102 / 126
本編
最後のチャンス《デニス side》③
しおりを挟む
「でも、やはりデニスの私情で周りを振り回すのはいけないよ。ラニット公爵家は、特に」
真っ直ぐにこちらを見据え、兄は少しばかり表情を引き締めた。
かと思えば、緑の瞳に僅かな焦りを滲ませる。
「今回、下手したらデニスは死んでいたかもしれないのだから」
「……えっ?」
あまりにも突拍子のない話に、私は目を見開いた。
理解が追いつかず瞳を揺らす私に、兄はスッと目を細める。
「いいかい?デニス。ラニット公爵は確かに冷酷で残忍だけど、人の心がない訳じゃない。自分のものに……身内に手を出されれば、当然怒る。ましてや、自分の庇護化に置いていた妻や弟なんて……逆鱗そのものだよ」
神妙な面持ちで言葉を紡ぎ、兄はこれでもかというほど危機感を煽ってきた。
「だから、今日決闘という場でデニスを殺してもおかしくなかった。というか、本来その予定だったと思う。フェリクスの共犯者として裁かず、個人的に報復することを選んだのがいい証拠だ」
かなり危ないところだったことを強調しつつ、兄は自身の顎を撫でる。
「でも、公爵は既のところで思い留まってくれた」
『デニスは命拾いしたんだ』と語り、兄は人差し指を唇に押し当てた。
と同時に、真顔となる。
「ただし、次はないよ。そのことをよくよく肝に銘じておくといい」
運良く助かっただけであることを告げ、兄はおもむろに立ち上がった。
部屋に取り付けられた掛け時計を眺めながら。
「さて、私はそろそろパーティー会場に戻るよ。主催者がずっと席を外していては、後で非難されてしまうからね」
『デニスはこのまま休んでいて』と言い、兄は出入り口に向かって歩き出す。
が、途中で制止した。
「おっと、一つ言い忘れていたよ」
そう言うが早いか、兄は顔だけこちらを振り返る。
緑の瞳に、僅かな希望を宿して。
「デニス、私を越える分野は……周りを見返す舞台は、別に皇位継承権争いじゃなくてもいいんじゃないかな?君には君の良さがあるのだから。わざわざ、こちらに有利なフィールドへ立って奮闘する必要はないと思う。皇帝という身分に特段こだわっていないのなら、尚更ね」
『もっと視野を広く持つべき』とアドバイスし、兄は穏やかに微笑んだ。
「それから────私はたとえ、デニスの言う存在価値の証明が出来なくても君を認めているよ。だから、もっと肩の力を抜いて過ごしてごらん」
『あまり生き急ぐな』と釘を刺し、兄は視線を前に戻す。
そして、今度こそ足を止めることなく医務室から出ていった。
「……言い忘れていたのは、一つじゃなかったのかよ」
揚げ足取り同然の嫌味を零し、私はじっと怪我した方の手を見つめる。
いい加減無駄な抵抗はやめるべきか、と思って。
恐らく、これが────人生をやり直す最後のチャンスだから。
正直まだ葛藤や蟠りはあるが、ここで意地を張ったってどうしようもない。
もう一度、今後のこと・自分のこと・帝国のことよく考えてみよう。
『時間はたっぷりある』と自分に言い聞かせ、私はそっと目を伏せた。
真っ直ぐにこちらを見据え、兄は少しばかり表情を引き締めた。
かと思えば、緑の瞳に僅かな焦りを滲ませる。
「今回、下手したらデニスは死んでいたかもしれないのだから」
「……えっ?」
あまりにも突拍子のない話に、私は目を見開いた。
理解が追いつかず瞳を揺らす私に、兄はスッと目を細める。
「いいかい?デニス。ラニット公爵は確かに冷酷で残忍だけど、人の心がない訳じゃない。自分のものに……身内に手を出されれば、当然怒る。ましてや、自分の庇護化に置いていた妻や弟なんて……逆鱗そのものだよ」
神妙な面持ちで言葉を紡ぎ、兄はこれでもかというほど危機感を煽ってきた。
「だから、今日決闘という場でデニスを殺してもおかしくなかった。というか、本来その予定だったと思う。フェリクスの共犯者として裁かず、個人的に報復することを選んだのがいい証拠だ」
かなり危ないところだったことを強調しつつ、兄は自身の顎を撫でる。
「でも、公爵は既のところで思い留まってくれた」
『デニスは命拾いしたんだ』と語り、兄は人差し指を唇に押し当てた。
と同時に、真顔となる。
「ただし、次はないよ。そのことをよくよく肝に銘じておくといい」
運良く助かっただけであることを告げ、兄はおもむろに立ち上がった。
部屋に取り付けられた掛け時計を眺めながら。
「さて、私はそろそろパーティー会場に戻るよ。主催者がずっと席を外していては、後で非難されてしまうからね」
『デニスはこのまま休んでいて』と言い、兄は出入り口に向かって歩き出す。
が、途中で制止した。
「おっと、一つ言い忘れていたよ」
そう言うが早いか、兄は顔だけこちらを振り返る。
緑の瞳に、僅かな希望を宿して。
「デニス、私を越える分野は……周りを見返す舞台は、別に皇位継承権争いじゃなくてもいいんじゃないかな?君には君の良さがあるのだから。わざわざ、こちらに有利なフィールドへ立って奮闘する必要はないと思う。皇帝という身分に特段こだわっていないのなら、尚更ね」
『もっと視野を広く持つべき』とアドバイスし、兄は穏やかに微笑んだ。
「それから────私はたとえ、デニスの言う存在価値の証明が出来なくても君を認めているよ。だから、もっと肩の力を抜いて過ごしてごらん」
『あまり生き急ぐな』と釘を刺し、兄は視線を前に戻す。
そして、今度こそ足を止めることなく医務室から出ていった。
「……言い忘れていたのは、一つじゃなかったのかよ」
揚げ足取り同然の嫌味を零し、私はじっと怪我した方の手を見つめる。
いい加減無駄な抵抗はやめるべきか、と思って。
恐らく、これが────人生をやり直す最後のチャンスだから。
正直まだ葛藤や蟠りはあるが、ここで意地を張ったってどうしようもない。
もう一度、今後のこと・自分のこと・帝国のことよく考えてみよう。
『時間はたっぷりある』と自分に言い聞かせ、私はそっと目を伏せた。
706
あなたにおすすめの小説
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる