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09.恐怖侯爵、ストロベリー侯爵になる。①
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翌朝。
私は自分の部屋のソファで、髪を整えてもらいながら、すっごくそわそわしていた。
だって、イシドール様に“妻”と認められて初めての朝!
別に昨夜、なにがあったってわけじゃないだけど。
でも、今夜は多分……初夜のやり直しになる……? ひゃああ!!
ああ、でも今日、顔を合わせたらどんな顔していいかわかんない! 奥さんの顔ってどんな顔!?
「……レディア様?」
「へっ!? な、なに!?」
メイドさんのくすっとした笑い声。
完全に、ニヤニヤされてる。うう、そうだよね、そりゃ顔に出ちゃってるよね……!
そんな感じで心の準備ができないまま、食堂に向かうと──
もう、そこにいた。イシドール様が。
カップを手に、窓際で朝日を背にして、優雅に紅茶を飲んでて……
さすが、貴族の見本みたいな立ち姿。
どうしよう~、かっこいいんだ、この人ほんとに!!
こっちはカチコチに緊張してるのに、向こうはふわっと笑って、
「おはよう、レディア」
って。
うわ~~~っっ! 私にもストロベリーですか!? その笑顔、心臓もたない!!
「お、おはようございます……イシドール、様……」
おろおろしながらお辞儀したら、くすっと笑われた。
どうしよう、好き。あああぁぁぁぁああもう好き好き好き!!
朝から息も絶え絶えなんだけど、私……死ぬの? 死んじゃうの? 幸せ死?
思いっきり緩んでる顔を見られてるの……めちゃくちゃ恥ずかしくてやっぱり死ぬ。
「大丈夫か?」
いえ、大丈夫じゃないです。
恐怖の仮面をつけてないと、本当に男前すぎて……
顔で好きになったわけじゃないけど、ドキドキが止まらない!
「あの……その……まだ、なんか、慣れなくて……」
「俺の顔にか?」
「それもあるんですが……態度と言いますか、えーっと」
まごつく私を見てイシドール様が立ち上がったと思うと、私を後ろから抱きしめて──そのまま着席しましたが!?
え、これ……昨日シャロットにやっていた、お膝抱っこでは!?
待って待って、私はもう十七歳!
「慣れるまで、ゆっくりでいい。だけど、今日も君の可愛い顔が見られてうれしいよ」
後ろから耳元で囁かれる。
ちょっと待って、誰よこの人に恐怖侯爵なんて言い出したの!!
これからみんなでストロベリー侯爵って呼びましょ! はい、決定!!
もう朝の空気が、一気に甘くなった……いや、なりすぎた。
窓の外で小鳥がさえずってて、パンに塗ったジャムの匂いがふわっと香って、
……このまま時間止まってほしいようなほしくないような。
まさか自分が、こんな風に“甘やかされる側”になるなんて。
完全に恋する乙女になっちゃってる……言っときますけどこれ、私の初恋ですよ?
じんわりと嬉しさが積もってきた、その時。
「あ! レディアおねえちゃん、パパのおひざ乗ってるー!」
きゃ、きゃーー、シャロットが来ちゃったーーー!!
見られたーーーー!!
私は慌てて立ち上がる。
「お、おはよう、シャロット」
「おはよぉ! パパのおひざ、あったかいでしょ!」
「そ、そうね」
「パパ、シャルもだっこぉ」
シャロットの言葉に、イシドール様は手を広げて「おいで」と抱き上げる。
そこはやっぱり、シャロットの特等席よね。
私が奪ってしまわないように気をつけなきゃ。
その膝に座ったシャロットが、何度も私とイシドール様を見比べてる。
にこにこしてるけど、ちょっと不思議そうな顔。
「レディアおねえちゃんとパパ、なんか今日、すっごくなかよし?」
「えっ……そ、そうかしら?」
ばれた!? いやでも、別にやましいことはしてないし!?
「うん、なんか、おててもつなぎそう~!」
「つ、つなぐ予定は……」
「俺は構わない」
ちょ、ま、なに言ってるんですか、イシドール様!
「えっほんとに!? じゃあ、みんなでつなご?」
ああ、ニコッの純粋無垢のスマイルに射抜かれてしまう!
でも私の顔が真っ赤になってるのに気づいたイシドール様は、目を細めて微笑んでるんですけど?
もしかして、からかってます?
……もうっ。
「シャロット、それは後でな。今は食事の時間だ」
「はぁい」
「レディアも食べよう。席に着いてくれ」
「は、はい」
そうして席に着いたけど。
なんだか心臓がばくばく言いっぱなしで、食べた気がしなかった。
というかもう、胸がいっぱいです。
朝食を終えると、シャロットが私の手をひっぱった。
「ねえねえ、いっしょにお庭あるこ!」
イシドール様にも「いこー!」と手を伸ばして、そして──
「はい、おててつなぎ!」
「えっ!?」
そう言ってシャロットは、私の手とイシドール様の手を合わせる。
ちょっとー、シャロットが真ん中じゃないの!? まさかの私が真ん中でした!
繋がれた右手の主を見上げると……
「っふ……」
ストロベリー……侯爵……っ!
私、この状態で散歩して大丈夫? 倒れたりしない?
荒くなりそうな息をなんとかふーふー隠して──多分隠しきれてないけど──三人で庭園を散歩することになった。
陽の光が芝の上で揺れて、小鳥の声もぽつぽつと聞こえてくる。
シャロットはご機嫌で、ぴょんぴょん跳ねながら歩いてた。本当にかわいいんだから。
「みてー! この木、ちっちゃいお花さいてる!」
「ほんとだ。かわいいね」
「レディアおねえちゃんとおそろいくらい、かわいい~!」
ふいにそんなことを言われて、私はむせそうになる。
「シャロットの方が、もっともっとかわいいのよ」
「おねえちゃんだってかわいいもーん! ね、パパ!」
イシドール様に話を振らないでー!
「ああ、レディアもたまらなくかわいいな」
ほら、ストロベリーだから!
「そ、そんなこと……くすんだ灰色の髪ですし、背だって低くて美人じゃないし……」
「どうして? シャル、レディアおねえちゃんかわいいとおもうよ? だいすきだよ?」
シャロットの言葉に、胸がぎゅうってなる。
私はこの容姿のせいもあって、家族にいないもの扱いされてきたから。
そういうものだと、思っていたから。
認められるのが、嬉しくって。
「俺も……レディアは美しいと思う。見た目も……中身も」
イシドール様の低くて優しい声が、静かに降りてくる。
「言葉の端に滲む優しさや、笑ったときにほんの少し目元がゆるむところ。君は自身をかわいくないと思ってるみたいだが、俺にとってはすべてが愛おしくて仕方がないんだ」
私は自分の部屋のソファで、髪を整えてもらいながら、すっごくそわそわしていた。
だって、イシドール様に“妻”と認められて初めての朝!
別に昨夜、なにがあったってわけじゃないだけど。
でも、今夜は多分……初夜のやり直しになる……? ひゃああ!!
ああ、でも今日、顔を合わせたらどんな顔していいかわかんない! 奥さんの顔ってどんな顔!?
「……レディア様?」
「へっ!? な、なに!?」
メイドさんのくすっとした笑い声。
完全に、ニヤニヤされてる。うう、そうだよね、そりゃ顔に出ちゃってるよね……!
そんな感じで心の準備ができないまま、食堂に向かうと──
もう、そこにいた。イシドール様が。
カップを手に、窓際で朝日を背にして、優雅に紅茶を飲んでて……
さすが、貴族の見本みたいな立ち姿。
どうしよう~、かっこいいんだ、この人ほんとに!!
こっちはカチコチに緊張してるのに、向こうはふわっと笑って、
「おはよう、レディア」
って。
うわ~~~っっ! 私にもストロベリーですか!? その笑顔、心臓もたない!!
「お、おはようございます……イシドール、様……」
おろおろしながらお辞儀したら、くすっと笑われた。
どうしよう、好き。あああぁぁぁぁああもう好き好き好き!!
朝から息も絶え絶えなんだけど、私……死ぬの? 死んじゃうの? 幸せ死?
思いっきり緩んでる顔を見られてるの……めちゃくちゃ恥ずかしくてやっぱり死ぬ。
「大丈夫か?」
いえ、大丈夫じゃないです。
恐怖の仮面をつけてないと、本当に男前すぎて……
顔で好きになったわけじゃないけど、ドキドキが止まらない!
「あの……その……まだ、なんか、慣れなくて……」
「俺の顔にか?」
「それもあるんですが……態度と言いますか、えーっと」
まごつく私を見てイシドール様が立ち上がったと思うと、私を後ろから抱きしめて──そのまま着席しましたが!?
え、これ……昨日シャロットにやっていた、お膝抱っこでは!?
待って待って、私はもう十七歳!
「慣れるまで、ゆっくりでいい。だけど、今日も君の可愛い顔が見られてうれしいよ」
後ろから耳元で囁かれる。
ちょっと待って、誰よこの人に恐怖侯爵なんて言い出したの!!
これからみんなでストロベリー侯爵って呼びましょ! はい、決定!!
もう朝の空気が、一気に甘くなった……いや、なりすぎた。
窓の外で小鳥がさえずってて、パンに塗ったジャムの匂いがふわっと香って、
……このまま時間止まってほしいようなほしくないような。
まさか自分が、こんな風に“甘やかされる側”になるなんて。
完全に恋する乙女になっちゃってる……言っときますけどこれ、私の初恋ですよ?
じんわりと嬉しさが積もってきた、その時。
「あ! レディアおねえちゃん、パパのおひざ乗ってるー!」
きゃ、きゃーー、シャロットが来ちゃったーーー!!
見られたーーーー!!
私は慌てて立ち上がる。
「お、おはよう、シャロット」
「おはよぉ! パパのおひざ、あったかいでしょ!」
「そ、そうね」
「パパ、シャルもだっこぉ」
シャロットの言葉に、イシドール様は手を広げて「おいで」と抱き上げる。
そこはやっぱり、シャロットの特等席よね。
私が奪ってしまわないように気をつけなきゃ。
その膝に座ったシャロットが、何度も私とイシドール様を見比べてる。
にこにこしてるけど、ちょっと不思議そうな顔。
「レディアおねえちゃんとパパ、なんか今日、すっごくなかよし?」
「えっ……そ、そうかしら?」
ばれた!? いやでも、別にやましいことはしてないし!?
「うん、なんか、おててもつなぎそう~!」
「つ、つなぐ予定は……」
「俺は構わない」
ちょ、ま、なに言ってるんですか、イシドール様!
「えっほんとに!? じゃあ、みんなでつなご?」
ああ、ニコッの純粋無垢のスマイルに射抜かれてしまう!
でも私の顔が真っ赤になってるのに気づいたイシドール様は、目を細めて微笑んでるんですけど?
もしかして、からかってます?
……もうっ。
「シャロット、それは後でな。今は食事の時間だ」
「はぁい」
「レディアも食べよう。席に着いてくれ」
「は、はい」
そうして席に着いたけど。
なんだか心臓がばくばく言いっぱなしで、食べた気がしなかった。
というかもう、胸がいっぱいです。
朝食を終えると、シャロットが私の手をひっぱった。
「ねえねえ、いっしょにお庭あるこ!」
イシドール様にも「いこー!」と手を伸ばして、そして──
「はい、おててつなぎ!」
「えっ!?」
そう言ってシャロットは、私の手とイシドール様の手を合わせる。
ちょっとー、シャロットが真ん中じゃないの!? まさかの私が真ん中でした!
繋がれた右手の主を見上げると……
「っふ……」
ストロベリー……侯爵……っ!
私、この状態で散歩して大丈夫? 倒れたりしない?
荒くなりそうな息をなんとかふーふー隠して──多分隠しきれてないけど──三人で庭園を散歩することになった。
陽の光が芝の上で揺れて、小鳥の声もぽつぽつと聞こえてくる。
シャロットはご機嫌で、ぴょんぴょん跳ねながら歩いてた。本当にかわいいんだから。
「みてー! この木、ちっちゃいお花さいてる!」
「ほんとだ。かわいいね」
「レディアおねえちゃんとおそろいくらい、かわいい~!」
ふいにそんなことを言われて、私はむせそうになる。
「シャロットの方が、もっともっとかわいいのよ」
「おねえちゃんだってかわいいもーん! ね、パパ!」
イシドール様に話を振らないでー!
「ああ、レディアもたまらなくかわいいな」
ほら、ストロベリーだから!
「そ、そんなこと……くすんだ灰色の髪ですし、背だって低くて美人じゃないし……」
「どうして? シャル、レディアおねえちゃんかわいいとおもうよ? だいすきだよ?」
シャロットの言葉に、胸がぎゅうってなる。
私はこの容姿のせいもあって、家族にいないもの扱いされてきたから。
そういうものだと、思っていたから。
認められるのが、嬉しくって。
「俺も……レディアは美しいと思う。見た目も……中身も」
イシドール様の低くて優しい声が、静かに降りてくる。
「言葉の端に滲む優しさや、笑ったときにほんの少し目元がゆるむところ。君は自身をかわいくないと思ってるみたいだが、俺にとってはすべてが愛おしくて仕方がないんだ」
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