氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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カラス天狗

氷鬼先輩は真面目

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 放課後、詩織を家に送った後、司は自分の家に帰り、自室で本を読んでいた。

 司の家は木造の一軒家。庭があり、自然に囲まれた和風な家。
 部屋の中も、たたみ。普段の服は草色の着物。

 深い緑の羽織はおりを肩にかけ、正座をし、机に向き合っていた。

 手には分厚い本。表紙には何が書いてあるのかわからない、蛇のような文字。
 そんな本をめがねをかけ、司は真剣に読んでいた。

 時計やテレビなどが置かれていない殺風景さっぷうけいな部屋、本をめくる音以外何も聞こえない。
 ペラッと、最後のページを読み終わると、司はパタンと机の上に本を置き、めがねを取り眉間みけんを抑えた。

「…………やっぱり、ヒントすらないか」

 顔を上げ、窓を見る。
 外は、緑と青空のみが映り、あざやか。暑くなり、司は立ち上がると窓を少しだけ開けた。

 フワッと自然の風が舞い込み、司の藍色あいいろの髪が後ろに流れた。

「どうやったら、あいつの体質を治すことができるんだろう」

 外をながめながらぼそりとつぶやく。すると、ふすまの外から女性の声が聞こえた。

『司、入ってもいいかしら』

「いいよ」

 中に入ってきたのは、藍色あいいろの髪を右の耳下でゆるく結び、青色の着物を着ている美しい女性。釣り目の黒いひとみを司に向け、近づいた。

「どうしたの、母さん」

「涼香ちゃんからの電話がどうしても気になってね。気持ちが落ち着かないのよ」

 涼香は神社で危険な気配を察知。電話した相手は、司の家だった。
 司の母親である氷鬼喜美ひょうききみが最初に電話に出て、事情を聞く。それを司にすぐ報告していた。

 ここ最近、空をながめていた理由は、話に聞いていた危険なあやかしを見つけるため。
 詩織の所に来るだろうと予測もしているため、常に警戒をしていた。

「危険なあやかしがこの街に来ているって話でしょ」

「そうよ。大丈夫かしら」

「その時が来たら必ず、僕が退治するよ。それ以外、出来ることも特にないしさ」

「それもそうだけれどね…………」

 司のとなりに腰を落とし、喜美は眉を下げる。

「本当に大丈夫だよ。僕も普段から警戒しているし、安心して」

「まぁ、それも心配ではあるのだけれどね。もう一つ、心配要素があるのよ」

「なに?」

「あなた、学校から帰ると調べ物をすることが多くなったじゃない。昔のように」

「あぁ、まぁ、そうだね」

「また、無理をしていないか不安なのよ。あなたが中学校一年生の時なんて、あやかし退治と学校、調べ物で体を休めることはせず、ずっと動いていたから倒れてしまったじゃない。学校から連絡が入ったときは、心臓が口から出そうになったわよ」

 やれやれと肩を落とし、喜美はため息を吐く。

「その時はごめん。でも、僕ももう中学三年生だよ? 体調管理くらいはできるよ」

「それでも心配になるのが親というものなの。あなたは”あの人”と同じで、一つのことにのめり込むと周りが見えなくなる。私が気にしてあげなければ、あなたはまた倒れるわ」

 キッとにらむ喜美に、司は後ずさる。
 目線をそらし、気まずそうにガシガシと頭をかいた。

「まさか、言い切られるとは思わなかったなぁ。というか、父さんってそういうタイプだったの?」

「えぇ、あの人がやまいで倒れる前は、何事にも一生懸命――ではなかったけれど」

「なかったんかい」

 母親の言い回しに苦笑いを浮かべ、司は思わずツッコミを入れる。
 喜美は司の反応を気にせず悲し気にほほえみ、膝の上で手をにぎった。

「でも、興味を持ったものに対しては本当に真剣で、まじめで、周りが見えなくなるくらい一生懸命に頑張る、すてきな方だったのよ」

 いつも無表情で、ごくたまにしか見ることが出来ない喜美の笑み。
 今、見ることが出来るなんて思っておらず、司は目を細め、視線を横にそらした。

「ふーん。母さんはそういう父さんを好きだったんだ」

「そうね、好きよ。いまもね」

「なんか、いいなぁって思う」

「あら、あなたにもいるじゃない。そういう相手が」

「・・・・・・・待って?」

 司は喜美からの言葉に頭が凍り付く。だが、すぐに気を取り直し顔を真っ赤にした。

「な、なん、え?」

「詩織ちゃんでしょ? お似合いだと思うわよ」

「だから待って? 頭が追い付かない。僕、母さんに話したことないよね?」

 身を乗り出すいきおいで聞く。そんな司の様子がおかしく、口元に手を持っていきクスクスと笑った。

「ふふっ、あなたは本当にあの人と同じで、わかりやすいわね」

「はぁ…………?」

 顔を隠した手を放し、司は喜美を見た。

「今回の調べ物も、詩織ちゃんの体質を治すためでしょう?」

「…………まぁ、そうだけど」

「それなのだけれどね。もしかしたら、体質の問題ではないわよ」

「っ、それって、どういうこと?」

 確信したような母親の物言いに、司は目を開きおどろいた。

「詩織ちゃんの両親に頼まれて、私も独自で調べていたの」

「あ、そうだったんだ。それは知らなかったなぁ」

「あなたに言ってしまったら、あの時よりもっと無理をすると思ったから言わなかったのよ。それより、本題に入るわよ」

「う、うん。なんで母さんは、詩織の今の現状を体質ではないと言い切れるの?」

 正座を直し、改めて司は母親に聞いた。すると、母親は顔を下げ、目線を落とした。

「調べていた時、思い出したことがあるの。あの人から聞いた、あやかしと巫女の過去を」

 あの人と呼ばれているのが、先ほどまで話していた司の父親であることはすぐに分かった。

「あやかしと巫女の過去が、なんで詩織と関係があるの?」

「それは、ある資料本を持ってくるから、少し待っていてくれるかしら」

 と言うと、喜美は立ち上がり司の部屋を後にした。
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