赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました

桜桃-サクランボ-

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十六夜家

第33話 十六夜家の当主

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 雅様が出張に行ってから三日が経ちました。
 もうそろそろ……。もう、そろそろ……。

「美月ちゃん。入るわっ――限界近いわねぇ~」
「ひ、ひびき……さん…………」

 今日の勉学と鍛錬が終わり、休むために自室に戻った瞬間に、畳に倒れ込んでしまった。

 理由は一つ、雅様不足。

 それがわかっていたらしく、響さんは冷静に私の頭を撫でてくださいます。
 あぁ、温もり。響さんの温もりを感じます。

「大丈夫?」
「うぅ……。響さん……、寂しいですぅぅうう……」
「可愛いわねぇ、美月ちゃんは」

 響さんの笑みの背後に、雅様の笑みが浮かびます。
 あぁ、会いたい。会いたいですよ、三日で限界です。

「今、美月ちゃんと共に安心して暮らせる国にするため、雅も頑張っているから、美月ちゃんも頑張って耐えましょう? おそらく、雅の方が寂しすぎて泣いているでしょうから」

 …………そうですよね。
 私なんかより、雅様の方が何倍も大変なんです。

 話し合いの日時がいつなのかわかりませんが、今も色々考えているかもしれない。

 私がしっかりしなくてどうするのですか、鬼神美月。
 私は、もう鬼神と名乗れる、雅様の妻ですよ。

 ここで、負けるわけにはいきません!!

「ありがとうございます、響さん。私、頑張ります!」
「その息よ、頑張って耐えましょう!」
「はい!」

 響さんのおかげで立ち直れました。
 よし!! これから今日学んだことの復習と、自己鍛錬をしていきます!!

 ※

 美月が自室で倒れていた時、雅も同じく壁に頭を押し付け悲観に暮れていた。

 もう、三ツ境国にはたどり着いており、便りを送った屋敷へと招かれていた。

 日にちがかかる事を想定し、雅用の部屋も用意されていたらしい。

 今はそこで一人、壁に向かって何十回目かのため息を吐いている。

「美月よ……、会いたいぞ」

 涙を浮かべながら呟くのと同時に、襖の奥から男性の声が聞こえた。
 雅は顔を上げ、振り向く。その時には、いつもの凛々しい表情に戻っていた。

「どうぞ」

 雅が返事をすると、襖が開かれた。
 立っていたのは、袴を着こなし、腰に刀を差している男性。

「十六夜家の当主か」
「やはり、私のことはわかっていたのだな」
「まぁな。悪いと思ってはいるが、勝手に調べさせてもらった」

 部屋に入ってきた男性は、三ツ境国にある家、十六夜家の当主、十六夜朝陽いざよいあさひ

 雅以上に真面目で、頭が固い。
 融通が利かないという欠点があるが、戦闘能力は高く、負けたことは一度もない。

 元々、三ツ境国にいる家系は活気盛んで、戦争を好む家柄が多い。
 その中でも、十六夜家は断トツ。

 戦闘を好むという点で、平和主義である鬼神家とは合わない。
 それもあり、今まで敬遠されていた。

 それを雅は理解しており、今回の話し合いの申し出には少々頭を抱えていた。

 関係性をすぐに変えられない。
 それも理解しているが、今のままでは鬼神家に危険が及ぶ。

 美月の夢が予知夢だったとしたらと考えると、十六夜家の協力は不可欠。
 緊張を滲ませ、雅は朝陽を見た。

「調べられるのは構わん。それより、我々より上位に位置する鬼神家がなぜ、今更交流をしたいと申し出てきた。何か企んでおるのか?」
「確かに企んではいる。だが、お互いにとって悪く無い話を持ってきたつもりだ。なので、話だけでも聞いてはくれないか?」

 雅の噂は、朝陽の耳にも届いていた。
 自分の得だけを考えているのではなく、交流をするにあたって、絶対にどちらも平等になるように意見を持っていく。

 今となっては雅の誠実さは、どこの国にも通じる武器となっていた。

「話か……。今は忙しい。明日あすに回させてもらおう」
「わかった。それまで、俺様はどこにいればいい? この部屋で待機していた方がいいか?」
「好きにして構わない。鬼神家の話は耳に入っている、悪いことはしないだろう」

 腕を組み、それだけ言うと部屋を出て行く。
 その際、最後に雅へと言葉を投げた。

「だが、もし何か問題を起こせば、どうなるかはわかっておるな?」

 声には殺気が込められており、雅の身体を突き刺す。だが、負けることはなく、動揺見せずに頷いた。

「ならよい」

 それだけ残し、今度こそ朝陽は部屋から出て襖を閉じた。
 気配が消えるのを待ち、雅は深いため息を吐いた。

「さすが、十六夜家の当主、十六夜朝陽。殺気が鋭いな。少しでも油断していれば立つことさえままならなかっただろう」

 目の前で改めて十六夜家の強さを感じた雅は、汗を拭きとりその場に座り込んだ。

「だが、一つ引っかかるな。なぜ、ここまで強い十六夜家が、桔梗家の傘下に成り下がっているのか」

 桔梗家には、他にはない力が宿っている。
 それは、確かに目を引く代物で、どこの国も喉から手が出るほど欲しい。

 下についてでも桔梗家に守られたい、そう思ってもおかしくはない。

 だが、十六夜家の場合は、桔梗家よりはるかに強く、自分達で家を守れる実力を持っている。

 力が欲しいと言っても、傘下に成り下がるほど落ちぶれなくてもいいはず。

「――――少し、話し合いで探ってみるか」

 桔梗家と十六夜家の関係を明日の話し合いで聞こうと雅は決め、今日は休むことにした。

「あー……。美月ぃぃぃいい……」

 また、美月の名前を嘆き、雅は項垂れた。
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