5 / 42
カラス天狗
氷鬼先輩は心配性!
しおりを挟む
無事に一つ目を倒す事が出来た二人は、住宅街を歩いていた。
司はあくびを零しながら歩いているが、逆に詩織は落ち着きがない。
顔を俯かせ、目線をいたるところにさ迷わせている。
その理由は、先ほどの戦闘で放たれた司からの言葉。
(さっきの言葉はどういう意味だったんだろう。大事な人って、言っていた気がするんだけど。でも、私は最近先輩と出会ったばかり、そこまでお互いを知らないはずなのに……)
詩織が一人で悶々としていると、司がポケットから一つの青いお守りを出して、詩織の顔に近付けた。
「っ、これって?」
「屋上で言っていた物だよ。これを持ち続けていれば、あやかしは寄りにくくなるはず」
「あ、今すぐに渡せないと言っていた物ですか?」
「そう。放課後に渡そうと思っていたのに、君はすぐに帰ってしまったから、これを渡す事が出来なかったんだよ」
「スイマセンデシタ」
いつもの癖で一人で帰ってしまった事を後悔しつつ、渡されたお守りを素直に受け取った。
「そのお守りはほんの少し効果はあるけど、完全にあやかしを寄せ付けないわけじゃない。油断だけはしないでね」
「え、そうなんですか……?」
「そのお守りは効力がそこまで高くないの。僕自身が作ったんだけど、簡易的な物なんだ。これから君にあった強力なお守りを作る予定ではあるんだけど、今の所目途が立っていないんだよね。だから、代用品」
「え、それって、大変じゃないですか? 無理しなくても……」
詩織は難しい顔を浮かべる司を不安そうに見上げる。
彼女の言葉に返答はせず、司はなぜか足を止めてしまった。顔を少しだけ俯かせている為、目元が隠れてしまっている。
「氷鬼先輩?」
足を止めてしまった司につられるように、詩織も足を止めた。
「無理は、しないと駄目なんだよ。しないと、君を守れない」
「あの、本当にそこまで背負わなくても。これは私の問題なので…………」
「約束を守るため、僕は必ずやりきるよ。君がなんと言おうとね」
司が顔を上げた時、詩織は彼の表情に息を飲んだ。
優しく、微笑みながら詩織を見つめている。一瞬、ドキッと心臓が波打った。
赤くなる頬を手で押さえ、詩織は隠すように顔を逸らした。
(イケメンが微笑むと、ここまでの破壊力があるんだ。しかもこの人、自分のイケメン度を絶対に理解出来てない。一番タチが悪いよ! もう!!)
詩織は、赤く染ってしまった頬を冷まし、再度司と歩き始めた。
お互い、何も話すことなく無言のまま歩いていると、無事に詩織の家に到着。
二階建ての白い壁に、赤い屋根の大きな家。
「ここが、君の家?」
「そうですよ」
「なら、これからは、毎朝ここに迎えに来ればいいだね」
「それだけはやめてください!」
再度顔を赤くしてしまった詩織を、司は無表情のまま見て返事をしない。
詩織は、ドアを開けようとした手を離し、返事をしない司に振り向く。
「先輩!! それはやめてくださいよ?!」
「ほら、早く家に入らないと。僕が近くにいるからと言って、あやかしが寄ってこないなんて保証はないんだよ? 寄ってきたら普通に倒すけど」
司が言うと、詩織はプルプルと体をふるわせながらも、これ以上は何を言っても流されるだけだと悟り、ガックリと肩を落とした。
「わかりましたよぉ……。今回はありがとうございました」
「ではっ」と、ドアノブを回し家の中へと入る。
家の中に入ったことを確認した司は、目の前に建っている詩織の家を見上げ、ボソリと呟いた。
「この家には結界が張られているみたい。安心だけど、僕がやりたかったな……」
ふぅと息を吐き、司はその場から歩き出す。
司は、ポケットから一台のスマホを取り出し、操作する。
スマホの画面に映っているのは電話帳。【紅井涼香】と書かれている箇所をタップ。下の方に出てきた受話器のボタンを押すと、呼び出し音が鳴った。
耳に当てると数回コールが聞こえ、その後に女性の声が聞こえた。
『もしもし、どうしたの司』
「涼香、これからそっちに行ってもいい?」
『いきなりね。いいわよ、またお母さんとけんかをしたの?』
「してないよ。というか、それ何年前の話をしているのさ。そうじゃなくて、聞きたいことがあるの」
『なぁに?』
「それはこれから行ったら話すよ。とりあえず、詩織についてとだけは言っておく」
詩織の名前を出すと、電話口の向こう側からかすかな息遣いが聞こえた。
『あぁ、なるほどね。わかったわ、待ってる』
「うん、今から行く」
それだけを言うと、電話を切った。
司は、そのまま紅井神社へと向かった。
「……まさか、同じ学校だったなんて。体質も、変わってなかった」
下に向けられた水色の瞳がかすかにゆらぎ、不安が滲み出る。
だが、すぐに気持ちを切り替え、拳を強くにぎり、真っすぐ前を見た。
「絶対に、今回も守り通す。僕が、しぃーちゃんを――………」
司はあくびを零しながら歩いているが、逆に詩織は落ち着きがない。
顔を俯かせ、目線をいたるところにさ迷わせている。
その理由は、先ほどの戦闘で放たれた司からの言葉。
(さっきの言葉はどういう意味だったんだろう。大事な人って、言っていた気がするんだけど。でも、私は最近先輩と出会ったばかり、そこまでお互いを知らないはずなのに……)
詩織が一人で悶々としていると、司がポケットから一つの青いお守りを出して、詩織の顔に近付けた。
「っ、これって?」
「屋上で言っていた物だよ。これを持ち続けていれば、あやかしは寄りにくくなるはず」
「あ、今すぐに渡せないと言っていた物ですか?」
「そう。放課後に渡そうと思っていたのに、君はすぐに帰ってしまったから、これを渡す事が出来なかったんだよ」
「スイマセンデシタ」
いつもの癖で一人で帰ってしまった事を後悔しつつ、渡されたお守りを素直に受け取った。
「そのお守りはほんの少し効果はあるけど、完全にあやかしを寄せ付けないわけじゃない。油断だけはしないでね」
「え、そうなんですか……?」
「そのお守りは効力がそこまで高くないの。僕自身が作ったんだけど、簡易的な物なんだ。これから君にあった強力なお守りを作る予定ではあるんだけど、今の所目途が立っていないんだよね。だから、代用品」
「え、それって、大変じゃないですか? 無理しなくても……」
詩織は難しい顔を浮かべる司を不安そうに見上げる。
彼女の言葉に返答はせず、司はなぜか足を止めてしまった。顔を少しだけ俯かせている為、目元が隠れてしまっている。
「氷鬼先輩?」
足を止めてしまった司につられるように、詩織も足を止めた。
「無理は、しないと駄目なんだよ。しないと、君を守れない」
「あの、本当にそこまで背負わなくても。これは私の問題なので…………」
「約束を守るため、僕は必ずやりきるよ。君がなんと言おうとね」
司が顔を上げた時、詩織は彼の表情に息を飲んだ。
優しく、微笑みながら詩織を見つめている。一瞬、ドキッと心臓が波打った。
赤くなる頬を手で押さえ、詩織は隠すように顔を逸らした。
(イケメンが微笑むと、ここまでの破壊力があるんだ。しかもこの人、自分のイケメン度を絶対に理解出来てない。一番タチが悪いよ! もう!!)
詩織は、赤く染ってしまった頬を冷まし、再度司と歩き始めた。
お互い、何も話すことなく無言のまま歩いていると、無事に詩織の家に到着。
二階建ての白い壁に、赤い屋根の大きな家。
「ここが、君の家?」
「そうですよ」
「なら、これからは、毎朝ここに迎えに来ればいいだね」
「それだけはやめてください!」
再度顔を赤くしてしまった詩織を、司は無表情のまま見て返事をしない。
詩織は、ドアを開けようとした手を離し、返事をしない司に振り向く。
「先輩!! それはやめてくださいよ?!」
「ほら、早く家に入らないと。僕が近くにいるからと言って、あやかしが寄ってこないなんて保証はないんだよ? 寄ってきたら普通に倒すけど」
司が言うと、詩織はプルプルと体をふるわせながらも、これ以上は何を言っても流されるだけだと悟り、ガックリと肩を落とした。
「わかりましたよぉ……。今回はありがとうございました」
「ではっ」と、ドアノブを回し家の中へと入る。
家の中に入ったことを確認した司は、目の前に建っている詩織の家を見上げ、ボソリと呟いた。
「この家には結界が張られているみたい。安心だけど、僕がやりたかったな……」
ふぅと息を吐き、司はその場から歩き出す。
司は、ポケットから一台のスマホを取り出し、操作する。
スマホの画面に映っているのは電話帳。【紅井涼香】と書かれている箇所をタップ。下の方に出てきた受話器のボタンを押すと、呼び出し音が鳴った。
耳に当てると数回コールが聞こえ、その後に女性の声が聞こえた。
『もしもし、どうしたの司』
「涼香、これからそっちに行ってもいい?」
『いきなりね。いいわよ、またお母さんとけんかをしたの?』
「してないよ。というか、それ何年前の話をしているのさ。そうじゃなくて、聞きたいことがあるの」
『なぁに?』
「それはこれから行ったら話すよ。とりあえず、詩織についてとだけは言っておく」
詩織の名前を出すと、電話口の向こう側からかすかな息遣いが聞こえた。
『あぁ、なるほどね。わかったわ、待ってる』
「うん、今から行く」
それだけを言うと、電話を切った。
司は、そのまま紅井神社へと向かった。
「……まさか、同じ学校だったなんて。体質も、変わってなかった」
下に向けられた水色の瞳がかすかにゆらぎ、不安が滲み出る。
だが、すぐに気持ちを切り替え、拳を強くにぎり、真っすぐ前を見た。
「絶対に、今回も守り通す。僕が、しぃーちゃんを――………」
0
あなたにおすすめの小説
大人にナイショの秘密基地
湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ
☆ほしい
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】
魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。
ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。
「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」
不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。
甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
不幸でしあわせな子どもたち 「しあわせのふうせん」
山口かずなり
絵本
小説 不幸でしあわせな子どもたち
スピンオフ作品
・
ウルが友だちのメロウからもらったのは、
緑色のふうせん
だけどウルにとっては、いらないもの
いらないものは、誰かにとっては、
ほしいもの。
だけど、気づいて
ふうせんの正体に‥。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる