科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第106話 リディア vs. 漆黒のティネブラ② ── 影を断つ虹の輝き──

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「——舞いなさい。」


リディアが、静かに指を掲げる。

次の瞬間——
彼女の杖の周囲に、4羽の蝶が舞った。

紅・青・翠・紫——。

それは、まるで夜の闇を切り裂くかのように、幻想的な光を放ちながら宙を舞う。

ティネブラの瞳が、驚愕に見開かれる。

「な……んだと……!?」

「これが私の新戦術。」

リディアの瞳が、強く光る。



「"妖精蝶《スプリガン・フライ》"。」



その言葉とともに、蝶たちが 一斉に飛び立った。


——圧倒的な魔力の波動が、遺跡を震わせる。


ティネブラの手が、微かに震えた。

(……この魔力量……まるで……)

(“黒の賢者”に、迫る……!?)

リディアの髪が、魔力の奔流に揺れ、
蝶たちは彼女の周囲を旋回しながら、光の軌跡を描く。

「……あぁ。」

ライネルが、思わず喉を鳴らした。

(これは……何だ……!?)

今まで、自分が見てきた魔法とは 何かが違う。

魔法とは 詠唱し、発動するもの だった。

だが、目の前の光景は まるで“魔法”が自律的に動いているようにすら見える。

ライネルは、動揺する自分に気づいた。


(これは……)

(こんな状況でも、僕は……!)

(こんな魔法が……こんな戦い方があるのかと……!)

(……ワクワクしてしまっている……!?)


