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結界魔術
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雷角牛が間近に迫り町に恐慌が伝播する中、自警団の隊長が大きな声で策があると宣言した。その声に走り去ろうとしていた人たちの足が止まる。私は担がれたまま揺れる身体を支えるのに必死だった。
「隊長、策なんて……」
「この二人が結界を張るそうだ」
「はぁ!?」
呆れを多大に含んだ声を出したのはジョスと呼ばれていた冒険者だった。厳つい顔立ちが一層険しくこちらを睨んでいる。
「おい! いくら何でも適当なことを言うな!!」
「そうよ! ルイ、あなた、質の悪い冗談はやめてちょうだい! 私たちは命がけで町を守っているのよ!!」
さすがに話が奇天烈過ぎただろうか。ルイの言うことなら何でも聞きそうなマノンですら目を吊り上げていた。
「冗談じゃない。だがそれを説明している時間がない。話は後だ」
そう言うとルイは講堂へと走り出した。三つ目の角を曲がった先にお目当ての建物が見つかった。だけど……
「ダメだ、避難してきた人でいっぱいだ」
さすがにこれだけ人がいては術式を組めない。それに横槍を入れられれば不完全な術が発動して危険だ。
「ルイ、だったらこの先のもう使われていない教会はどうだ? あそこは崩れそうだから避難してくる人はいない」
崩れそうな教会なんてこっちの身が危険なのだけど、今は贅沢を言っている暇はなかった。
「ルイ、崩れるとわかっているなら先に物理攻撃除けの結界を張っておけば済む。それよりも二人で術を組む邪魔をされる方が問題だ」
「そうだな」
今回は二人で協力する必要があるから邪魔が入らないことを優先したい。私たちは目的地を変えた。
「これが……」
隊長が示した教会は想像以上に古かった。これ、扉を開けた瞬間に崩れて来ないだろうか?
「ほら、物理攻撃よけの結界を張るぞ」
「ああ」
そっちはルイに任せた。魔獣除けの結界は私でないと出来ないから、今は僅かな魔力も温存しておきたい。また魔力切れになったら洒落にならないから。
「ちょっと、こんな場所で……」
「本当に出来るのかよ。そう言って油断させて……」
教会の中心に立つと外からマノンたちの声が聞こえてきた。追いかけて来たのか? そんな暇があるなら町民の避難を手伝えばいいものを。
「ルイ、こんな茶番していないでこっちを手伝ってよ。そんな女に魔力なんか……」
「うるさい!! 邪魔をするなら出て行け!」
ルイがマノンの呼びかけを一喝した。頼むから静かにしてほしい。結界魔術は長年使って来たけれど、今回は町一つを覆うものだから勝手が違う。集中力が途切れて術式を間違ったら目も当てられない。ルイが入り口の戸を閉めた上で施錠の魔術をかけた。これで外野の声は入らない。
「大丈夫か?」
「ああ。始めるぞ」
「いつでも」
ルイの返事を聞いてゆっくりと魔力を手繰り寄せて魔術式を組んでいく。ここからは術式をイメージして一つの絵のように描いていく。この前のような力任せでは出来ない繊細な術式だから緊張感もけた違いだ。町を覆うように、雷角牛のくる方向は特に頑強になるように術式を合わせていく。身体を魔力が流れ、繊細な絵を描くように形にして行く。意識は身体を離れて町全体へと向かい結界の範囲を決めていく。無防備になった身体はルイが守る。
一過性の攻撃魔術とは別の、永続的な結界魔術。今回は一日もあれば十分だろう。遥か昔、私が初代国王に乞われて編みだしたこの魔術を使うのは三百年以上ぶりだ。あの時は未来永劫とも願った魔術式は今でも綻びを抱えながらも続いている。前世の私が死んでから、結界は緩やかに崩壊へと向かっている。神殿で私がやっていたのは崩壊を少しだけ遅らせるだけの延命だ。そのことに気付いている者がいるのだろうか……
「発動」
魔力が結界を巡り始める。結界魔術は長い糸で組んで、最初と最後を結ぶように繋げることで完成する。これで魔力が巡ってその効果を永続させるのだ。今頃外では町を白い光が覆っているだろう。
「エヴァ!」
身体がふらりと揺れる。さすがにこれだけの大きさの結界はこの身体には負担が大きい。それを思うと前世の身体は丈夫だったなと思う。いや、あれは丈夫という枠を超えていた。魔術のために身体を強化し続けた結果があの老いも死にもしない身体だったのだから。
「大丈夫。どうだ、魔力は巡っているか?」
「ああ。懐かしいな。あの黒茨の城を思い出す」
そうだった。あの城の周囲もこれと同じ結界を張っていた。あの結界は魔獣だけでなく全ての人を除けるものだったけれど。
「眠い……」
大規模な結界を張れば魔力を大幅に失って眠くなる。幸い崖に落ちた時のような魔力切れは起きていないのは幸いだけど。この三月余り殆ど魔力を使わず、しっかり食べて寝たお陰だと思う。神殿を出た後の身体じゃ耐えられなかった。
「ああ、休んでくれ。俺が側にいる」
「うん」
前世の時は初代国王が守ってくれた。あの頃を思い出すのは嫌だったけれど、生まれ変わったせいか前のように心が乱れることはない。凪いでいるとも言える。記憶はあってももう前世の私とは別人になったのだと、あのしがらみはなくなったのだと、そう感じながら意識を手放した。
「隊長、策なんて……」
「この二人が結界を張るそうだ」
「はぁ!?」
呆れを多大に含んだ声を出したのはジョスと呼ばれていた冒険者だった。厳つい顔立ちが一層険しくこちらを睨んでいる。
「おい! いくら何でも適当なことを言うな!!」
「そうよ! ルイ、あなた、質の悪い冗談はやめてちょうだい! 私たちは命がけで町を守っているのよ!!」
さすがに話が奇天烈過ぎただろうか。ルイの言うことなら何でも聞きそうなマノンですら目を吊り上げていた。
「冗談じゃない。だがそれを説明している時間がない。話は後だ」
そう言うとルイは講堂へと走り出した。三つ目の角を曲がった先にお目当ての建物が見つかった。だけど……
「ダメだ、避難してきた人でいっぱいだ」
さすがにこれだけ人がいては術式を組めない。それに横槍を入れられれば不完全な術が発動して危険だ。
「ルイ、だったらこの先のもう使われていない教会はどうだ? あそこは崩れそうだから避難してくる人はいない」
崩れそうな教会なんてこっちの身が危険なのだけど、今は贅沢を言っている暇はなかった。
「ルイ、崩れるとわかっているなら先に物理攻撃除けの結界を張っておけば済む。それよりも二人で術を組む邪魔をされる方が問題だ」
「そうだな」
今回は二人で協力する必要があるから邪魔が入らないことを優先したい。私たちは目的地を変えた。
「これが……」
隊長が示した教会は想像以上に古かった。これ、扉を開けた瞬間に崩れて来ないだろうか?
「ほら、物理攻撃よけの結界を張るぞ」
「ああ」
そっちはルイに任せた。魔獣除けの結界は私でないと出来ないから、今は僅かな魔力も温存しておきたい。また魔力切れになったら洒落にならないから。
「ちょっと、こんな場所で……」
「本当に出来るのかよ。そう言って油断させて……」
教会の中心に立つと外からマノンたちの声が聞こえてきた。追いかけて来たのか? そんな暇があるなら町民の避難を手伝えばいいものを。
「ルイ、こんな茶番していないでこっちを手伝ってよ。そんな女に魔力なんか……」
「うるさい!! 邪魔をするなら出て行け!」
ルイがマノンの呼びかけを一喝した。頼むから静かにしてほしい。結界魔術は長年使って来たけれど、今回は町一つを覆うものだから勝手が違う。集中力が途切れて術式を間違ったら目も当てられない。ルイが入り口の戸を閉めた上で施錠の魔術をかけた。これで外野の声は入らない。
「大丈夫か?」
「ああ。始めるぞ」
「いつでも」
ルイの返事を聞いてゆっくりと魔力を手繰り寄せて魔術式を組んでいく。ここからは術式をイメージして一つの絵のように描いていく。この前のような力任せでは出来ない繊細な術式だから緊張感もけた違いだ。町を覆うように、雷角牛のくる方向は特に頑強になるように術式を合わせていく。身体を魔力が流れ、繊細な絵を描くように形にして行く。意識は身体を離れて町全体へと向かい結界の範囲を決めていく。無防備になった身体はルイが守る。
一過性の攻撃魔術とは別の、永続的な結界魔術。今回は一日もあれば十分だろう。遥か昔、私が初代国王に乞われて編みだしたこの魔術を使うのは三百年以上ぶりだ。あの時は未来永劫とも願った魔術式は今でも綻びを抱えながらも続いている。前世の私が死んでから、結界は緩やかに崩壊へと向かっている。神殿で私がやっていたのは崩壊を少しだけ遅らせるだけの延命だ。そのことに気付いている者がいるのだろうか……
「発動」
魔力が結界を巡り始める。結界魔術は長い糸で組んで、最初と最後を結ぶように繋げることで完成する。これで魔力が巡ってその効果を永続させるのだ。今頃外では町を白い光が覆っているだろう。
「エヴァ!」
身体がふらりと揺れる。さすがにこれだけの大きさの結界はこの身体には負担が大きい。それを思うと前世の身体は丈夫だったなと思う。いや、あれは丈夫という枠を超えていた。魔術のために身体を強化し続けた結果があの老いも死にもしない身体だったのだから。
「大丈夫。どうだ、魔力は巡っているか?」
「ああ。懐かしいな。あの黒茨の城を思い出す」
そうだった。あの城の周囲もこれと同じ結界を張っていた。あの結界は魔獣だけでなく全ての人を除けるものだったけれど。
「眠い……」
大規模な結界を張れば魔力を大幅に失って眠くなる。幸い崖に落ちた時のような魔力切れは起きていないのは幸いだけど。この三月余り殆ど魔力を使わず、しっかり食べて寝たお陰だと思う。神殿を出た後の身体じゃ耐えられなかった。
「ああ、休んでくれ。俺が側にいる」
「うん」
前世の時は初代国王が守ってくれた。あの頃を思い出すのは嫌だったけれど、生まれ変わったせいか前のように心が乱れることはない。凪いでいるとも言える。記憶はあってももう前世の私とは別人になったのだと、あのしがらみはなくなったのだと、そう感じながら意識を手放した。
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