僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

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第15話

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遅番の仕事を終え、静まり返った職員玄関を出る。冷たい夜風が肌を刺し、自然と首をすくめた。
「今日も疲れたな…」
欠伸をしながら駐車場に向かって歩き出す。足元の砂利が音を立て、闇夜にわずかな音だけが響いていた。

その時だ。背中に、視線を感じた。
なんとなく振り返ろうとしたが、心の奥に不安が芽生え、それを拒絶するように首を止めた。

気のせいだ。誰もいるはずがない。
自分にそう言い聞かせ、歩調を速める。だが、その瞬間――

後ろから、足音が聞こえた。

ザリ…ザリ…。

小さく、規則的に砂利を踏む音。俺の歩調に合わせるように、音が追ってくる。

誰かいる…?
胸がざわつき、冷たい汗が額を伝う。恐怖心を振り払うようにさらに歩調を速めると――

足音も、それに合わせて速くなった。

ザッ、ザッ、ザッ…。

明らかに、俺の背中を追いかける音だった。

「…誰だ?」
震える声で呟いたが、返事はない。代わりに、足音だけがさらに近づいてきた。

走るしかない。

俺は心臓を握りつぶされるような恐怖を振り払うように駆け出した。足音もまた、それを追うように響き渡る。

ザッ、ザッ、ザッ…

振り向く勇気はなかった。駐車場の車が見えてくるまで、ひたすら走った。
だが、車が近づいても、足音は止むどころかますます大きくなる。

どれだけ走っても、追ってくる。
俺は息を切らしながら車に乗り込み、ドアをロックした。震える手でシートベルトを引き、ようやく装着する。
「落ち着け…大丈夫、ただの勘違いだ…」
そう自分に言い聞かせながら、キーを差し込もうとした瞬間――

バンッ!

轟音が車内に響き、体がビクリと跳ねた。窓ガラスを強く叩く音。反射的に目線を窓に向けると――

そこには、光がいた。

暗闇の中、無表情の顔がガラス越しに俺を見つめている。目だけが異様に光を反射し、寒気が背筋を駆け抜けた。

「……っ!」

叫びたくても声が出ない。ただただ視線を逸らしたくても、身体が硬直して動けない。

バン!バン!

窓ガラスを叩く音が激しくなる。拳で叩く音が耳をつんざくように響く。光の無機質な瞳が俺の一挙一動を見逃すまいと睨みつけている。

何度も何度も叩く音が止まらない。

「開けろよ…裕貴。」

くぐもった声が窓越しに聞こえた。低く、静かに、だけど確実に俺を追い詰める声。

「開けろって言ってるだろ…夫婦だろう?俺たち。」

その言葉がまるで耳元で囁かれたように感じられ、背中が氷のように冷たくなった。俺は震える手でキーを差し込むが、何度も滑って床に落としてしまう。

「くそっ…くそっ!」

慌てて拾い上げ、再びキーを差し込む。だが、手が震えてうまく回せない。

バン!バン!バン!

窓ガラスを叩く音はますます激しくなり、今にも割れそうな勢いだ。光の顔は笑みとも無表情ともつかない異常な表情に歪んでいる。

「早く動いてよ…お願い…!」

俺は必死にエンジンをかけるが、車はうんともすんとも言わない。冷や汗が額を伝い、手はさらに震え、息が荒くなる。

バン!バン!バン!

「裕貴…開けろよ…絶対逃がさないから。」

光の声が狂気に満ちて低く響く。俺の心臓は音を立てて早鐘を打つ。

「なんで動かないんだよ!」

何度も何度もキーを回すが、車はまるで意地悪をしているかのように沈黙したまま。

振り返れば、光の手が血を滲ませながら窓を叩き続けている。

バン!バン!バン!

「裕貴。君は俺のものだ。」

その瞬間、車のエンジンがようやく唸りを上げた。しかし、その音ですら光の狂気じみた声や、窓を叩き続ける音を完全には掻き消せなかった。

「やっとかかった…!」

俺は震える手でライトをつけ、アクセルを全速力で踏み込む。車が急発進し、その場を一気に離れる。タイヤが路面を引き裂く音が響き、俺の心臓の音に重なる。

呼吸が荒い。胸が苦しい。冷たい汗が背中を伝う中、ルームミラーに目をやった

光が、暗闇の中でじっと俺を見つめていた。

遠ざかる彼の姿。それでも、目が合った気がして思わず視線をそらす。なのに、あの不気味な視線の感触は消えない。背後から突き刺さるような感覚が、俺の心を締め付ける。

「大丈夫…これで逃げ切れた…はずだ…」

声に出しても、不安は消えない。ルームミラーを何度も確認しながら、俺はアクセルをさらに踏み込んだ。
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