彼は、知らぬ間に拳を強く握りしめていた。


「……さて。」


リディアが、一歩前へ進み出る。

「そろそろ……決着をつけましょうか?」

彼女の指が、蝶たちを導く。

その瞳には、恐怖の色はない。

あるのは——
ただ 冷静な観察者としての眼光と、圧倒的な自信。

ティネブラの口元が、わずかに歪む。

「……フフ……フフフ……。」

「面白い……!」

「ならば、その蝶ごと、影に沈めてやろう!!」

ティネブラが、再び 黒影核《シャドウ・セル》 の力を解放する——。



 ◇◆◇



ティネブラの闇が再び蠢き始めた。

黒影核《シャドウ・セル》の魔力が解放され、リディアの影が異様に広がっていく。

影は地を這うように伸び、その中から異形の触手が何本も生まれた。

「フフ……貴様の魔法が……どれほど……優れようと……」

「影より生まれし……闇の触手には……抗えぬ……!」

触手がうねりながら宙を泳ぎ、リディアの周囲を包囲するように迫る。

それはただの幻ではない——実体を持ち、魔力の刃を内包した、確かな”攻撃”だった。

「逃げられぬ……影はどこまでも追い続ける……!」

触手がリディアへと一斉に襲いかかる。


——その瞬間。


「舞いなさい、蒼蝶《そうちょう》。」


リディアが静かに指を動かすと、青き蝶が空へと舞い上がった。

そして——その軌跡を描くように、瞬時に氷壁が形成される。


「っ……なに……!?」


ティネブラの影の触手が氷壁にぶつかり、砕けることなく絡みつく。
だが、それこそがリディアの狙いだった。


「今よ、紅蝶《こうちょう》。」


リディアの指示を受け、紅き蝶が炎の魔力を集束し、氷壁の裏側へと潜り込む。

——瞬間、閃光が奔った。

"魔力収束粒子砲《マギア・コンヴァージ》"——発射。

高熱の熱線が一直線に放たれ、氷壁の向こうに潜む影の触手を一瞬で焼き尽くす。

影は音を立てて蒸発し、黒い煙となって消え去った。

「……チッ……!」

ティネブラが苛立った舌打ちをする。

その間に、翠蝶《すいちょう》がライネルの傍に舞い降り、静かに緑色の魔力を降り注ぐ。

ライネルの傷が、ゆっくりと癒されていく。


「な……なんだ……この魔法は……?」


息を整えながら、ライネルは目を見開いた。
魔法士としての直感が告げていた。


——これは、魔法の進化の形だ。


リディア・アークライトという少女は、今まさに魔法の新たな可能性を切り拓こうとしている。


しかし、ティネブラはまだ終わるつもりはなかった。

その瞳の奥に、さらに狂気の炎を宿していた。

「……ならば……」

影の魔力が、再び膨れ上がる。


「貴様ごと……この闇の牢獄に閉じ込めてやる……!」


ティネブラは “黒影核《シャドウ・セル》“の出力を最大にする。

影が膨れ上がり、より巨大な触手がいくつも生まれ出る。

それは、まるで逃げ場をすべて塞ぐかのように伸び、リディアとライネルを覆い尽くそうとしていた。

ライネルは思わず息を呑む。

「こんなもの……どうしろと言うんだ……!」

だが、その時——


一羽の蝶が舞い上がった。


紫蝶《しちょう》——幻惑の蝶が。


それは、夜の帳に舞う幻影のように光を放ち、ふわりと宙を旋回した。
まるで、新たな”光源”が生まれたかのように。

そして、その瞬間。

黒い触手が、明後日あさっての方向へ振り下ろされた。

「……!?」

ティネブラが、驚愕に目を見開いた。

「……なぜ……影が……?」


影の触手は、まるで操り主を失ったかのように、的外れな場所へと動き続けていた。

ティネブラは焦燥の色を滲ませる。

「なぜだ……!?貴様……何をした……!?」

リディアは、静かに杖を掲げ、ゆっくりと答えた。

「貴方の”黒影核《シャドウ・セル》“の仕組みは、もう分かっているわ。」

その言葉に、ティネブラの肩が震えた。

「……な、何……?」

リディアの瞳が、鋭くティネブラを射抜く。

「“魔力ある物が作る影”から、物質化した魔力を刃として生み出し、それに"相手の記憶が生み出す幻覚"を幻覚魔法で重ねて”実体のある幻影”として見せているだけ。」

「でもね、影の位置そのものを操作できるわけじゃないでしょう?」

ティネブラの顔が、引き攣《つ》る。

「それは……」

「だから、暗い遺跡の壁の影からは攻撃が生まれない。光源の位置を気にして、ずっと立ち位置を変えていた。影を作る”光”の位置を気にしていたのよね。」

リディアは、杖を軽く振る。

その周囲を、紫蝶《しちょう》が舞っていた。

「つまり、“影”を作る光源の位置を私がコントロールすれば、貴方の攻撃は一切通じないのよ。」


ティネブラの影が、歪む。

紫蝶の光源によって、影の角度が変わるたび、ティネブラの生み出す触手の位置も狂い続ける。

「な……何……!?」

ティネブラは動揺した。

“黒影核《シャドウ・セル》“は、あくまで影に宿った魔力を物質化する能力。

影そのものを自在に操れるわけではない。

