氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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カラス天狗

氷鬼先輩が落ち込んでる?

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 同じことを聞いても無反応、ため息を吐き頭をガシガシとかいた。

「はぁ、答えないつもり? そんなの、許されると思ってんの?」

 苛立ちが混じっている声色に、向けられていないはずの詩織の肩が上がった。

(空気が、冷たい。私と話していた氷鬼先輩じゃないみたい。冷たくて、怖い)

 体をふるわせている詩織に気づかず、司はユキを横目で見た。

「答えないみたいだし、野放しは危険だから、いつものようにお願い、ユキ」

『はーい!! ごしゅじんしゃまのためにがんばります!!』

 子供のように無邪気むじゃきに返事をするユキは、輪入道わにゅうどうの頭上に移動、両手を上げたかと思うと、大きなつららが作られた。

『そーーーーれ!!』

 体全部を使い、つららを振り下ろした。
 輪入道わにゅうどうは逃げようとするが、タイヤが凍り付き、動けない。

 司が一歩、後ろに下がると同時に、つららが輪入道わにゅうどうに突き刺さった。
 鼓膜こまくを揺さぶる悲鳴ひめいを上げ、灰となり、輪入道わにゅうどうは風に乗りいなくなった。

 上にいたユキは、司にほめてほしくて頬をそめ、目を輝かせた。

『ごしゅじんしゃま!! できましたよ!!』

「うん、ありがとう、ユキ」

 頭をなでると、ユキは頬を赤く染め『えへへ』とはにかみ、うれしそうにお札へと戻った。
 落さずにつかみ、ポケットに戻すと、司は振り向き、その場から動けなくなっていた詩織の方へ歩く。

「怪我はない?」

 問いかけられるが、詩織は答えられない。
 さっきまでの司が頭をよぎり、体をかすかにふるわせた。

「どうしたの? やっぱり、どこか怪我をしたの?」

「い、いえ。してはいないんですが…………」

「なに?」

 言いにくそうに顔をうつむかせてしまった詩織の次の言葉を待つ。
 途中、次の授業を知らせるチャイムが鳴ってしまったが、二人は動かない。

 風が二人を包み、髪を揺らした。
 数秒、口を開かなかった詩織だったが、やっと覚悟を決めたのか司を見上げた。

「あの、さっきの氷鬼先輩は、今の氷鬼先輩と同じですか!?」

「…………ん?」

 よくわからず、思わず首をかしげる。

「え、えぇっと?」

 答えに困っていると、詩織が目線を落としさっきまでのことを話した。

「さっき、輪入道わにゅうどうと戦っていた氷鬼先輩が、あまりにも冷たくて、怖くて。でも、今はやさしくて、温かくて……。だから。同じ人なのかなって…………」

 素直に言うと、司は「あー、なるほど」と、どこか納得したような声をもらした。

「それは、あえてそうしているんだよね」

「え、あえて?」

「そう。漫画とか読んでいる時、殺気という言葉を目にしない? 殺すに気配の気で、殺気」

(確かに、戦闘シーンとかで殺気を放ち相手を牽制けんせいしたりとか、そういうのはよく見る。まさか、さっきの冷たい空気は、殺気を放って相手を牽制けんせいさせていたってこと?)

 ポカンと目を丸くしていると、司が詩織の頭に手を置いた。

「わかったみたいだね、よかった。冷たく感じたのならごめん。でも、安心してよ。君にさっきみたいな空気は放たないからさ」

「わ、わかりました」

 手は温かく、手は優しい。
 今の言葉に嘘はないとわかり、詩織は安堵あんどの息を吐いた。

「あ、そうだ」

「っ、え、な、なに?」

「そういえば今、氷鬼先輩、氷であやかしを倒してましたよね?!」

「あー、うん。そうだね、僕は、基本氷の技しか使わないから」

 今の戦闘を見て過去のことを思い出したのかと期待した司だったが、その期待は見事にうらぎられる。

「もしかしたら、あの男の子、氷鬼先輩の知り合いかもしれないです! 近くにいないですか!? 目元に狐面を付けていた人! 私、その人に会いたいです!」

 ――――――――ガクッ

 詩織の言葉にうなだれ、小さな声で「いねぇよ」とつぶやいた。

「いない……。なら、氷鬼先輩の知り合いじゃないのか……。会いたかったなぁ」

「どうして、そんなに会いたいの?」

「え、そ、それは、その、あの…………」

 聞かれた質問にすぐ答えることが出来ず、詩織はもじもじと顔を逸らした。
 頬をかすかに染め、髪を指でくるくると回す。

(だって、なんか。恥ずかしいんだもん。小さい頃に会った人、私がつっくんと呼んでいた人。その人が、私にとっての初恋相手だったからなんて。絶対、先輩に言ったら鼻で笑われるか、ばかにされる!!)

 司からの視線に気づかないくらい必死にごまかそうとしている詩織。
 今、何を聞いても答えてくれないだろうと瞬時しゅんじに感じ取った司は、ため息を吐きながら再度青空をながめた。

「…………目の前にいるんだけどなぁ」

「ん? 何か言いましたか?」

「なんにも」

「??」

 よくわからない顔を浮かべている詩織を無視して、司はドアへと歩いた。

「もう休み時間は終わって、次の授業が始まっているよ。早く、戻ろう」

「えっ!?」

 自身の腕時計を見ると、確かに時間はすぎ、完全に遅刻。
 詩織は死んだような目を浮かべ、ガクッとうなだれてしまった。

「今から教室行くの、ものすごく気まずいです」

「なら、行かなければいいと思うよ。僕は戻るけど」

「~~~~~~行きます!!」

 怒りのままに司の後ろをついて行き、詩織はドアを閉めた。

 誰もいなくなった屋上に、黒い影が空から降ってくる。
 背中には黒いつばさ、手にはしゃくじょう。口元にはくちばしのマスクを付けている青年。目は黒い布でかくされていて、見ることが出来ない。

『あの女が、大天狗様が欲している、鬼の血が混ざっている人間か。あの人間をとらえることが出来れば、この世に存在するあやかしを手ごまにできる。だが――……』

 シャランと、しゃくじょうが音を鳴らす。
 あごに手を当て、けわしい顔を浮かべた。

『やっかいなもんと共に居るな。まず、あの男をどうにかしなければ……』

 クククッとのどを鳴らし、黒いきりがその人を包み込み、その場から姿を消した。
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