103 / 126
本編
誓い①
しおりを挟む
◇◆◇◆
────建国記念パーティーから、ちょうど一週間。
私はいつものように執務室を訪れ、夫やロルフと雑談していた。
その際、ふとデニス皇子殿下の話題になる。
「結局、殿下の手首は折れたまま元に戻らなかったようですね」
ロルフは書類整理をしつつ、『ずっと手首を固定して、過ごされているそうです』と語った。
と同時に、夫が書面から顔を上げる。
「当然だ。叩き潰すつもりで、攻撃したのだから」
『そう簡単に治されては困る』と言い、夫はトントンと指先で執務机を叩く。
「本音を言えば、もう一方の手首も……いや、全ての四肢を折ってやりたかったんだが」
『時間がな』と眉を顰め、夫は一つ息を吐いた。
まさか、あんなに早く敗戦を選択するとは思ってなかったのだろう。
『戦うフリくらいは、やると思ったのにな』と零す彼を前に、ロルフは苦笑を漏らす。
「いやいや、利き手が使い物にならなくなっただけで充分ですよ。あちらはもうまともに書類仕事すら、出来ないんですから。そのせいで、第二皇子を支持していた勢力から一斉にそっぽを向かれたそうですし」
『第二皇子派は事実上の壊滅状態ですね』と述べ、ロルフは小さく肩を竦めた。
かと思えば、作業していた手を止める。
「あっ、この書類今日までに先方へ送らないといけないやつですね。僕、ちょっと行ってきます」
書類の山から目当てのものを引き摺り出し、ロルフは席を立った。
直接先方に届けるつもりなのか、少しばかり身嗜みを整える。
と同時に、部屋を出ていった。
『一時間くらいで戻ります』という一言を残して。
旦那様と二人きりになってしまったわね。
別に『気まずい』とは思わないけど、何を話せばいいのか分からない。
というか、特に話すことがない。
『そろそろ、お暇しようかしら』と考え、私はソファから腰を浮かせる。
が、
「レイチェル」
夫に声を掛けられたことによって、一旦座り直した。
素早くドレスのシワを直しつつ、私は背筋を伸ばす。
「はい、何でしょう?」
赤い瞳をしっかり見つめ返して話の先を促すと、夫は顎に手を当てた。
「何か欲しいものはあるか?」
「!」
ピクッと僅かに反応を示す私は、言われたことの意味を考える。
だって、夫が何の理由もなく唐突にこんなことを聞いてくるなんて、有り得ないから。
多分、私にプレゼントを贈ろうとしているんだろうけど、その真意が分からない。
直近で、特に記念日などはないし……旦那様に限って、気まぐれという線もない筈。
合理主義の夫を思い浮かべ、私は少し悶々とする。
その様子をどう受け取ったのか、彼は
「ドレスでも宝石でも鉱山でも店でも……好きなものを言え。数や予算に制限はない。全て買い与える」
と、宣言した。
『一先ず、今思い浮かんでいるもの順番に挙げろ』と述べる夫に、私は大きく瞳を揺らす。
いつもの旦那様らしくない、と思って。
────建国記念パーティーから、ちょうど一週間。
私はいつものように執務室を訪れ、夫やロルフと雑談していた。
その際、ふとデニス皇子殿下の話題になる。
「結局、殿下の手首は折れたまま元に戻らなかったようですね」
ロルフは書類整理をしつつ、『ずっと手首を固定して、過ごされているそうです』と語った。
と同時に、夫が書面から顔を上げる。
「当然だ。叩き潰すつもりで、攻撃したのだから」
『そう簡単に治されては困る』と言い、夫はトントンと指先で執務机を叩く。
「本音を言えば、もう一方の手首も……いや、全ての四肢を折ってやりたかったんだが」
『時間がな』と眉を顰め、夫は一つ息を吐いた。
まさか、あんなに早く敗戦を選択するとは思ってなかったのだろう。
『戦うフリくらいは、やると思ったのにな』と零す彼を前に、ロルフは苦笑を漏らす。
「いやいや、利き手が使い物にならなくなっただけで充分ですよ。あちらはもうまともに書類仕事すら、出来ないんですから。そのせいで、第二皇子を支持していた勢力から一斉にそっぽを向かれたそうですし」
『第二皇子派は事実上の壊滅状態ですね』と述べ、ロルフは小さく肩を竦めた。
かと思えば、作業していた手を止める。
「あっ、この書類今日までに先方へ送らないといけないやつですね。僕、ちょっと行ってきます」
書類の山から目当てのものを引き摺り出し、ロルフは席を立った。
直接先方に届けるつもりなのか、少しばかり身嗜みを整える。
と同時に、部屋を出ていった。
『一時間くらいで戻ります』という一言を残して。
旦那様と二人きりになってしまったわね。
別に『気まずい』とは思わないけど、何を話せばいいのか分からない。
というか、特に話すことがない。
『そろそろ、お暇しようかしら』と考え、私はソファから腰を浮かせる。
が、
「レイチェル」
夫に声を掛けられたことによって、一旦座り直した。
素早くドレスのシワを直しつつ、私は背筋を伸ばす。
「はい、何でしょう?」
赤い瞳をしっかり見つめ返して話の先を促すと、夫は顎に手を当てた。
「何か欲しいものはあるか?」
「!」
ピクッと僅かに反応を示す私は、言われたことの意味を考える。
だって、夫が何の理由もなく唐突にこんなことを聞いてくるなんて、有り得ないから。
多分、私にプレゼントを贈ろうとしているんだろうけど、その真意が分からない。
直近で、特に記念日などはないし……旦那様に限って、気まぐれという線もない筈。
合理主義の夫を思い浮かべ、私は少し悶々とする。
その様子をどう受け取ったのか、彼は
「ドレスでも宝石でも鉱山でも店でも……好きなものを言え。数や予算に制限はない。全て買い与える」
と、宣言した。
『一先ず、今思い浮かんでいるもの順番に挙げろ』と述べる夫に、私は大きく瞳を揺らす。
いつもの旦那様らしくない、と思って。
706
あなたにおすすめの小説
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化決定】
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
※書籍化決定しております!
皆様に温かく見守っていただいたおかげです。ありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ
詳細は追々ご報告いたします。
アルファさんでは書籍情報解禁のち発売となった際にはサイトの規定でいずれ作品取り下げとなりますが、
今作の初投稿はアルファさんでその時にたくさん応援いただいたため、もう少し時間ありますので皆様に読んでいただけたらと第二部更新いたします。
第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。
転生関係の謎にも触れてますので、ぜひぜひ更新の際はお付き合いいただけたら幸いです。
2025.9.9追記
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる