反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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一章

旅立ち

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 久々にゆっくり寝られた俺は、辺境伯邸の庭で素振りをしていた。

「カグヤを守るためには、もっと強くならねば……」

 どんな相手でも、負けない強さを……傷ついているカグヤが安心して過ごせるように。
 すると、エリゼが屋敷から出てくる。

「ふむ、朝から精が出るな。それに良い太刀筋だ。あの小僧だったクロウが、こんなに強くなるとは……昨日は任せると言ったが最終試験だ、今から手合わせをする」

「願っても無いチャンスですね。エリゼには一度も勝ったことがありませんから。手合わせのルールは?」

「魔力強化による肉弾戦でいこう。ただし顔はなしだ。出立前に怪我を負わせるわけにいかんし、見栄えも悪いしな」

 その言葉に、少しカチンときた。
 俺だって、それなりに修羅場はくぐってきたつもりだ。

「おや? 俺に怪我を負わせる自信がおありで?  俺こそ、怪我をさせないように気をつけますね。女性の顔に傷をつけるわけにはいきませんから」

「ほう……?言うようになったな……後悔するなよ!」

「そっちこそ!」

 それが合図となり、お互いに魔力を高め殴り合う!
 その一発一発は重く、ばちばちと火花が散る。
 今の俺と肉弾戦で互角とか……やはり、当時は相当手加減をされていたのだな。

「クロウ!  随分とやるようになったな! 魔力コントロールも完璧に近い!」

「アンタこそ相変わらずだな! これでも、相当強くなったんだが! 負けはしないが勝つのも難しそうだ!」

「贅沢な奴だ! 私に勝てる奴など、そうそういないというのに!」

 確かにエリゼは強い。
 おそらく、俺が出会った誰よりも。

「だが俺は誰にも負けるわけにはいかない!」

「くっ!?」

 渾身の一撃を放つと、エリゼが後退する。
 俺は拳を掲げ、エリゼに宣言する……自分への誓いと、エリゼを安心させるために。

「俺は最強を目指す! どんな理不尽なことからもカグヤを守るために!  そしてカグヤが何か願ったのなら、俺は全力を尽くしそれを叶える!」

「……いい気迫だ。悔しいが、やはりお前に任せて正解か。ふふ、まさか私が押し負けるとは」

 どうやら、少しは認めてくれたらしい。
 すると、今度はカグヤが屋敷から慌てて出てくる。

「ちょっと二人共!? 朝から何をやってるのよ!?」

「カグヤか、おはよう。おいおい、寝癖がついてるぞ?」

「お嬢様、おはようございます。お髪《ぐし》を直しましょうね」

「そ、そうじゃなくて! 二人共傷だらけじゃない!」

 そう言いながら、こちらに近づいてくる。

 「全くもう……この者たちの傷を癒したまえ、ヒール」

 エリゼの手が光り、身体が温かいものに包まれる……これは回復魔法か。

「そういえば使えるようになったと言っていたな。凄いな、カグヤ」

「お嬢様、ご成長なさいましたね!  私、感激です!」

「もう! 大袈裟よ!  その……当時クロウが怪我ばっかりしていたから、ずっと覚えたいと思っていて……わ、私の所為でもあるしね!」

 まあ、たしかに……『お嬢様に近づくな!』と言われて、傷だらけになっていたな。
 俺は懲りずに近づき、その度にさっきみたいな殴り合いになったっけ。

 「カグヤ……俺のために……」

「別にクロウのためだけじゃないから!  覚えたら、怪我をした兵士達を治せるかなって……その、王妃として励ませるかなって……でも、意味はなかったわ」

「カグヤ、それは違う。意味がないことなどない。それは、いつの日かきっと役に立つ。
 それに、それはカグヤの努力の証でもある。それを自分で否定してはいけない」

「クロウ……ありがとう。クロウは、いつだって私の欲しい言葉をくれるのね。私は、いつも勇気付けられるわ」

「そんなのは、お互い様だ。うん、カグヤには笑顔が似合う」

「そ、そう?  私も頑張らないと……!」

 カグヤは何故が両頬をペチペチと叩いている。
 何か気合を入れるようなことがあったのだろうか。

「よくわからないが、応援するとしよう。俺に出来ることがあれば、なんでも言ってくれ」

「これは全くもって噛み合っていませんね……前途多難ですか。まあ、私にとっては良いことですか」

 その後、朝食を済ませたら……いよいよ出発の時間となる。
 俺とカグヤはフードを被り、こっそりと裏口に向かう。
 見送りは、ヨゼフ様とエリゼだけだ。

「では、クロウ。すまんがよろしく頼む……!」

「私からも頼む。 お嬢様をお守りしてくれ……!」

 そう言い、二人して頭を下げてくる。
 本当なら自分達で守りたいだろうに、俺を信頼してくれている。
 この期待……裏切るわけにはいかない。

「二人とも、頭を上げてください。これは俺自らが望んだこと、頼まれなくてもカグヤは俺が守ります」

「よ、よろしくね……これから二人きりかぁ」

 俺は先に馬に乗り、もじもじしているカグヤに手を差し伸べる。

「ほら、行こう。カグヤ、これからもよろしく頼むな」

「そんなのこちらの台詞だわ……クロウ! これからも私と一緒にいて!」

「当たり前だろ。言われなくても一緒にいる」

「……うん!」

 笑顔になったカグヤを後ろに乗せ、マルグリット王国に向けて走り出す。

「クロウ! お嬢様を泣かせたら承知しないぞ!」

「カグヤ! クロウと仲良くやるんじゃぞ!」

 「お父様! エリゼ! 二人がいてくれて私は幸せよ! また会える日を楽しみにしてるわ!」

 カグヤは手を振りながら、そう応えるのであった。
 そして二人が見えなくなると、トスとカグヤが俺の背中に寄りかかる。

「クロウ、振り向かないでね……背中、貸してくれる……?」

「ああ、見ない。俺のでよければ、いつでも貸そう」

「ありがとう……グスッ……ヒック……お父様……エリゼ……!」

 カグヤを溺愛している二人に託されたこの使命。

 必ずや、果たしてみせよう——俺の全身全霊をかけて。




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