駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど

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本編

最後のチャンス《デニス side》③

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「でも、やはりデニスの私情で周りを振り回すのはいけないよ。ラニット公爵家は、特に」

 真っ直ぐにこちらを見据え、兄は少しばかり表情を引き締めた。
かと思えば、緑の瞳に僅かな焦りを滲ませる。

「今回、下手したらデニスは死んでいたかもしれないのだから」

「……えっ?」

 あまりにも突拍子のない話に、私は目を見開いた。
理解が追いつかず瞳を揺らす私に、兄はスッと目を細める。

「いいかい?デニス。ラニット公爵は確かに冷酷で残忍だけど、人の心がない訳じゃない。自分のものに……身内に手を出されれば、当然怒る。ましてや、自分の庇護化に置いていた妻や弟なんて……逆鱗そのものだよ」

 神妙な面持ちで言葉を紡ぎ、兄はこれでもかというほど危機感を煽ってきた。

「だから、今日決闘という場でデニスを殺してもおかしくなかった。というか、本来その予定だったと思う。フェリクス令息の共犯者として裁かず、個人的に報復することを選んだのがいい証拠だ」

 かなり危ないところだったことを強調しつつ、兄は自身の顎を撫でる。

「でも、公爵はすんでのところで思い留まってくれた」

 『デニスは命拾いしたんだ』と語り、兄は人差し指を唇に押し当てた。
と同時に、真顔となる。

「ただし、次はないよ。そのことをよくよく肝に銘じておくといい」

 運良く助かっただけであることを告げ、兄はおもむろに立ち上がった。
部屋に取り付けられた掛け時計を眺めながら。

「さて、私はそろそろパーティー会場に戻るよ。主催者がずっと席を外していては、後で非難されてしまうからね」

 『デニスはこのまま休んでいて』と言い、兄は出入り口に向かって歩き出す。
が、途中で制止した。

「おっと、一つ言い忘れていたよ」

 そう言うが早いか、兄は顔だけこちらを振り返る。
緑の瞳に、僅かな希望を宿して。

「デニス、私を越える分野は……周りを見返す舞台は、別に皇位継承権争いじゃなくてもいいんじゃないかな?君には君の良さがあるのだから。わざわざ、こちらに有利なフィールドへ立って奮闘する必要はないと思う。皇帝という身分に特段こだわっていないのなら、尚更ね」

 『もっと視野を広く持つべき』とアドバイスし、兄は穏やかに微笑んだ。

「それから────私はたとえ、デニスの言う存在価値の証明が出来なくても君を認めているよ。だから、もっと肩の力を抜いて過ごしてごらん」

 『あまり生き急ぐな』と釘を刺し、兄は視線を前に戻す。
そして、今度こそ足を止めることなく医務室から出ていった。

「……言い忘れていたのは、一つじゃなかったのかよ」

 揚げ足取り同然の嫌味を零し、私はじっと怪我した方の手を見つめる。
いい加減無駄な抵抗はやめるべきか、と思って。
恐らく、これが────人生をやり直す最後のチャンスだから。

 正直まだ葛藤やわだかまりはあるが、ここで意地を張ったってどうしようもない。
もう一度、今後のこと・自分のこと・帝国のことよく考えてみよう。

 『時間はたっぷりある』と自分に言い聞かせ、私はそっと目を伏せた。
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