科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第95話 エリナ・ヴァイスハルト ──白銀の誇り(前編)──

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 剣を振るう音が、静かな屋敷の庭に響く。


 光を反射する銀の刃が、一閃。空を切り裂いた。

「よし……次は、もう少し力を込めてみろ、エリナ」

 穏やかで優しい声。
 目の前には、エリナの父、ロイ・ヴァイスハルト。

 彼は娘の手元を見つめ、微笑んだ。

「うん、父上!」

 エリナは幼いながらも、その動きに無駄はなかった。

 しなやかに剣を握り、素早く足を踏み込み、的確に斬り抜く。

 魔力を宿したその剣筋は、貴族の娘が嗜む程度の武技とは一線を画していた。

 彼女は生まれながらの魔法士であり、剣士だった。

「ふふ、やっぱりエリナはすごいわね」

 優しく見守る母、カトリーナ・ヴァイスハルトがそっと拍手を送る。

「お前は曾祖父殿の血を、色濃く受け継いでいるな」

 クラウスは、誇らしげに娘の頭を撫でた。

 ヴァイスハルト家は、もともと貴族ではなかった。

 エリナの曾祖父、ガルヴァ・ヴァイスハルトが、かつて“ギルド史上最強”と称された白銀級冒険者であり、その功績を認められて貴族へと列せられた一族だった。

 つまり、貴族としての歴史は浅い。
 それでも、ヴァイスハルト家は誇り高い一族だった。

 「実力こそが全て」

 これは、曾祖父が生涯掲げた信念であり、その精神はエリナにも深く刻まれていた。

(私がもっと強くなれば、ヴァイスハルト家はもっと誇れる家になる!)

 その信念のもと、エリナは剣と魔法の修行に励んだ。

 しかし、その才能が、やがて周囲の反感を買うことになる——。


 ◇◆◇


「……あの子はやりすぎだ」

 低く囁かれる声。

「貴族の身でありながら、武術にばかり熱中して……恥ずかしいとは思わないのか?」

「しかも、剣の腕は我らの息子よりも優れているというではないか……!」

「ノーザリアの武闘大会で、王族や上級貴族の嫡男を打ち倒したなど……異例にもほどがある」

「下級貴族の娘が、剣の才で王族の血筋を超えるなど、決して許されることではない」

 エリナが “ノーザリア武闘大会(少年の部)” で優勝した時、王国中が驚愕した。
 彼女は 王国最強の少年魔法剣士 となったのだ。

 だが、それは決して称賛ばかりではなかった。
 むしろ、彼女の存在は 「上級貴族たちにとっての脅威」 となったのだ。


「今のうちに、ヴァイスハルト家を潰しておくべきでは?」


 上級貴族たちは、あらゆる手段を使ってヴァイスハルト家に圧力をかけ始めた。

 無実の罪をでっち上げ、貴族間の信用を失わせる。

 商人たちに圧力をかけ、財産を差し押さえる。
 ヴァイスハルト家は次第に孤立し、衰退していった。


 エリナは、そのことを知らされていなかった。


 両親は 「娘が自分のせいで家が潰れている」と思わぬように、必死で真実を隠し続けていたのだ。

 エリナは 「もっと強くなれば、またヴァイスハルト家の名は高まる」と信じ、さらに修行に励んでいた。

 だが、その努力こそが、さらなる破滅を招くことになる——。


 ◇◆◇


 馬車の車輪が、砂利道を軋ませながら進む。

 夜の森は静かだった。
 だが、その静けさの裏には、不穏な気配が漂っていた。

「エリナ、今日は町に着いたら新しい剣を見に行きましょうね」

 母カトリーナの穏やかな声。

「うん! それなら、もっと強くなれる剣がいいな!」

 エリナは無邪気に笑った。

 その時だった。

——ヒュッ。

 矢が空を裂いた。

「……ッ!?」

 次の瞬間、馬車の御者が倒れる。

 そして——

 「野党だ!!」

 突然、森の暗闇から黒ずくめの男たちが飛び出した。

 武器を振りかざし、馬車を取り囲む。

「お、おい……これはただの盗賊じゃないぞ!?」

 護衛の騎士たちが慌てて剣を抜いた。

 しかし——

「グッ……!」

 剣戟の音が響く間もなく、次々と騎士たちが倒れていった。

 ——違う。

 こいつらはただの野盗ではない。

 明らかに 訓練された動き。
 統率の取れた陣形。

 これは、ただの盗賊ではなく、誰かに雇われた刺客だった。

「父上! 母上!」

 エリナは剣を抜き、馬車から飛び降りる。

 目の前の野党が襲いかかってくる。
 ——だが、速い!

 ズバッ!!

「ぐっ……!」

 肩を切り裂かれ、鮮血が弾ける。

「エリナ!」

 父ロイが駆け寄る。
 しかし、その瞬間——

「……ッ!!」

 母カトリーナの身体に、一閃の刃が突き刺さる。

「か……あ、さま……?」

 母の目から光が失われ、そのまま地面に崩れ落ちる。

 エリナは、凍りついたように立ち尽くす。

 その横で、父もまた刺客に深く斬られ、血を流して倒れた。

「父様っ!!!」

 エリナは駆け寄ろうとするが、野盗の一人が前に立ちはだかる。
 剣を構えたが、傷を負った体ではまともに戦えない。

「くそっ……!」

 絶望的な状況だった。
 母はすでに息絶え、父も重傷。
 自分一人では、到底この場を覆せない——。

 しかし、その時だった。

 ガギィンッ!!

 金属音が響き、エリナを狙っていた野盗の剣が弾かれる。

「大丈夫かっ!?」

「……クソッ!一足遅かったか……ッ!!」

 突如、遺跡の奥から数人の冒険者たちが駆けつけ、野盗たちと交戦を始めた。
 その隙に、エリナはすぐさま父のもとへ駆け寄った。

 父は血まみれになりながらも、まだ意識を保っていた。


「エリナ……無事、か……」


「父様……! しっかりしてください!!」

 必死に父の傷口を押さえる。
 しかし、止まる気配はない。

 父は、かすかに笑った。


「お前は……強い子だな……」


「なにを言っているんですか!? こんな傷で……」

 エリナは必死に否定しようとした。
 しかし、父の目は穏やかだった。


「エリナ……目先のことに……囚われるな……」


 父は、苦しげな息の中、かすれた声で続ける。


「お前は……ヴァイスハルトの誇りだ……」


「……」


「……自由に……生きろ……」


 ——次の瞬間。

 父の体から、力が抜けた。

 エリナはしばらくの間、何も言えなかった。
 涙が、ぽたりと血の上に落ちる。

「…………っ!!」

 その夜、すべてを奪われたエリナは、冒険者達に連れられ、ぼろぼろになりながら街へと戻る。



 しかし、待っていたのは、さらなる真実だった。
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