異世界家族―追放貴族と没落令嬢と勇者の娘、今日も気ままに開拓日和。

和本明子

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8章 祈りは土に宿り、希望は芽吹く。荒野に初めての収穫を夢見て

第17話

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 水を得たことで、ようやくこの不毛の大地にも、わずかながら生命の気配が宿り始めた。
 ひび割れていた土は少しずつ柔らかさを取り戻し、乾ききっていた空気にも、かすかに湿り気が混じる。

 アルトはその変化を確かめるように地面を踏みしめながら、ついに「畑を作る」という次なる一歩を踏み出した。

 ラパンとの物々交換で手に入れた、ジャガイモの種芋。
 “ジャジャンガ地方の芋”で「ジャガイモ」と呼ばれているが、その名やその見た目、そしてその味。アルトの胸にふと懐かしさがよぎった。

 前世の記憶……食卓の端にいつもいた――茹でて、焼いて、潰して、揚げて――何にでもなれる、あの素朴な食材。
 まるで遠い故郷の記憶が、この異世界の片隅で小さく芽吹いたような感覚だった。

 一方、セリカは眉をひそめていた。
 以前、試しに焼いて食べてみたところ、味気なく、ぱさぱさもさもさで。
 塩や飲み物なしでは喉を通らない。以来、彼女の中であまり好みの食べ物ではないと判断していた。

 そんな彼女の顔色を気にすることもなく、アルトは淡々と畑の整地を進めていた。

 陽の傾く荒野で、岩の腕を持つゴーレムたちが低く唸りを上げながら土を耕していく。とはいえ、彼らの無骨な動きでは、溝を掘るぐらい。。

 畝を整え、等間隔に種芋を埋める――そうした作業は、人の手に頼るほかなかった。

「うーん……そのうち、こういう細かい仕事もできるゴーレムを作れるようになりたいもんだな」

 苦笑混じりの独り言を漏らしながら、アルトは膝をつき、浅く掘った溝に種芋を一つずつ等間隔に置いていく。
 そっと土をかぶせると、ステラが隣にしゃがみ込み、小さな手で真似をした。

「こう? こうでいいの?」

「ああ、上手いぞ。深すぎないように、優しく土をかけるんだ」

「はーい!」

 その無邪気な返事に、乾いた風の中で小さな笑い声がこだました。
 セリカはその様子を見て、自分もやらなければならないと「ふー」と息を吐き、観念したように腰を下ろした。

「……まさか、わたくしが農作業をする日が来るとは……」

 誰にともなくこぼした言葉は土の匂いに溶けていった。
 手が汚れるのを気にしていたが、とうに身体は土埃まみれ。

 やがて、すべての種芋を植え終えるころには、空は茜色に染まり、風が少し冷たさを帯びてきた。
 アルトは額の汗を拭い、両手を合わせると小さく呟く。

「……頼む、育ってくれよ」

 その祈りに釣られるように、ステラも同じように手を合わせた。

「おいもさん、がんばってね」

 二人の姿に、セリカは思わず苦笑する。

(祈るなんて、まったく子供じみた……)

 そう思いつつも彼女もまた二人の隣で同じようにそっと手を合わせる。
 夕風が畑を抜け、土の匂いがゆるやかに漂った。
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