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想定外
ルイに執着していたマノンは仲間らしい剣士に連れられて姿を消した。その後ろ姿が消えてようやく胃にあった力みが抜けた。その後も暫く列に並んだ。こちらを見て何か言いたげにしている人もいたけれど、誰も声をかけてくることはなく、門を出るとそんな視線からようやく解放された。ここまではよかったのだけど……
「嘘だろ!!」
「雷角牛が!!」
「ここに着くのは明日の朝じゃなかったのか!?」
悲鳴のような絶叫が響いた。慌てて声のする方に視線を向けて息を呑んだ! その方向には深い森があって木々しか見えないけれど、その上空には煙が上がりそれは間近に迫っていた。
「ルイ!」
「まさか予想が外れるとはな」
何時も余裕を失わないルイが珍しく表情を強張らせていた。スタンビートの予想はあくまでも予想だけど、半日以上もずれるとは思わなかった。さすがに近過ぎてこの距離ではもうルイの策は使えない。
「風向きか……」
ルイが綺麗な眉を歪めて間に皴を寄せた。雷角牛は火をもたらす。山の中ではその大群は見えないが煙が上がっていればどの辺りにいるかは見当がつく。でも、この町は高い木々に囲まれて見通しが悪く、しかも町が風上だった。気付くのが遅れたのは疑いようもなかった。町の見張りを過信し過ぎたのか、それとも……
「ルイ、時間がない。町を結界で包もう」
「それじゃあんたが!」
「時間がないんだ。それに、町の半分、雷角牛がぶつかる方角だけでいいだろう? そうすれば力は半分で済む」
チッと舌打ちが聞こえたけれどルイは反論しなかった。彼もわかっているのだ。それ以外に方法がないと。そして……彼が町人を見捨てる選択肢はないとも。口ではああ言っているけれどルイは冷酷なんかじゃないから。
「外にいる人を誘導しないと」
「ああ。門番にも知らせよう。時間がない」
ルイと共に来た道を駆ける。こうなっては一刻の猶予もない。外にいる人を町に避難させて結界を張る。結界は間に合うだろうか。避難は誰かに任せて私はルイと結界を張るしかない。
「大変だ! 雷角牛がすぐ側まで迫っているぞ!!」
ルイが声を張り上げると人々の目がこちらに集中した。
「まさか。ここに着くのは明日の朝だと……」
「既に煙が見える位置だ。風上だから気付かなかった。早く非難を!! 外に出た人を引き戻してくれ!」
その声で一気にざわめきがあがり終いには悲鳴になった。恐慌状態になった字と人が門に殺到する。
「待て! もう外に出ても間に合わない!!」
「だけど、ここにいたって同じだ!! あの門じゃ雷角牛は止められない」
「くそっ!! こんなことなら昨日のうちに出るんだった!!」
「誰だ、明日の朝なんて言った奴は!!」
怒りは間違った情報の主へと向かったけれど今はそれを言っている場合じゃない。
「この町を囲う結界を張る!! だが万全じゃない。出来るだけ地下へ身を隠せ!!」
「結界だと!? そんなもん張れる魔術師なんか……」
「俺たちが張る。俺も妻も魔術師だ」
パニックに陥った人たちの動きが突然遅くなった。ルイの言葉が人々の間でジワジワと広がり、青褪めていた顔に色が戻ったようにも見えた。
「頼むから町を出た人たちを連れ戻してくれ!! 時間がない!!」
「わ、わかった……! おい、避難用の鐘を鳴らせ」
「ああ!!」
自警団の面々が蜘蛛の子を散らすように駆けていく。残った人の中に自警団の隊長がこちらに向かってくるのが見えた。顔にも傷が残る筋肉隆々のいかにも剣士のような風貌をしている。
「おい!! 今の話は……」
「本当だ。時間がない。直ぐにも結界を張るが間に合うかどうかは保証出来ない」
「そうか……! わかった。場所が必要か?」
「エヴァ、どこがいい?」
突然話を振られて面食らった。場所……って、どこでも出来なくはないけれど……
「魔術式が見える方がいい。広いホールがある場所なら……」
「ホール……町の講堂はどうだ?」
講堂か……一度だけ除いたことがある。古いけれど広いし人目も避けられる。
「講堂……ああ、なんとか」
「わかった。来てくれ! 必要なものは?」
「特にない。ただ、人は近づけないでくれ。集中出来ないと時間がかかる」
「わかった。こっちだ」
隊長の後をルイと共に駆けたけれど……体力がないし足の速さが違うから着いていけない……
「ま、待って……」
ろくに運動をしていなかった身体にいきなりダッシュは無理だった。あっという間に置いていかれるけれど、直ぐにルイが気付いてくれた。
「グェ!!」
「我慢しろ」
突然荷物のように肩に担ぎ上げられた。お陰で頭を下にした状態で揺れるから頭に血がのぼる……目がチカチカしてくるし、がっちり捕まれた足が痛い。振り落とされそうで必死にルイの服にしがみついた。その時だった。
「ルイ!! ザック隊長!?」
駆けてきたのはさっきまで私たちに絡んでいたマノンをはじめとする冒険者だった。
「ああ、ジョス、マノン!! 雷角牛がもうそこまで迫っている!!」
「馬鹿な!! 到着は明日の朝だと……!!」
「そうは言うがもうすぐそこに迫っているんだ!!」
隊長の大きな声が空気を裂く。その言葉に周りにいた人たちの悲鳴が上がった。中には恐慌状態に陥る人の姿もある。町に恐怖がさざ波のように広がってきた。これはまずい……パニックになったら何が起きるかわからない。
「落ち着け!! 慌てるな!! まだ策はある!!」
隊長の怒鳴るような野太い声が町を駆けた。
「嘘だろ!!」
「雷角牛が!!」
「ここに着くのは明日の朝じゃなかったのか!?」
悲鳴のような絶叫が響いた。慌てて声のする方に視線を向けて息を呑んだ! その方向には深い森があって木々しか見えないけれど、その上空には煙が上がりそれは間近に迫っていた。
「ルイ!」
「まさか予想が外れるとはな」
何時も余裕を失わないルイが珍しく表情を強張らせていた。スタンビートの予想はあくまでも予想だけど、半日以上もずれるとは思わなかった。さすがに近過ぎてこの距離ではもうルイの策は使えない。
「風向きか……」
ルイが綺麗な眉を歪めて間に皴を寄せた。雷角牛は火をもたらす。山の中ではその大群は見えないが煙が上がっていればどの辺りにいるかは見当がつく。でも、この町は高い木々に囲まれて見通しが悪く、しかも町が風上だった。気付くのが遅れたのは疑いようもなかった。町の見張りを過信し過ぎたのか、それとも……
「ルイ、時間がない。町を結界で包もう」
「それじゃあんたが!」
「時間がないんだ。それに、町の半分、雷角牛がぶつかる方角だけでいいだろう? そうすれば力は半分で済む」
チッと舌打ちが聞こえたけれどルイは反論しなかった。彼もわかっているのだ。それ以外に方法がないと。そして……彼が町人を見捨てる選択肢はないとも。口ではああ言っているけれどルイは冷酷なんかじゃないから。
「外にいる人を誘導しないと」
「ああ。門番にも知らせよう。時間がない」
ルイと共に来た道を駆ける。こうなっては一刻の猶予もない。外にいる人を町に避難させて結界を張る。結界は間に合うだろうか。避難は誰かに任せて私はルイと結界を張るしかない。
「大変だ! 雷角牛がすぐ側まで迫っているぞ!!」
ルイが声を張り上げると人々の目がこちらに集中した。
「まさか。ここに着くのは明日の朝だと……」
「既に煙が見える位置だ。風上だから気付かなかった。早く非難を!! 外に出た人を引き戻してくれ!」
その声で一気にざわめきがあがり終いには悲鳴になった。恐慌状態になった字と人が門に殺到する。
「待て! もう外に出ても間に合わない!!」
「だけど、ここにいたって同じだ!! あの門じゃ雷角牛は止められない」
「くそっ!! こんなことなら昨日のうちに出るんだった!!」
「誰だ、明日の朝なんて言った奴は!!」
怒りは間違った情報の主へと向かったけれど今はそれを言っている場合じゃない。
「この町を囲う結界を張る!! だが万全じゃない。出来るだけ地下へ身を隠せ!!」
「結界だと!? そんなもん張れる魔術師なんか……」
「俺たちが張る。俺も妻も魔術師だ」
パニックに陥った人たちの動きが突然遅くなった。ルイの言葉が人々の間でジワジワと広がり、青褪めていた顔に色が戻ったようにも見えた。
「頼むから町を出た人たちを連れ戻してくれ!! 時間がない!!」
「わ、わかった……! おい、避難用の鐘を鳴らせ」
「ああ!!」
自警団の面々が蜘蛛の子を散らすように駆けていく。残った人の中に自警団の隊長がこちらに向かってくるのが見えた。顔にも傷が残る筋肉隆々のいかにも剣士のような風貌をしている。
「おい!! 今の話は……」
「本当だ。時間がない。直ぐにも結界を張るが間に合うかどうかは保証出来ない」
「そうか……! わかった。場所が必要か?」
「エヴァ、どこがいい?」
突然話を振られて面食らった。場所……って、どこでも出来なくはないけれど……
「魔術式が見える方がいい。広いホールがある場所なら……」
「ホール……町の講堂はどうだ?」
講堂か……一度だけ除いたことがある。古いけれど広いし人目も避けられる。
「講堂……ああ、なんとか」
「わかった。来てくれ! 必要なものは?」
「特にない。ただ、人は近づけないでくれ。集中出来ないと時間がかかる」
「わかった。こっちだ」
隊長の後をルイと共に駆けたけれど……体力がないし足の速さが違うから着いていけない……
「ま、待って……」
ろくに運動をしていなかった身体にいきなりダッシュは無理だった。あっという間に置いていかれるけれど、直ぐにルイが気付いてくれた。
「グェ!!」
「我慢しろ」
突然荷物のように肩に担ぎ上げられた。お陰で頭を下にした状態で揺れるから頭に血がのぼる……目がチカチカしてくるし、がっちり捕まれた足が痛い。振り落とされそうで必死にルイの服にしがみついた。その時だった。
「ルイ!! ザック隊長!?」
駆けてきたのはさっきまで私たちに絡んでいたマノンをはじめとする冒険者だった。
「ああ、ジョス、マノン!! 雷角牛がもうそこまで迫っている!!」
「馬鹿な!! 到着は明日の朝だと……!!」
「そうは言うがもうすぐそこに迫っているんだ!!」
隊長の大きな声が空気を裂く。その言葉に周りにいた人たちの悲鳴が上がった。中には恐慌状態に陥る人の姿もある。町に恐怖がさざ波のように広がってきた。これはまずい……パニックになったら何が起きるかわからない。
「落ち着け!! 慌てるな!! まだ策はある!!」
隊長の怒鳴るような野太い声が町を駆けた。
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