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其は天命の刻、誰が為の決意
叫ぶ偽者に祝福を。
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「何……も、覚えていない……って、どういう……」
『ええ、うん、そう! 貴方は本当に何も! 何も覚えていない!
あの子と……ルビーと遊んだ日々も! 私と一緒に、石造りの広場を駆け巡った思い出も! 貴方の両親を殺したのが、貴方自身だって事も、全部ぅっ!!!!』
何を———本当に、何を言ってるんだ、本当に、君は———、
『今更……今…………更、何も知らなかったって、シラを切るつもりなら……私は貴方を許さない、絶対にっ!』
「……そだ……嘘だ、嘘を……つくんじゃない、嘘なんだろう、嘘なんだろ、嘘に決まって———」
『全部本当のことだってのぉっ!!!!』
「何で———何で、なんでなんでなんで……!」
体の震えが止まらない。どこまでも理解が続かない恐怖と、自分の本当にしでかしたことへの畏怖と、自分が忘れていた記憶の断片に対するさまざまな感情が混濁し、絡み合い、どこまでもとめどなく凝縮されていく中で。
僕は、僕が本当に僕なのか。
僕は何者なのかが、分からなくなってしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『ケイ君? ケイくーんっ! なーにしてるのっ?』
無邪気な、そして未だ幼かった彼女の笑顔に、僕の心は踊っていたのかもしれない。
血塗れに染まり、床に力なく倒れ込んだ父と母を見つめながら。あろうことか僕は、その時笑っていたのかもしれない。
……そんなの、もう既に人間なんかじゃないだろ、っても思った。
結局のところ、邪魔だったのだ。
オリュンポスの伏兵として、他人に憑依することで今までを過ごしてきた僕にとって、早めに勘付きそうな『ケイ』の親と『リコ』の親は、邪魔でしかなかったのだ。
『ケイ君、どうし———ひっ!』
物陰から顔を出した彼女の顔は、子供ながらに地獄を見てきたかのように歪んでいたことは、今でもひどく覚えている。
———はずだった。
『……だめ、ルビー……見ちゃ……ダメ』
彼女はそっと、その手に抱いた小さなスライムを手のひらで覆い隠す。この凄惨な光景を見られることが、よっぽど嫌だったのだろう。
『……ケイ君、これって……』
「僕が」
空気が一変したのを感じ取る。そうだ、僕が殺したんだ。僕の父も、母も。そして君の父も、母も。
だからいつまでも、父の名前が思い出せなかった。だからいつまでも、母の存在が霧で覆い隠されていた。そう言うことだったんだな。
「僕が、殺したんだよ。
……逃げてくれ、リコ」
それが———数年前のそれっきりが最後になるなんて。
それが本当のケイが呼ぶ、最後の君の名になるなんて———僕は想像することすらしなかったろうに。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『……で、僕の身体は———僕の名前と顔で過ごす気分はどうだった?……ゴルゴダ機関、第7番隊旧隊長、百面相———いや、本当の名前で呼んだ方がいいかな。
そうでしょ、トゥルース?』
今僕の目の前に立っている、僕の姿と僕の声をしたこの男が、僕の本物なのだと。僕は無意識に理解した。
そう、僕は。
「僕……は、偽物……だったか……」
『……そうだよ。オリュンポスより送り込まれた、他人に憑依する形の、神技が使えるスパイ。それが君で、そして君は僕の体を奪い取った。オリュンポスの伏兵として。
いつか来たるこのような戦いにおいて、常にオリュンポスが優位に立つためのスパイとして。
それから僕の生活を、親を、全てを破壊して、そしてその記憶を封印して生活していた』
知りたくなんて、なかった。知りたいわけないじゃないか、こんな真実、こんな真実……なんて……!
『君が僕を殺した。君が僕を壊した。それは事実だ。その罪から、君は逃れることができない。今後一生をかけて、その罪を償っていくしかない。
それが記憶を自分で封印した君に送る、たった1つの最悪の罰だ』
男は———ケイは後ろに振り向き、そして足を進め始める。『そこで惨めに朽ち果てるがいい』とも言わんばかりの、呆れ果てた顔をして。
「……1つだけ、聞きたいことがある」
『なに?』
「この、気持ちは……本物なのか。僕は偽物だ、君になりすましたただの他人だった、でも———あの子が好きでたまらないというこの気持ちは、本物の僕の気持ち……なのか……!」
彼の顔が、優しい微笑みに変わった。まるで僕を送り出すような、そんな勇ましさと包容力を持った顔に。
『そうか、君は……そう思ったんだね。自分の使命に従うまでもなく、君は———僕と同じように、あの子を好きだと感じてしまったんだね。
……だったら……それはとてもいいことだ。僕はこのまま進んで、いずれ君と溶け合ってしまう。だけど、君はこれからも生き続ける。僕と君が混ざり合った人間性を持って、これからもずっと生き続ける。
その中でもし、あの子が本当に好きだと思うのなら———その気持ちは、きっと貫くに値するものだと、僕は考えるよ。
いってらっしゃい、偽物の僕。あの子を本当に愛せる気持ちがあると言うのなら、僕はそれを———ただひたすらに、応援しているから』
◆◇◆◇◆◇◆◇
『ええ、うん、そう! 貴方は本当に何も! 何も覚えていない!
あの子と……ルビーと遊んだ日々も! 私と一緒に、石造りの広場を駆け巡った思い出も! 貴方の両親を殺したのが、貴方自身だって事も、全部ぅっ!!!!』
何を———本当に、何を言ってるんだ、本当に、君は———、
『今更……今…………更、何も知らなかったって、シラを切るつもりなら……私は貴方を許さない、絶対にっ!』
「……そだ……嘘だ、嘘を……つくんじゃない、嘘なんだろう、嘘なんだろ、嘘に決まって———」
『全部本当のことだってのぉっ!!!!』
「何で———何で、なんでなんでなんで……!」
体の震えが止まらない。どこまでも理解が続かない恐怖と、自分の本当にしでかしたことへの畏怖と、自分が忘れていた記憶の断片に対するさまざまな感情が混濁し、絡み合い、どこまでもとめどなく凝縮されていく中で。
僕は、僕が本当に僕なのか。
僕は何者なのかが、分からなくなってしまった。
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『ケイ君? ケイくーんっ! なーにしてるのっ?』
無邪気な、そして未だ幼かった彼女の笑顔に、僕の心は踊っていたのかもしれない。
血塗れに染まり、床に力なく倒れ込んだ父と母を見つめながら。あろうことか僕は、その時笑っていたのかもしれない。
……そんなの、もう既に人間なんかじゃないだろ、っても思った。
結局のところ、邪魔だったのだ。
オリュンポスの伏兵として、他人に憑依することで今までを過ごしてきた僕にとって、早めに勘付きそうな『ケイ』の親と『リコ』の親は、邪魔でしかなかったのだ。
『ケイ君、どうし———ひっ!』
物陰から顔を出した彼女の顔は、子供ながらに地獄を見てきたかのように歪んでいたことは、今でもひどく覚えている。
———はずだった。
『……だめ、ルビー……見ちゃ……ダメ』
彼女はそっと、その手に抱いた小さなスライムを手のひらで覆い隠す。この凄惨な光景を見られることが、よっぽど嫌だったのだろう。
『……ケイ君、これって……』
「僕が」
空気が一変したのを感じ取る。そうだ、僕が殺したんだ。僕の父も、母も。そして君の父も、母も。
だからいつまでも、父の名前が思い出せなかった。だからいつまでも、母の存在が霧で覆い隠されていた。そう言うことだったんだな。
「僕が、殺したんだよ。
……逃げてくれ、リコ」
それが———数年前のそれっきりが最後になるなんて。
それが本当のケイが呼ぶ、最後の君の名になるなんて———僕は想像することすらしなかったろうに。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『……で、僕の身体は———僕の名前と顔で過ごす気分はどうだった?……ゴルゴダ機関、第7番隊旧隊長、百面相———いや、本当の名前で呼んだ方がいいかな。
そうでしょ、トゥルース?』
今僕の目の前に立っている、僕の姿と僕の声をしたこの男が、僕の本物なのだと。僕は無意識に理解した。
そう、僕は。
「僕……は、偽物……だったか……」
『……そうだよ。オリュンポスより送り込まれた、他人に憑依する形の、神技が使えるスパイ。それが君で、そして君は僕の体を奪い取った。オリュンポスの伏兵として。
いつか来たるこのような戦いにおいて、常にオリュンポスが優位に立つためのスパイとして。
それから僕の生活を、親を、全てを破壊して、そしてその記憶を封印して生活していた』
知りたくなんて、なかった。知りたいわけないじゃないか、こんな真実、こんな真実……なんて……!
『君が僕を殺した。君が僕を壊した。それは事実だ。その罪から、君は逃れることができない。今後一生をかけて、その罪を償っていくしかない。
それが記憶を自分で封印した君に送る、たった1つの最悪の罰だ』
男は———ケイは後ろに振り向き、そして足を進め始める。『そこで惨めに朽ち果てるがいい』とも言わんばかりの、呆れ果てた顔をして。
「……1つだけ、聞きたいことがある」
『なに?』
「この、気持ちは……本物なのか。僕は偽物だ、君になりすましたただの他人だった、でも———あの子が好きでたまらないというこの気持ちは、本物の僕の気持ち……なのか……!」
彼の顔が、優しい微笑みに変わった。まるで僕を送り出すような、そんな勇ましさと包容力を持った顔に。
『そうか、君は……そう思ったんだね。自分の使命に従うまでもなく、君は———僕と同じように、あの子を好きだと感じてしまったんだね。
……だったら……それはとてもいいことだ。僕はこのまま進んで、いずれ君と溶け合ってしまう。だけど、君はこれからも生き続ける。僕と君が混ざり合った人間性を持って、これからもずっと生き続ける。
その中でもし、あの子が本当に好きだと思うのなら———その気持ちは、きっと貫くに値するものだと、僕は考えるよ。
いってらっしゃい、偽物の僕。あの子を本当に愛せる気持ちがあると言うのなら、僕はそれを———ただひたすらに、応援しているから』
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