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8歳の旅回り。
王都の影にて。
「標的は、確認された?」
「ええ。街南部の記録屋。古書の裏で貴族の名簿を売ってる」
月明かりのもと、王都のとある屋敷の屋根。
『青の技』のメンバーが、誰にも気づかれぬよう姿を潜めていた。昼間の呑気そうな様子はかけらもない。みな非情な目をしてお互い見やっていた。
アインスが地図を指でなぞると、ツヴァイが低く答える。
「そいつ、リョウエスト様の誕生日を機に、来客リストや訪問記録を買い漁っている。出所は王宮近くの第三書記官だ」
「内通者がいるか…面倒ね」
フュンフが髪をかき上げながら言った。長身で猫のように静かに動く彼女は、斥候の技に優れている。
「記録屋の調査はドライとゼクスが継続、私は書記官を追う」
そう言ったのはフィア。鋭い目つきの女剣士。青の技では戦闘と詰問を担当することが多い。その魅力にたちまち男は捕えられてしまう。
「リョウエスト様には……?」
「知らせる必要はない。彼は今、王都での社交と学問に集中すべきだ」
アインスの言葉に、全員が静かにうなずいた。アインスは普段の訛りはない。のんびりした喋り方ではなく重く重厚な喋り方をしている。
「これは、我々の仕事だ」
夜の王都は静かだ。しかし、その静けさの裏には、常に何かが動いている。六つの影はその中に消えた。
数日後、王都北部の裏通り。
「ここの裏手に、情報屋がいる。今夜、第三書記官と接触予定だ」
ツヴァイが低く呟いた。
「記録屋“ノム”の裏口に罠を張った。来客記録と引き換えに、今夜は『生きた情報』を渡すつもりらしいわ」
ドライが淡々と説明する。仮面をつけ、声を変え、身分を隠した『情報の売人』として自らが囮になっていた。ドライは変装の名人なのだ。
「本当に来るのか?」
「来る。あの書記官は金に飢えている。王都内で貴族の動きを知りたがっている奴らの『仲介役』になりたがっている」
ゼクスが短刀の柄に手をかけ、フュンフは路地の屋根に飛び乗った。
夜が更け、ついに一人の男が現れる。黒いマントを羽織り、周囲を警戒しながら歩いてきた。
「…『銀羽の名簿』を持ってきた。リョウエストの護衛構成も含めて、な」
その言葉を聞いた瞬間、フィアが前へ出た。
「残念ね。それ、渡す相手が違う」
「なっ…誰だ!?」
マントの男が逃げようとした瞬間、フュンフが屋根から飛び降りる。
「王命により、拘束する」
ゼクスが裏道を塞ぎ、ツヴァイが一歩前に出る。
「この情報は国外へ流れる予定だった。リョウエスト様の命を狙う『名』のつく一団へ。貴様は誰に命令された?」
「そ、そんなこと…!」
その時、フィアの瞳が冷たく光る。
「…答えなさい。『どこまで』漏れたか、教えてもらうわ」
夜風に、誰かの悲鳴がかき消された。
翌朝。
王都中央、貴族街にあるルステイン伯爵のタウンハウス。その屋敷裏の小道に、アインスが立っていた。リョウエストがまだ朝の書き物をしている頃だった。
「全て回収した。書記官は自殺と偽装、記録屋は国外逃亡中に処理。リストは回収済み」
フィアが報告を終え、マントを脱いだ。
「『名の一団』の介入はほぼ確実。だが、王都内の協力者は今回で途絶えた」
「フュンフは?」
「書記官の家族を保護した。報復はなかったが、念のため監視を続ける」
アインスは静かに頷いた。
「リョウエスト様には伝えない。これも王命の範疇だ」
「はい」
「王都は油断できないな」
「この街は、見た目ほど綺麗じゃないからね」
ツヴァイが皮肉っぽく言った。
ゼクスは何も言わず、壁に寄りかかったまま目を閉じていた。
しばらくして、屋敷の中から明るい声が響いた。
「できたー! ストーク、これ見て!」
アインスたちはそれを聞き、静かに目を細める。
「守るべきものが、今日も笑っている。それで十分だ。もう対ミッソリーナの時のような事はない」
「そうだな」
「あの失敗でリョウエスト様、傷ついたものな」
「2度とあんな真似しない」
「ええ、私も」
「必要な事はなんでもするぜ」
青の技は、今日もまた名もなき戦いの中にいた…その微笑みを守るために。
フィアがふと、屋敷の窓を見上げた。
「…あの子がいつか、自分の足でこの王都を歩く日が来るのよね」
「そのときは、俺たちはもう表にいないかもしれん」
ドライがぼそりと呟く。
「それでもいい。歩かせてやるために俺たちがいる」
ツヴァイが頷く。
「リョウエスト様は、ただの次世代貴族ではない。あの方には未来がある。国のかたちを変える力がある」
「その未来を歪めさせない。私たちは、そのための『技』だから」
フィアの声に、誰もが黙って頷いた。
「…行こう。次の監視対象は、貴族の古参派だ」
「了解」
再び、6つの影が王都に溶けていく。
彼らがいつの日か歴史に名を残すことは、きっとない。
けれど、リョウエストという未来のために、今日も確かに剣が振るわれたのだった。
一枚の報告書が、王宮のとある執務室に届く。
封蝋を割ったのは、王その人だった。
中身を一瞥し、王は静かに目を閉じる。
「……ありがとう。今日も未来は守られた」
それだけを呟き、報告書を焚き火にくべる。
炎が紙を喰らい尽くし、灰が舞い上がった。
誰も知らぬ場所で、誰にも知られず、未来がつくられている。
王と、そして六人の『技』たちの手によって…。
「ええ。街南部の記録屋。古書の裏で貴族の名簿を売ってる」
月明かりのもと、王都のとある屋敷の屋根。
『青の技』のメンバーが、誰にも気づかれぬよう姿を潜めていた。昼間の呑気そうな様子はかけらもない。みな非情な目をしてお互い見やっていた。
アインスが地図を指でなぞると、ツヴァイが低く答える。
「そいつ、リョウエスト様の誕生日を機に、来客リストや訪問記録を買い漁っている。出所は王宮近くの第三書記官だ」
「内通者がいるか…面倒ね」
フュンフが髪をかき上げながら言った。長身で猫のように静かに動く彼女は、斥候の技に優れている。
「記録屋の調査はドライとゼクスが継続、私は書記官を追う」
そう言ったのはフィア。鋭い目つきの女剣士。青の技では戦闘と詰問を担当することが多い。その魅力にたちまち男は捕えられてしまう。
「リョウエスト様には……?」
「知らせる必要はない。彼は今、王都での社交と学問に集中すべきだ」
アインスの言葉に、全員が静かにうなずいた。アインスは普段の訛りはない。のんびりした喋り方ではなく重く重厚な喋り方をしている。
「これは、我々の仕事だ」
夜の王都は静かだ。しかし、その静けさの裏には、常に何かが動いている。六つの影はその中に消えた。
数日後、王都北部の裏通り。
「ここの裏手に、情報屋がいる。今夜、第三書記官と接触予定だ」
ツヴァイが低く呟いた。
「記録屋“ノム”の裏口に罠を張った。来客記録と引き換えに、今夜は『生きた情報』を渡すつもりらしいわ」
ドライが淡々と説明する。仮面をつけ、声を変え、身分を隠した『情報の売人』として自らが囮になっていた。ドライは変装の名人なのだ。
「本当に来るのか?」
「来る。あの書記官は金に飢えている。王都内で貴族の動きを知りたがっている奴らの『仲介役』になりたがっている」
ゼクスが短刀の柄に手をかけ、フュンフは路地の屋根に飛び乗った。
夜が更け、ついに一人の男が現れる。黒いマントを羽織り、周囲を警戒しながら歩いてきた。
「…『銀羽の名簿』を持ってきた。リョウエストの護衛構成も含めて、な」
その言葉を聞いた瞬間、フィアが前へ出た。
「残念ね。それ、渡す相手が違う」
「なっ…誰だ!?」
マントの男が逃げようとした瞬間、フュンフが屋根から飛び降りる。
「王命により、拘束する」
ゼクスが裏道を塞ぎ、ツヴァイが一歩前に出る。
「この情報は国外へ流れる予定だった。リョウエスト様の命を狙う『名』のつく一団へ。貴様は誰に命令された?」
「そ、そんなこと…!」
その時、フィアの瞳が冷たく光る。
「…答えなさい。『どこまで』漏れたか、教えてもらうわ」
夜風に、誰かの悲鳴がかき消された。
翌朝。
王都中央、貴族街にあるルステイン伯爵のタウンハウス。その屋敷裏の小道に、アインスが立っていた。リョウエストがまだ朝の書き物をしている頃だった。
「全て回収した。書記官は自殺と偽装、記録屋は国外逃亡中に処理。リストは回収済み」
フィアが報告を終え、マントを脱いだ。
「『名の一団』の介入はほぼ確実。だが、王都内の協力者は今回で途絶えた」
「フュンフは?」
「書記官の家族を保護した。報復はなかったが、念のため監視を続ける」
アインスは静かに頷いた。
「リョウエスト様には伝えない。これも王命の範疇だ」
「はい」
「王都は油断できないな」
「この街は、見た目ほど綺麗じゃないからね」
ツヴァイが皮肉っぽく言った。
ゼクスは何も言わず、壁に寄りかかったまま目を閉じていた。
しばらくして、屋敷の中から明るい声が響いた。
「できたー! ストーク、これ見て!」
アインスたちはそれを聞き、静かに目を細める。
「守るべきものが、今日も笑っている。それで十分だ。もう対ミッソリーナの時のような事はない」
「そうだな」
「あの失敗でリョウエスト様、傷ついたものな」
「2度とあんな真似しない」
「ええ、私も」
「必要な事はなんでもするぜ」
青の技は、今日もまた名もなき戦いの中にいた…その微笑みを守るために。
フィアがふと、屋敷の窓を見上げた。
「…あの子がいつか、自分の足でこの王都を歩く日が来るのよね」
「そのときは、俺たちはもう表にいないかもしれん」
ドライがぼそりと呟く。
「それでもいい。歩かせてやるために俺たちがいる」
ツヴァイが頷く。
「リョウエスト様は、ただの次世代貴族ではない。あの方には未来がある。国のかたちを変える力がある」
「その未来を歪めさせない。私たちは、そのための『技』だから」
フィアの声に、誰もが黙って頷いた。
「…行こう。次の監視対象は、貴族の古参派だ」
「了解」
再び、6つの影が王都に溶けていく。
彼らがいつの日か歴史に名を残すことは、きっとない。
けれど、リョウエストという未来のために、今日も確かに剣が振るわれたのだった。
一枚の報告書が、王宮のとある執務室に届く。
封蝋を割ったのは、王その人だった。
中身を一瞥し、王は静かに目を閉じる。
「……ありがとう。今日も未来は守られた」
それだけを呟き、報告書を焚き火にくべる。
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