103 / 151
第105話 科学と魔法の交差点——"妖精蝶《スプリガン・フライ》"の誕生
しおりを挟む
時は少しだけ遡る。
──────────────────
迅とカリムの決闘から数日経ったある日の事。
リディア・アークライトは、薄暗い部屋の一角に腰を下ろしていた。
キャンドルの微かな灯火が揺れ、静寂の中で彼女の長い銀髪が光を受けて淡く輝いている。
目の前には、何枚もの羊皮紙が広げられ、そこには緻密な魔法陣と戦闘時の記録が記されていた。
リディアの細い指が羊皮紙の端をなぞる。その指先には、僅かに焦燥の色が滲んでいた。
「……足りないわ。」
呟きは、暗闇の中に溶けていく。
アーク・ゲオルグとの戦い、迅とカリムの決闘——
彼らの戦闘を見て、自分に欠けているものがはっきりと見えた。
——多属性の同時展開。
——接近戦への対応力。
魔法士としての技量に自信はあった。
しかし、戦場に立ったとき、彼女は己の限界を痛感したのだ。
迅は "雷光細剣《ヴォルト・レイピア》"という物理攻撃と魔法を組み合わせた戦闘スタイルを持ち、
"神経加速《ニューロ・ブースト》"による超速戦闘、
さらには "魔力収束粒子砲《マギア・コンヴァージ》" のような遠距離高威力の魔法攻撃も自在に使いこなす。
カリムは剣士として、純粋な戦闘力で相手を圧倒し、さらに迅の理論を学びながら戦闘を進化させている。
それに対して、リディアの戦術は——
「私の魔法は……単一属性に縛られている。」
どれだけ強力な魔法を使えても、今の自分には戦術の幅がない。
氷魔法なら氷魔法、炎魔法なら炎魔法、それしかできない。
迅のように「雷を剣に纏わせて切る」こともできなければ、
カリムのように「魔法を防ぎながら接近して斬る」こともできない。
「……このままじゃ、二人に追いつけない。」
握りしめた拳が小さく震える。
リディア・アークライトは誇り高い魔法士だ。
今までは「魔法こそが戦場における最強の武器である」と信じてきた。
だが、迅とカリムの戦いを見てしまった以上、
その考えだけでは通用しないことを悟ってしまったのだ。
「……なら、私は私なりに、新しい戦い方を作るしかない。」
リディアは決意する。
「私にしかできない、新しい魔法戦術を……!」
だが、どうすればいい?
今の自分にないものを、どう補えばいい?
リディアは目を閉じた。
思考の奥底へと沈み込むように、過去の戦場を思い返す。
そして、ある戦いの光景が脳裏に蘇った——。
リディアの目の前で、液体の様に波打つ魔力球が宙を漂っていた。
それは、かつてアーク・ゲオルグが操っていた魔導兵器だった。
「……そうよ、これ。」
アーク・ゲオルグの魔力球は 完全に自立した戦闘ユニット だった。
あれがあるだけで、彼は攻撃、迎撃、防御のすべてを同時にこなしていた。
「もし、私にもあの魔力球のような補助兵器があれば……!」
リディアの心臓が高鳴る。
そうすれば——
「多属性魔法の同時展開もできる」
「敵の攻撃を迎撃しながら、遠距離戦でも優位に立てる」
理想の形が、目の前に現れたような気がした。
「……だけど、問題があるわね。」
リディアはすぐに、冷静に現実へと戻った。
そう、自分はアーク・ゲオルグではない。
彼が使っていた 「魔力球」 は、単なる魔法の塊ではなく、
「錬成魔導工学」によって、物質化した魔力を"何らかの力"で自由にコントロールしたもの だ。
リディアには、その技術がない。
自分の知る限り、物体を宙に浮かせる魔法はあるが、それを完全制御する技術は存在しない。
「私は……アークみたいに、物を自由に浮かせられない。」
一つ目の問題に直面する。
「なら、どうやって『空中に補助兵器を浮かべる』の?」
これを解決しなければ、魔力球に似た何かを作ることすら不可能だ。
リディアは唇を噛む。
何かヒントがあるはずだ。
どこかに、解決策が——。
その時、リディアの脳裏には、かつて迅が話していた奇妙な技術の話が蘇っていた。
「——迅、あなたの世界には“自動で動く道具”があるの?」
彼女がそう問いかけたとき、迅は少し考える素振りを見せてから、
「ドローン、って言うんだけどな」と答えた。
「ドローン?」
「簡単に言うと、遠隔操作やプログラムによって自律的に飛行する機械のことだ。
軍事利用されることもあるし、民間では物流や測量なんかにも使われてる。
魔法で飛ばすんじゃなくて、飛行の原理を利用して動くのがポイントだな」
「飛行の原理……?」
リディアの眉がわずかに寄る。
魔法を使わずに飛ぶ? そんなことが本当に可能なのか?
「例えば、鳥や昆虫は“浮遊”しているんじゃなくて、
翼の動きで空気を押し、上昇や滑空をしている。
魔力の影響を受けずに飛べるから、魔法が使えない環境でも有効な訳だ」
リディアは、その説明を聞いたときは「なるほど」と思っただけだった。
だが今、改めて考えると、これこそが 魔力球に代わる方法 なのではないか——そう直感した。
「浮かせるんじゃない、飛ばせればいいのよ……!」
そう確信すると、リディアは勢いよく席を立ち、羊皮紙の上に新たな設計図を描き始める。
「飛行機械が空を飛ぶ理由は、単純な浮遊じゃなくて、翼の動きと風の力を利用している……
つまり、魔法で補助して飛行すれば——」
ペンが走る音が部屋に響く。
「……待って、昆虫の動きを模倣すれば、
アークの魔力球よりも機動力の高い自律型の魔導兵器が作れるんじゃない!?」
リディアの目が輝いた。
空を飛ぶ生物の中で、最も優雅で、美しく、複雑な飛行をするもの——それは 蝶 だった。
「蝶の飛行を再現すれば、風魔法の補助で自由に動かせるはず!」
瞬く間に、新たな構想が形になり始める。
蝶の羽ばたきには、一般的な飛行体とは異なる独特のリズムがある。
普通の鳥のように一直線に飛ぶのではなく、
空間を舞うように飛びながら、風を利用して加速や減速を繰り返す。
「これなら、敵の攻撃を避けながら自在に動ける……!」
リディアは、蝶の構造を分析し、それを魔法で再現するための設計を始めた。
魔力の伝導率が高い ルミナ鉱 を使い、蝶の形をした魔導ドローンの素体を作る。
ただし、金属製である以上、本物の蝶よりはどうしても重量がある。
「……でも、大丈夫。風魔法で補助すれば、
本物の蝶のように舞うことも、突撃することもできる!」
蝶の羽ばたきに風魔法を組み合わせ、滑空や旋回の制御を行う。
さらに、蝶の各部位には 「魔法プログラム」 を刻み込んだ。
これは迅から学んだ「プログラミング」の概念を応用したものだ。
蝶の飛行は完全な自律型ではなく、あらかじめ設定された行動パターンに従い、
戦闘状況に応じて適切な動きを取る。
「魔法で操作するんじゃなくて、あらかじめ行動を決めておけばいい……!」
蝶は、戦闘開始時に指示を与えることで、
「攻撃」「防御」「支援」「撹乱」など、異なる役割を担う。
これなら、リディアが全てを直接操作しなくても、
戦闘状況に応じて蝶が自律的に動く仕組みを作れる。
「……完成するわ、私だけの新戦術が!」
リディアの胸に、確かな手応えが生まれ始めていた。
◇◆◇
リディアは、すでに手の中の設計図が何枚も重なり、膨大なメモが積み上がっていることに気づかなかった。
ペンを持つ手は止まることなく、新たな魔法理論を記し続けていた。
「魔法で直接制御するのではなく、プログラムによる自動制御……!」
迅が話していた『プログラミング』という概念——
「ある特定の指示を入力しておけば、機械がそれに従い動作する」という発想。
それを魔法に応用すれば、自分が全てを制御しなくても、
“妖精蝶《スプリガン・フライ》”が戦況に応じて動くことができる……!
リディアは、魔導回路に“魔法陣”を刻むことで、事前に行動パターンを組み込むことを思いついた。
蝶には4種類の役割を与える。
• 紅蝶:攻撃特化(炎)
——目標を索敵し、収束熱線を放つ。
• 蒼蝶:防御特化(氷)
——魔力障壁を形成し、近接攻撃から守る。
• 翠蝶:支援・補助(風)
——移動補助や味方の回復を担当。
• 紫蝶:幻惑・錯乱(光)
——敵の視界を攪乱し、影響を与える。
「これなら、魔法の発動と同時に蝶が戦場で自律的に動ける……!」
リディアは、各蝶の行動を制御するための魔法陣を刻み込む作業に入った。
蝶の翼の内側に、小さな魔法陣を精密に彫り込む。
そこには、あらかじめ設定された“行動プログラム”が魔法として組み込まれる。
「戦闘開始時に指示を与えれば、それぞれの蝶が役割を果たしながら戦う……!」
蝶たちは完全な自律行動をするわけではなく、
リディアの指示によって瞬時に切り替えることができる。
つまり、“リアルタイム戦略魔法”として機能するのだ。
この戦術が完成すれば——
迅やカリムのような接近戦にも対応できるだけでなく、
複数の魔法を同時展開することすら可能になる。
「……いける……!」
胸が高鳴る。
これは間違いなく、新たな魔法の形。
今まで誰も実現しなかった、魔法戦闘の新境地だった。
だが——
その瞬間、リディアの魔力が急激に減少し、身体が揺らいだ。
(——っ、まずい……!)
魔法プログラムを蝶に組み込む作業は、想像以上に魔力を消費する。
リディアの額に汗がにじむ。
「……やっぱり、問題は“燃費”ね……!」
“妖精蝶《スプリガン・フライ》”は、
4つの蝶を同時に操作することで 複数の魔法を展開できる戦術 だ。
だが、それは同時に 魔力消費が激しい という問題を抱えていた。
「魔法プログラムを稼働させるだけで、こんなに消耗するなんて……!」
リディアは拳を握りしめた。
今まで、自分は“緻密な魔法制御”によって戦ってきた。
効率的な魔力運用には自信があった。
だが——
(迅は、それを遥かに上回る魔力消費の戦術を使いこなしている……!)
迅の魔法理論は、
「魔法を単発で放つのではなく、システムとして組み上げる」 という発想だった。
“ヴォルト・レイピア”や“マギア・コンヴァージ”も、
どれも 単なる魔法ではなく、魔法の発動システムそのもの だった。
そして、彼はそれらを戦闘中に 複数同時に運用する ことができる。
(……私は、まだ足りない……!)
リディアの中に、悔しさと焦りがこみ上げた。
だが、その気持ちを誤魔化すことなく、真正面から受け止める。
この魔力消費の問題を解決しなければ、妖精蝶は完成しない。
(——魔力を増やせばいい。)
その答えに辿り着いたとき、リディアは 迅の奇妙な“魔力訓練法” を思い出した。
「……寝ながら、魔力を鍛える?」
迅は普段、戦闘以外の時間を 無意識に魔力訓練に費やしている。
・寝相の調整による魔力循環の最適化。
・呼吸法を利用した自然な魔力吸収。
・筋肉の微細な収縮を利用した魔力制御。
そこから、リディアの『本気の魔力増幅訓練』が始まった。
◇◆◇
(……まさかとは思ったけど、試してみたら本当に魔力量が増えたのよね……。)
リディアは、起きている時間は勿論、夜寝る間もその訓練を実践し続けた。
その結果——
「……今の私の魔力量は、迅の3倍まで増えてる。」
以前、迅に最大魔力量で追いつかれた屈辱をバネに、彼女は 着実に自分の限界を引き上げていた。
(この圧倒的な魔力量を活かせば……!)
リディアの瞳が、決意に満ちた輝きを帯びる。
「“妖精蝶《スプリガン・フライ》”を完成させられる!」
ついに、彼女だけの 新たな魔法戦術 が完成しようとしていた——。
──────────────────
迅とカリムの決闘から数日経ったある日の事。
リディア・アークライトは、薄暗い部屋の一角に腰を下ろしていた。
キャンドルの微かな灯火が揺れ、静寂の中で彼女の長い銀髪が光を受けて淡く輝いている。
目の前には、何枚もの羊皮紙が広げられ、そこには緻密な魔法陣と戦闘時の記録が記されていた。
リディアの細い指が羊皮紙の端をなぞる。その指先には、僅かに焦燥の色が滲んでいた。
「……足りないわ。」
呟きは、暗闇の中に溶けていく。
アーク・ゲオルグとの戦い、迅とカリムの決闘——
彼らの戦闘を見て、自分に欠けているものがはっきりと見えた。
——多属性の同時展開。
——接近戦への対応力。
魔法士としての技量に自信はあった。
しかし、戦場に立ったとき、彼女は己の限界を痛感したのだ。
迅は "雷光細剣《ヴォルト・レイピア》"という物理攻撃と魔法を組み合わせた戦闘スタイルを持ち、
"神経加速《ニューロ・ブースト》"による超速戦闘、
さらには "魔力収束粒子砲《マギア・コンヴァージ》" のような遠距離高威力の魔法攻撃も自在に使いこなす。
カリムは剣士として、純粋な戦闘力で相手を圧倒し、さらに迅の理論を学びながら戦闘を進化させている。
それに対して、リディアの戦術は——
「私の魔法は……単一属性に縛られている。」
どれだけ強力な魔法を使えても、今の自分には戦術の幅がない。
氷魔法なら氷魔法、炎魔法なら炎魔法、それしかできない。
迅のように「雷を剣に纏わせて切る」こともできなければ、
カリムのように「魔法を防ぎながら接近して斬る」こともできない。
「……このままじゃ、二人に追いつけない。」
握りしめた拳が小さく震える。
リディア・アークライトは誇り高い魔法士だ。
今までは「魔法こそが戦場における最強の武器である」と信じてきた。
だが、迅とカリムの戦いを見てしまった以上、
その考えだけでは通用しないことを悟ってしまったのだ。
「……なら、私は私なりに、新しい戦い方を作るしかない。」
リディアは決意する。
「私にしかできない、新しい魔法戦術を……!」
だが、どうすればいい?
今の自分にないものを、どう補えばいい?
リディアは目を閉じた。
思考の奥底へと沈み込むように、過去の戦場を思い返す。
そして、ある戦いの光景が脳裏に蘇った——。
リディアの目の前で、液体の様に波打つ魔力球が宙を漂っていた。
それは、かつてアーク・ゲオルグが操っていた魔導兵器だった。
「……そうよ、これ。」
アーク・ゲオルグの魔力球は 完全に自立した戦闘ユニット だった。
あれがあるだけで、彼は攻撃、迎撃、防御のすべてを同時にこなしていた。
「もし、私にもあの魔力球のような補助兵器があれば……!」
リディアの心臓が高鳴る。
そうすれば——
「多属性魔法の同時展開もできる」
「敵の攻撃を迎撃しながら、遠距離戦でも優位に立てる」
理想の形が、目の前に現れたような気がした。
「……だけど、問題があるわね。」
リディアはすぐに、冷静に現実へと戻った。
そう、自分はアーク・ゲオルグではない。
彼が使っていた 「魔力球」 は、単なる魔法の塊ではなく、
「錬成魔導工学」によって、物質化した魔力を"何らかの力"で自由にコントロールしたもの だ。
リディアには、その技術がない。
自分の知る限り、物体を宙に浮かせる魔法はあるが、それを完全制御する技術は存在しない。
「私は……アークみたいに、物を自由に浮かせられない。」
一つ目の問題に直面する。
「なら、どうやって『空中に補助兵器を浮かべる』の?」
これを解決しなければ、魔力球に似た何かを作ることすら不可能だ。
リディアは唇を噛む。
何かヒントがあるはずだ。
どこかに、解決策が——。
その時、リディアの脳裏には、かつて迅が話していた奇妙な技術の話が蘇っていた。
「——迅、あなたの世界には“自動で動く道具”があるの?」
彼女がそう問いかけたとき、迅は少し考える素振りを見せてから、
「ドローン、って言うんだけどな」と答えた。
「ドローン?」
「簡単に言うと、遠隔操作やプログラムによって自律的に飛行する機械のことだ。
軍事利用されることもあるし、民間では物流や測量なんかにも使われてる。
魔法で飛ばすんじゃなくて、飛行の原理を利用して動くのがポイントだな」
「飛行の原理……?」
リディアの眉がわずかに寄る。
魔法を使わずに飛ぶ? そんなことが本当に可能なのか?
「例えば、鳥や昆虫は“浮遊”しているんじゃなくて、
翼の動きで空気を押し、上昇や滑空をしている。
魔力の影響を受けずに飛べるから、魔法が使えない環境でも有効な訳だ」
リディアは、その説明を聞いたときは「なるほど」と思っただけだった。
だが今、改めて考えると、これこそが 魔力球に代わる方法 なのではないか——そう直感した。
「浮かせるんじゃない、飛ばせればいいのよ……!」
そう確信すると、リディアは勢いよく席を立ち、羊皮紙の上に新たな設計図を描き始める。
「飛行機械が空を飛ぶ理由は、単純な浮遊じゃなくて、翼の動きと風の力を利用している……
つまり、魔法で補助して飛行すれば——」
ペンが走る音が部屋に響く。
「……待って、昆虫の動きを模倣すれば、
アークの魔力球よりも機動力の高い自律型の魔導兵器が作れるんじゃない!?」
リディアの目が輝いた。
空を飛ぶ生物の中で、最も優雅で、美しく、複雑な飛行をするもの——それは 蝶 だった。
「蝶の飛行を再現すれば、風魔法の補助で自由に動かせるはず!」
瞬く間に、新たな構想が形になり始める。
蝶の羽ばたきには、一般的な飛行体とは異なる独特のリズムがある。
普通の鳥のように一直線に飛ぶのではなく、
空間を舞うように飛びながら、風を利用して加速や減速を繰り返す。
「これなら、敵の攻撃を避けながら自在に動ける……!」
リディアは、蝶の構造を分析し、それを魔法で再現するための設計を始めた。
魔力の伝導率が高い ルミナ鉱 を使い、蝶の形をした魔導ドローンの素体を作る。
ただし、金属製である以上、本物の蝶よりはどうしても重量がある。
「……でも、大丈夫。風魔法で補助すれば、
本物の蝶のように舞うことも、突撃することもできる!」
蝶の羽ばたきに風魔法を組み合わせ、滑空や旋回の制御を行う。
さらに、蝶の各部位には 「魔法プログラム」 を刻み込んだ。
これは迅から学んだ「プログラミング」の概念を応用したものだ。
蝶の飛行は完全な自律型ではなく、あらかじめ設定された行動パターンに従い、
戦闘状況に応じて適切な動きを取る。
「魔法で操作するんじゃなくて、あらかじめ行動を決めておけばいい……!」
蝶は、戦闘開始時に指示を与えることで、
「攻撃」「防御」「支援」「撹乱」など、異なる役割を担う。
これなら、リディアが全てを直接操作しなくても、
戦闘状況に応じて蝶が自律的に動く仕組みを作れる。
「……完成するわ、私だけの新戦術が!」
リディアの胸に、確かな手応えが生まれ始めていた。
◇◆◇
リディアは、すでに手の中の設計図が何枚も重なり、膨大なメモが積み上がっていることに気づかなかった。
ペンを持つ手は止まることなく、新たな魔法理論を記し続けていた。
「魔法で直接制御するのではなく、プログラムによる自動制御……!」
迅が話していた『プログラミング』という概念——
「ある特定の指示を入力しておけば、機械がそれに従い動作する」という発想。
それを魔法に応用すれば、自分が全てを制御しなくても、
“妖精蝶《スプリガン・フライ》”が戦況に応じて動くことができる……!
リディアは、魔導回路に“魔法陣”を刻むことで、事前に行動パターンを組み込むことを思いついた。
蝶には4種類の役割を与える。
• 紅蝶:攻撃特化(炎)
——目標を索敵し、収束熱線を放つ。
• 蒼蝶:防御特化(氷)
——魔力障壁を形成し、近接攻撃から守る。
• 翠蝶:支援・補助(風)
——移動補助や味方の回復を担当。
• 紫蝶:幻惑・錯乱(光)
——敵の視界を攪乱し、影響を与える。
「これなら、魔法の発動と同時に蝶が戦場で自律的に動ける……!」
リディアは、各蝶の行動を制御するための魔法陣を刻み込む作業に入った。
蝶の翼の内側に、小さな魔法陣を精密に彫り込む。
そこには、あらかじめ設定された“行動プログラム”が魔法として組み込まれる。
「戦闘開始時に指示を与えれば、それぞれの蝶が役割を果たしながら戦う……!」
蝶たちは完全な自律行動をするわけではなく、
リディアの指示によって瞬時に切り替えることができる。
つまり、“リアルタイム戦略魔法”として機能するのだ。
この戦術が完成すれば——
迅やカリムのような接近戦にも対応できるだけでなく、
複数の魔法を同時展開することすら可能になる。
「……いける……!」
胸が高鳴る。
これは間違いなく、新たな魔法の形。
今まで誰も実現しなかった、魔法戦闘の新境地だった。
だが——
その瞬間、リディアの魔力が急激に減少し、身体が揺らいだ。
(——っ、まずい……!)
魔法プログラムを蝶に組み込む作業は、想像以上に魔力を消費する。
リディアの額に汗がにじむ。
「……やっぱり、問題は“燃費”ね……!」
“妖精蝶《スプリガン・フライ》”は、
4つの蝶を同時に操作することで 複数の魔法を展開できる戦術 だ。
だが、それは同時に 魔力消費が激しい という問題を抱えていた。
「魔法プログラムを稼働させるだけで、こんなに消耗するなんて……!」
リディアは拳を握りしめた。
今まで、自分は“緻密な魔法制御”によって戦ってきた。
効率的な魔力運用には自信があった。
だが——
(迅は、それを遥かに上回る魔力消費の戦術を使いこなしている……!)
迅の魔法理論は、
「魔法を単発で放つのではなく、システムとして組み上げる」 という発想だった。
“ヴォルト・レイピア”や“マギア・コンヴァージ”も、
どれも 単なる魔法ではなく、魔法の発動システムそのもの だった。
そして、彼はそれらを戦闘中に 複数同時に運用する ことができる。
(……私は、まだ足りない……!)
リディアの中に、悔しさと焦りがこみ上げた。
だが、その気持ちを誤魔化すことなく、真正面から受け止める。
この魔力消費の問題を解決しなければ、妖精蝶は完成しない。
(——魔力を増やせばいい。)
その答えに辿り着いたとき、リディアは 迅の奇妙な“魔力訓練法” を思い出した。
「……寝ながら、魔力を鍛える?」
迅は普段、戦闘以外の時間を 無意識に魔力訓練に費やしている。
・寝相の調整による魔力循環の最適化。
・呼吸法を利用した自然な魔力吸収。
・筋肉の微細な収縮を利用した魔力制御。
そこから、リディアの『本気の魔力増幅訓練』が始まった。
◇◆◇
(……まさかとは思ったけど、試してみたら本当に魔力量が増えたのよね……。)
リディアは、起きている時間は勿論、夜寝る間もその訓練を実践し続けた。
その結果——
「……今の私の魔力量は、迅の3倍まで増えてる。」
以前、迅に最大魔力量で追いつかれた屈辱をバネに、彼女は 着実に自分の限界を引き上げていた。
(この圧倒的な魔力量を活かせば……!)
リディアの瞳が、決意に満ちた輝きを帯びる。
「“妖精蝶《スプリガン・フライ》”を完成させられる!」
ついに、彼女だけの 新たな魔法戦術 が完成しようとしていた——。
20
あなたにおすすめの小説
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ゲームの世界(異世界)へ、モブ(子供キャラ)として転移してしまった
厘
ファンタジー
ゲーム好きの田中 蓮(たなか れん)が、寝て起きたらゲームの世界(異世界)にいた。
どんな冒険が待っているか楽しみにしてたら、何も起こらない。チート能力をくれるはずの女神様も来ない。ちょっと若く(子供キャラ)なったくらい?
お金がなければご飯も食べられない。まずはその辺の木の枝を拾ってお金にしよう。無理か?
「はい。50Gね」
お金になった・・・・。
「RPGゲームと一緒だ。よし!おいしいご飯を食べるためにお金を貯めるぞ!」
「え?俺、モブ(子供キャラ)なの?」
ゲームの世界(異世界)へ、モブ(子供キャラクター)に転移したレンだが、いつの間にか面倒なことに巻き込まれていく物語。
■注意■
作中に薬や薬草、配合など単語が出てきますが、現代をヒントにわかりやすく書いています。現実世界とは異なります。
現実世界よりも発達していなくて、でも近いものがある…という感じです。ご理解ご了承いただけますと幸いです。
知らない植物を口にしたり触ったりするのは危険です。十分気をつけるようにしてください。
この作品はフィクションです。
☆なろうさんでも掲載しています
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる