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母親視点
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娘だけが元の世界に帰ってしまった。
心にぽっかりと穴が開いたような、寂しさと不安に包まれながら私は新たな生活を始めた。
エリオットと結婚し、彼の家に嫁ぐことになったが現実はそう甘くはなかった。
エリオットの両親。特に母親からは何度も冷たく、疑念の目で見られた。
最初は彼の家族も私を歓迎してくれたのかと思っていたが聖女の母という立場を失ってからその態度が一変したことに気づいた。
「本当にエリオットの子供なの?」
「聖女の母、なんて名ばかり。あなたにはそれに見合った品位も教養も足りていないわ」
「あなたがそれにふさわしい立場だとは思えません」
その言葉が繰り返されるたびに私は自分がただの「聖女の母」でしかないことを痛感させられる。
娘がこの世界にいた頃は私も一応その役割を果たしていたから、周囲からは一定の敬意や優しさを受けていた。
しかし、今やその役目は娘が消えたことで私はただの「ただの異世界人の女性」に過ぎなくなった。
「聖女様の母」という看板を失った瞬間、私がどれほど平凡で普通の女性に過ぎないかを彼らは思い知らされていたのだろう。エリオットの両親にとって私はただの「過去の遺物」でしかなかった。
娘の存在が彼らにとっていかに大きな意味を持っていたかを私自身が感じ取ることになる。
特に辛いのはみんなが娘のことを思い出させるような言葉を口にするたびだ。みんながいかに聖女である娘を誇りに思っていたかそれを私は目の当たりにし、改めて痛感した。
ある日、屋敷にいるのが苦しくてエリオットと一緒に町を歩いていた時、ふと立ち寄った本屋で目にした本が私の目を引いた。
それは『聖女の旅』と題された本で表紙には娘とその仲間たちが写った写真のようなイラストが描かれていた。その瞬間、心の中で何かがざわつき私は本を買ってしまった。
中身は娘が浄化の旅していた間の記録。著者名を見るとどうやらその旅の仲間たちがまとめた本であることがわかる。私が見たことのない娘が過ごした厳しい現実がその中に描かれていた。
「聖女の旅路は決して楽なものではなかった」
「聖女の力を持つ彼女は多くの人々に求められ、頼られる存在だったがそれが裏目に出て時にはその存在が恐れられることもあった」
「食事の時も、宿屋に泊まる時も、居心地の悪さを嘆いて元の世界に帰る決意を固めていた」
「すべては愛する母の為に」
娘が私のために旅をしていたことは知っていたけれど実際にどれほど大変だったのかどれほど辛かったのかを想像することはできていなかった。
本を読み進めるうちに私は涙が止まらなくなった。娘がいかに自分のことを犠牲にしてこの異世界を旅していたのか。そのすべてが今までの私は理解していなかったことに気づかされた。
◆
「家の名誉を守るためには、家柄のある娘を迎えるべきだわ」
エリオットよりも身分の高い貴族の家から若い娘との縁談を持ちかけた。その娘は私の娘とほぼ同じ年齢で家柄や教養も申し分なかった。
その言葉に私は胸が痛んだ。エリオットと私は愛し合っているが彼の家族にとっては私の存在がもはや重荷になりつつあった。
エリオットは母親の言葉に困惑しながらも私を守る決意を示そうとしたが母親の冷徹な態度に圧倒されていた。
結局、エリオットは家族の圧力に屈し、新たな縁談を受け入れることになった。私はその決断を受け入れ、彼の家で愛人として暮らすことに決まった。
新しい妻は若く、可愛らしく、家族にとって理想的な女性だ。私とは全く違う存在で家族の期待を背負うにはふさわしい相手。
私はエリオットと同じ屋根の下で暮らしながらも、彼の心が新しい妻に向かっていくのを感じていた。最初はエリオットも私に気を使って、できるだけ一緒に過ごそうとしてくれた。
次第にその距離は広がっていく。彼は新しい妻と過ごす時間を増やし、私との時間がどんどん少なくなっていった。
考えてみれば私は10歳年上で、しかも一度結婚し、大きな子供を持っている女性。
対して新しい妻は若くて、可愛らしく、何もかもが新鮮で魅力的に映るだろう。エリオットが次第にその若い妻に心を奪われていくのはある意味当然のことだ。
彼の心が若く魅力的な新しい妻に向かっていくのを止めることはできなかった。私とエリオットの関係は次第にただの形式的なものへと変わっていく。
