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七氏と巫女の出会い
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父上から現代に連れて行くと言われた日から一週間、突如部屋まで父上がやってきたかと思うと、一つの風呂敷を我に押し付け「着換えたら行くぞ」と笑顔で言い放たれた。
渡された風呂敷を開くと、中には見たことがないような服が畳まれている。
「これを着ろということなのだろうか。見覚えがない服だ、着方がわからんぞ…………」
えっと、これは形的に絝だろう。
膝や太もも部分が何故か破れているが、大丈夫なのか?
他には白い薄い服と、黒い袖の短い服。
これは、袋がたくさん着いている鞄……か?
むむむ、これは一体、どうすればよいのだ……。
「…………二口女、来い」
『はい、失礼いたします』
名前を呼ぶと、襖の奥から二口女の声。
中に入るように言うと、落ち着きのある黒髪の女性、二口女が一礼をして中に入ってきた。
「何かございましたか?」
「これを父上に渡されたのだが、どのように着ればよいのかわからんのだ。二口女はわかるか?」
風呂敷の中に入っていた服を見せると、二口女が笑みを浮かべた。
「素敵な物をお持ちですね。お預かり致します」
「お、あ、あぁ」
その笑顔……、この服についてなにかわかっておるな。
助かった。助かったんだが、嫌な気配を感じるぞ。
「これは、現代に置かれているお洋服と呼ばれる物ですね。私達が着ている和服ではなく、西洋風の衣服の事です」
「ふむ、聞いたことはあるな」
「少々お話には出ていたかもしれませんね。ですが、やはり慣れていなければ、こちらを着こなすのは難しいでしょう。九尾様は何も言わずにお渡しになったのですか?」
「うむ、着換えたら行くぞとは言っていたが、それ以上は何も言っとらんかったぞ。ただ渡されただけだ」
「…………そうでしたか。まったく、あのお方は……はぁ」
む? なぜか二口女が頭を抱え、ため息を吐いてしまったぞ。これは呆れられておるな、父上。
普段の行いが今のような事態になるのだな、我も気を付けなくてはならん。
「今は、七氏様の着替えのお手伝いでしたね。失礼いたしました」
「その言い方はなんとなく語弊があるぞ、辞めてくれ。服を着るくらいなら出来る」
「ふふっ、失礼いたしました」
謝罪しているのに、二口女の口元は笑っておる。
なぜ笑う、我は何もおかしなことは言っとらんぞ。
「ふてくされないでください、申し訳ありません。では、まずがこちらの絝からどうぞ」
「むむむ。まぁ、良い。今着るから待っておれ」
「はい」
二口女に言われた通り、布が破れてしまっている絝を受けとる。
その後すぐ、白い薄い服を渡され、最後は黒い、銀の装飾が付いた服を渡された。
黒いものは、着ると前が開いている。
銀の装飾が真ん中で揺れておるぞ。これは、前を止めるなにかなのか?
「今、七氏様が気にしておりますものは、前を止めるための物、現代ではファスナーと呼ばれております。上着などによくつけられておりますよ」
「そうなのか。これは止めた方が良いのか?」
「今回の服装のバランスで考えると、止めない方がかっこいいかなと思います。七氏様の顔立ちは、九尾様に似ておりますが、氷璃様のかわいらしさも入っている為、ガチガチにかっこよさだけを集めると違和感を覚えます。九尾様、服のセンスはありますね」
二口女がよくわからないこと言っている。
我では、今すぐこのお洋服と呼ばれる物を全てを理解するのは難しそうだ。
――――――――ガラッ
「着換えたか?」
二口女が何やらブツブツ呟いておると、父上が一言もなしに部屋へと入ってきた。
せめて我の名前を呼んでから部屋に入ってくれと、いつも口を酸っぱくして言っておるのだけれどなぁ。
父上には耳というものが付いておらんのか、まったく。
「もう、九尾様、息子の部屋でも着換えていると知っているのなら、せめて一言かけてください。終わっていなかったらお恥ずかしいでしょう」
「息子とは背中を洗い流す中だぞ? そんな気にせんでも良いだろう」
「そういう問題ではないのですが……、いいです。では、私はこれで失礼いたしますね。七氏様の着物は私達が洗わせていただきます」
脱いだ我の着物を手に取り、二口女が一礼をし、部屋から出て行った。
……………………はぁ。
「父上、視線がものすごくうるさいのですが、なんでしょう」
「いやはや。やはりワシの息子だ、このような落ち着いたデザインでもよく似合うのぉ」
我の頭をポンポンとしながら、豪快に笑う父上。
そんな父上の服装も、いつもと違う。
いつもは赤地の着物を着ているのだが、今は黒いズボンに白い襟の付いた袖の短い服を着ている。
腰には小さな鞄を巻いているな、これもお洋服と呼ばれる物なのだろうか。
「鏡で見るがよい」
そういえば、この部屋には姿見があったのだった。
壁の方にあるタオルがかけられた鏡。タオルを取り、姿見に体を映し込む。
「ほう、このようになっておったのか」
絝の穴は良い感じに空いておるな、かっこよく見えるぞ。
白い服は上に来た黒い服より少し大きいのか、はみ出している。だが、それがまたいい感じに決まっておる。
腕や足を動かしてみるも、着物よりも動きやすく、これはこれでいいかもしれぬな。
「ほれ、最後にこれを付けて出来上がりだ、なくすなよ」
鏡を見ていると、後から父上が我の首に何かを付けた。
「これって、首飾りですか? 我は男ですよ父上、これは女性が付けるものではないのですか?」
父上が我の首に付けた首飾りは、赤い雫の形をしていた。
「今の時代、男性が首飾りを付けていても特に問題はない。それと、これは現代ではネックレスと呼ばれとる」
言いながら父上は我から離れ、部屋を出て行こうとした。
唖然としている我に、父上は「置いて行くぞ」と呑気に声をかけて来る。
唖然とさせたのは我ではなく父上だと言うのに。
どこまでも捕らえがたい父上だ。
我を置いて廊下へと行ってしまった父上を追いかける為、風呂敷に置かれている最後の装飾品、鞄を手に持ち慌てて部屋を後にした。
渡された風呂敷を開くと、中には見たことがないような服が畳まれている。
「これを着ろということなのだろうか。見覚えがない服だ、着方がわからんぞ…………」
えっと、これは形的に絝だろう。
膝や太もも部分が何故か破れているが、大丈夫なのか?
他には白い薄い服と、黒い袖の短い服。
これは、袋がたくさん着いている鞄……か?
むむむ、これは一体、どうすればよいのだ……。
「…………二口女、来い」
『はい、失礼いたします』
名前を呼ぶと、襖の奥から二口女の声。
中に入るように言うと、落ち着きのある黒髪の女性、二口女が一礼をして中に入ってきた。
「何かございましたか?」
「これを父上に渡されたのだが、どのように着ればよいのかわからんのだ。二口女はわかるか?」
風呂敷の中に入っていた服を見せると、二口女が笑みを浮かべた。
「素敵な物をお持ちですね。お預かり致します」
「お、あ、あぁ」
その笑顔……、この服についてなにかわかっておるな。
助かった。助かったんだが、嫌な気配を感じるぞ。
「これは、現代に置かれているお洋服と呼ばれる物ですね。私達が着ている和服ではなく、西洋風の衣服の事です」
「ふむ、聞いたことはあるな」
「少々お話には出ていたかもしれませんね。ですが、やはり慣れていなければ、こちらを着こなすのは難しいでしょう。九尾様は何も言わずにお渡しになったのですか?」
「うむ、着換えたら行くぞとは言っていたが、それ以上は何も言っとらんかったぞ。ただ渡されただけだ」
「…………そうでしたか。まったく、あのお方は……はぁ」
む? なぜか二口女が頭を抱え、ため息を吐いてしまったぞ。これは呆れられておるな、父上。
普段の行いが今のような事態になるのだな、我も気を付けなくてはならん。
「今は、七氏様の着替えのお手伝いでしたね。失礼いたしました」
「その言い方はなんとなく語弊があるぞ、辞めてくれ。服を着るくらいなら出来る」
「ふふっ、失礼いたしました」
謝罪しているのに、二口女の口元は笑っておる。
なぜ笑う、我は何もおかしなことは言っとらんぞ。
「ふてくされないでください、申し訳ありません。では、まずがこちらの絝からどうぞ」
「むむむ。まぁ、良い。今着るから待っておれ」
「はい」
二口女に言われた通り、布が破れてしまっている絝を受けとる。
その後すぐ、白い薄い服を渡され、最後は黒い、銀の装飾が付いた服を渡された。
黒いものは、着ると前が開いている。
銀の装飾が真ん中で揺れておるぞ。これは、前を止めるなにかなのか?
