科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第80話 対立する調査隊――交差する思惑

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荒野に張られた軍の仮設キャンプは、戦場の名残を色濃く残していた。

崩れたテント、燃え尽きた焚き火の跡、乾いた血の匂いが微かに漂っている。

夕陽が傾きかけた空の下、迅たちは無言でその中を進んでいった。



ノーザリア軍の兵士たちは、迅たちの到着にすぐに気付いた。
鎧をまとった男たちが足を止め、こちらに向ける視線は警戒そのものだった。

 
「……歓迎されてる感じではないわね。」

 
リディアが低く呟く。
迅もまた、それをひしひしと感じていた。

アルセイアとノーザリアは、現在こそ国交を保っているが、長い歴史の中で幾度も小競り合いを繰り返してきた国同士だ。

今回の事件にしても、アルセイアの王命独行が派遣されるということは、ノーザリア側にとっては”監視すべき存在”がやってきた、という認識になるのだろう。


「まあ、仕方あるまい。こうした不測の事態では、どちらも相手の出方を探るものじゃ。」


ロドリゲスが静かに言う。


迅は兵士たちの視線を受け流しながら、前方に目を向けた。


中央の大きなテントの前に、明らかに兵士とは違う雰囲気を持つ三人が立っていた。

 
一人目は、赤の装飾が美しい、白銀の鎧に身を包んだ美しき女剣士。
金髪を後ろでポニーテールに結い、その先は縦ロールのように巻かれている。
姿勢は端正で、腰には長剣を携えていた。


二人目は、長い赤髪の一部を編み込みにした猫獣人の少女。
眼帯をした右目側の長髪を垂らし、それが眼帯をやや隠す形になっている。
上半身は肌を大胆に露出させたビキニアーマーを纏い、下半身には機動性の高そうなレザーアーマーを着けていた。
可愛らしい顔つきとは裏腹に、ギザギザの牙を覗かせた笑みを浮かべ、こちらを値踏みするような目つきをしている。


三人目は、紺銀色の髪をきっちり分けた眼鏡の青年。
青地に銀の装飾が施されたローブをまとい、手には魔法発動体の杖を持っている。
鋭い知性を感じさせるが、どこか人と距離を置いているような空気を纏っていた。


彼らこそ、ノーザリアから派遣された調査隊"銀嶺の誓い(シルバー・オース)"の三人だった。

 

先頭に立つ金髪の女剣士が、毅然とした声で言った。
 

「——貴方《あなた》が、"王命独行"の勇者殿ですわね?」
 

彼女の視線が、真っ直ぐ迅に向けられる。
その瞳には、一分の隙もない。


迅はふっと肩の力を抜きながら、軽く顎をしゃくった。
 

「そうだけど……そっちが、ノーザリア側の調査隊?」
 

「左様ですわ。私はエリナ・ヴァイスハルト、ノーザリア冒険者ギルド・白銀等級。
こちらの二人は、ミィシャ・フェルカスとライネル・フロスト。
我々は国の命を受け、事件の真相を調査するために派遣されました。」

 
── 白銀等級。
それはノーザリアの冒険者階級において、最高の等級だ。


彼女が名を名乗ると、猫獣人の少女——ミィシャが前に出て、腕を組んだ。


「ふ~ん……で、あんたらが噂の”異世界の勇者様御一行”ってワケか?」


彼女の瞳が、じろじろと迅を値踏みするように動く。

それから、リディアへと視線を移した瞬間、口角をくいっと上げた。

 

「ほぉ? かわい子ちゃんが一人いるじゃねぇか。」

 

「……は?」

 

「やれやれ、男ばっかだったらどうしようかと思ってたぜぇ。」


ミィシャは舐めるようにリディアを眺める。
リディアは露骨に顔をしかめた。
 

その瞬間——


「かわい子ちゃんが一人だと!?勇者殿も可愛いだろうが!!訂正しろ!!」

「バカなのかお前は!?」

 
とんでもない理由で食ってかかるカリムを
迅が羽交締めにして止める。


「何だぁ……?」


ミィシャがぎょっとした顔をし、リディアは目を丸くし、エリナは「?」と首を傾げた。
ロドリゲスが「またか……」と溜息をつく。


「……な、何言ってんだ、こいつ……」


ミィシャが困惑したようにカリムを見つめる。


「まあまあ……彼はいつもこんな感じだから気にしないで。」


リディアが小声でフォローを入れる。

「……なんか、想像してた勇者様と違いますわね。」

エリナが、少し眉をひそめた。


(……この対面、大丈夫かしら?)

 
リディアは早くも先行きに不安を感じながら、エリナたちと向かい合うのだった。


 ◇◆◇


ノーザリアの調査隊――白銀級冒険者パーティ"銀嶺の誓いシルバー・オース"との交渉は、既に硬直状態にあった。

「我々ノーザリアとしては、貴国アルセイア領内の魔導遺跡が怪しいと睨んでおりますの。」

エリナの鋭い視線がロドリゲスを射抜く。

 その視線には『この事件に、アルセイア王国が関与してるのでは?』という疑念が含まれるようだった。

「ふむ。以前我が国を襲った魔王軍も、彼の遺跡に我が国民を捕らえていた事もありましたでな。その可能性はあるでしょうな。」

ロドリゲスは、長年の外交経験を活かし、冷静に言葉を選んでいた。

「本件において、ノーザリアとアルセイアの協力は必須。敵が魔王軍であるならば尚更でありましょう。我らはこの事件の調査と、行方不明の兵士の救出を最優先と考えております。情報を共有し、共同で動くべきだと思うのですがの。」

真正面からの交渉。実直な言葉。

だが、それに対するエリナの返答は、冷たいものだった。


「……お断りいたしますわ」


リディアが少し目を見開いた。ロドリゲスの交渉が通らないとは、思っていなかったのだろう。

エリナは腕を組み、毅然とした態度で言葉を続ける。

「我々"銀嶺の誓いシルバー・オース"は、ノーザリア冒険者ギルドの白銀級冒険者。ギルドの制度上、本作戦において我々はノーザリア軍の将校と同等の権限を有しておりますの」

「つまり……お主らが合同部隊の指揮を執る、と?」

ロドリゲスが鋭い目を向けるが、エリナは涼しげな表情で頷いた。

「ええ。私たちは、国の正式な指示を受け、この事件を調査する立場。アルセイアの調査隊と情報共有する義務はありませんし、そもそも、我々には我々のやり方がありますの。ご理解くださいませ」

エリナは 「あなた方にはあなた方のやり方があるのでしょう?」 と付け加えた。

それは、暗に 「関わるな」 と言っているのと同じだった。

リディアは、じっとエリナの瞳を見つめた。


「……あなた、どうしてそんなに頑ななの?」


リディアの問いに、エリナの表情が微かに揺れる。しかし、彼女はすぐに顔を背けた。

「……」

「エリナ……」

ミィシャが小さく呟いたが、エリナはそれを制するように手を上げた。

「それでは、我々は我々のやり方で調査を進めますわ。貴方がたもどうぞ、ご自由に」

「……」

ロドリゲスは何か言いたげだったが、相手が完全に拒否する姿勢を見せている以上、無理に交渉を続けても無駄だと判断したのだろう。

「……わかった。だが、少なくともお互いの動きくらいは把握しておくべきではないか?」

「必要があれば、ですわね」

エリナはそれだけ言い残し、踵を返した。

交渉、決裂。

リディアはエリナの背を見送りながら、小さく溜息をついた。

(何か……他に理由がある気がするけど……)

そんな風に考えながらも、今はそれ以上言葉をかけることはしなかった。



一方、交渉が膠着状態に陥っている間も、迅は完全に別のことを考えていた。

地面にしゃがみ込み、足元の土を指で掬いながら、血の匂いを嗅ぐ。

(……強烈な鉄臭さ。しかも、時間が経っても異様に濃い)

血の鉄分がこれほど長時間濃縮されているのは不自然だ。通常ならば、時間が経てばある程度の酸化が進み、風や湿度によって分解が始まる。

それが 「ここだけ異様に凝縮している」 のは、何かの力が働いた証拠。


(まるで、重力場が発生したかのように……)


迅は思考を巡らせながら、現場の異常を観察し続ける。


(……アイツの魔力球が浮いてた"理屈"……。)


ふと、アーク・ゲオルグの戦闘スタイルを思い返す。

魔力球。自在に浮遊するそれは、通常の魔法では説明がつかないほどスムーズに動いていた。

(魔力を物質化したのなら当然、質量が発生する。重力の影響を受けるはずだ)

だが、それが自在に浮遊していたということは、アークには 「何らかの重力制御技術」 がある可能性が高い。

そして――今回の事件の手口。

死体が一点に集中し、まるで何かに押し潰されたかのような痕跡。

(もしかして……アイツが関わってるのか?)

そう考えた瞬間、背筋に冷たいものが走った。

(……でも、なんか違う気がするんだよなぁ)

アーク・ゲオルグという男の思考パターンは、極めて合理的だ。

あくまで効率的に、無駄のない戦い方をする。

「こんなに雑な虐殺をするタイプじゃない」

それに、アークがデルヴァ村の村人を監禁していた 「アル=ゼオス魔導遺跡」 が近くにある。

もしもアークが本当に関与しているのだとしたら、なぜこの場所で兵士たちを殺す?
遺跡に何か関係があるのか?

(……アイツがやったんじゃないとしたら、誰がやった?)

迅は小さく唇を噛んだ。


その時、ふと感じた視線。


エリナが、こちらを睨むように見ていた。

(……何だよ)

迅は溜息をつき、立ち上がった。

すると、エリナは静かに言った。

「……貴方、さっきから何をしているのですの?」

迅は肩をすくめながら、軽く答えた。


「あー……考え事してただけ」


それが、エリナの怒りに火をつけるとは、この時の迅はまだ気づいていなかった――。
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