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カラス天狗
氷鬼先輩の選択肢
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司は、今にもこわされてしまいそうな氷を見て、次の一手を考えていた。
今、司は三枚のお札を持っていた。
一つは、今出しているユキ。もう一つは、一つ目小僧におそわれていた詩織を助ける時に使用した、刀を取り出すことができるお札。
最後の一枚は、まだ詩織も知らない式神。
三枚のお札を持っているが、今司があつかえるのは、ユキ含め二つの技のみ。
だから、司はユキを軸に攻めていきたいと思っていた。
ユキが出来ることは、今のように大きな氷を作り、相手に降らせること。あとは、つららを地面から突き出したり、白い息を吹きかけ相手を凍らせるなども出来る。しかし、自分より強いモノを凍らせるのはむずかしい。
「ユキ、あいつを凍らせることは可能か?」
『しゅこし、むじゅかしいかもしれないでしゅ。からしゅてんぐはちゅよいので』
「なるほどな。違う手を考えるか」
氷から目をはなさずユキと作戦を立てている司。
その後ろでは、詩織が胸元に手を当て、何か手を貸すことができないか考えていた。
「私が狙いなのなら、私がおとりになればいいのかな。そうすれば―――」
「それはだめだ、危険すぎる」
「でも…………」
「君は、紅井神社の連絡先って知っている?」
「え、は、はい。紅井神社ではなく、お姉ちゃんの連絡先なら…………」
「連絡して現状と場所を伝えてほしい。あと、僕がちょっとばかり苦戦していることも」
「え、なんでですか…………」
「勝つためには必要だから。お願い、僕を信じて」
一切、詩織の方を向こうとしない司だが、真剣に言っているのは口調と声色でわかる。
詩織はこれ以上質問はせず、ポケットの中に入っているスマホを取り出し電話をかけた。
そんな時、カラス天狗を閉じ込めている氷が大きくひび割れ始めた。
「ユキ」
『はい!』
司が名前を呼ぶと、ユキは『ふぅう』と、白い息を吐き再度氷を凍らせる。だが、またしてもこわされそうになり、司は舌打ちした。
「あれさえあれば…………」
ぐちるように零すと、後ろで電話をかけていた詩織が安心したような顔を浮かべた。
「お姉ちゃん! 私、詩織です!」
『あら、詩織ちゃん。また、あやかしにおそわれているの?』
「はい。今は氷鬼先輩も一緒なので大丈夫なのですが、相手が強くて…………」
『っ、わかったわ。司には”あれ”を持って行くと伝えてちょうだい』
「? あれ?」
(あれって何だろう。でも、多分、氷鬼先輩にとって大事なものなんだよね)
「わかりました。あの、場所はっ――」
――――――――ブツ
「っ、え、あの、もしもし! もしもし!!」
電話が途中で切れてしまった。
詩織が慌てて何度も呼びかけるが、涼香の声は返ってこない。肩越しに司が振り向き、どうなったか確認した。
「電話、切れました……。スマホ、圏外になってる、なんで?」
「結界を張られたみたいだね。外への連絡を遮断されたんだと思うよ」
「そんなっ! まだ、場所を伝えられてないですよ!」
詩織のあせりとは裏腹に、司は冷静だった。
「ここまで強い気配だ、涼香なら感じることが出来るはずだよ。涼香は何か言っていなかった?」
「え、あ。先輩に、”あれ”を持って行くと伝えて、と言われました」
その言葉に司は笑みを浮かべ、目に光が宿る。
「あぁ、それならよかった。今の僕達が出来るのは、涼香が来るのを待つのみだね。あと、もうそろそろ動けるようにして。ユキも、もうあいつを封じ込められない」
見てみると、ユキが白い息を吹きかけすぎて体力がなくなり、肩で息をしていた。
『ご、ごしゅじんしゃま…………はぁ、はぁ』
「ありがとうユキ、少し休んでいいよ」
ユキが休むと、同時に氷にくもの巣のようにひびが入る。
カラス天狗が抜け出そうと、ガタガタと動いていた。
パキパキと音を立て、氷が割れる。
司は詩織を守るため前に一歩、踏み出した。同時に、氷が大きな音を立て崩れ落ちた。
『ふぅ、ここまでユキワラシが強力な氷を出せるなど、考えていなかった。時間が取られたが、まぁ、よい』
氷から出てしまったカラス天狗は、余裕な顔を浮かべて二人を見た。
体についた氷を払い、背中に生えている黒い翼を動かす。シャランとしゃくじょうを鳴らし、上空へとゆっくり飛んだ。
『これ以上、時間をかける必要はない。今、ここでいただくぞ』
「いただいて、どうするつもりなの」
『わかっているだろう。我らのぬし、大天狗様にささげるのだ』
「やっぱりか」と、司は眉間にしわを寄せ、唇をかむ。
「なんで僕達なの。いや、僕ではないか。なんでこいつをねらうのか。やっぱり、鬼の血がねらいなの?」
(え、鬼の血? そんな話、聞いていないんだけど)
『ほう、それは知っていたか』
「まぁね。これでも、必死にお前らあやかしから守るため、調べていたから」
『そうか。それならば話が早い。鬼の血が流れているそのおなご、我らの主にささげることが出来れば、主はもっと強くなる。痛い思いをしたくなければ、そのおなごを我によこせ』
右手を前に出し、詩織を渡すようにカラス天狗は誘う。
司は口を閉ざし、何も言わない。そんな彼の様子に、詩織は息をヒュッと浅く吸った。
(もしかして、私をささげた方がいいとか思っているのかな。…………でも、そうだよね。私が近くにいれば氷鬼先輩は危険な目に会う。私を差し出せば、助かる。それなら、選択肢は一つしかない。先輩が助かる選択肢は、一つしかない)
「氷鬼せんぱっ―――」
詩織がカラス天狗に向おうとした時、司は彼女を自身の後ろに戻す。
右手で制し、動かないように無言で訴えた。
「悪いが、こいつは渡せない。約束があるんでね」
上空を飛ぶカラス天狗を睨み、司は力強く言い切った。
彼の言葉に詩織はおどろき、目を大きく開き見上げた。
「氷鬼先輩…………」
(私なんて、見捨てればいいのに。そうすれば、戦わなくていいのに。なんで、そこまで……)
『……そうか、わかった。痛い思いがお好みらしい』
前に出した手を下げ、しゃくじょうを両手でつかむ。
『きさまは死を選んだ。後悔するのなら、自身の選択を後悔するがいい』
「後悔? するわけないだろ。逆に、お前にこいつを差し出した方が、僕は一生後悔する。昔からの約束なんだ、必ず最後まで守り通すって。だから、ここで死ぬのはお前だ!! カラス天狗!!!」
一枚のお札を取り出し、そこから一つの刀を取り出した。
「さぁ、僕を死なせてみろ!!」
今、司は三枚のお札を持っていた。
一つは、今出しているユキ。もう一つは、一つ目小僧におそわれていた詩織を助ける時に使用した、刀を取り出すことができるお札。
最後の一枚は、まだ詩織も知らない式神。
三枚のお札を持っているが、今司があつかえるのは、ユキ含め二つの技のみ。
だから、司はユキを軸に攻めていきたいと思っていた。
ユキが出来ることは、今のように大きな氷を作り、相手に降らせること。あとは、つららを地面から突き出したり、白い息を吹きかけ相手を凍らせるなども出来る。しかし、自分より強いモノを凍らせるのはむずかしい。
「ユキ、あいつを凍らせることは可能か?」
『しゅこし、むじゅかしいかもしれないでしゅ。からしゅてんぐはちゅよいので』
「なるほどな。違う手を考えるか」
氷から目をはなさずユキと作戦を立てている司。
その後ろでは、詩織が胸元に手を当て、何か手を貸すことができないか考えていた。
「私が狙いなのなら、私がおとりになればいいのかな。そうすれば―――」
「それはだめだ、危険すぎる」
「でも…………」
「君は、紅井神社の連絡先って知っている?」
「え、は、はい。紅井神社ではなく、お姉ちゃんの連絡先なら…………」
「連絡して現状と場所を伝えてほしい。あと、僕がちょっとばかり苦戦していることも」
「え、なんでですか…………」
「勝つためには必要だから。お願い、僕を信じて」
一切、詩織の方を向こうとしない司だが、真剣に言っているのは口調と声色でわかる。
詩織はこれ以上質問はせず、ポケットの中に入っているスマホを取り出し電話をかけた。
そんな時、カラス天狗を閉じ込めている氷が大きくひび割れ始めた。
「ユキ」
『はい!』
司が名前を呼ぶと、ユキは『ふぅう』と、白い息を吐き再度氷を凍らせる。だが、またしてもこわされそうになり、司は舌打ちした。
「あれさえあれば…………」
ぐちるように零すと、後ろで電話をかけていた詩織が安心したような顔を浮かべた。
「お姉ちゃん! 私、詩織です!」
『あら、詩織ちゃん。また、あやかしにおそわれているの?』
「はい。今は氷鬼先輩も一緒なので大丈夫なのですが、相手が強くて…………」
『っ、わかったわ。司には”あれ”を持って行くと伝えてちょうだい』
「? あれ?」
(あれって何だろう。でも、多分、氷鬼先輩にとって大事なものなんだよね)
「わかりました。あの、場所はっ――」
――――――――ブツ
「っ、え、あの、もしもし! もしもし!!」
電話が途中で切れてしまった。
詩織が慌てて何度も呼びかけるが、涼香の声は返ってこない。肩越しに司が振り向き、どうなったか確認した。
「電話、切れました……。スマホ、圏外になってる、なんで?」
「結界を張られたみたいだね。外への連絡を遮断されたんだと思うよ」
「そんなっ! まだ、場所を伝えられてないですよ!」
詩織のあせりとは裏腹に、司は冷静だった。
「ここまで強い気配だ、涼香なら感じることが出来るはずだよ。涼香は何か言っていなかった?」
「え、あ。先輩に、”あれ”を持って行くと伝えて、と言われました」
その言葉に司は笑みを浮かべ、目に光が宿る。
「あぁ、それならよかった。今の僕達が出来るのは、涼香が来るのを待つのみだね。あと、もうそろそろ動けるようにして。ユキも、もうあいつを封じ込められない」
見てみると、ユキが白い息を吹きかけすぎて体力がなくなり、肩で息をしていた。
『ご、ごしゅじんしゃま…………はぁ、はぁ』
「ありがとうユキ、少し休んでいいよ」
ユキが休むと、同時に氷にくもの巣のようにひびが入る。
カラス天狗が抜け出そうと、ガタガタと動いていた。
パキパキと音を立て、氷が割れる。
司は詩織を守るため前に一歩、踏み出した。同時に、氷が大きな音を立て崩れ落ちた。
『ふぅ、ここまでユキワラシが強力な氷を出せるなど、考えていなかった。時間が取られたが、まぁ、よい』
氷から出てしまったカラス天狗は、余裕な顔を浮かべて二人を見た。
体についた氷を払い、背中に生えている黒い翼を動かす。シャランとしゃくじょうを鳴らし、上空へとゆっくり飛んだ。
『これ以上、時間をかける必要はない。今、ここでいただくぞ』
「いただいて、どうするつもりなの」
『わかっているだろう。我らのぬし、大天狗様にささげるのだ』
「やっぱりか」と、司は眉間にしわを寄せ、唇をかむ。
「なんで僕達なの。いや、僕ではないか。なんでこいつをねらうのか。やっぱり、鬼の血がねらいなの?」
(え、鬼の血? そんな話、聞いていないんだけど)
『ほう、それは知っていたか』
「まぁね。これでも、必死にお前らあやかしから守るため、調べていたから」
『そうか。それならば話が早い。鬼の血が流れているそのおなご、我らの主にささげることが出来れば、主はもっと強くなる。痛い思いをしたくなければ、そのおなごを我によこせ』
右手を前に出し、詩織を渡すようにカラス天狗は誘う。
司は口を閉ざし、何も言わない。そんな彼の様子に、詩織は息をヒュッと浅く吸った。
(もしかして、私をささげた方がいいとか思っているのかな。…………でも、そうだよね。私が近くにいれば氷鬼先輩は危険な目に会う。私を差し出せば、助かる。それなら、選択肢は一つしかない。先輩が助かる選択肢は、一つしかない)
「氷鬼せんぱっ―――」
詩織がカラス天狗に向おうとした時、司は彼女を自身の後ろに戻す。
右手で制し、動かないように無言で訴えた。
「悪いが、こいつは渡せない。約束があるんでね」
上空を飛ぶカラス天狗を睨み、司は力強く言い切った。
彼の言葉に詩織はおどろき、目を大きく開き見上げた。
「氷鬼先輩…………」
(私なんて、見捨てればいいのに。そうすれば、戦わなくていいのに。なんで、そこまで……)
『……そうか、わかった。痛い思いがお好みらしい』
前に出した手を下げ、しゃくじょうを両手でつかむ。
『きさまは死を選んだ。後悔するのなら、自身の選択を後悔するがいい』
「後悔? するわけないだろ。逆に、お前にこいつを差し出した方が、僕は一生後悔する。昔からの約束なんだ、必ず最後まで守り通すって。だから、ここで死ぬのはお前だ!! カラス天狗!!!」
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