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町へ
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晩秋の道なき山は色褪せした落ち葉が積もり、水分を含んだそれは滑って何度も足を取られそうになった。空は低く灰色の雲が重く垂れこめて今にも雨が降り出しそうだ。
「町まではどれくらいかかるんだ?」
今にも空が泣きだしそうだ。降り出せば益々足元は悪くなって体力のない私は更に足手まといになってしまう。今だってルイの手があるから転ばずに済んでいるだけだし。
「それほどかからない。疲れたのか? だったら鞄に入るか? 何なら背負ってもいいぞ」
「い、いや、まだ大丈夫」
随分気分はよくなったけれど、鞄に入るとまた気持ち悪くなりそうだから今は遠慮したかった。それに背負われるのもちょっと。
「そう言えば……さっきの娘は誰だ?」
気になったのはいきなり襲い掛かって来てルイを魂の伴侶だと言い放ったあの娘だった。あの勢いだと簡単に諦めるとは思えなかったけれど、本当に大丈夫なのだろうか。
「あの娘のことは気にしなくていい。二度と近づけない」
教えてくれないのか。それとも言いたくないのか。でも……
「納得したようには見えなかったけど」
「納得出来なければ消えて貰う」
「簡単にそういうこと言わないでくれ」
さすがに人を殺すのを見過ごす気にはなれない。しかも相手はルイを慕っている娘だし。
「今はあんたの身体を治すのが先だ。簡単な魔術も使えないんじゃ身も守れないだろう?」
「う……それは、まぁ」
今は長年使っていた治癒魔法や結界魔法も使えないし、火を熾すなどの基本的なものすらも難しい。不便極まりないし足手まといでしかない。
「これからどうする気だ?」
「この先にルモンという町がある。あんたの身体が治るまで暫くそこで暮らす。全てはそこからだ」
「申し訳ない」
「謝る必要はない。俺が好きでやっているんだから」
「……そ、そうか……」
好きという単語に鼓動が跳ねた。そういうことを言われたけど……そういえばその件はあの後有耶無耶というか何も言って来ない。私から言うのも憚れるし……うん、今は身体を治すことだけ考えよう。
体力をつけるためにと今日は頑張って歩いた。歩みは遅いし休憩も多かったけれど、町が見えたのはまだ日が暮れる前だった。よかった、間に合って……足が既に限界に近いけれど。
目の前に現れた町はまるで砦のように周囲を高い塀に囲まれていた。立派な門には武装した大柄の男と小柄の男が二人、槍を手に立っている。なんだか警備が厳しそうだけど・……入れて貰えるのか?
「俺たちは駆け落ちしてきたってことにする」
「は? ちょっと待て! 駆け落ちなんて……」
「いいから黙って聞けって。じゃ、周りに何て説明するんだ? 隣国の聖女と神殿の下男だとでも?」
「そ、それは……」
さすがにそれを言うのがまずいということくらいは私にもわかる。同様に四十年前に死んだ魔女の生まれ変わりとその時一緒にいた少年なんて言ったら頭がおかしいと思われるだろうけど……
「あ、姉と、弟とか?」
「転生前なら通ったが今は無理だな」
「じゃ、兄と妹?」
「それも無理」
「どうして?」
「俺が普通なのにあんたがこんなにガリガリだと、俺が虐待しているように見えるだろうが」
「あ……」
確かにそれはまずい、かも? 騎士とか自警団とかに目を付けられるのは困る、かも? でも、駆け落ちなんて……
「あんたは商家の妾の子で、俺はそこの使用人。虐待されていたあんたを庇ったら首になったんで二人で逃げてきたってことにする」
ことにするって……決定事項なのか?