新しい妻は私のことを気にかけることもなく、エリオットと楽しそうに過ごしていた。私は彼女が笑顔でいるのを見るたび、何故か別れた娘の姿を思い出しているの。
心にぽっかりと穴が開いたような、寂しさと不安に包まれながら私は新たな生活を始めた。
エリオットと結婚し、彼の家に嫁ぐことになったが現実はそう甘くはなかった。
エリオットの両親。特に母親からは何度も冷たく、疑念の目で見られた。
最初は彼の家族も私を歓迎してくれたのかと思っていたが聖女の母という立場を失ってからその態度が一変したことに気づいた。
「本当にエリオットの子供なの?」
「聖女の母、なんて名ばかり。あなたにはそれに見合った品位も教養も足りていないわ」
「あなたがそれにふさわしい立場だとは思えません」
その言葉が繰り返されるたびに私は自分がただの「聖女の母」でしかないことを痛感させられる。
娘がこの世界にいた頃は私も一応その役割を果たしていたから、周囲からは一定の敬意や優しさを受けていた。
しかし、今やその役目は娘が消えたことで私はただの「ただの異世界人の女性」に過ぎなくなった。
「聖女様の母」という看板を失った瞬間、私がどれほど平凡で普通の女性に過ぎないかを彼らは思い知らされていたのだろう。エリオットの両親にとって私はただの「過去の遺物」でしかなかった。
娘の存在が彼らにとっていかに大きな意味を持っていたかを私自身が感じ取ることになる。
特に辛いのはみんなが娘のことを思い出させるような言葉を口にするたびだ。みんながいかに聖女である娘を誇りに思っていたかそれを私は目の当たりにし、改めて痛感した。
ある日、屋敷にいるのが苦しくてエリオットと一緒に町を歩いていた時、ふと立ち寄った本屋で目にした本が私の目を引いた。
それは『聖女の旅』と題された本で表紙には娘とその仲間たちが写った写真のようなイラストが描かれていた。その瞬間、心の中で何かがざわつき私は本を買ってしまった。
中身は娘が浄化の旅していた間の記録。著者名を見るとどうやらその旅の仲間たちがまとめた本であることがわかる。私が見たことのない娘が過ごした厳しい現実がその中に描かれていた。
「聖女の旅路は決して楽なものではなかった」
「聖女の力を持つ彼女は多くの人々に求められ、頼られる存在だったがそれが裏目に出て時にはその存在が恐れられることもあった」
「食事の時も、宿屋に泊まる時も、居心地の悪さを嘆いて元の世界に帰る決意を固めていた」
「すべては愛する母の為に」
娘が私のために旅をしていたことは知っていたけれど実際にどれほど大変だったのかどれほど辛かったのかを想像することはできていなかった。
本を読み進めるうちに私は涙が止まらなくなった。娘がいかに自分のことを犠牲にしてこの異世界を旅していたのか。そのすべてが今までの私は理解していなかったことに気づかされた。
◆
「家の名誉を守るためには、家柄のある娘を迎えるべきだわ」
エリオットよりも身分の高い貴族の家から若い娘との縁談を持ちかけた。その娘は私の娘とほぼ同じ年齢で家柄や教養も申し分なかった。
その言葉に私は胸が痛んだ。エリオットと私は愛し合っているが彼の家族にとっては私の存在がもはや重荷になりつつあった。
エリオットは母親の言葉に困惑しながらも私を守る決意を示そうとしたが母親の冷徹な態度に圧倒されていた。
結局、エリオットは家族の圧力に屈し、新たな縁談を受け入れることになった。私はその決断を受け入れ、彼の家で愛人として暮らすことに決まった。
新しい妻は若く、可愛らしく、家族にとって理想的な女性だ。私とは全く違う存在で家族の期待を背負うにはふさわしい相手。
私はエリオットと同じ屋根の下で暮らしながらも、彼の心が新しい妻に向かっていくのを感じていた。最初はエリオットも私に気を使って、できるだけ一緒に過ごそうとしてくれた。
次第にその距離は広がっていく。彼は新しい妻と過ごす時間を増やし、私との時間がどんどん少なくなっていった。
考えてみれば私は10歳年上で、しかも一度結婚し、大きな子供を持っている女性。
対して新しい妻は若くて、可愛らしく、何もかもが新鮮で魅力的に映るだろう。エリオットが次第にその若い妻に心を奪われていくのはある意味当然のことだ。
彼の心が若く魅力的な新しい妻に向かっていくのを止めることはできなかった。私とエリオットの関係は次第にただの形式的なものへと変わっていく。
新しい妻は私のことを気にかけることもなく、エリオットと楽しそうに過ごしていた。私は彼女が笑顔でいるのを見るたび、何故か別れた娘の姿を思い出しているの。
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