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ずっと君だけ
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想定外の出来事にどうなることかと思ったが、ネネリアは無事にプレゼントを受け取ってくれた。
戸惑いの中にも見えた彼女の微笑み。嬉しかった。喜んでくれたのだ。ずっと渡せずにいた、あのプレゼントを。
「……お前達、やってくれたな」
ネネリアが去った後、俺は後ろを振り返り、精霊達をギロリと睨みつけた。
そこには反省もなく、“大成功!”とでも言わんばかりにはしゃぐ精霊達の姿がある。
「ハンカチも髪飾りも……あの指輪まで! いつの間に見つけた? お前達には隠していたはずなのに」
俺を出し抜いたことで、精霊達はキャッキャと喜ぶ。
本当にいたずら好きで困る。
「はあ……」
精霊達に八つ当たりしても仕方がない。彼等は、意気地無い俺と鈍感なネネリアが心配になって、おせっかいをやいているだけなのだ。
いつもいつも、プレゼントを渡せなかった俺が悪い。
思い返せば、最初に贈り物を用意したのはネネリアが八歳の頃だった。
街で見かけた優しい色合いのハンカチに、ネネリアの面影を感じて……つい手に取ってしまったものだ。
俺の贈ったハンカチをネネリアが使ってくれたならどんなに幸せだろう。誰かに物を贈りたいと思ったのは、この時が初めてだった。
しかし俺は、ネネリアにそれを渡せなかった。ただの友人同士という関係で、なんでもない日に突然贈り物をするなんておかしいかもしれない……と、幼い俺は悩みに悩んだのだ。
その結果、ハンカチは引き出しの奥へとしまい込まれることになる。
次に用意した手鏡は、ネネリアが十二歳になった誕生日に誕生日プレゼントとして選んだものだった。
いつも俺ばかりを褒め、自分の愛らしさを分かっていないネネリア。そんな彼女に、ちゃんと自分の魅力を分かってもらおう――そう思い、プレゼントは鏡に決めたのだった。
しかし誕生日直前になって俺は怯んだ。そんな風に彼女の魅力を押しつけがましく伝えるなんて、気味悪がられるのではないか……そう思った途端、我に返ったのだ。
結局、誕生日プレゼントとして贈ったのは、無難な花束だった。もちろん、ネネリアは喜んでくれたけれど。
三つ目の髪飾りも、俺が用意したものだった。あれはネネリアが十六歳の時に選んだ。
俺はこの頃になってやっと気付いたのだ。街の少女達がアクセサリーで着飾っていることに。
けれど森に来るネネリアはいつも、決まったワンピースにエプロン、革靴といった素朴な姿。アクセサリーをつけている姿など見たためしが無い。もしかしてああいったものを持っていないのではないか……そんな疑念も頭をかすめた。
髪にリボンを巻いていることはあるけれど、あれが髪留めでも愛らしいのではないか。ネネリアの着飾った姿を想像した俺はいても立っても居られなくなり、気付いた時には買い求めていた。
我に返ったのは購入後、店員から「恋人用のプレゼントですか」と問いかけられた時だ。
恋人でもないのに、アクセサリーを贈るなど……と、そんな自分の行動に若干引いてしまった。ネネリアにまで引かれてしまったら、俺はもう立ち直れない。髪飾りは、屋敷に戻るやいなや、引き出しの奥深くへと封印した。
どれもこれも、いつか恋人になった時に渡せればいい……いつも自分に言い訳をしながら。
けれど今日、精霊達がやってのけたことで、俺のプレゼントはようやくネネリアの手に渡った。
戸惑いながらも受け取ってくれた、ネネリアの微笑み。それを見ただけでも、過去の想いが報われた気がした。
そして、サファイアの指輪は――
「お前達、指輪のありかも知っていたのか」
俺の問いかけに、精霊達はこくこくと頷いている。「当たり前だろう」とでも言うように。
まったく……精霊達にはかなわない。
あのサファイアの指輪は、我がアレンフォード家の花嫁に受け継がれているものだ。
指輪の中央に輝くサファイアは、代々青い瞳を持つアレンフォード家の象徴。先日、精霊守を継いだ際、母からあの指輪も一緒に託されたのだった。
『もしプロポーズするのなら……これをネネリアちゃんに渡してあげて。身に付けると、花嫁にはおもしろいことが起こるのよ』
花嫁の証をネネリアに――
母によると、この指輪をつけることで不思議なことが起こるらしい。が、俺にとってそんなことは二の次だった。
(これを渡して受け取ってもらえれば、ネネリアはアレンフォード家の花嫁になる――)
指輪を手にした途端、夢にまで見たネネリアとの結婚が現実味を帯びて、俺の想いは加速した。
早く、早く。早く準備をしなければ。
ネネリアが住みやすいように、ネネリアが喜んでくれるように、とびきり心地よい屋敷に仕上げよう。
そして準備が整ったら、いよいよ指輪を渡すのだ。
そう思っていたのに――
まさか、精霊達に先を越されてしまうなんて。
精霊達は、ネネリアのことを溺愛している。
俺が精霊守としてアレンフォード家を継いだ途端、毎日のように「早く結婚しろ」と、求婚を急かすほど。
幼い頃から懸命に生きる幼いネネリアに、精霊達は惚れ込んでしまったのだ。ただの人間なら、精霊はこんなに懐かない。
あの日、ボロボロの服を着た少女は、俺を見て柔らかく笑った。
こんな森で一人きり、得体の知れぬ精霊に纏わりつかれて、森の奥まで連れてこられ……普通の子供なら、恐怖で泣いてもおかしくないのに。
