科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第81話 決裂する調査隊――それぞれの道へ

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キャンプの中心では、既に銀嶺の誓いの三人がそれぞれの準備に取り掛かっていた。

しかし、エリナだけは納得がいかない様子で、明らかに苛立ちながら迅へと向かっていく。


「貴方、一体何をしていらっしゃるの?」


その声に、迅は顔を上げた。
とはいえ、特に驚いた様子もなく、むしろ「やれやれ」といった表情を浮かべる。

彼は地面にしゃがみ込み、砂利を指でつまんでじっと見つめていた。

「何って……ちょっと考え事をな。」

「考え事?」

エリナの紅い瞳が鋭く細められる。

「この戦場で一体何を考えることがあるのかしら? 今すべきことは敵を討つことでしょう?」

「ああ、そう思うのは別にいいが……俺は少しやり方が違うんでね。」

迅はポケットに手を突っ込み、面倒くさそうに肩をすくめた。

「戦う前に、まず状況を整理する。どうしてこんなことが起こったのかを知っておくのは悪くないだろ?」

「そんなもの、知る必要はありませんわ。」

エリナは冷たい声で言い切った。

「敵が何者であれ、やるべきことは変わらない。力で討ち、討たれぬようにする。ただそれだけですわ。」

「……なるほど。戦士らしい考え方だな。」

迅は軽く頷いた。

「でもな、敵がどんな手を使ってくるかわからないまま突っ込んで、返り討ちに遭うのは御免なんだよ。俺はそういう無駄な戦い方はしない主義でね。」

「……随分と臆病ですのね。」

その言葉には、あからさまな侮蔑が込められていた。

リディアとロドリゲスは「また厄介なことになった」とでも言いたげな表情を浮かべ、カリムは珍しく口を挟まずに黙っている。

だが、迅自身は全く気にした様子もなく、むしろ「そういう反応か」と納得したように頷いた。

「臆病って言われるのには慣れてるさ。」

「……それで、勇者様は戦うことすら恐れる腰抜けと?」

エリナの声は鋭く、挑発的だった。
普通の男ならここで怒るか、反論するだろう。

しかし、迅はただ静かに彼女を見つめ、深く息をついた。

「……ま、好きに言えばいいさ。」

「……何ですって?」

エリナの眉がピクリと動いた。

「そっちがどう思おうと、俺には関係ない話だろ。」

迅は言いながら、ポケットからコインを取り出し、指先で弾いて遊び始める。
その態度は、完全に「面倒くさいから適当にやり過ごす」それだった。

「アンタらはアンタらのやり方で動けばいいし、俺たちは俺たちのやり方で動く。それだけの話だろ?」

「……!」

エリナの表情が険しくなる。

「貴方……本当に、それで良いのですの?」

「俺は合理的に動く。それだけだよ。」

「……本当に呆れましたわ。」

エリナは睨みつけるように言い放ち、くるりと踵を返した。

「私たちは私たちのやり方で進めます。貴方方は貴方方で勝手に動くといいですわ。ただし——足を引っ張るような真似だけはご勘弁願いますわね。」

「──"ここ"の事を、何も知らない癖に……!!」

そう言い残し、エリナはミィシャとライネルの方へと向かっていく。



リディアは迅の横顔をちらりと見た。

「……いいの? 完全に嫌われたわよ。」

「いいんじゃね?」

迅は特に気にした様子もなく、コインをくるくると回しながら微笑んだ。

「ま、なるようになるだろ。」


 ◇◆◇


エリナと迅のやり取りが終わった後、場には張り詰めた沈黙が広がった。

ロドリゲスがなんとか交渉を続けようとするも、エリナの態度は頑なで、迅も面倒事を増やす気はなさそうだった。


「……要するに、そちらは私たちと同行するつもりはない、ということでよろしいですのな?」


ロドリゲスが最後の確認をするように問いかけると、エリナは腕を組み、冷たく頷いた。


「ええ、何度も言わせないでくださる? 私たちは独自のルートで遺跡を調査し、事態の真相を突き止めますわ。あなたたちは、あなたたちでお好きになさって」


彼女の言葉には、もはや遠回しな言い回しすらなくなり、完全に決裂の意思を示していた。ロドリゲスは小さくため息をついた。

「……仕方あるまいな」

「ま、向こうがその気なら、こっちも好きにやらせてもらうか」

迅が肩をすくめると、それを見たミィシャが鼻で笑った。

「まあいいにゃ。あたしらに男が仕切るチームに媚び売る趣味はないしなー」

「そもそも媚び売るとかの話じゃねぇだろ」

迅が呆れた声でツッコミを入れるが、ミィシャはにやりと笑うと、リディアに目を向けた。

「なぁなぁ、かわい子ちゃん。お前だけはこっちに来る気、ないか?」

「……は?」

リディアは明らかに困惑した表情を浮かべる。

「いやー、こんな野郎どもに囲まれてるより、あたしらと一緒のほうが気楽だと思うんだけどにゃ?」

ミィシャは冗談めかして言ったが、その目は本気だった。

「遠慮しておくわ。私の居場所はここなの。」

「ちぇー、つれないにゃ」

ミィシャは肩をすくめるが、その言葉に棘はなかった。

一方で、ライネルはというと、興味なさそうに腕を組んで話の流れを聞いていた。だが、ふと迅の方に目を向けると、冷静な表情でこう言い放った。


「……どちらが正しいかは、結果が証明するでしょう。我々の方が先に真相に辿り着きますよ」


迅は肩をすくめ、「好きにしろよ」と言わんばかりに黙ったままだった。


「行きますわよ、二人とも」

エリナがそう言うと、ミィシャとライネルもそれに従い、踵を返して歩き始めた。

「ったく……白銀級冒険者様は勝手だねぇ」

「迅《じん》も人の事言えないでしょ。」

ぼそりと呟きながら、その背中を見送る迅に、
リディアは腕組みしながら呆れた声を漏らす。


「さて、どうする、勇者殿?」

カリムが尋ねると、迅は小さく息を吐き、すぐに気持ちを切り替えた。

「どうするも何も、俺たちは俺たちでやるべきことをやるだけだ。」

こうして、王国調査隊とノーザリア調査隊は完全に別行動を取ることとなった。

だが、この決断が後に大きな影響をもたらすことを、彼らはまだ知らなかった。
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