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6、水族館のカフェ
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館内を見終えて、お嬢も歩き疲れたやろ。俺らは水族館のカフェで休むことにした。
いちばん大きい水槽のそばにあるから、カフェ全体が水の青に染まって見える。
まるで海のなかを漂うような不思議な気分や。
「あのね、パフェ食べてもいい?」
「ええで。どれがええん?」
テーブルをはさんだ向かいの席で、お嬢がメニューを熱心に見つめてる。
どっかの水族館で、砂から何匹も体を出すチンアナゴを模したのパフェや、ほんまのイワシを使ったパフェを出しとったけど。
ここは、そういう趣味の悪いのんは置いてなさそうや。
俺はコーヒーを、お嬢は桃のパフェを選んだ。
「おいしい」
運ばれてきたパフェは、グラスが白く見えるほどに冷えてる。ひとくち食べて、お嬢は柔らかに目を細めた。
「おいしいですか。そら、よかったです」
「花ちゃんが作ってくれるお菓子もおいしいよ」
突然褒められて、俺は瞬きをくり返した。
「ほら、アイスとか。杏仁豆腐とか、ルバーブのカスタードパイとか、ピーカンナッツとフランジパーヌのタルトとか」
「よう、そんな難しい名前を覚えてるなぁ」
「うん。だって花ちゃんのお菓子、月葉は大好きだもん」
弾んだ声で言われて。俺は、顔が熱くなるのを感じた。
せや。お嬢が喜ぶために、俺はパイ料理の分厚い本を買って、作ったんや。
キッチンを粉だらけにして、オヤジに「なんや、自分で店でも開くんか」と呆れられながらも。
ただお嬢の嬉しそうな顔が見たくて。
なんやろう、この気持ち。餌付けっていうんは絶対にちゃうけど。父性ともちごて、けど恋でもない。
「愛なんかな」
「なあに?」
「いや、次はアプフェルシュトゥルーデルでも作ろかな、と思て」
「あぷ? なに?」
お嬢が首をかしげる。
「文字が透けるくらい薄い生地で、リンゴを巻いた焼き菓子ですよ。生クリームを添えるんです。オーストリアの菓子ですね」
淡々と説明すると、お嬢が目を輝かせた。
よかった。話を逸らすことができた。俺は内心ほっとした。
生クリームと桃をスプーンですくいながら、お嬢が「あぷなんとか、楽しみ」と弾んだ声を上げた。
水族館を出た俺らは、浜へと向かった。
さっきまでうす暗い場所にいたせいか、目が眩むほどに太陽がまぶしい。砂浜の白さが際だって見える。
俺はサングラスをかけ、お嬢には日傘をさしかけた。
ビーチではパラソルが立てられて、ぎょうさんの人が海に入ってる。賑やかな音楽が流れ、椅子とテーブルを外に置いたビーチハウスが並んでる。白を基調としたり、黒い建物やったり。どこも妙にオシャレや。
「あかん。俺、浦島太郎さんや」
子どもの頃に、このビーチに泳ぎに来たことがあったけど。その頃は、いかにもな古臭い海の家が並んでたもんや。浮き輪が吊るして売ってあって、かき氷やラーメンの幟が立ってたのに。
「あかんなぁ。ビーチハウスまでは視野に入れてへんかった。いっそ海岸近くの土地を買うて、駐車場にして。そこから客をビーチハウスに誘導したら、ええ稼ぎになるんとちゃうやろか。確か、海の家を使うんも利用料を払たはずやし。シャワーを設置して、水だけやのうてお湯も出るようにしたら……」
独り言を呟いていると、背中をつつかれた。日傘の端から顔を上げて、お嬢が俺を見つめてた。
「花ちゃん、お仕事のことを考えてる」
「はは、つい。仕事熱心やから」
「ダメだよ。今日は月葉とデートなんだから」
ぷうっとお嬢が頬を膨らませた。
もしかして、水族館でデートをデーツとごまかしたんを、お嬢は気づいとったんやろか。
ビーチサンダルやないのに、砂浜を歩くと、靴の中に砂が入った。
日傘を差したお嬢は、燦燦と降りそそぐ容赦のない陽射しの下でも、影のなかにおる。
地面を這うように葉を広げたハマヒルガオが、淡いピンクの花を咲かせてる。
人のざわめきも、店から流れる音楽も、どこか遠くに感じられた。
「あれぇ? 花隈さんじゃないですかぁ」
背後から声をかけられて、自分がぼうっとしとったことに気づいた。
いちばん大きい水槽のそばにあるから、カフェ全体が水の青に染まって見える。
まるで海のなかを漂うような不思議な気分や。
「あのね、パフェ食べてもいい?」
「ええで。どれがええん?」
テーブルをはさんだ向かいの席で、お嬢がメニューを熱心に見つめてる。
どっかの水族館で、砂から何匹も体を出すチンアナゴを模したのパフェや、ほんまのイワシを使ったパフェを出しとったけど。
ここは、そういう趣味の悪いのんは置いてなさそうや。
俺はコーヒーを、お嬢は桃のパフェを選んだ。
「おいしい」
運ばれてきたパフェは、グラスが白く見えるほどに冷えてる。ひとくち食べて、お嬢は柔らかに目を細めた。
「おいしいですか。そら、よかったです」
「花ちゃんが作ってくれるお菓子もおいしいよ」
突然褒められて、俺は瞬きをくり返した。
「ほら、アイスとか。杏仁豆腐とか、ルバーブのカスタードパイとか、ピーカンナッツとフランジパーヌのタルトとか」
「よう、そんな難しい名前を覚えてるなぁ」
「うん。だって花ちゃんのお菓子、月葉は大好きだもん」
弾んだ声で言われて。俺は、顔が熱くなるのを感じた。
せや。お嬢が喜ぶために、俺はパイ料理の分厚い本を買って、作ったんや。
キッチンを粉だらけにして、オヤジに「なんや、自分で店でも開くんか」と呆れられながらも。
ただお嬢の嬉しそうな顔が見たくて。
なんやろう、この気持ち。餌付けっていうんは絶対にちゃうけど。父性ともちごて、けど恋でもない。
「愛なんかな」
「なあに?」
「いや、次はアプフェルシュトゥルーデルでも作ろかな、と思て」
「あぷ? なに?」
お嬢が首をかしげる。
「文字が透けるくらい薄い生地で、リンゴを巻いた焼き菓子ですよ。生クリームを添えるんです。オーストリアの菓子ですね」
淡々と説明すると、お嬢が目を輝かせた。
よかった。話を逸らすことができた。俺は内心ほっとした。
生クリームと桃をスプーンですくいながら、お嬢が「あぷなんとか、楽しみ」と弾んだ声を上げた。
水族館を出た俺らは、浜へと向かった。
さっきまでうす暗い場所にいたせいか、目が眩むほどに太陽がまぶしい。砂浜の白さが際だって見える。
俺はサングラスをかけ、お嬢には日傘をさしかけた。
ビーチではパラソルが立てられて、ぎょうさんの人が海に入ってる。賑やかな音楽が流れ、椅子とテーブルを外に置いたビーチハウスが並んでる。白を基調としたり、黒い建物やったり。どこも妙にオシャレや。
「あかん。俺、浦島太郎さんや」
子どもの頃に、このビーチに泳ぎに来たことがあったけど。その頃は、いかにもな古臭い海の家が並んでたもんや。浮き輪が吊るして売ってあって、かき氷やラーメンの幟が立ってたのに。
「あかんなぁ。ビーチハウスまでは視野に入れてへんかった。いっそ海岸近くの土地を買うて、駐車場にして。そこから客をビーチハウスに誘導したら、ええ稼ぎになるんとちゃうやろか。確か、海の家を使うんも利用料を払たはずやし。シャワーを設置して、水だけやのうてお湯も出るようにしたら……」
独り言を呟いていると、背中をつつかれた。日傘の端から顔を上げて、お嬢が俺を見つめてた。
「花ちゃん、お仕事のことを考えてる」
「はは、つい。仕事熱心やから」
「ダメだよ。今日は月葉とデートなんだから」
ぷうっとお嬢が頬を膨らませた。
もしかして、水族館でデートをデーツとごまかしたんを、お嬢は気づいとったんやろか。
ビーチサンダルやないのに、砂浜を歩くと、靴の中に砂が入った。
日傘を差したお嬢は、燦燦と降りそそぐ容赦のない陽射しの下でも、影のなかにおる。
地面を這うように葉を広げたハマヒルガオが、淡いピンクの花を咲かせてる。
人のざわめきも、店から流れる音楽も、どこか遠くに感じられた。
「あれぇ? 花隈さんじゃないですかぁ」
背後から声をかけられて、自分がぼうっとしとったことに気づいた。
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