赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました

桜桃-サクランボ-

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十六夜家

第34話 話し合い

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 雅は次の日、朝陽に呼ばれ廊下を歩いていた。
 
 陽光が差し込み、廊下が反射し輝いているように見える。
 それだけ手入れが行き届いているのだなと、雅は周りに目を向けた。

 今は早朝。女中が自身の担当を行うため落ち着きなく走り回っていた。
 その中に掃除をしている者もおり、雅は邪魔にならないように端を歩いてきた。

 女中は、雅とすれ違う度怪訝そうな表情を浮かべているが、慣れている為気にしない。
 指定された大部屋にたどり着き、中へと声をかけた。

『入れ』

 返事が聞こえ、雅は音を立てずに襖を開く。
 室内は、雅準備された部屋と同じ、畳部屋。
 広さも変わらず、十畳程度。

 部屋の中には座布団以外には置かれておらず、客間に使われていることは安易に予想ができた。

 そんな部屋の中央には、座布団が用意されている。
 二枚あるうちの一枚には、既に準備を整えている朝陽の姿があった。

 雅が部屋の中に入ったと確認すると、前の座布団に促す。
 音を立てずに座り、姿勢を正すと、タイミングを見計らい朝陽は口を開いた。

「朝早かったが、無事に起きられたらしいな」
「おかげさまでな」

 空気が固い、緊張が体を走る。
 それでも、雅は場数をこなしているため焦りは無い。姿勢を崩さず、朝陽を見つめた。

「今回、わざわざここまで足を運んだ理由、詳しく話してもらおうか」
「わかった。だが、前置きだけはさせてもらいたい」
「なんだ」

 本題を円滑に進めるため、雅はあえて前置きをすると伝える。
 相手にいらない不安や焦りを抱えさせないための配慮として雅は伝えた。

「まず、我々鬼神家に、争いの意思はない」

 鬼神家は、十六夜家へ戦争を申し出るようなことはしないと示す。
 それに関してわかっていた朝陽は鼻を鳴らし、相槌すらせず耳を傾け続けた。

「今回、この場を設けていただいた一番の理由は、桔梗家についてだ」
「…………ほう」

 桔梗家の名前を聞いた瞬間、朝陽の表情が強ばった。

 それは不安か、焦りか。はたまた、違う感情か。急に緊張し始め、目線を泳がせた。

 雅は、ここで動揺の理由を聞くことも考えたが、それより先にすべてを話してからの方が話が円滑に進むと思い続けた。

「俺様は、桔梗家の次女、桔梗美月を嫁にもらった。だが、そこから怪しい風が吹き始めているのだ」
「……」
「そんな時に三ツ境国が桔梗家に加担していると耳にしたため、その国で一番大きな勢力を持つ十六夜家に話を持ってきたのだが……。なにか、知っておるか?」

 朝陽の空気が変わったことには気づかないふりをし、雅は問いかける。

 最初こそ反応を見せなかった朝陽だったが、雅の確信を持っている漆黒の瞳を見て、諦めたように息を吐いた。

「桔梗家から話は来ている。鬼神家を潰せとな」
「ほう、そのように話が膨らんでおったか」

 鬼神家が潰されたとあれば、行き場の失った雅を桔梗家が拾い上げ寝とるつもりなのだろう。

「ふむ……」

 顎に手を当て、雅は朝陽に問いかけた。

「その申し出を受け入れたのか、十六夜家は」
「…………あぁ」
「なぜだ? 確かに、敵対関係と周りの目には映っているらしいが、我々の代になってから深い関わりはなかったはずだ。仲間とは言えないにしろ、敵対しているとも言い難い関係だったというのは、当事者である我々が一番理解しているはずだろう」

 雅が聞くが、朝陽は答えない。

「────なにか、鬼神家は十六夜家に不利益なことを行っていただろうか。もし、行っていたのなら謝罪をしたいため、教えてはくれぬか」

 雅は、誠意を込め頭を下げた。

 彼の様子に尊敬の気持ちと、自分の情けなさに朝陽は、膝に置かれている手を強く握り、下唇を噛む。

 何も答えない朝陽を焦らせることなく、雅は頭を下げ待ち続けた。

「……………………顔を上げてくれ、鬼神家の当主よ。そなたに、恨みはない」
「そうか。それなら良かった」

 ほっと胸をなでおろした雅は顔を上げた。
 安堵の息を吐く彼を見て、また朝陽は胸を痛める。

 歯を食いしばり、苦し気にしている朝陽を見て、雅は首を傾げた。

「なにか、深い事情を抱えているらしいな。事情、話してはもらえないだろうか」
「しかし…………」
「ここで何も行動を起こさなければ、大きな戦争が始まる。そうなってしまえば、無駄に多くの死者が出るのだ。話をした方がお互い損にはならないだろう」

 苦しんでいる朝陽に話すよう促すが、口止めをされているのか一向に口を開かない。それでも、雅は諦めなかった。

 この話し合いで、二つの家の関係性が大きく変わる。
 無駄に戦争はしたくない、死者を出しなくない。だが、それだけではない。

 ――――悔しそうにしている十六夜家当主を助けたい。それで、あわよくば同盟を組み、これからは、お互い利益のある関係性を築きたい。

 目を細め、雅は考えた。
 そんな時、ふと、桔梗家の母と姉の力を思い出し、ある可能性が頭に浮かぶ。

「――――口止め、されているのだな」
「っ、それは…………」
「桔梗家の力を脅しに使われているとみているのだが、どうだろうか」
「…………」

 無言は肯定。
 畳みかけるように、雅は話を続けた。

「桔梗家には、治癒の力を持っている者が二人いる。誰か、十六夜家で治癒が必要な者がいるのか?」
「…………あぁ」

 やはりか、と。雅は息を吐いた。

「もう、ここまで来たら話してはもらえぬか? 他には絶対に漏らさん。約束しよう」

 雅はもう、絶対に引かない。
 朝陽も、もう我慢の限界だと言うように、ポツポツも話し出した。

 十六夜家には、表に出していない、一人の長女がいる。
 なぜ、表に出していないのかと言うと、生まれた時から体が弱く、寝たきりとなっていたから。

 内密に医師に相談していた十六夜家だが、今の時代では治せる病ではないと匙を投げられ、朝陽は焦っていた。

 そんな時、桔梗家との繋がりを父から聞き、話を持ち込んだ。

 その時に桔梗家の長女、美晴から一つの提案をされた。
 それが、”治癒の力で治す条件は、鬼神家を潰す事”だった。

 断ったり、潰せなかった場合は治さない。
 そう言われてしまい、朝陽は頭を抱えていたらしい。

 そんな時に、まさか鬼神家の若当主である雅から話を持ち込まれるとは思っておらず、ひとまず話を聞こうと今の場を設けたとのこと。

 そこで話を終らせた朝陽は、雅と視線を合わせることが出来ず下げ続けた。

「なるほど。一つ、残酷な話をしても良いだろうか」
「っ、な、なんだ」
「桔梗家の治癒は、病には効かないらしい」

 雅から放たれた言葉に、朝陽は目を大きく開き、顔を上げた。

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