「光源が変われば、影の位置も変わる。影の位置が変われば、貴方の攻撃の軌道も変わる。」

リディアは、ゆっくりと前へ進みながら告げる。


「もう、貴方の攻撃は、私には決して届かない。」


その言葉が、圧倒的な絶望をもってティネブラを打ちのめした。

「ぐ……ふ、ふふ……!」

ティネブラの口元が歪んだ。

「フフフフフフフ……!」

狂気じみた笑い声が響く。

「おもしろい……!ならば……ならば……」

ティネブラの魔力が、さらに膨れ上がる。

「ならば、貴様の心の闇に潜む…!!最も恐れるものを…!!見せてやろう……!」

リディアの目の前で、ティネブラの影が再び蠢き始めた。

ティネブラの狂気に満ちた声が響く。

「恐怖からは、決して逃れられない……!」

リディアは、ただ静かに、紫紺の瞳を細めた。

目の前には、漆黒の影がうごめいている。

ティネブラの影から生み出されたそれは、まるで生きているかのように揺らめきながら、徐々にその形を整えていく。



「……お久しぶりですね、リディア・アークライト。」



静かに囁かれたその声。
影から生まれた幻影は、完璧に”彼”の姿をしていた。



“黒の賢者”、アーク・ゲオルグ。



かつて勇者・九条迅《くじょうじん》が戦い、そして勝利した男。

戦いの途中、リディアへ、向けられた黒槍。

迅が助けてくれなければ、自分は死んでいた。

あの戦い——リディアが死の淵まで追い詰められた、あの時の記憶が脳裏をよぎる。

だが、今のリディアは、違う。


ティネブラが、狂気じみた笑みを浮かべながら囁く。


「貴様は……“黒の賢者”に敗れた過去がある……!
ならば、その記憶こそが……貴様にとって最大の恐怖……!」

ティネブラの影から無数の魔力の刃が立ち上がり、黒槍へと変わる。

そして、それらはまるで意志を持ったかのように宙を浮かび、リディアに向かって突きつけられた。

「……!」

ライネルが思わず息を呑む。
だが——リディアは、驚くでもなく、怯えるでもなく、ただ静かにそれを見つめていた。


「……ティネブラ。」


静かに呼びかける。


「……恐怖は、逃げるものじゃない。」


ティネブラの笑みが、一瞬止まる。


「恐怖は——乗り越えるものよ。」


リディアは杖をゆっくりと構えた。


紫蝶《しちょう》が、光を放ちながら再び舞い上がる。

それを合図にするように、リディアの周囲を舞っていた蒼蝶《そうちょう》、紅蝶《こうちょう》、翠蝶《すいちょう》が、それぞれの役割を終えてリディアの元へと集結した。

四羽の蝶が、リディアの杖の周りを回りながら、軌跡を描くように舞う。

——そして、その軌跡の中に、“魔法陣”が浮かび上がった。

ライネルの目が大きく見開かれる。


(これは……!?)


ティネブラも、異様な魔力の高まりを感じたのか、歯を食いしばる。


「な、なんだ……この魔力の奔流は……!」


リディアの杖に、四匹の蝶がまとわりつくように旋回し、その光がより強く輝き始める。

紅、青、緑、紫——それぞれの蝶が持つ属性魔力が杖へと集束していく。

——そして、次の瞬間。

リディアは、静かにその魔法の名を口にした。




「“魔力収束粒子砲・虹マギア・コンヴァージ・ラルク”」




——世界が、虹色に染まった。

リディアの杖から放たれた光の奔流が、すべてを包み込むように広がっていく。

炎、水、土、雷、光、風、氷——すべての属性魔法が凝縮され、“虹”の輝きを生み出していた。

炎と風が燃焼を促し、雷が電離作用を生む。

水と氷が温度差を利用し質量を増幅。

光がエネルギーを凝縮し、土が重イオンにより破壊力を増強する。

単一属性を遥かに超えた、

魔法×科学の”虹の閃光”。

圧倒的な魔力の波動が、空間を震わせる。


「影が……消える……!?」


ティネブラが叫ぶ。

影とは、本来光の反対に生まれるもの。

だが今、その光の色が”すべてを包含する”虹となったことで、影の存在を完全に飲み込んでしまう。


「く……あぁぁぁぁああ!!!」


虹色の魔力の奔流に呑まれ、ティネブラの影が消滅していく。

そして、アーク・ゲオルグの幻影もまた、その光に包まれ——


「…………」


幻影のアーク・ゲオルグが、最後に静かに目を伏せる。

その姿は、まるで——本物の彼がリディアの成長を認めたかのように。

——そして、影はすべて、消滅した。

ティネブラの身体が、力なく崩れ落ちる。



「……バカな……“黒の賢者”の影が……“恐怖”が……この光の中に……」


「——消えていく……」



その最後の囁きとともに、ティネブラは完全に消滅した。


リディアは、ゆっくりと杖を下ろし、蝶たちを背中へと戻す。


そして、静かに呟いた。


「次は、本物にリベンジさせてもらうわ……アーク・ゲオルグ。」


虹の輝きの中、リディアは勝利を手にしていた——。
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