『すてきなところですね』
木漏れ日の中でネネリアが微笑んだその日から、俺の胸にはネネリアだけが住んでいる。
戸惑いの中にも見えた彼女の微笑み。嬉しかった。喜んでくれたのだ。ずっと渡せずにいた、あのプレゼントを。
「……お前達、やってくれたな」
ネネリアが去った後、俺は後ろを振り返り、精霊達をギロリと睨みつけた。
そこには反省もなく、“大成功!”とでも言わんばかりにはしゃぐ精霊達の姿がある。
「ハンカチも髪飾りも……あの指輪まで! いつの間に見つけた? お前達には隠していたはずなのに」
俺を出し抜いたことで、精霊達はキャッキャと喜ぶ。
本当にいたずら好きで困る。
「はあ……」
精霊達に八つ当たりしても仕方がない。彼等は、意気地無い俺と鈍感なネネリアが心配になって、おせっかいをやいているだけなのだ。
いつもいつも、プレゼントを渡せなかった俺が悪い。
思い返せば、最初に贈り物を用意したのはネネリアが八歳の頃だった。
街で見かけた優しい色合いのハンカチに、ネネリアの面影を感じて……つい手に取ってしまったものだ。
俺の贈ったハンカチをネネリアが使ってくれたならどんなに幸せだろう。誰かに物を贈りたいと思ったのは、この時が初めてだった。
しかし俺は、ネネリアにそれを渡せなかった。ただの友人同士という関係で、なんでもない日に突然贈り物をするなんておかしいかもしれない……と、幼い俺は悩みに悩んだのだ。
その結果、ハンカチは引き出しの奥へとしまい込まれることになる。
次に用意した手鏡は、ネネリアが十二歳になった誕生日に誕生日プレゼントとして選んだものだった。
いつも俺ばかりを褒め、自分の愛らしさを分かっていないネネリア。そんな彼女に、ちゃんと自分の魅力を分かってもらおう――そう思い、プレゼントは鏡に決めたのだった。
しかし誕生日直前になって俺は怯んだ。そんな風に彼女の魅力を押しつけがましく伝えるなんて、気味悪がられるのではないか……そう思った途端、我に返ったのだ。
結局、誕生日プレゼントとして贈ったのは、無難な花束だった。もちろん、ネネリアは喜んでくれたけれど。
三つ目の髪飾りも、俺が用意したものだった。あれはネネリアが十六歳の時に選んだ。
俺はこの頃になってやっと気付いたのだ。街の少女達がアクセサリーで着飾っていることに。
けれど森に来るネネリアはいつも、決まったワンピースにエプロン、革靴といった素朴な姿。アクセサリーをつけている姿など見たためしが無い。もしかしてああいったものを持っていないのではないか……そんな疑念も頭をかすめた。
髪にリボンを巻いていることはあるけれど、あれが髪留めでも愛らしいのではないか。ネネリアの着飾った姿を想像した俺はいても立っても居られなくなり、気付いた時には買い求めていた。
我に返ったのは購入後、店員から「恋人用のプレゼントですか」と問いかけられた時だ。
恋人でもないのに、アクセサリーを贈るなど……と、そんな自分の行動に若干引いてしまった。ネネリアにまで引かれてしまったら、俺はもう立ち直れない。髪飾りは、屋敷に戻るやいなや、引き出しの奥深くへと封印した。
どれもこれも、いつか恋人になった時に渡せればいい……いつも自分に言い訳をしながら。
けれど今日、精霊達がやってのけたことで、俺のプレゼントはようやくネネリアの手に渡った。
戸惑いながらも受け取ってくれた、ネネリアの微笑み。それを見ただけでも、過去の想いが報われた気がした。
そして、サファイアの指輪は――
「お前達、指輪のありかも知っていたのか」
俺の問いかけに、精霊達はこくこくと頷いている。「当たり前だろう」とでも言うように。
まったく……精霊達にはかなわない。
あのサファイアの指輪は、我がアレンフォード家の花嫁に受け継がれているものだ。
指輪の中央に輝くサファイアは、代々青い瞳を持つアレンフォード家の象徴。先日、精霊守を継いだ際、母からあの指輪も一緒に託されたのだった。
『もしプロポーズするのなら……これをネネリアちゃんに渡してあげて。身に付けると、花嫁にはおもしろいことが起こるのよ』
花嫁の証をネネリアに――
母によると、この指輪をつけることで不思議なことが起こるらしい。が、俺にとってそんなことは二の次だった。
(これを渡して受け取ってもらえれば、ネネリアはアレンフォード家の花嫁になる――)
指輪を手にした途端、夢にまで見たネネリアとの結婚が現実味を帯びて、俺の想いは加速した。
早く、早く。早く準備をしなければ。
ネネリアが住みやすいように、ネネリアが喜んでくれるように、とびきり心地よい屋敷に仕上げよう。
そして準備が整ったら、いよいよ指輪を渡すのだ。
そう思っていたのに――
まさか、精霊達に先を越されてしまうなんて。
精霊達は、ネネリアのことを溺愛している。
俺が精霊守としてアレンフォード家を継いだ途端、毎日のように「早く結婚しろ」と、求婚を急かすほど。
幼い頃から懸命に生きる幼いネネリアに、精霊達は惚れ込んでしまったのだ。ただの人間なら、精霊はこんなに懐かない。
あの日、ボロボロの服を着た少女は、俺を見て柔らかく笑った。
こんな森で一人きり、得体の知れぬ精霊に纏わりつかれて、森の奥まで連れてこられ……普通の子供なら、恐怖で泣いてもおかしくないのに。
『すてきなところですね』
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