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8章 祈りは土に宿り、希望は芽吹く。荒野に初めての収穫を夢見て
第18話
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「問題は、ジャガイモが収穫できるまでの間ね」
翌朝。セリカは貯蔵されている食料へ静かに視線を落とした。干し肉、固い黒パン、乾燥させた果物や野菜などあるが、心もとない量。
「食料は……あと二月分あるかどうかしら」
その呟きに、アルトは黙って頷いた。自分ひとりとセリカだけなら、まだ余裕はあったが今は、もう一人――ステラがいる。ついでに馬のプレオもいる。
子どもに腹を空かせて眠らせるような真似だけはしたくなかった。
それは二人が貴族として、不自由なく過ごせてきた経験があったからだ、
アルトは腕を組み、テーブルに広げた地図を眺めつつ考える。
保存食を切り詰めても、いずれは尽きる。植えたばかりのジャガイモが収穫できるまではまだ遠いだろう。
どうにかして“つなぎ”なり“代用”を見つけなければならなかった。
「……じゃあ、近くの森に行って、何か食べられるものを探すしかないか」
決意を含んだ声に、セリカはしばし沈黙した。彼女もまた現実を理解している。眉間に皺を寄せ、小さく息をついた。
また近くの村にわざわざ足を運んで、物々交換を試みたとしても、魔獣の素材や魔石といった“辺境の産物”は、あまり需要が無いので安く買い叩かれるか、下手したら値段がつかなくて何も交換して貰えない可能性もあった。
「……ええ。仕方ありませんわね。危険はあるけれど、他に手はなさそうですもの」
その言葉には、覚悟よりも諦念が混じっていた。
「じゃあ、決まりだな。森で食べられるものを探そう。プレオが食べる草とかも。ついでに、薪用とかの木材も確保しておこうか」
アルトの声にセリカも静かに頷く。
そうと決まれば、簡素な背嚢に最低限の道具と固いパンや水袋を詰め込み、支度を整える。
安全の為にステラをひとり家に残しておくことも考えたが、こんな何も開拓地に小さな子を一人放置することなんて、とてもじゃ出来ない。そっちのが危険ではあった。
「ステラ、今から行くところは危ないところだから、決して一人にならず、俺かセリカさんの側から離れるなよ」
「はーい、わかりました!」
こうして三人は、外へ出た。
乾いた風が頬を撫で、砂混じりの大地が足の裏にざらつく。
セリカが馬のプレオを引き連れていき、アルトは護衛用と荷物運び用の小型ゴーレムを二体生成する。
魔力の光が地面を走り、土塊が形を成していく様をステラが目を丸くして見つめ、セリカもまたあのゴーレム術を我が物にせんと凝視していた。
不毛の荒野の向こう、かすかに緑の煙のように霞む森を目指して、三人と一匹、そして二体の同行者は歩き出した。
“近くの森まで”というが、歩いて半日ほどの距離がある。
セリカは愛馬プレオの鞍にステラを乗せ、手綱を引いた。
「ステラ、落ちないようにね」
「うん!」
森へ向かう途中、セリカは馬の背の少女を見上げ、内心思案する。
(……この子の教育、どうしようかしら)
血の繋がっていない拾い子ではあるが、奴隷のように扱うなど、二人の中には欠片もなかった。
教育する義理など無い――そう言ってしまえばそれまでだ。だが、ただ遊ばせたり、家事を手伝わせたりするだけでは、貴族としての矜持が許さない。
幼い内にこそ、きちんと学ばせてやるべきだと、セリカは考えていた。
この辺境では学院など望むべくもなく、家庭教師を呼ぶこともできない。ならば、自分が教えるしかない――文字の読み書きに、計算、そして礼儀作法も。
(せめて、この子が将来どこへ出ても恥をかかぬように……)
セリカは馬の背の少女を見上げ、心の奥でそう呟いた。
「ステラ、帰りましたら、あなたに勉強を教えますから、その心構えでいなさいね」
「えっ?!」
小さな頭の中で「べんきょう」という響きが転がる。
それが難しいものなのか、退屈なものなのかも、今は分からない。
ただ、セリカの声に混じる優しい調子だけが、耳に心地よく残った。
翌朝。セリカは貯蔵されている食料へ静かに視線を落とした。干し肉、固い黒パン、乾燥させた果物や野菜などあるが、心もとない量。
「食料は……あと二月分あるかどうかしら」
その呟きに、アルトは黙って頷いた。自分ひとりとセリカだけなら、まだ余裕はあったが今は、もう一人――ステラがいる。ついでに馬のプレオもいる。
子どもに腹を空かせて眠らせるような真似だけはしたくなかった。
それは二人が貴族として、不自由なく過ごせてきた経験があったからだ、
アルトは腕を組み、テーブルに広げた地図を眺めつつ考える。
保存食を切り詰めても、いずれは尽きる。植えたばかりのジャガイモが収穫できるまではまだ遠いだろう。
どうにかして“つなぎ”なり“代用”を見つけなければならなかった。
「……じゃあ、近くの森に行って、何か食べられるものを探すしかないか」
決意を含んだ声に、セリカはしばし沈黙した。彼女もまた現実を理解している。眉間に皺を寄せ、小さく息をついた。
また近くの村にわざわざ足を運んで、物々交換を試みたとしても、魔獣の素材や魔石といった“辺境の産物”は、あまり需要が無いので安く買い叩かれるか、下手したら値段がつかなくて何も交換して貰えない可能性もあった。
「……ええ。仕方ありませんわね。危険はあるけれど、他に手はなさそうですもの」
その言葉には、覚悟よりも諦念が混じっていた。
「じゃあ、決まりだな。森で食べられるものを探そう。プレオが食べる草とかも。ついでに、薪用とかの木材も確保しておこうか」
アルトの声にセリカも静かに頷く。
そうと決まれば、簡素な背嚢に最低限の道具と固いパンや水袋を詰め込み、支度を整える。
安全の為にステラをひとり家に残しておくことも考えたが、こんな何も開拓地に小さな子を一人放置することなんて、とてもじゃ出来ない。そっちのが危険ではあった。
「ステラ、今から行くところは危ないところだから、決して一人にならず、俺かセリカさんの側から離れるなよ」
「はーい、わかりました!」
こうして三人は、外へ出た。
乾いた風が頬を撫で、砂混じりの大地が足の裏にざらつく。
セリカが馬のプレオを引き連れていき、アルトは護衛用と荷物運び用の小型ゴーレムを二体生成する。
魔力の光が地面を走り、土塊が形を成していく様をステラが目を丸くして見つめ、セリカもまたあのゴーレム術を我が物にせんと凝視していた。
不毛の荒野の向こう、かすかに緑の煙のように霞む森を目指して、三人と一匹、そして二体の同行者は歩き出した。
“近くの森まで”というが、歩いて半日ほどの距離がある。
セリカは愛馬プレオの鞍にステラを乗せ、手綱を引いた。
「ステラ、落ちないようにね」
「うん!」
森へ向かう途中、セリカは馬の背の少女を見上げ、内心思案する。
(……この子の教育、どうしようかしら)
血の繋がっていない拾い子ではあるが、奴隷のように扱うなど、二人の中には欠片もなかった。
教育する義理など無い――そう言ってしまえばそれまでだ。だが、ただ遊ばせたり、家事を手伝わせたりするだけでは、貴族としての矜持が許さない。
幼い内にこそ、きちんと学ばせてやるべきだと、セリカは考えていた。
この辺境では学院など望むべくもなく、家庭教師を呼ぶこともできない。ならば、自分が教えるしかない――文字の読み書きに、計算、そして礼儀作法も。
(せめて、この子が将来どこへ出ても恥をかかぬように……)
セリカは馬の背の少女を見上げ、心の奥でそう呟いた。
「ステラ、帰りましたら、あなたに勉強を教えますから、その心構えでいなさいね」
「えっ?!」
小さな頭の中で「べんきょう」という響きが転がる。
それが難しいものなのか、退屈なものなのかも、今は分からない。
ただ、セリカの声に混じる優しい調子だけが、耳に心地よく残った。
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