僕たちヒトの調合技術を掛け合わせて開発しました」
「…これは王宮の商会でも扱うべきだな」
宰相が小声で言う。
「では次に、シャンプーです。泡立てて髪に馴染ませ、洗い流すだけで、汚れや匂いを落とせます」
「まさか、髪を剃らずに済むとは!」
軍務大臣が冗談混じりに叫び、場に笑いが起きた。
「これで剣士や騎士たちも頭を洗えるぞ」
騎士団長も頷く。
「それに…良い香りだな」
「はい。王宮の浴場にもご提供できるよう準備を進めているの。早めに楽しんでもらえるようにする」
「本日はお時間を頂き、ありがとう、ございます。ルステインよりやってきた、リョウエスト・スサン。本日は第二回となる、新作発表をさせていただきます」
「うむ。リョウエスト。始めてくれ」
「はい、王様」
まず、僕が取り出したのは真鍮と木材で組まれた簡易望遠鏡だった。
「こちらは、遠方の物を拡大して見るための道具、『簡易望遠鏡』。魔力透過を助けるレンズを使って、日中はもちろん、夜間の星や遠景も明瞭に見えるの」
「おお…」
王妃様が身を乗り出す。
「わたくしにも見せてくださるかしら?」
「もちろん」
僕は望遠鏡をそっとお渡しする。
王妃様がレンズを覗き込んだ瞬間、声を上げた。
「まあ! 城の塔の細工までくっきりと見えるなんて!」
「これで敵の接近を早期に察知できるのでは?」
軍務大臣が声を上げた。
「その通り。物見塔や見張り番の装備にも応用できるの」
「魔力が必要ですか?」
宰相が静かに問う。
「微量で済むの。子供でも扱える程度の魔力負荷で、日照下なら無補助でも機能する」
「実に優れている…」
続いて、僕は光触媒消臭装置を取り出した。器の内部には透明な魔力反応板の魔法道具がはめ込まれている。
「こちらは、空気中の臭気成分を分解する装置。陽光か人工光があれば常時作動するの。試しにこちらの臭気瓶を見て欲しい」
封を開けた瓶から立ち上った悪臭に、数名の官僚が眉をひそめる。
「これはひどい…!」
僕が装置を瓶の上に置き、光を当てると、数秒で匂いが消えていく。
「…なくなった?」
王妃様が目を見開く。
「臭いが、どこにも…これは魔法では?」
内務大臣が口を開く。
「魔法ではなく、自然反応なの。これがあれば地下室、牢獄、病院、果ては食堂まで衛生環境が改善されるの」
「このまま王都中に配備したいものだ…」
宰相が呟いた。
「貴族の邸宅でも匂いは問題になりますからな」
外務大臣が言う。
「これは画期的でしょう」
「そうですな」
大臣2人がそう話している。
僕は頷いてから、三つ目を示す。
「次にご紹介するのは、簡易気象装置なの。これは周囲の空気の変化から、風向・気圧・湿度を検知する。急な雨や風を予測するための指標となるの」
「航海や農地管理に良さそうですね」
農務大臣が前のめりになって質問する。
「これは誰でも扱えるのか?」
「魔力ゼロでも使用可能です。天気の変化を色と音で知らせる仕様にしてある」
「村単位でも置けるな…!」
農務担当官が頷いた。
「軍でも使えるぞ!戦には天候が大いに影響されるのだ!」
軍務大臣がそう言って目を輝かせる。
会議室の空気が徐々に熱を帯びてきた。王様がそっと口元に手を当て、僕をじっと見た。
「リョウエスト。君はまだ8歳の子供だったはず…この発明群、誰が設計している?」
「はい、王様。基本設計はすべて僕がやってる。でも、試作と量産にはリョウエスト商会がやってる」
「これは未来の扉だな…」
ウルリッヒ殿下がふっと笑って言った。
「リョウエスト。お前が王都に生まれていたら、我が王立学園が君を手放さなかったと思うよ」
「殿下、恐れながら、王立学園は『今から』でも口説いてこられるかもしれませんよ?」
王妃様が楽しげに言い、会場に笑いが広がった。
「…それでは、中庭にて、さらに大きな発表をお見せします」
僕は会議室を後にし、次なる実演へと向かう。
王城の中庭には、すでに白布をかけた実演台と、特別仕様の馬車が設置されていた。
王様と王妃様、ウルリッヒ殿下、宰相、大臣らが会議室から移動してきて、僕の説明が再び始まる。
「こちらでは、日常生活に関わる新製品をいくつかご紹介いたします。まず、『化粧水』と『洗髪用液(シャンプー)』です」
側に控えた女性使用人が、王妃様の許可を得て小瓶を渡す。
「王妃様、こちらの化粧水をご覧ください。香り付きのタイプと、無香タイプがございます」
王妃様が香りを嗅いだ瞬間、驚いたように目を見開いた。
「…この香り、まるで春の野花の中にいるよう…これを肌に使うの?」
「はい。肌に潤いを与え、乾燥を防ぎ、年齢によるしわを目立ちにくくする効果もあります」
「本当かしら…?」
ウルリッヒ殿下が興味深げに聞く。
「リョウエスト、それは魔法の薬か?」
「いえ。素材は自然由来です。水竜人の持つ海藻知識、エルフの香料知識、そして僕たちヒトの調合技術を掛け合わせて開発しました」
「…これは王宮の商会でも扱うべきだな」
宰相が小声で言う。
「では次に、シャンプーです。泡立てて髪に馴染ませ、洗い流すだけで、汚れや匂いを落とせます」
「まさか、髪を剃らずに済むとは!」
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