17 / 32
8章 祈りは土に宿り、希望は芽吹く。荒野に初めての収穫を夢見て
第17話
しおりを挟む
水を得たことで、ようやくこの不毛の大地にも、わずかながら生命の気配が宿り始めた。
ひび割れていた土は少しずつ柔らかさを取り戻し、乾ききっていた空気にも、かすかに湿り気が混じる。
アルトはその変化を確かめるように地面を踏みしめながら、ついに「畑を作る」という次なる一歩を踏み出した。
ラパンとの物々交換で手に入れた、ジャガイモの種芋。
“ジャジャンガ地方の芋”で「ジャガイモ」と呼ばれているが、その名やその見た目、そしてその味。アルトの胸にふと懐かしさがよぎった。
前世の記憶……食卓の端にいつもいた――茹でて、焼いて、潰して、揚げて――何にでもなれる、あの素朴な食材。
まるで遠い故郷の記憶が、この異世界の片隅で小さく芽吹いたような感覚だった。
一方、セリカは眉をひそめていた。
以前、試しに焼いて食べてみたところ、味気なく、ぱさぱさもさもさで。
塩や飲み物なしでは喉を通らない。以来、彼女の中であまり好みの食べ物ではないと判断していた。
そんな彼女の顔色を気にすることもなく、アルトは淡々と畑の整地を進めていた。
陽の傾く荒野で、岩の腕を持つゴーレムたちが低く唸りを上げながら土を耕していく。とはいえ、彼らの無骨な動きでは、溝を掘るぐらい。。
畝を整え、等間隔に種芋を埋める――そうした作業は、人の手に頼るほかなかった。
「うーん……そのうち、こういう細かい仕事もできるゴーレムを作れるようになりたいもんだな」
苦笑混じりの独り言を漏らしながら、アルトは膝をつき、浅く掘った溝に種芋を一つずつ等間隔に置いていく。
そっと土をかぶせると、ステラが隣にしゃがみ込み、小さな手で真似をした。
「こう? こうでいいの?」
「ああ、上手いぞ。深すぎないように、優しく土をかけるんだ」
「はーい!」
その無邪気な返事に、乾いた風の中で小さな笑い声がこだました。
セリカはその様子を見て、自分もやらなければならないと「ふー」と息を吐き、観念したように腰を下ろした。
「……まさか、わたくしが農作業をする日が来るとは……」
誰にともなくこぼした言葉は土の匂いに溶けていった。
手が汚れるのを気にしていたが、とうに身体は土埃まみれ。
やがて、すべての種芋を植え終えるころには、空は茜色に染まり、風が少し冷たさを帯びてきた。
アルトは額の汗を拭い、両手を合わせると小さく呟く。
「……頼む、育ってくれよ」
その祈りに釣られるように、ステラも同じように手を合わせた。
「おいもさん、がんばってね」
二人の姿に、セリカは思わず苦笑する。
(祈るなんて、まったく子供じみた……)
そう思いつつも彼女もまた二人の隣で同じようにそっと手を合わせる。
夕風が畑を抜け、土の匂いがゆるやかに漂った。
ひび割れていた土は少しずつ柔らかさを取り戻し、乾ききっていた空気にも、かすかに湿り気が混じる。
アルトはその変化を確かめるように地面を踏みしめながら、ついに「畑を作る」という次なる一歩を踏み出した。
ラパンとの物々交換で手に入れた、ジャガイモの種芋。
“ジャジャンガ地方の芋”で「ジャガイモ」と呼ばれているが、その名やその見た目、そしてその味。アルトの胸にふと懐かしさがよぎった。
前世の記憶……食卓の端にいつもいた――茹でて、焼いて、潰して、揚げて――何にでもなれる、あの素朴な食材。
まるで遠い故郷の記憶が、この異世界の片隅で小さく芽吹いたような感覚だった。
一方、セリカは眉をひそめていた。
以前、試しに焼いて食べてみたところ、味気なく、ぱさぱさもさもさで。
塩や飲み物なしでは喉を通らない。以来、彼女の中であまり好みの食べ物ではないと判断していた。
そんな彼女の顔色を気にすることもなく、アルトは淡々と畑の整地を進めていた。
陽の傾く荒野で、岩の腕を持つゴーレムたちが低く唸りを上げながら土を耕していく。とはいえ、彼らの無骨な動きでは、溝を掘るぐらい。。
畝を整え、等間隔に種芋を埋める――そうした作業は、人の手に頼るほかなかった。
「うーん……そのうち、こういう細かい仕事もできるゴーレムを作れるようになりたいもんだな」
苦笑混じりの独り言を漏らしながら、アルトは膝をつき、浅く掘った溝に種芋を一つずつ等間隔に置いていく。
そっと土をかぶせると、ステラが隣にしゃがみ込み、小さな手で真似をした。
「こう? こうでいいの?」
「ああ、上手いぞ。深すぎないように、優しく土をかけるんだ」
「はーい!」
その無邪気な返事に、乾いた風の中で小さな笑い声がこだました。
セリカはその様子を見て、自分もやらなければならないと「ふー」と息を吐き、観念したように腰を下ろした。
「……まさか、わたくしが農作業をする日が来るとは……」
誰にともなくこぼした言葉は土の匂いに溶けていった。
手が汚れるのを気にしていたが、とうに身体は土埃まみれ。
やがて、すべての種芋を植え終えるころには、空は茜色に染まり、風が少し冷たさを帯びてきた。
アルトは額の汗を拭い、両手を合わせると小さく呟く。
「……頼む、育ってくれよ」
その祈りに釣られるように、ステラも同じように手を合わせた。
「おいもさん、がんばってね」
二人の姿に、セリカは思わず苦笑する。
(祈るなんて、まったく子供じみた……)
そう思いつつも彼女もまた二人の隣で同じようにそっと手を合わせる。
夕風が畑を抜け、土の匂いがゆるやかに漂った。
0
あなたにおすすめの小説
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~
鏑木カヅキ
恋愛
十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。
元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。
そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。
「陛下と国家に尽くします!」
シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。
そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。
一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。
転生してきた令嬢、婚約破棄されたけど、冷酷だった世界が私にだけ優しすぎる話
タマ マコト
ファンタジー
前世の記憶を持って貴族令嬢として生きるセレフィーナは、感情を見せない“冷たい令嬢”として王都で誤解されていた。
王太子クラウスとの婚約も役割として受け入れていたが、舞踏会の夜、正義を掲げたクラウスの婚約破棄宣言によって彼女は一方的に切り捨てられる。
王都のクラウスに対する拍手と聖女マリアへの祝福に包まれる中、何も求めなかった彼女の沈黙が、王都という冷酷な世界の歪みを静かに揺らし始め、追放先の辺境での運命が動き出す。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる