氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
6 / 42
カラス天狗

氷鬼先輩の初恋!

しおりを挟む
「こんにちは、なんだか久しぶりね」

「ここに来ること自体、少ないからね」

「仕事の話をする時しか来ないからゆっくりもしてくれないし、お姉ちゃんは悲しいぞ」

「はいはい」

 紅井神社にたどり着くと、巫女の姿をしている女性が出迎えた。

 お姉ちゃんと言い、わざとらしく悲しんでいる女性は、紅井神社の一人娘である紅井涼香あかいすずか

 明るい茶色の長い髪を後ろで一つにい、茶色のひとみを司に向ける。
 ほうきを持ち直し、距離をちぢめた。

「やっと、再会出来たの?」

 クスクスと笑う涼香に、司は眉を吊り上げた。

「戻ってきていたことを知っていたのなら、何で教えてくれないの」

「同じ学校だったから、もうとっくに会っているのかと思ったんだもの。まさか、会っていなかったなんて……」

「それでも、一言くらいあっても良かったのに」

「私だって悩んだのよ? ずっと一緒に居たのに突然、詩織ちゃんが親の都合で引っ越してしまって。それで、またこちらへ戻って来た。どんな顔をして会えばいいのかわからないのかもしれないとか、会うタイミングとか。色々考えていた結果、言えなかったのよ」

 涼香の言葉に、司はくちびるをとがらせた。

「確かにそうかもしれないけど……。まぁ、今はいいや。それより、聞きたいことがあるんだけど」

「どうしたの?」

「詩織は、涼香のことを覚えてた?」

「んー? 最初はわからなかったみたいだけど、名前を言ったら思い出してくれたわよ?」

「そ、うなん……だ」

 ショックを受けたように肩を大きく落とし、司はうなだれる。
 なぜそこまで落ち込んでしまったのか涼香はわからず、首をかしげた。

「どうしたの?」

「俺のことは、完全に忘れてたんだ……。しかも、すごい怖がっててさ。氷の王子様って、言われた……」

「~~~~~ッ!!! わ、わら、笑わせっ、ないで~~~~!!」

「笑わせてないんだけど」

 お腹を抱えて笑う涼香に、顔を青くしながら文句を言う司。
 本気で落ち込み、その場にしゃがみこんでしまった。

「あらあら、そんなにショックだったの?」

「そりゃ、まぁ。完全に忘れているわけだし……。一緒に居た期間は一年と短いけど、出来る限り毎日一緒に居たんだよ? そりゃ、ショックだよ…………」

「それもそうよねぇ」

 自身の頬に手を添え、ほんのり顔を赤くする涼香に、司は首をかしげ見上げた。

「あなたの初恋相手ですもんね。忘れられていたらショックよねぇ~」

「待って、なんで知っているの?」

「分かりやすかったわよ。昔からあやかし退治以外に興味を持つものってなかったのに、いきなり『しーちゃんは僕が守る!!』って宣言したのよ? 一目ぼれだったのかなぁって思うじゃない」

「うかつだった…………」

「子供の頃の話よ? でも、その反応するってことは、もしかして~?」

 ニヤニヤする涼香に、司の顔がりんごのように赤くなった。
 見られないように顔を手で隠し「勘弁して……」と呟く。
 初々しい反応に、涼香は控えめに笑うとほうきをにぎり直した。

「それじゃ、これから男を見せないといけないわね。それで、今回も言ったの? これからは僕が守るとか」

「言った」

「あら、いいじゃない。どんな感じで伝えたの? そこはやっぱり、かっこよく伝えたんでしょうね?」

「かっこよくは分からないけど、僕なりな言い方で伝えたよ」

「ふーん。いいじゃない」

 司の頭をなでて、涼香は優しくほほえむ。
 彼女の温かい手に目を細め、司は横に垂らしていたこぶしをにぎった。

「ねぇ、涼香」

「なぁに?」

「詩織の体質を治すことってできないのかな」

 小さな声で呟く司に、涼香は手をはなし見上げる。
 少し考え、ゆっくりと首を横に振った。

「それは難しいわね。あなたは数年も調べていたじゃない。それでも、手がかりすらつかめていない。治すのは不可能だと思うわよ」

「だよね……」

 悲し気に揺れるひとみは地面を写す。
 どうにか出来ないか、どうすることも出来ないのか。そればかりが頭の中をかけ回り、司は整理するため目を閉じた。

「まぁ、これからは僕がまた守ればいいか。口実こうじつは無理やり作ったし、何とかなるでしょ。お守りも渡したし」

「あら、渡したのね。あなたが作ったのなら、効果も期待できるわね」

「いや、それに関してはわからない」

「あら、それはなぜ?」

 司の言葉に目を丸くする詩織。彼を見上げ、問いかけた。

「あのお守りには、僕の氷が入っている。知っていると思うけど、僕が作り出す氷は魔除まよけになり、””のモノを寄せ付けなくなる。だから、お守りとしてはてきしているんだけど……」

「だけど?」

「どこまでのあやかしに通用つうようするかわからないし、僕から離れすぎると効力が薄くなるから、正直不安しかないよ」

 守れなかったら、大事な人が怪我をしてしまったら。
 今の司の頭の中は、不安だらけ。

 そんな彼の額に、涼香は右手をえた。
 親指で中指をはじくような形を作りながら。

 ――――――――バチンッ!!

 かわいた音が聞こえた瞬間、司は額を抑えその場にしゃがむ。
 涼香は腰に手を当て仁王立におうだち。眉を吊り上げ、口をとがらせていた。
 見るからに怒っている彼女のことがわからず、涙目で見上げた。

「目、覚めた?」

「え? 目が覚めたって、何が? 普通に痛かっただけなんだけど……」

「不安に思っていても仕方がないってことよ。あなたは今、出来ることを全力でやっているでしょう? なら、それを続けなさい。あなたの実力なら、必ずあの子を守れるわ」

 怒っているような表情から優しい笑顔に切り替わる涼香に、司は一度顔を下げ目を逸らした。
 だが、すぐに立ち上がり、いつもの無表情むひょうじょうになる。

 涼香を見下ろすひとみには力が込められており、決意が見えた。

「そうだよね。今は、できることをやっているんだ。弱気になっていても仕方がない。ありがとう」

「まったく、世話の焼ける弟ね」

「あんたの弟になった記憶ないんだけど」

「もう!! 小さい頃からずっと一緒に居たのだから、弟じゃない!」

「はいはい」

 仕方がないというように肩を落とし、司はポケットに手を入れた。

「それじゃ、僕は行く」

「無理するんじゃないわよ」

「うん」

 そのまま司は鞄を持ち直し、神社から出て行く。
 彼の後ろ姿を涼香は見届け、ほうきで掃除を再開した。

「まぁ、見た目とか雰囲気ふんいき、変わったものねぇ、司。気づかないのも、無理はないかぁ」

「ふふっ」と笑みをこぼす。。
 空を見上げ、太陽の光を手でさえぎった。

「あの二人のこれからは、どうなるのかしら。楽しみ楽しみ――――っ!」

 空を見上げていた涼香のひとみ突如とつじょ、大きく見開かれた。
 視線の先には、青空に浮かぶ黒い影。

 人間のような影には、黒いつばさが背中に生えている。手にはしゃくじょうと呼ばれるぼう。足元は下駄。笠をかぶっているナニカ。

 涼香は目を開き、ほうきをカランと落としてしまった。

「あれって、もしかして―――…………」

 慌てたように神社の中に入り、どこかに電話をかけた。
 そんな彼女の目線の先には、壁に引っかかっている目元だけを隠すように作られている狐面がある。

「あ、もしもし。少し……いえ、危険なあやかしが向かってきているみたいです。もしかしたら、大きな戦いが待っているかも──……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。 『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』──── 小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。 凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。 そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。 そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。 ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。 言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い── 凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚! 見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。 彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり…… 凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍
児童書・童話
*第2回きずな児童書大賞にて、ファンタジー賞を受賞しました。 みんなには見えない不思議なナニカが見える、小学五年生の長月結花。 ナゾの黒い影に付きまとわれたり、毎日不思議なナニカに怖い思いをしながら過ごしていた。 ある日、結花のクラスにイケメン双子の転校生がやってくる。 イケメン双子の転校生には秘密があって、なんと二人は狐の『あやかし』……!? とあるハプニングから、二人の『送り屋』のお仕事を手伝うことになり、結花には特別な力があることも発覚する。 イケメン双子の烈央と星守と共に、結花は沢山のあやかしと関わることに。 凶暴化した怪異と戦ったり、神様と人間の繋がりを感じたり。 そんな不思議なナニカ──あやかしが見えることによって、仲違いをしてしまった友達との仲直りに奮闘したり。 一人の女の子が、イケメン双子や周りの友達と頑張るおはなしです。 *2024.8/30、完結しました!

処理中です...