追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

文字の大きさ
13 / 21

第13話 美剣士エレナの忠誠

しおりを挟む
 夜明けの光が王都を包むころ、まだ煙の残る空の下で、民は祈りを続けていた。  
 創造主レン――その名が神殿から響き渡って以降、混乱よりも静寂が街を支配していた。  
 人々は恐れることをやめ、新しい秩序の始まりを直感していたのだ。  

 神殿跡地から少し離れた丘の上に、俺は立っていた。  
 全身を覆う光の残滓がまだ抜けず、思考の芯が霞んでいる。  
 世界と繋がりすぎた状態から戻るのは容易ではなかった。  
 ただ立つだけで、地脈や風の流れが胸の奥に流れ込む。まるで、自分がこの世界の延長そのものになったようだ。  

 「レン様、休まなければ。」  
 ディアナが心配そうに近づく。  
 だが俺は首を振った。  
 「まだ終わっていない。理を組み直すには、“柱”が要る。俺が見守っている間に、何かが外で動きそうな気がする。」  

 まるで、その言葉に呼応するように、丘の下の道に騒ぎが起きた。  
 馬の蹄が乾いた地を打ち、鎧を鳴らす音が近づいてくる。  
 十数騎の兵が灰色のマントをなびかせ、中央の女が馬上からこちらを見上げていた。  

 「……あれは。」  
 ディアナが目を見張る。  
 「“銀翼のエレナ”。勇者パーティ時代の剣士です。」  

 かつての仲間。  
 だが、あの頃の彼女の瞳にあった光はもうない。代わりに、鋭く研ぎ澄まされた覚悟がそこにあった。  
 彼女は馬から降りると、両膝をついた。  

 「創造主レン様。再びお姿を拝する栄誉を……。」  
 その声に、周囲の兵も一斉に頭を垂れる。  

 「やめてくれ、エレナ。そういうのは性に合わない。」  
 俺は軽く笑って手を差し出した。  
 しかし彼女は首を振り、頭を上げなかった。  

 「いえ。あの時の私は愚かでした。あなたをただの村人と思い込み、力なき者を見下ろした。その代償は痛いほど受け取りました。」  
 沈んだ声が震える。  
 「アルドの狂気を止められなかったこと、あの塔で起きた惨状を防げなかったこと……あの日から毎日、剣を握るたびに自分を責めてきました。」  

 「なら、もう責めるな。」  
 俺はゆっくりと彼女の肩に手を置いた。  
 「お前たちの選択が間違いだったわけじゃない。ただ、見えなかっただけだ。俺自身も、世界の裏を知らずにいた。」  

 エレナは驚いたように顔を上げた。  
 「許してくださるのですか……? この罪を。」  
 「許すも何も、罪を感じる必要がない。俺はお前に恨みなど抱いていない。」  

 その言葉に、エレナの瞳が潤む。  
 いつも戦場で凛とした彼女が、子どものように震えていた。  
 やがて彼女は立ち上がり、剣を抜いて地に突き立てる。  

 「でしたら、今度こそ。命を賭してお仕えいたします。」  
 「お仕え?」  
 「ええ。私は剣士です。ただ斬ることしかできません。ですが、創造主の剣として、もう一度生きる意味が欲しいのです。」  

 周りの兵たちが「姉御……!」とざわめく。  
 彼女たちも同じ意思を持っているらしい。  
 勇者亡き今、彼らは軸を失っていた。だが新しい“光”がここに現れたのだ。  

 「みんな、俺は神様じゃない。ただの人間だ。」  
 そう言っても、誰も顔を上げなかった。  
 ディアナが小声で言う。「人々は“神”でなく、“意味”を求めているのです。」  

 「意味、か……。」  
 静かに息を吐いた。  
 かつて俺が創造主でありながら世界から離れた理由、それは“意味を定める怖さ”だった。  
 だが今、彼らがその意味を預けてくれるというなら、俺はそれを拒む資格がない。  

 「わかった。なら、剣を捧げる意志を受け取ろう。」  
 俺が言うと、エレナは深く息を吸い、剣を掲げた。  
 「この身、この魂、創造の理に捧ぐ。あなたの命ずるままに、生き斬りましょう。」  
 その言葉が終わると同時に、剣が淡い金光を放つ。  
 光は彼女の腕を包み、刻まれるように模様が浮かび上がる。  

 「それ……」  
 「あなたの理が、私の中に刻まれています。」  
 エレナの声は静かだった。  
 「これが、忠誠の証。私の力は、もうあなたの意志に呼応する。」  

 ディアナが微笑む。「世界に心から信頼して仕える剣士。きっと、これも必要な“柱”ですね。」  

 だがその直後、空が一瞬だけ暗くなった。  
 北の方角、遥か彼方で、巨大な影がうごめく。  
 「……何かが起こっている。」  
 光の筋が一瞬走り、闇を裂く。まるで誰かが“創造主の名”を逆利用して、力を呼び出そうとしているような感覚だった。  

 エレナが剣を握り、即座に構える。  
 「命じてください。どこへでも行きましょう。」  
 「まだ敵の正体が見えない。無駄に動くわけにはいかない。」  
 「それでも、あなたが危険に晒されるなら私は動きます。」  

 その真っすぐな瞳に、俺は一瞬、言葉を失った。  
 アルドの時とは違う。彼の信仰は力への賛美だった。  
 だがエレナのそれは、信仰ではなく“選択”だった。理解した上で、信頼している。  

 「……わかった。だが剣を振るうなら、守るためだけに使え。」  
 「はい。」  
 短い返事。だがその一言に、彼女の決意が滲んでいた。  

 丘の上で符が燃え落ちた。リュミナの残した封印の使い魔が風に散る。  
 その小さな光が、俺の足元に集まり、声を結んだ。  
 「レン。北の地、“灰の峡谷”から異なる理の波が放たれています。」  
 「灰の峡谷……世界の下層へ通じる裂け目か。」  
 「ええ。そこに“あるはずのない命”が生まれています。」  

 俺は唇を噛む。  
 あの“理の海”の残滓、始原の意志の断片が形を取っているのかもしれない。  
 つまり――俺の“影”が新しい肉体を得ようとしている。  

 「行かなきゃならないな。」  
 エレナが頷く。「剣を。」  
 「頼む。」  
 彼女が差し出した剣を受け取ると、不思議な感覚が走った。  
 剣を通してエレナの心が見える。迷いのない信頼。それが光に近い純度で俺へ流れ込む。  

 「エレナ、お前の剣は美しいな。」  
 「それはあなたが創り出した理の色だから。」  
 その言葉に、俺は笑った。  

 朝日が完全に昇り、王都の屋根を黄金色に染め始める。  
 世界は静かに再び息をしていた。  
 だが、その奥で微かな脈動が伝わる。北方から、名前のない気配がこちらに向かってくる。  

 「行こう。」  
 ディアナが祈りの杖を携え、エレナが剣を構え、俺は歩き出した。  
 創造主の名が響いた世界で、新たな“理の敵”が姿を見せようとしている。  

 「次の戦いは、創造を試す戦いになる。」  
 俺の呟きに、二人の女は頷いた。  
 風が吹き抜け、草原の香りが漂う。どこまでも澄んだその光景の中で、俺は確かに感じていた。  
 ――この世界はまだ、生まれ続けていると。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...