騎士が花嫁

Kyrie

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番外編 騎士が花嫁こぼれ話

46. 月明かりの背中 - リノ

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安定した呼吸が聞こえる。
真夜中。
俺に背を向けて眠るジュリの肩が呼吸に合わせて動く。
窓から入る月明かりで、それがよく見える。

暑いのか上掛けから出て寝ている。
風呂から出てそのまま寝てしまったため、何も着ていない。
形のいい肩甲骨から脇腹、そしてきゅっとしまった腰。
年を追うごとにこの人はシャープな筋肉のつき方になっていく。
出会った頃は筋肉がこんもりついていて、いかにも強そうな男だったが、今の身体を見ればそれも「若さに任せてついた筋肉」だったのような気がする。
なんて人。

丁度いいのか悪いのか、尻のところには上掛けがかかっている。
割れ目が見えそうで見えない。
そっと取り除いてセクシーな尻も見たいが、そこまでやると起きてしまいそうだからやめておく。
遠征から帰ってきたジュリに必要なのは、休養だ。
これまでぴりぴりした中にいたはずだから、俺が起きたのに気づかないほどこんなに深く眠っているのは珍しいし貴重だ。
安心している、という証拠なら嬉しい。



一緒に寝たはずなのに、なぜか目が覚めてしまった。
興奮しているのかな、俺。
それともしばらく離れていたから、隣に眠っているのが夢じゃないのか確認しているのかな。

短く切られた赤い髪と日焼けしたうなじを眺める。
伸ばしていた髪を、俺があげた緑の飾り紐が切れたのを機にばっさりと切ってしまった。
ある日、俺が学校から帰ってきたら短髪のジュリがいて驚いた。
甲冑を身につけるのに短いほうがいいから、とすっきりした顔で言っていた。
けれど俺が寂しがると思って、切った長い髪を一房、記念に持って帰ってくれた。
俺はそれを紙に包んで大切に引き出しにしまっている。
正直寂しくもあったけれど、まるで出会った頃のジュリを見ているようでもあり、懐かしくなった。

その頃のジュリと年齢が近くなった。
あと3年したら出会ったときのジュリと同い年になる。
大きくなったらジュリのことがわかるかと思ったこともあったが、全くわからない。
例えば、俺が今、17歳の男の子と結婚させられたらどうなるんだろう。
ちょっと考えただけでも、相当困る。

俺のことだけを思い出せば、とにかく無我夢中だった。
よく17歳の俺のプロポーズを受けてくれたよなぁ。
これまでジュリは何度か、大きく揺れたことがあった。
ジュリは俺のことを愛してくれているけれど、本当にそれでよかったのか、彼は時々とても不安になる。
今になってわかることは、ここかな。

もし俺が17歳の男の子との結婚が決められたとしても、「はい、そうですか」と受けられない。
年齢的なこともあるけれど、その男の子の恋愛対象が異性だったら本当にかわいそうだ。
なんとか離縁して解放してあげたくなるのもわかる。
本当に俺でいいのか、もっと別の人生があるんじゃないのか、と考える。

これがわかる前は、ジュリが不安定になるのは俺がしっかりしないからだ、と思っていた。
だからがむしゃらに頑張ってみたり、目一杯背伸びしてみたりもした。
全部空回りしたけど。
そうじゃないことがだんだんわかってくると、俺はいかに自分がジュリが好きで愛していて、そばにいたいのかを伝えるようにした。
というか、今もしている。



月明かりに浮かぶ白い身体は綺麗だ。
ああ、でも右腕の包帯が痛々しいな。
今回の遠征でジュリは怪我をした。
本人は大したことない、と言っているけれど痛そうだ。
だからまだ、帰ってから俺はジュリを抱いていない。
残念だし、怪我をしたことやさせたヤツに怒りも覚えるけど、仕方ない。
怪我が治ったら、ジュリを優しく抱くつもり。
いつも優しくしよう、と思っているのに、ジュリの乱れる姿にたまらなくなって最後には激しくしてしまう。

身体を重ね始めた頃は二人とも余裕のあるふりをしてたけど、ある時からジュリは俺に初めから全てを委ねてくれるようになった。
俺は心を込めて、ジュリが気持ちよくなるように触れていく。

ジュリは男だ。
一応、「俺の嫁」と世間ではなっているが、結構お互いにがつがつぶつかっていく。
そう、男なんだ。
だから、俺は気になっていたので、ジュリに何回か抱かれた。
男だったら「抱きたい!」と思ってるんじゃないか、と思って。
ジュリがそうしたいのなら、受け入れてみたいと思った。
ジュリは丁寧に抱いてくれた。
抱かれていると、自分がまだ経験がなくて無茶苦茶やっていたのが、よくわかった。
そこはとても申し訳なかった。
が、気持ちよかった。
けれど、あまり回数はしていない。
お互いになんとなく、しっくりこなかった。
俺は今でも、ジュリが俺を抱きたいというならそうされるつもりはあるけれど、ジュリはそう望まない。
俺も抱かれたい、と強く欲することがないので、「数回」に留まっている。

抱かれてみて知ったこと。
それは自分の中に雌がいること。
女ではなくて、雌なんだ。
ジュリは俺に抱かれて高まってくると、一瞬雌の顔をすることがある。
それがとても色っぽくて、俺の雄を興奮させる。
雌の顔は長くは続かない。
だから見逃すと残念で悔しい。
そのときは丸ごとジュリの包まれているような瞬間になる。
まぁ、ほかはずっと雄の色気だだ漏れだけど。


俺はそっとジュリに上掛けをかけてやる。
もっと見ていたい。
でも肩を冷やすとまずいし。

俺もまた眠ることにする。
できれば背中にキスしたいところだけど、我慢我慢。
起こしたくないもんね。

とりあえず、またここに帰ってきてくれて嬉しい。
何度、おかえりのキスをしても足りない。
明日、おはようのキスのふりをしておかえりのキスをしよう。

ねぇ、ジュリ。
あなたは俺によく「帰る場所を与えてくれた」と言ってるけどそれは違うよ。
あなたがいるから「帰る場所になろう」と思った。
俺には根がない。
大きくなったらあてもなくどこかに行くのもいいかもしれない、と少年の頃、考えたこともあった。
だから根を張って「ジュリの帰る場所になろう」と思ったんだ。
俺にも帰る場所を与えてくれてありがとう、ジュリ。

俺、あなたを連れて北に行くからね。
15年くらい前にクラディウス様にそっと相談したら渋い顔をされたけど、そろそろ機が熟しそうだよ。
俺にあなたの生まれた場所を見せて。
行きたい、と思ってくれるかなぁ。
北に行ったら、もう南に戻りたくない、って言うかなぁ。
そのときには二人でまた考えよう。

俺は仰向けになり目を閉じた。
ジュリの呼吸音が聞こえる。
だんだんそのリズムに合わせて俺も呼吸して、気持ちよくなって眠っていった。








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