科学×魔法で世界最強！ 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

第82話 隠された真実――遺跡へと繋がる推理

　静寂が場を包んでいた。

　銀嶺の誓いの三人が立ち去り、夜の冷たい空気が戦場の静けさをより一層際立たせていた。

　ノーザリアの調査隊が作った仮設の野営地には、兵士たちが黙々と火を焚き、見張りを続けている。

　その場に残った迅たちは、彼らが去っていった道をしばらく見送っていた。


　「……さて。」


　ふと、迅が沈黙を破るように呟いた。

　「そろそろ情報を整理しておくか。」

　彼は腰に手を当て、あたりを見回す。夜闇に包まれた戦場跡には、無惨にも圧殺された兵士たちの遺体が残されている。
　その数は決して少なくない。だが、迅はある疑問を抱いていた。

「おかしいと思わないか？」

「何がじゃ？」

ロドリゲスが問い返す。

「犠牲者の数だよ。」

迅は地面に転がる遺体を指し示しながら言った。「

報告では、この一帯で行方不明になった兵士や冒険者の数は百人以上だったはず。
でも、現場に残された遺体はせいぜい三十体程度。残りの連中は、一体どこに行ったんだ？」

リディアが眉をひそめる。

「たしかに……報告と合わないわね。単純に遺体が見つかっていないだけ、って可能性は？」

「あり得る。」

迅は頷く。

「でもな、気になる点がもう一つある。」

　彼は無造作に地面を蹴ると、土がわずかに沈んだ。

「……圧殺されたにしては、遺体の沈み込みが不自然じゃないか？」

　リディアとカリムが顔を見合わせる。ロドリゲスも目を細め、足元の土をじっと見つめた。

「どういう事だ？勇者殿。」

カリムが腕を組む。

「これだけの衝撃だ。地面が沈み込んでいるのは当然だろう。」

「普通はな。」

迅は軽く肩を竦めた。

「でも、ちょっと考えてみろよ。仮にこれは、何か巨大なモノに踏み潰されたんだとする。でも、それなら普通はもっと跡が残るはずなんだよ。」

「……どういうこと？」リディアが尋ねる。

「例えば、巨大な魔獣が暴れたとしよう。でも、それなら“足跡”が残るだろ？」

「……！」

リディアが息をのんだ。

「そうね……何かが踏み潰したのなら、その“何か”が動いた痕跡がもっとあってもいいはず……！」

「まさしく。でも、ここにはそれがない。」

迅は指をパチンと鳴らした。

「つまりこれは“巨大な何か”に踏み潰されたわけじゃないってことだ。」

「……じゃあ、一体どうやって？」

「それを考えるのが、これからの作業ってわけだ。」

迅は不敵に微笑んだ。



「……デルヴァ村の事件を覚えてるか？」

沈黙を破ったのは迅だった。
リディアがすぐに頷く。

「ええ。アーク・ゲオルグが、村人たちを遺跡に閉じ込めていた事件ね。」

「そうだ。」

迅は腕を組み、考え込むような仕草を見せた。

「ロドリゲスから聞いた話だと、村人たちは遺跡の中で発見されたが……記憶を失っていた、って話だったよな？」

カリムが驚いたように眉を上げる。

「記憶を……？」

ロドリゲスが口を挟む。

「うむ。目を覚ました村人たちは、魔王軍に襲われた時の記憶はあったが、それ以降のことをまったく覚えていなかった。まるで、彼らの経験がごっそり抜け落ちたようにのう。」

「つまり……遺跡の内部には、何かしらの仕掛けがあるってことだ。」

迅は確信を込めた声で言う。

「ふむ、仕掛け…？」

カリムが眉をひそめる。

「ああ。何が起こるのかは分からないが、アークはそれを村人を使って試そうとしていた可能性がある。」

リディアが少し表情を曇らせる。

「……でも、それが何のためだったのかまでは分からないのよね。」

迅はゆっくりと頷いた。

「そういうことだ。
そして、今回の事件でも、兵士や冒険者たちが行方不明になっている。つまり……」

「遺跡の仕掛けが、再び動かされている可能性がある、ということか。」

ロドリゲスが結論を補った。

「……少なくとも、俺はそう考えてる。」

カリムが腕を組み、「ふむ……」と唸る。

「だが、それだけでは証拠にはならん。貴殿が言う通り、まだ確証がないのだろう？」

「まあな。」

迅は軽く肩を竦める。

「確証はない。でも、確証を得るために行動することはできる。」

「つまり？」リディアが問いかける。

迅は目を細め、静かに言った。

「俺らも遺跡に行くぞ。」

「……！」

「ここで考え込んでいても仕方がない。答えは“現場”にある。」

迅は力強く言い放った。

「アークがやろうとしていたことが何なのか、それを知るには遺跡に行くしかねぇだろ。」

カリムが微かに笑みを浮かべる。

「ふっ、やっと“勇者殿”らしくなってきたな。」

「別に勇者らしさなんていらねぇよ。」

迅は軽く鼻を鳴らす。

「俺は、ただ“知りたい”だけだ。」

　リディアとロドリゲスは顔を見合わせ、そして頷いた。

　こうして、迅たちはアル＝ゼオス魔導遺跡へ向かう決意を固めた。