「でも……」
「こんな辺境には訳ありの奴らが逃げてくるんだよ。だからそう言えば大抵の奴らは納得するし、それ以上詮索もして来ない」
そうなのか? だったら兄妹でもいいんじゃ……
「あんたを離す気はないって言っただろう? だから諦めろ」
「な!」
「ほら、着くぞ」
話している間に門の側まで来てしまった。ここまでくると話も出来ない。どうしたものかと思っている間にルイは門番に話しかけていた。頑強な塀からして簡単に通して食えるようには思えず、どうなることかと息をひそめて様子を伺った。時々門番がこっちを向いてその度に心臓が悪い意味で跳ねたけれど、想像以上にあっさりと通してくれた。
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ」
「でも、警備がかなり厳しそうだけど……」
「あれは魔獣除けだ。人の出入りはあまりうるさいことは言わないんだ。それに、俺はここの冒険者に登録してあるし」
事も無げにルイはそう言った。そう言えば冒険者をしていたとか言っていたような……
「さて、住む部屋を探さなきゃいけないけど、先ずは腹ごしらえだな」
「あ、ああ」
それに関しては完全同意だった。久しぶりに歩いたせいか今までに感じたことのない空腹感に襲われていた。
「いい店がある。行ってみよう」
「ああ」
ルイに手を取られて歩き出す。王都に比べたら寂れた感じは否めなかったけれど、活気があるし夕食の時間が近いのもあってか美味しそうな匂いが溢れ、通りを行き交う人も多かった。馬車は殆ど見かけないし、いかにも冒険者らしい格好の男たちが目立つ。初めて見る町の景色が物珍しくて不思議と疲れは感じなかった。
「町まではどれくらいかかるんだ?」
今にも空が泣きだしそうだ。降り出せば益々足元は悪くなって体力のない私は更に足手まといになってしまう。今だってルイの手があるから転ばずに済んでいるだけだし。
「それほどかからない。疲れたのか? だったら鞄に入るか? 何なら背負ってもいいぞ」
「い、いや、まだ大丈夫」
随分気分はよくなったけれど、鞄に入るとまた気持ち悪くなりそうだから今は遠慮したかった。それに背負われるのもちょっと。
「そう言えば……さっきの娘は誰だ?」
気になったのはいきなり襲い掛かって来てルイを魂の伴侶だと言い放ったあの娘だった。あの勢いだと簡単に諦めるとは思えなかったけれど、本当に大丈夫なのだろうか。
「あの娘のことは気にしなくていい。二度と近づけない」
教えてくれないのか。それとも言いたくないのか。でも……
「納得したようには見えなかったけど」
「納得出来なければ消えて貰う」
「簡単にそういうこと言わないでくれ」
さすがに人を殺すのを見過ごす気にはなれない。しかも相手はルイを慕っている娘だし。
「今はあんたの身体を治すのが先だ。簡単な魔術も使えないんじゃ身も守れないだろう?」
「う……それは、まぁ」
今は長年使っていた治癒魔法や結界魔法も使えないし、火を熾すなどの基本的なものすらも難しい。不便極まりないし足手まといでしかない。
「これからどうする気だ?」
「この先にルモンという町がある。あんたの身体が治るまで暫くそこで暮らす。全てはそこからだ」
「申し訳ない」
「謝る必要はない。俺が好きでやっているんだから」
「……そ、そうか……」
好きという単語に鼓動が跳ねた。そういうことを言われたけど……そういえばその件はあの後有耶無耶というか何も言って来ない。私から言うのも憚れるし……うん、今は身体を治すことだけ考えよう。
体力をつけるためにと今日は頑張って歩いた。歩みは遅いし休憩も多かったけれど、町が見えたのはまだ日が暮れる前だった。よかった、間に合って……足が既に限界に近いけれど。
目の前に現れた町はまるで砦のように周囲を高い塀に囲まれていた。立派な門には武装した大柄の男と小柄の男が二人、槍を手に立っている。なんだか警備が厳しそうだけど・……入れて貰えるのか?
「俺たちは駆け落ちしてきたってことにする」
「は? ちょっと待て! 駆け落ちなんて……」
「いいから黙って聞けって。じゃ、周りに何て説明するんだ? 隣国の聖女と神殿の下男だとでも?」
「そ、それは……」
さすがにそれを言うのがまずいということくらいは私にもわかる。同様に四十年前に死んだ魔女の生まれ変わりとその時一緒にいた少年なんて言ったら頭がおかしいと思われるだろうけど……
「あ、姉と、弟とか?」
「転生前なら通ったが今は無理だな」
「じゃ、兄と妹?」
「それも無理」
「どうして?」
「俺が普通なのにあんたがこんなにガリガリだと、俺が虐待しているように見えるだろうが」
「あ……」
確かにそれはまずい、かも? 騎士とか自警団とかに目を付けられるのは困る、かも? でも、駆け落ちなんて……
「あんたは商家の妾の子で、俺はそこの使用人。虐待されていたあんたを庇ったら首になったんで二人で逃げてきたってことにする」
ことにするって……決定事項なのか?
「でも……」
「こんな辺境には訳ありの奴らが逃げてくるんだよ。だからそう言えば大抵の奴らは納得するし、それ以上詮索もして来ない」
そうなのか? だったら兄妹でもいいんじゃ……
「あんたを離す気はないって言っただろう? だから諦めろ」
「な!」
「ほら、着くぞ」
話している間に門の側まで来てしまった。ここまでくると話も出来ない。どうしたものかと思っている間にルイは門番に話しかけていた。頑強な塀からして簡単に通して食えるようには思えず、どうなることかと息をひそめて様子を伺った。時々門番がこっちを向いてその度に心臓が悪い意味で跳ねたけれど、想像以上にあっさりと通してくれた。
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ」
「でも、警備がかなり厳しそうだけど……」
「あれは魔獣除けだ。人の出入りはあまりうるさいことは言わないんだ。それに、俺はここの冒険者に登録してあるし」
事も無げにルイはそう言った。そう言えば冒険者をしていたとか言っていたような……
「さて、住む部屋を探さなきゃいけないけど、先ずは腹ごしらえだな」
「あ、ああ」
それに関しては完全同意だった。久しぶりに歩いたせいか今までに感じたことのない空腹感に襲われていた。
「いい店がある。行ってみよう」
「ああ」
ルイに手を取られて歩き出す。王都に比べたら寂れた感じは否めなかったけれど、活気があるし夕食の時間が近いのもあってか美味しそうな匂いが溢れ、通りを行き交う人も多かった。馬車は殆ど見かけないし、いかにも冒険者らしい格好の男たちが目立つ。初めて見る町の景色が物珍しくて不思議と疲れは感じなかった。
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