氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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カラス天狗

氷鬼先輩は心配性!

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 無事に一つ目を倒す事が出来た二人は、住宅街を歩いていた。

 司はあくびを零しながら歩いているが、逆に詩織は落ち着きがない。
 顔を俯かせ、目線をいたるところにさ迷わせている。
 その理由は、先ほどの戦闘で放たれた司からの言葉。

(さっきの言葉はどういう意味だったんだろう。大事な人って、言っていた気がするんだけど。でも、私は最近先輩と出会ったばかり、そこまでお互いを知らないはずなのに……)

 詩織が一人で悶々としていると、司がポケットから一つの青いお守りを出して、詩織の顔に近付けた。

「っ、これって?」

「屋上で言っていた物だよ。これを持ち続けていれば、あやかしは寄りにくくなるはず」

「あ、今すぐに渡せないと言っていた物ですか?」

「そう。放課後に渡そうと思っていたのに、君はすぐに帰ってしまったから、これを渡す事が出来なかったんだよ」

「スイマセンデシタ」

 いつもの癖で一人で帰ってしまった事を後悔しつつ、渡されたお守りを素直に受け取った。

「そのお守りはほんの少し効果はあるけど、完全にあやかしを寄せ付けないわけじゃない。油断だけはしないでね」

「え、そうなんですか……?」

「そのお守りは効力がそこまで高くないの。僕自身が作ったんだけど、簡易的な物なんだ。これから君にあった強力なお守りを作る予定ではあるんだけど、今の所目途が立っていないんだよね。だから、代用品」

「え、それって、大変じゃないですか? 無理しなくても……」

 詩織は難しい顔を浮かべる司を不安そうに見上げる。
 彼女の言葉に返答はせず、司はなぜか足を止めてしまった。顔を少しだけ俯かせている為、目元が隠れてしまっている。

「氷鬼先輩?」

 足を止めてしまった司につられるように、詩織も足を止めた。

「無理は、しないと駄目なんだよ。しないと、君を守れない」

「あの、本当にそこまで背負わなくても。これは私の問題なので…………」

「約束を守るため、僕は必ずやりきるよ。君がなんと言おうとね」

 司が顔を上げた時、詩織は彼の表情に息を飲んだ。

 優しく、微笑みながら詩織を見つめている。一瞬、ドキッと心臓が波打った。
 赤くなる頬を手で押さえ、詩織は隠すように顔を逸らした。

(イケメンが微笑むと、ここまでの破壊力があるんだ。しかもこの人、自分のイケメン度を絶対に理解出来てない。一番タチが悪いよ! もう!!)

 詩織は、赤く染ってしまった頬を冷まし、再度司と歩き始めた。

 お互い、何も話すことなく無言のまま歩いていると、無事に詩織の家に到着。
 二階建ての白い壁に、赤い屋根の大きな家。

「ここが、君の家?」

「そうですよ」

「なら、これからは、毎朝ここに迎えに来ればいいだね」

「それだけはやめてください!」

 再度顔を赤くしてしまった詩織を、司は無表情のまま見て返事をしない。
 詩織は、ドアを開けようとした手を離し、返事をしない司に振り向く。
 
「先輩!! それはやめてくださいよ?!」

「ほら、早く家に入らないと。僕が近くにいるからと言って、あやかしが寄ってこないなんて保証はないんだよ? 寄ってきたら普通に倒すけど」

 司が言うと、詩織はプルプルと体をふるわせながらも、これ以上は何を言っても流されるだけだとさとりり、ガックリと肩を落とした。

「わかりましたよぉ……。今回はありがとうございました」

「ではっ」と、ドアノブを回し家の中へと入る。
 家の中に入ったことを確認した司は、目の前に建っている詩織の家を見上げ、ボソリと呟いた。

「この家には結界が張られているみたい。安心だけど、僕がやりたかったな……」

 ふぅと息を吐き、司はその場から歩き出す。

 司は、ポケットから一台のスマホを取り出し、操作する。
 スマホの画面に映っているのは電話帳。【紅井涼香あかいすずか】と書かれている箇所かしょをタップ。下の方に出てきた受話器のボタンを押すと、呼び出し音が鳴った。

 耳に当てると数回コールが聞こえ、その後に女性の声が聞こえた。

『もしもし、どうしたの司』

「涼香、これからそっちに行ってもいい?」

『いきなりね。いいわよ、またお母さんとけんかをしたの?』

「してないよ。というか、それ何年前の話をしているのさ。そうじゃなくて、聞きたいことがあるの」

『なぁに?』

「それはこれから行ったら話すよ。とりあえず、詩織についてとだけは言っておく」

 詩織の名前を出すと、電話口の向こう側からかすかな息遣いいきつかいが聞こえた。

『あぁ、なるほどね。わかったわ、待ってる』

「うん、今から行く」

 それだけを言うと、電話を切った。
 司は、そのまま紅井神社へと向かった。

「……まさか、同じ学校だったなんて。体質も、変わってなかった」

 下に向けられた水色のひとみがかすかにゆらぎ、不安がにじみ出る。
 だが、すぐに気持ちを切り替え、こぶしを強くにぎり、真っすぐ前を見た。

「絶対に、今回も守り通す。僕が、しぃーちゃんを――………」
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