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01 二重記憶!?
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ゴ~ンゴ~ンゴ~ン…
イマーゴー王国に午後3時を告げる鐘が鳴り響く。
「…はぁ…」
「おっと、ブルーベル様専属メイドのイブさんがまたも溜息ですねぇ」
「この1時間で何度目でしょうか…
悩みの深さが窺われるというものですなぁ」
プテロプース伯爵家のメイド、イブは窓ガラスを拭く手を止めて振り返る。
メイド仲間が生温かい目でイブを見ている。
イブは2人に向かって口を開く。
「な、悩みって言うより心配よ!
しかも嬉しい心配よ!
ベル様がやっと重い腰を持ち上げて婚活お茶会に出掛けて下さったのだもの!
いい令嬢に出会えるか
婚約まで漕ぎつけるか
いや、絶対ベル様の良さを理解してくれる令嬢と今すぐ婚約して欲しい!
そう思ってるだけ!」
妙に早口になってしまったのを誤魔化す様に笑顔で締める。
「本当それだけ~?」
「ほ、他に何があるというのよ?」
「アハハ、冗談冗談!
『坊ちゃまとメイドの恋』なんてメイドが捨てられて終わるだけ。
そもそもイブはブルーベル様より7才も年上。
恋愛対象外だものね」
「‥そッ
――そうよ…」
イブは空虚な笑顔を作る。
カップルは男性が年上というのが全世界の『常識』。
女性が年上で許されるのは2~3才――
7才も年上なんてあり得ないのだ。
「そうよ、私の望みはベル様の幸せ。
ベル様の立場を盤石にする良縁に恵まれる事だけ…」
実はイブの主であるブルーベルはプテロプース伯爵家の実子ではない。
ここイマーゴー王国では広く移民を受け入れており。
16才未満の保護者の居ない移民は貴族家などが養子として受け入れる制度がある。
16才…つまり成人するまでの間未成年移民を保護する訳だ。
つまり。
そうして受け入れられた移民にとって16才が審判の時となる。
16才時点で『有用』と認められればそのまま養子でいられる。
が、『不要』と判断されれば家を出されてしまうのである。
ブルーベルは約5年前
11才で移民として入国
プテロプース伯爵家が養子として受け入れ…
そしてあと1ヶ月で16才になる。
「兎に角あと1ヶ月!
ベル様の誕生日までに婚約に漕ぎつければ!
たとえここを出される事になっても婚約者家が力になってくれるはず!
だから絶対今日の婚活お茶会で結果を‥
ハッ!?」
この音!?
振り返り思わず窓ガラスに張り付くイブ。
み、見間違い!?
1時間前に出発した伯爵家の馬車が門扉を通り戻って来る様に見える?
雑巾を持ったまま外へ飛び出せば
「イブ、ただいま」
いつも通り、年齢の割に落ち着いた声で。
ブルーベルがクールに馬車から降りてくる。
(見間違いじゃない…
ならばこれは白昼悪夢)
あり得な過ぎて無表情で無言のイブ。
その鼻先にブルーベルが有名パン屋の包みを差し出す。
イブの鼻腔を香しいヴァニラが刺激する。
「こ…これは!」
「イブにお土産。
あ、皆にもあるよ。
後でメイド長に配ってもらってね」
「「いつも私達にまでありがとうございます!」」
イブに付いて来たメイド仲間がお礼を言う。
「う~ん、いい匂い!」
「イブ、それって…」
「うん、間違いない!
『並んでも買えない幻のクッキー』よ!
パン屋の頑固オヤジが気の向いた時にしか焼かないからそう呼ばれているという…
メチャメチャ美味しいらしいわ!
わぁい、嬉しい!
ベル様ありがとうございま‥ハッ!」
クッキーの包みを頭上に掲げ持ちながら小躍りするイブは我に返る。
色気より食い気。
食い気よりベル様なのである!
「こんなに早くお帰りだなんてお茶会は…」
「ああ、行ってない」
「…はぁぁ!?
せっかくの婚活お茶会‥」
「私が参加出来る様に頑張ってくれたイブには悪いけど。
行っても意味ないし」
「そんな事無いです!
ベル様は世間じゃ『まるでダメ男』とか『小太り兄さん』とか言われてますけど私は知ってます!
ベル様はとっても優しくて素敵な人だって!
だけど世間はそれを知らないから縁談が無い…
理不尽過ぎます!
お茶会で1対1で話せばお相手の女性もベル様の素晴らしさに気付くはずです!
それなのに~~~!」
嘆くイブ。
5年前のブルーベルとの出会いから今日までの日々が走馬灯の様に思い出されて――
ン!?
あれ?
おかしい…
ベル様の記憶が2つある?
平民に多い茶髪茶目で
勉強も運動も苦手なポッチャリ系男子
だけどクールで優しくて素敵なベル様
それがまさに今目の前にいるベル様。
その記憶の奥に
別のベル様が見える?
しかもそのベル様は
青藤色の瞳に瞳を薄くした淡藤色の髪
文武両道、才色兼備の超優良物件男子
その上クールで優しくて素敵なベル様
『私も君と同じこの国に逃げて来た難民で…
この家の養子になったばかりなんだ。
だからもっと気楽に接してほしい』
18才でイマーゴー王国に入国しプテロプース伯爵家のメイドとなった私にベル様はそう言って微笑まれた。
それがベル様との最初の記憶。
その出会いから記憶は2つある!?
「あ…あわわのわ」
「イブ?どうし‥
イブッ!?」
突然の2重記憶に耐え切れず
イブはクッキーを抱きしめたまま気絶してしまうのだった…
イマーゴー王国に午後3時を告げる鐘が鳴り響く。
「…はぁ…」
「おっと、ブルーベル様専属メイドのイブさんがまたも溜息ですねぇ」
「この1時間で何度目でしょうか…
悩みの深さが窺われるというものですなぁ」
プテロプース伯爵家のメイド、イブは窓ガラスを拭く手を止めて振り返る。
メイド仲間が生温かい目でイブを見ている。
イブは2人に向かって口を開く。
「な、悩みって言うより心配よ!
しかも嬉しい心配よ!
ベル様がやっと重い腰を持ち上げて婚活お茶会に出掛けて下さったのだもの!
いい令嬢に出会えるか
婚約まで漕ぎつけるか
いや、絶対ベル様の良さを理解してくれる令嬢と今すぐ婚約して欲しい!
そう思ってるだけ!」
妙に早口になってしまったのを誤魔化す様に笑顔で締める。
「本当それだけ~?」
「ほ、他に何があるというのよ?」
「アハハ、冗談冗談!
『坊ちゃまとメイドの恋』なんてメイドが捨てられて終わるだけ。
そもそもイブはブルーベル様より7才も年上。
恋愛対象外だものね」
「‥そッ
――そうよ…」
イブは空虚な笑顔を作る。
カップルは男性が年上というのが全世界の『常識』。
女性が年上で許されるのは2~3才――
7才も年上なんてあり得ないのだ。
「そうよ、私の望みはベル様の幸せ。
ベル様の立場を盤石にする良縁に恵まれる事だけ…」
実はイブの主であるブルーベルはプテロプース伯爵家の実子ではない。
ここイマーゴー王国では広く移民を受け入れており。
16才未満の保護者の居ない移民は貴族家などが養子として受け入れる制度がある。
16才…つまり成人するまでの間未成年移民を保護する訳だ。
つまり。
そうして受け入れられた移民にとって16才が審判の時となる。
16才時点で『有用』と認められればそのまま養子でいられる。
が、『不要』と判断されれば家を出されてしまうのである。
ブルーベルは約5年前
11才で移民として入国
プテロプース伯爵家が養子として受け入れ…
そしてあと1ヶ月で16才になる。
「兎に角あと1ヶ月!
ベル様の誕生日までに婚約に漕ぎつければ!
たとえここを出される事になっても婚約者家が力になってくれるはず!
だから絶対今日の婚活お茶会で結果を‥
ハッ!?」
この音!?
振り返り思わず窓ガラスに張り付くイブ。
み、見間違い!?
1時間前に出発した伯爵家の馬車が門扉を通り戻って来る様に見える?
雑巾を持ったまま外へ飛び出せば
「イブ、ただいま」
いつも通り、年齢の割に落ち着いた声で。
ブルーベルがクールに馬車から降りてくる。
(見間違いじゃない…
ならばこれは白昼悪夢)
あり得な過ぎて無表情で無言のイブ。
その鼻先にブルーベルが有名パン屋の包みを差し出す。
イブの鼻腔を香しいヴァニラが刺激する。
「こ…これは!」
「イブにお土産。
あ、皆にもあるよ。
後でメイド長に配ってもらってね」
「「いつも私達にまでありがとうございます!」」
イブに付いて来たメイド仲間がお礼を言う。
「う~ん、いい匂い!」
「イブ、それって…」
「うん、間違いない!
『並んでも買えない幻のクッキー』よ!
パン屋の頑固オヤジが気の向いた時にしか焼かないからそう呼ばれているという…
メチャメチャ美味しいらしいわ!
わぁい、嬉しい!
ベル様ありがとうございま‥ハッ!」
クッキーの包みを頭上に掲げ持ちながら小躍りするイブは我に返る。
色気より食い気。
食い気よりベル様なのである!
「こんなに早くお帰りだなんてお茶会は…」
「ああ、行ってない」
「…はぁぁ!?
せっかくの婚活お茶会‥」
「私が参加出来る様に頑張ってくれたイブには悪いけど。
行っても意味ないし」
「そんな事無いです!
ベル様は世間じゃ『まるでダメ男』とか『小太り兄さん』とか言われてますけど私は知ってます!
ベル様はとっても優しくて素敵な人だって!
だけど世間はそれを知らないから縁談が無い…
理不尽過ぎます!
お茶会で1対1で話せばお相手の女性もベル様の素晴らしさに気付くはずです!
それなのに~~~!」
嘆くイブ。
5年前のブルーベルとの出会いから今日までの日々が走馬灯の様に思い出されて――
ン!?
あれ?
おかしい…
ベル様の記憶が2つある?
平民に多い茶髪茶目で
勉強も運動も苦手なポッチャリ系男子
だけどクールで優しくて素敵なベル様
それがまさに今目の前にいるベル様。
その記憶の奥に
別のベル様が見える?
しかもそのベル様は
青藤色の瞳に瞳を薄くした淡藤色の髪
文武両道、才色兼備の超優良物件男子
その上クールで優しくて素敵なベル様
『私も君と同じこの国に逃げて来た難民で…
この家の養子になったばかりなんだ。
だからもっと気楽に接してほしい』
18才でイマーゴー王国に入国しプテロプース伯爵家のメイドとなった私にベル様はそう言って微笑まれた。
それがベル様との最初の記憶。
その出会いから記憶は2つある!?
「あ…あわわのわ」
「イブ?どうし‥
イブッ!?」
突然の2重記憶に耐え切れず
イブはクッキーを抱きしめたまま気絶してしまうのだった…
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