406 / 595
8歳の旅回り。
回せ創造の円。
しおりを挟む
「リョウエスト様、ちょっとこっちを見てくれ!」
朝から鍛冶場は鉄の匂いと火花で溢れていた。ドワーフたちが黙々と鉄を叩いている。しかし、その中でふと僕の目が止まった。
「うーん……やっぱり木工の精度が荒いな。旋盤があればな……」
「せんばん? なんだそりゃ?」
隣にいた親方グルドが耳を傾ける。
「回転させて削る道具だよ。棒や円柱、ねじを精密に作れる。足で踏んで動かすやつもあったな。たしか、最初は木工用から始まって…」
「ほほう! 回転させて削る…ほう! やってみようじゃねぇか!」と、グルドの目が輝いた。
僕はさっそく設計図を描く。木枠、滑車、糸、ペダル…鍛冶屋で鉄部品を作ってもらい、木工師には滑らかな軸を依頼。
「まるで何かを産もうとしているみたいだな、リョウエスト」
と、ドワーフ伯グラドが苦笑しながら見ていた。
「そうかもしれませんね。これは、技術の子どもですから」
親方たちが作業を進め、二日後、とうとう足踏み式旋盤が姿を現した。ドワーフたちは集まり、興味津々で見守る。
「いくよ、グラド。木の棒を固定して、ペダルをこう…踏む!」
カツ、カツ、カツカツッ。
糸が回転を生み、木の棒がぐるぐる回る。
「うおおおっ! 回ってる! 棒がまるで魔法のように! 回ってるぞ!!」
「今だ、刃を当てて…こう!」
キュイィィ…と削られていく木。滑らかな円形に整っていく様子に、親方たちは目を見開いた。
「こ、こいつは……まるで……」
「丸い!」
「きれいに、丸いぃぃぃぃ!」
「これなら、車輪も正確に作れるぞ!」「ネジや歯車も作れるのでは?」
「うちの娘の人形の頭もこれで!」
「お、おいおい、親方ぁ、それは工業用途じゃねえ!」
旋盤が、ドワーフの情熱に火をつけた。
「グラド、これはただの道具じゃない。精密技術のはじまりです。時計、武具、建材。すべての精度が変わります」
「…革命だな、リョウエスト。ドワーフ史に残る革命だ!」
親方グルドが僕の肩を叩く。
「やりすぎってレベルじゃねぇぞ! こいつは『やらかした』だ!」
皆が笑った。
僕は旋盤の回転音を聞きながら、未来への歯車がひとつ回ったことを確かに感じていた。
ストークがあわてて商業ギルドに走り商業ギルド長を連れて来て商業登録していた。ストーク、ごめんなさい。
一波乱あってホッとした束の間、
「木だけじゃもったいねぇ……この旋盤、鉄も削れるんじゃねぇか?」
親方グルドがニヤつきながら言ったその一言が、まさか新たな嵐を呼ぶとは思わなかった。
「鉄はさすがに硬い。削る刃を変える必要があるな。炭素鋼を焼き入れして…あとは潤滑と固定の問題さえ解決すれば」
僕が呟くと、ドワーフたちが一斉に立ち上がる。
「それ、やってみよう!」
「おい、炭素量多めの鉄どこだ!」
「グラド様、やってもいいですか!」
「よかろう!」
グラドが太くうなずく。
「リョウエストが与えた道具、ただの飾りでは終わらせん!」
こうして木工用だった旋盤が、金属用へと進化し始めた。
「ナビ、ちょっとこっち来て」
「にゃ!」
大きくなったナビが器用に工具を運んでくれる。足踏みペダルの滑りを減らし、鉄屑を外に流す溝をつける。
「エメイラ、お願い。鉄の回転にはもっと安定した回転が必要。足踏みだけじゃ足りないから、反動を減らす仕組みが欲しい」
「了解したわ…これ、複数人で交互に踏むようにすれば負担を減らせるんじゃない?」
「魔法道具であるか聞いたんだけど…なるほど。エメイラすごい!」
二人踏み式に改造し、削る刃もドワーフの持つ最高級の鉄で鍛える。
「準備は整った……」
金属の棒を固定し、息を合わせて踏み出す。
カタン、カタン…カタタタン!
ギギ…ギギギィィィィッ…!
「うおおっ! 削れてる! 鉄が! 丸く! これ、本当にできるのかよ!」
「リョウエスト、お前さんただの天才じゃなかったのか!? これもう機械神だろ!」
「道具の力ですよ、親方」
数分後、削り出された鉄の円筒は、まるで機械で作ったかのように滑らかだった。
「ほ、本当に…鉄が、こんなに、きれいに…」
「これがあれば、軸受けも、ギアも…」
「歯車だ!歯車を作れ!これでミルももっと効率的に回る!」
「いや、ポンプの圧力調整もできるぞ!」
「風車と繋げれば永久に回るのでは?」
「待て、それはやりすぎだッ!」
その日のうちに、試作品の鉄の歯車が完成した。グラド伯がそれを手に取って、静かに言う。
「…これは、ドワーフにとって鉄の新しい命だ。技術は、飲み物や剣以上に、我らの誇りとなるだろう」
「リョウエスト、あんたが持ってきたもんは、たった一台の旋盤だ。でも、あんたはその一台で、この国のドワーフの未来を…削り出した!」
僕は笑った。
「削ったんじゃないよ。回したんだ。未来を、少しだけ前に」
親方たちがそれを聞いて、口々に叫ぶ。
「かっこいいッ!」「座布団三枚!」「ドワーフ語に翻訳しろー!」
盛大な拍手の中、ドワーフたちは夜遅くまで金属加工の話で盛り上がった。
…その誰もが、もはや旋盤の前に立ったときの、あの金属の鼓動を忘れることはなかった。
朝から鍛冶場は鉄の匂いと火花で溢れていた。ドワーフたちが黙々と鉄を叩いている。しかし、その中でふと僕の目が止まった。
「うーん……やっぱり木工の精度が荒いな。旋盤があればな……」
「せんばん? なんだそりゃ?」
隣にいた親方グルドが耳を傾ける。
「回転させて削る道具だよ。棒や円柱、ねじを精密に作れる。足で踏んで動かすやつもあったな。たしか、最初は木工用から始まって…」
「ほほう! 回転させて削る…ほう! やってみようじゃねぇか!」と、グルドの目が輝いた。
僕はさっそく設計図を描く。木枠、滑車、糸、ペダル…鍛冶屋で鉄部品を作ってもらい、木工師には滑らかな軸を依頼。
「まるで何かを産もうとしているみたいだな、リョウエスト」
と、ドワーフ伯グラドが苦笑しながら見ていた。
「そうかもしれませんね。これは、技術の子どもですから」
親方たちが作業を進め、二日後、とうとう足踏み式旋盤が姿を現した。ドワーフたちは集まり、興味津々で見守る。
「いくよ、グラド。木の棒を固定して、ペダルをこう…踏む!」
カツ、カツ、カツカツッ。
糸が回転を生み、木の棒がぐるぐる回る。
「うおおおっ! 回ってる! 棒がまるで魔法のように! 回ってるぞ!!」
「今だ、刃を当てて…こう!」
キュイィィ…と削られていく木。滑らかな円形に整っていく様子に、親方たちは目を見開いた。
「こ、こいつは……まるで……」
「丸い!」
「きれいに、丸いぃぃぃぃ!」
「これなら、車輪も正確に作れるぞ!」「ネジや歯車も作れるのでは?」
「うちの娘の人形の頭もこれで!」
「お、おいおい、親方ぁ、それは工業用途じゃねえ!」
旋盤が、ドワーフの情熱に火をつけた。
「グラド、これはただの道具じゃない。精密技術のはじまりです。時計、武具、建材。すべての精度が変わります」
「…革命だな、リョウエスト。ドワーフ史に残る革命だ!」
親方グルドが僕の肩を叩く。
「やりすぎってレベルじゃねぇぞ! こいつは『やらかした』だ!」
皆が笑った。
僕は旋盤の回転音を聞きながら、未来への歯車がひとつ回ったことを確かに感じていた。
ストークがあわてて商業ギルドに走り商業ギルド長を連れて来て商業登録していた。ストーク、ごめんなさい。
一波乱あってホッとした束の間、
「木だけじゃもったいねぇ……この旋盤、鉄も削れるんじゃねぇか?」
親方グルドがニヤつきながら言ったその一言が、まさか新たな嵐を呼ぶとは思わなかった。
「鉄はさすがに硬い。削る刃を変える必要があるな。炭素鋼を焼き入れして…あとは潤滑と固定の問題さえ解決すれば」
僕が呟くと、ドワーフたちが一斉に立ち上がる。
「それ、やってみよう!」
「おい、炭素量多めの鉄どこだ!」
「グラド様、やってもいいですか!」
「よかろう!」
グラドが太くうなずく。
「リョウエストが与えた道具、ただの飾りでは終わらせん!」
こうして木工用だった旋盤が、金属用へと進化し始めた。
「ナビ、ちょっとこっち来て」
「にゃ!」
大きくなったナビが器用に工具を運んでくれる。足踏みペダルの滑りを減らし、鉄屑を外に流す溝をつける。
「エメイラ、お願い。鉄の回転にはもっと安定した回転が必要。足踏みだけじゃ足りないから、反動を減らす仕組みが欲しい」
「了解したわ…これ、複数人で交互に踏むようにすれば負担を減らせるんじゃない?」
「魔法道具であるか聞いたんだけど…なるほど。エメイラすごい!」
二人踏み式に改造し、削る刃もドワーフの持つ最高級の鉄で鍛える。
「準備は整った……」
金属の棒を固定し、息を合わせて踏み出す。
カタン、カタン…カタタタン!
ギギ…ギギギィィィィッ…!
「うおおっ! 削れてる! 鉄が! 丸く! これ、本当にできるのかよ!」
「リョウエスト、お前さんただの天才じゃなかったのか!? これもう機械神だろ!」
「道具の力ですよ、親方」
数分後、削り出された鉄の円筒は、まるで機械で作ったかのように滑らかだった。
「ほ、本当に…鉄が、こんなに、きれいに…」
「これがあれば、軸受けも、ギアも…」
「歯車だ!歯車を作れ!これでミルももっと効率的に回る!」
「いや、ポンプの圧力調整もできるぞ!」
「風車と繋げれば永久に回るのでは?」
「待て、それはやりすぎだッ!」
その日のうちに、試作品の鉄の歯車が完成した。グラド伯がそれを手に取って、静かに言う。
「…これは、ドワーフにとって鉄の新しい命だ。技術は、飲み物や剣以上に、我らの誇りとなるだろう」
「リョウエスト、あんたが持ってきたもんは、たった一台の旋盤だ。でも、あんたはその一台で、この国のドワーフの未来を…削り出した!」
僕は笑った。
「削ったんじゃないよ。回したんだ。未来を、少しだけ前に」
親方たちがそれを聞いて、口々に叫ぶ。
「かっこいいッ!」「座布団三枚!」「ドワーフ語に翻訳しろー!」
盛大な拍手の中、ドワーフたちは夜遅くまで金属加工の話で盛り上がった。
…その誰もが、もはや旋盤の前に立ったときの、あの金属の鼓動を忘れることはなかった。
66
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜
2nd kanta
ファンタジー
愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。
人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。
そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。
しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
実家にガチャが来たそしてダンジョンが出来た ~スキルを沢山獲得してこの世界で最強になるようです~
仮実谷 望
ファンタジー
とあるサイトを眺めていると隠しリンクを踏んでしまう。主人公はそのサイトでガチャを廻してしまうとサイトからガチャが家に来た。突然の不可思議現象に戸惑うがすぐに納得する。そしてガチャから引いたダンジョンの芽がダンジョンになりダンジョンに入ることになる。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる