どうやら私はバッドエンドに辿りつくようです。

夏目

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閑話 無辜の人々

月曜日は悪党が集まる。

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「豚小屋はすごく燃えるな。使用人達は燃やすなよ」
「あのですね、旦那様。俺達ランファにもできることと出来ないことがありまして」
「使用人達は証人だ。まあ、数人なら問題ないかもしれないけれど」
「あの? 人の話聞いてます?」

 鏡に映るのは轟々と燃える屋敷だ。屋敷の扉からは次々と人が飛び出してくる。一人、二人。火だるまになりながら飛び出してくる人影さえあった。
 フィリップは無表情のままその光景を眺めていた。

「それにしても、蛮族の男女六人でここまでしてくれるの。放火って重罪なんだよ、知ってる? 流石に商売が下手ではないの」
「まさかまさか。旦那様が下さった蛮族、かなり人気なんですよ? 男も女も大きいのがいい! 俺の国は今、皇帝の威光を世に示すために巨大な建造物を建築していましてね。働き手は喉から手が出るほど欲しいんですよ」
「建造物ねえ。国は違えど、考えることはどこも同じだね。大きな建物に大きな像。果ては自分の名を冠した墓。後世に残して何が残るんだか。……というか、おまえも悪どいよねえ。新しく飼っている白い……ほら」
「ラーのことですか? あれはよき拾い物でしたね」

 くすりと影のある笑い声が鏡の向こうから伝わってくる。
 屋敷に火をつけたものはこの声の主ではない。その部下だ。
 この男の店は金を積まれればなんでもやる。殺人に放火、窃盗。清々しいほどの悪党だ。
 今も轟々と燃える館を高みの見物しているのだろう。
 フィリップは頬に手を置きながら、この景色を共有している男に口を開く。

「あれ、おまえたちが輸入して来て売ったんでしょう? 意地汚いなあ。残飯を貪るなよ」
「でも、そこにあったんですから、拾わないともったいないじゃないですか」
「トーマ達に返してやればいいのに。どうしてそうしないの? 面倒でしょう、一応お尋ね者なんだからさ」
「いやあ、俺はどうにも軍人が嫌いでして。目一杯喧嘩を売ってやろう的な?」
「リストのこと嫌いなの? まあ、おれもだけど。あれ、捨てるときは教えてよ、おれも一度化け物を扱ってみたい」
「ラーはこちらで仕込みが終わったら九竜城行きが決まってるんですから、無理ですよ。あと名指しはしていません。誤解しないで下さいよ」

 鏡の中では使用人達が必死に消火活動を行なっている。そんなことをしても無駄なのにと思いながら、鏡の縁に彫られた薔薇の意匠を触る。

「九竜城――サンブーグヮンだっけ? おまえ達の国のゾイデック。悪徳栄える悪魔の城。無法という意味だったか」
「よくご存知で! とはいえ、ゾイデックほど恵まれてはいませんよ。あそこは泣く子も黙るサンブーグヮン。泥棒は見つけ次第手足を斬るで有名な無法地帯ですよ?」
「悪法も法だよ。治安を守るために苛烈な法が作られるのはよくあることだろう?」

 九竜城はある意味でとても規律正しいときく。曰く、力を持つものこそが全て正しい。無法だからこそ、拳一本で成り上がれる。

「でも、そんなところに送るの?」
「こっちじゃあ少しばかり有名人過ぎますからね」
「そ、ならいいや」

 そこまで執着があるわけではない。珍しいものがあるならば見ておこう。触っておこう。その程度だ。

「今度の人身売買の集会はどこで開かれるの?」
「お、物入りですか? 代理で何人か落としましょうか?」
「今回の目玉次第かな。おまえのところからも出すんだろう?」
「そりゃあ、もう! 本国の盲妹やある島国の神秘の美少年、小姓。そして、半獣の女と粒揃いですよ」
「食指が動かないんだけど。レオン兄上を誘拐して売りに出して。国を買えるだけのお金をあげる」

 売りに出されるレオンはきっと怯えているだろう。あるいは気丈に振る舞って、恐怖を押し殺すか。どちらにしろ、レオンというだけでフィリップの大好物だ。売りに出されたら即決する。他の人間にやるものか。

「社会的に地位がある人間を競りに出すのはちょっと。商人達のトラウマを刺激しないで下さいよ」

 幼い頃のリストのことを仄めかされると喉の奥で笑みがこぼれた。声の相手も、同じことを思ったのか、声が苦々しい。

「さあて、ご確認も済んだでしょう? お約束の相手は殺しましたし、そろそろ俺も寝る時間です」
「はいはい。じゃあ、後処理はよろしく」
「ではでは、ますますのご贔屓、よろしくお願いします」

 鏡が元どおりになり、フィリップの顔を映す。
 燃える屋敷をこの目で見たかったが、あいにくと、今はサラザーヌ領から出て行くわけにはいかなかった。
 まだ、その時ではないのだ。

「フィリップ様、国王陛下より密書が」

 ーーああ、やっとか。
 フィリップは手紙を受け取り、中身を確認して微笑んだ。
 既にサガルとは対話を重ねてきた。なにもかも、きっとうまくいくだろう。

「王都に行くことになった。至急、早馬を用意して」

 さて、サガルを助けに行こうか。そう言って重い腰を持ち上げた。
 だがフィリップの企みは崩れ去る。カルディアの選択によって。
 それを知るまで、あとーー。


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