科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第96話 エリナ・ヴァイスハルト ──白銀の誇り(中編)──

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 ヴァイスハルト家が滅びた日。

 エリナは一人、血塗れのまま王都へ戻った。

 父の言葉が、まだ耳に残っている。


——「お前は……ヴァイスハルトの誇りだ……自由に……生きろ……」


 だが、王都で彼女を待っていたのは、冷たい現実だった。


「ヴァイスハルト家が……終わった……?」

「……仕方がないな。元々、剣を振り回すだけの成り上がり貴族だ」

「噂によると、娘が問題を起こしていたらしい」

「下級貴族の分際で、優秀すぎたのが仇になったんだろう」

「まあ、いずれにせよ、上級貴族の機嫌を損ねた時点で終わりだったんだ」

 全てを失った少女に対する、王都の貴族たちの態度は無慈悲だった。


 エリナは静かに拳を握った。

 涙が止めどなく滴り落ちる。

 誰も何も知らないくせに。

 私の家がどれだけ誇り高かったか。

 父と母がどれだけ善良で、どれだけ私を愛してくれたか。

 そして、どれだけ理不尽に命を奪われたか。


 「お前が悪い」


 まるで、そう言われているようだった。

「…………っ」

 この世界に、正義はないのか。

 この世界に、努力は報われるものではないのか。

 貴族であることに、どんな意味がある?

 エリナは、ゆっくりとヴァイスハルトの家紋を刻んだペンダントを握りしめた。

(……いいえ。)

(私は……ただ力を求めたわけじゃない。)

(ヴァイスハルトの名を守るために、戦い続けてきた。)

(父上が、私に言った……「自由に生きろ」と。)

 ならば——

(私は、貴族であることに縛られはしない。)

(私は、冒険者になる。)

 そして——

「ヴァイスハルトの名を、剣と誇りで轟かせる。」

 それこそが、私が進むべき道だ。


 ◇◆◇


 白銀級冒険者となるまでの道は、決して平坦なものではなかった。

 ヴァイスハルト家が滅んだ後、エリナは冒険者ギルドに身を寄せた。

 貴族であった過去は捨てた。
 父の言葉を胸に刻み、「冒険者としてヴァイスハルトの名を轟かせる」 ことを決意した。

 最初は、単独での活動だった。

 剣と魔法を駆使し、次々と依頼を成功させる。
 瞬く間に評価を上げ、15歳の若さで銀級(Bランク)に昇格した。

 だが、彼女は一人だった。
 パーティを組む必要性は感じなかったし、実際に頼るべき仲間もいなかった。


 ——そんな時、一人の獣人の少女に出会う。


ある日、ギルドの酒場でのことだった。

 エリナが一人で食事をしていると、突然、隣の席に誰かが腰を下ろした。

「へぇ……貴族生まれのくせに、ただの騎士様じゃねぇんだな。」

 その言葉に、エリナは目を向けた。

 目の前にいたのは、猫獣人の少女。
 右目を眼帯で覆い、髪の一部を編み込んでいる。
 獣骨の手甲を装着し、鍛え抜かれた手足が彼女の戦闘能力を物語っていた。

「……あなたは?」

「ミィシャ・フェルカス。」

 少女はニヤリと笑い、肘をついた。

「ちょっと気になってたんだよ、お前のこと。」

「……そうですの?」

 エリナは、興味深げに相手を見た。

 ミィシャは、何の躊躇もなくエリナを見つめていた。
 “貴族”ではなく、“戦士”として。

 その視線が、少しだけ心地よかった。

「貴族の誇りなんて、どうでもいいわ。」

 エリナは、ゆっくりとワイングラスを傾けながら言った。

「私《わたくし》は、冒険者として強くありたいのです。」

 その瞬間、ミィシャの耳がピクリと動いた。

 ——そして、満足そうに笑う。

「……へぇ。こいつぁ、面白ぇ。」

 そう呟いた後、ミィシャはグラスを持ち上げた。

「なら、あたしも乗った。」

 彼女は、エリナの目を真っ直ぐに見つめながら言った。

「お前となら、一緒に戦ってもいい。」


 それが、ミィシャ・フェルカスとの出会いだった。


 ◇◆◇


ミィシャと組んでしばらくして、もう一人の仲間と出会う。

 その名は ライネル・フロスト。

 ノーザリア王国の騎士の名門、フロスト家の出身。

 だが、彼は剣を握ることなく、魔法士として生きる道を選んでいた。

 彼との出会いは、合同クエストの最中だった。

 氷魔法を駆使し、"飛竜《ワイバーン》"の群れを圧倒する青年。

 魔法の精度は高く、無駄のない動きで次々と敵を仕留めていく。

「……貴方の魔法、すごく精密ですわね。」

 エリナは、彼の戦いぶりを見て、自然と声をかけた。

 ライネルは、少し驚いたようにこちらを見た。

「……ありがとう。」

「それに、氷魔法とは面白いですわね。」

 その隣で、ミィシャが腕を組んでニヤリと笑う。

「いいじゃねぇか、氷魔法。あたしの蹴りとの相性も良さそうだ!」

 ライネルは、一瞬戸惑ったような顔をした。

 ——彼は、今まで自分の魔法をこんな風に評価されたことがなかったのだ。

「……僕は、剣を持てない”半端者”だ。」

 ライネルは、静かに呟いた。

 その言葉に、ミィシャはあっさりと言い返す。

「バカ言ってんじゃねぇよ。」

 ライネルが目を見開く。

「お前には、魔法があるじゃねぇか。」

 その言葉は、シンプルだった。
 だが、それ以上の説得力があった。

「……そう、ですわね。」

 エリナも頷く。

「ノーザリアの貴族に剣士が多いだけで、貴方の魔法の才は間違いなく一流ですわ。」

 ライネルはしばらく黙っていた。

 だが、やがて、静かに頷いた。

「……なら、組んでみよう。」

 彼は、少しだけ微笑んだ。


 ◇◆◇


 こうして、“銀嶺の誓い《シルバー・オース》”は正式に結成された。

 それからの快進撃は、まさに圧倒的だった。
 次々と困難なクエストを攻略し、ランクを上げていく。


 だが、エリナは気づいた。


 ——今まで自分を世話してくれていた先輩冒険者たちのランクを超えてしまったことに。


 かつての貴族社会のように、今度はギルドの中で孤立するのではないか。

 また、自分は“目立ちすぎて”誰かに嫉妬されるのではないか。

 そんな恐怖が、一瞬、胸をよぎる。


 しかし——


「お前はお前のままでいいんだよ、エリナ。」

 ギルドの仲間たちは、笑ってそう言ってくれた。

「お前の強さと優しさは、ここの皆の誇りだ。」

 エリナは、その言葉に、目を見開いた。


 ——冒険者とは、なんて自由で、なんて美しい人たちなのだろう。


 初めて心から、そう思った。

 貴族ではなく、冒険者として生きる。
 もう迷うことはない。

 ヴァイスハルトの名を、誇り高く掲げながら——。
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