「今、七氏様が気にしておりますものは、前を止めるための物、現代ではファスナーと呼ばれております。上着などによくつけられておりますよ」
「そうなのか。これは止めた方が良いのか?」
「今回の服装のバランスで考えると、止めない方がかっこいいかなと思います。七氏様の顔立ちは、九尾様に似ておりますが、氷璃様のかわいらしさも入っている為、ガチガチにかっこよさだけを集めると違和感を覚えます。九尾様、服のセンスはありますね」
二口女がよくわからないこと言っている。
我では、今すぐこのお洋服と呼ばれる物を全てを理解するのは難しそうだ。
――――――――ガラッ
「着換えたか?」
二口女が何やらブツブツ呟いておると、父上が一言もなしに部屋へと入ってきた。
せめて我の名前を呼んでから部屋に入ってくれと、いつも口を酸っぱくして言っておるのだけれどなぁ。
父上には耳というものが付いておらんのか、まったく。
「もう、九尾様、息子の部屋でも着換えていると知っているのなら、せめて一言かけてください。終わっていなかったらお恥ずかしいでしょう」
「息子とは背中を洗い流す中だぞ? そんな気にせんでも良いだろう」
「そういう問題ではないのですが……、いいです。では、私はこれで失礼いたしますね。七氏様の着物は私達が洗わせていただきます」
脱いだ我の着物を手に取り、二口女が一礼をし、部屋から出て行った。
……………………はぁ。
「父上、視線がものすごくうるさいのですが、なんでしょう」
「いやはや。やはりワシの息子だ、このような落ち着いたデザインでもよく似合うのぉ」
我の頭をポンポンとしながら、豪快に笑う父上。
そんな父上の服装も、いつもと違う。
いつもは赤地の着物を着ているのだが、今は黒いズボンに白い襟の付いた袖の短い服を着ている。
腰には小さな鞄を巻いているな、これもお洋服と呼ばれる物なのだろうか。
「鏡で見るがよい」
そういえば、この部屋には姿見があったのだった。
壁の方にあるタオルがかけられた鏡。タオルを取り、姿見に体を映し込む。
「ほう、このようになっておったのか」
絝の穴は良い感じに空いておるな、かっこよく見えるぞ。
白い服は上に来た黒い服より少し大きいのか、はみ出している。だが、それがまたいい感じに決まっておる。
腕や足を動かしてみるも、着物よりも動きやすく、これはこれでいいかもしれぬな。
「ほれ、最後にこれを付けて出来上がりだ、なくすなよ」
鏡を見ていると、後から父上が我の首に何かを付けた。
「これって、首飾りですか? 我は男ですよ父上、これは女性が付けるものではないのですか?」
父上が我の首に付けた首飾りは、赤い雫の形をしていた。
「今の時代、男性が首飾りを付けていても特に問題はない。それと、これは現代ではネックレスと呼ばれとる」
言いながら父上は我から離れ、部屋を出て行こうとした。
唖然としている我に、父上は「置いて行くぞ」と呑気に声をかけて来る。
唖然とさせたのは我ではなく父上だと言うのに。
どこまでも捕らえがたい父上だ。
我を置いて廊下へと行ってしまった父上を追いかける為、風呂敷に置かれている最後の装飾品、鞄を手に持ち慌てて部屋を後にした。
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