125 / 320
閑話 無辜の人々
月曜日は悪党が集まる。
しおりを挟む「豚小屋はすごく燃えるな。使用人達は燃やすなよ」
「あのですね、旦那様。俺達ランファにもできることと出来ないことがありまして」
「使用人達は証人だ。まあ、数人なら問題ないかもしれないけれど」
「あの? 人の話聞いてます?」
鏡に映るのは轟々と燃える屋敷だ。屋敷の扉からは次々と人が飛び出してくる。一人、二人。火だるまになりながら飛び出してくる人影さえあった。
フィリップは無表情のままその光景を眺めていた。
「それにしても、蛮族の男女六人でここまでしてくれるの。放火って重罪なんだよ、知ってる? 流石に商売が下手ではないの」
「まさかまさか。旦那様が下さった蛮族、かなり人気なんですよ? 男も女も大きいのがいい! 俺の国は今、皇帝の威光を世に示すために巨大な建造物を建築していましてね。働き手は喉から手が出るほど欲しいんですよ」
「建造物ねえ。国は違えど、考えることはどこも同じだね。大きな建物に大きな像。果ては自分の名を冠した墓。後世に残して何が残るんだか。……というか、おまえも悪どいよねえ。新しく飼っている白い……ほら」
「ラーのことですか? あれはよき拾い物でしたね」
くすりと影のある笑い声が鏡の向こうから伝わってくる。
屋敷に火をつけたものはこの声の主ではない。その部下だ。
この男の店は金を積まれればなんでもやる。殺人に放火、窃盗。清々しいほどの悪党だ。
今も轟々と燃える館を高みの見物しているのだろう。
フィリップは頬に手を置きながら、この景色を共有している男に口を開く。
「あれ、おまえたちが輸入して来て売ったんでしょう? 意地汚いなあ。残飯を貪るなよ」
「でも、そこにあったんですから、拾わないともったいないじゃないですか」
「トーマ達に返してやればいいのに。どうしてそうしないの? 面倒でしょう、一応お尋ね者なんだからさ」
「いやあ、俺はどうにも軍人が嫌いでして。目一杯喧嘩を売ってやろう的な?」
「リストのこと嫌いなの? まあ、おれもだけど。あれ、捨てるときは教えてよ、おれも一度化け物を扱ってみたい」
「ラーはこちらで仕込みが終わったら九竜城行きが決まってるんですから、無理ですよ。あと名指しはしていません。誤解しないで下さいよ」
鏡の中では使用人達が必死に消火活動を行なっている。そんなことをしても無駄なのにと思いながら、鏡の縁に彫られた薔薇の意匠を触る。
「九竜城――サンブーグヮンだっけ? おまえ達の国のゾイデック。悪徳栄える悪魔の城。無法という意味だったか」
「よくご存知で! とはいえ、ゾイデックほど恵まれてはいませんよ。あそこは泣く子も黙るサンブーグヮン。泥棒は見つけ次第手足を斬るで有名な無法地帯ですよ?」
「悪法も法だよ。治安を守るために苛烈な法が作られるのはよくあることだろう?」
九竜城はある意味でとても規律正しいときく。曰く、力を持つものこそが全て正しい。無法だからこそ、拳一本で成り上がれる。
「でも、そんなところに送るの?」
「こっちじゃあ少しばかり有名人過ぎますからね」
「そ、ならいいや」
そこまで執着があるわけではない。珍しいものがあるならば見ておこう。触っておこう。その程度だ。
「今度の人身売買の集会はどこで開かれるの?」
「お、物入りですか? 代理で何人か落としましょうか?」
「今回の目玉次第かな。おまえのところからも出すんだろう?」
「そりゃあ、もう! 本国の盲妹やある島国の神秘の美少年、小姓。そして、半獣の女と粒揃いですよ」
「食指が動かないんだけど。レオン兄上を誘拐して売りに出して。国を買えるだけのお金をあげる」
売りに出されるレオンはきっと怯えているだろう。あるいは気丈に振る舞って、恐怖を押し殺すか。どちらにしろ、レオンというだけでフィリップの大好物だ。売りに出されたら即決する。他の人間にやるものか。
「社会的に地位がある人間を競りに出すのはちょっと。商人達のトラウマを刺激しないで下さいよ」
幼い頃のリストのことを仄めかされると喉の奥で笑みがこぼれた。声の相手も、同じことを思ったのか、声が苦々しい。
「さあて、ご確認も済んだでしょう? お約束の相手は殺しましたし、そろそろ俺も寝る時間です」
「はいはい。じゃあ、後処理はよろしく」
「ではでは、ますますのご贔屓、よろしくお願いします」
鏡が元どおりになり、フィリップの顔を映す。
燃える屋敷をこの目で見たかったが、あいにくと、今はサラザーヌ領から出て行くわけにはいかなかった。
まだ、その時ではないのだ。
「フィリップ様、国王陛下より密書が」
ーーああ、やっとか。
フィリップは手紙を受け取り、中身を確認して微笑んだ。
既にサガルとは対話を重ねてきた。なにもかも、きっとうまくいくだろう。
「王都に行くことになった。至急、早馬を用意して」
さて、サガルを助けに行こうか。そう言って重い腰を持ち上げた。
だがフィリップの企みは崩れ去る。カルディアの選択によって。
それを知るまで、あとーー。
0
あなたにおすすめの小説
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる