僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

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第17話

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今日は歩夢とデートの日。
久しぶりの休日をどう使うか、悩んだ末に「せっかくだからお洒落をしてみよう」と決めた。クローゼットを何度も開け閉めして、選んだのは淡いブルーのシャツと黒いパンツの組み合わせ。少しきれいめにしすぎたかもしれないが、歩夢くんに「似合ってますね」と言ってもらえるような服装を選んだつもりだ。

鏡の前で髪を整え、控えめに香水をつけて仕上げる。時計を見ると、まだ約束の時間まで30分ほどある。少し早いが、待ち合わせ場所に向かうことにした。


 待ち合わせ場所は、駅前の大きな噴水広場だ。休日になると賑わいを見せるその場所で、歩夢くんを待つ。
噴水のそばにあるベンチに腰掛け、スマートフォンをいじるふりをしながら周囲を見渡すが、視線は自然と時計の針に向いてしまう。

「少し早く着きすぎたかな……」
周りのカップルや家族連れを見ていると、緊張がじわじわと胸を締め付けてくる。

そんな時、視界の端に見覚えのある姿が入った。

「裕貴さん!」

歩夢くんの声が聞こえた瞬間、胸の高鳴りが一気に加速する。声のする方を見ると、歩夢くんが人混みの中をかき分けるようにしてこちらに向かってくるのが見えた。
黒のジャケットに白いインナー、足元はスニーカーと歩夢くんらしいカジュアルな装いだが、どこか垢抜けた雰囲気が漂っている。

「歩夢くん、こっちだよ。」
俺が手を振ると、彼はいつもの笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。

「お待たせしました!……あれ、先輩、今日はなんかすごくお洒落じゃないですか?」
歩夢くんは目を見開き、まじまじと俺の服装を見つめる。

「そうかな?たまにはこういう格好もいいかなって思ってさ。」
「めっちゃ似合ってますよ。なんか、俺より大人っぽい……ちょっと緊張しちゃいます。」

彼が冗談めかして頭を掻きながら照れるのを見て、思わず笑ってしまう。

「じゃあ、今日は俺がリードしなきゃだね。」
「いやいや、俺も負けませんから!どこから行きます?」

歩夢くんと一緒にいると、さっきまでの緊張も嘘のように消えていく。
今日はどんな一日になるのだろう――そんな期待に胸を膨らませながら、俺たちは噴水広場を後にした。



  「じゃあ、今日はここで遊びますか!」

駅から少し離れた郊外のアスレチックパーク。吊り橋やジャングルジム、ターザンロープが並ぶ広大な施設を目の前に、歩夢くんが無邪気に笑った。

「先輩、こういうの得意ですか?」
「いや、昔は得意だったけど、もう体力に自信ないな。」
「大丈夫ですよ!俺がサポートしますから!」



 まず挑戦したのは高さ5メートルの吊り橋。
板が一定間隔で並んでいるだけの細い橋は、風に揺れて頼りない。

「うわっ、高っ……!」
「先輩、早く来てください!俺、待ってますよ!」

先を歩く歩夢くんが振り返って手を振る。その余裕たっぷりの顔に鼓舞され、一歩踏み出したものの、揺れる足元に思わず足が止まる。

「先輩、怖いなら手を貸しますよ?」

後ろから歩夢くんの声が聞こえる。振り返ると、彼は片手を伸ばして俺に微笑んでいた。

「……頼む。」

その手を取ると、彼の手は想像以上に温かくて、心臓が不意に跳ねた。

「ほら、大丈夫ですよ。俺がついてますから。」

一歩一歩進むたび、歩夢くんの手が俺の不安を払うように力強く握ってくれる。橋を渡りきった瞬間、俺は思わず深く息を吐き出した。

「ほら、やればできるじゃないですか!」
「ありがとう。おかげで助かったよ。」

そのまま手を離そうとしたけど、歩夢くんはしばらく俺の手を握ったまま微笑んでいた。

その自信満々な笑顔に、俺はつい笑ってしまう。


 次に挑戦したのは巨大なジャングルジム。頂上に登れば景色が一望できるらしいが、途中で足を滑らせてしまった。

「っ、危ない!」
「先輩!」

咄嗟に歩夢くんが俺の腕を掴み、落ちるのを防いでくれる。

「大丈夫ですか?」
「ごめん、助かった……。」

彼の顔が至近距離にあって、息が詰まる。

「もう、気をつけてくださいよ。俺がいなかったら落ちてましたよ?」
「悪い、頼りにしてるよ。」
「先輩、それ言うと俺、なんでもしてあげたくなっちゃいますよ?」

不意に、彼の腕の中でぎゅっと抱き寄せられた。

「歩夢くん?」
「……危なっかしい先輩、俺が守りますから。」

低く囁かれる声に、心臓が跳ね上がる。



 最後に挑戦したのはターザンロープ。

「じゃあ、俺が先に滑りますね!」

歩夢くんは勢いよく滑り降り、地面に軽やかに着地して振り返った。

「先輩も、やってみてください!」

俺も続こうとロープを掴んで飛び出したものの、着地がうまくいかず、勢い余って転んでしまった。
「先輩!」
咄嗟に歩夢くんが受け止めてくれる。

「本当に危なっかしいですね、先輩は。」
「……悪い。」

歩夢くんの腕に支えられたまま、俺たちの顔が近づく。彼の瞳が真剣に俺を見つめていて、視線を外せない。

「先輩、こういうの、俺だけじゃだめですか?」
「え……?」
「他の人に頼らないでくださいよ。俺が、ずっと先輩を守りますから。」


真っ直ぐな言葉に胸がいっぱいになり、返事ができないまま、彼の腕の中で顔を伏せるしかなかった。


 アスレチックで散々汗を流した俺たちは、木陰のベンチに腰掛け、一息ついていた。
歩夢くんが額の汗をぬぐいながら、疲れた笑顔で「楽しいっすね」とつぶやく。その笑顔を見ていると、俺の胸の中がじんわりと温かくなる。

「歩夢くん、飲み物買ってくるよ。何がいい?」
「えっと、お茶がいいです。」
「了解。少し待ってて。」

俺は立ち上がり、近くの自動販売機へと向かった。

自動販売機にたどり着き、ポケットから小銭を探しながら、歩夢くんのお茶と自分の飲み物を選ぶ。硬貨を投入しようとしたその瞬間、不意に後ろから声がした。

「久しぶり、裕貴。」

背筋に冷たいものが走る。
その声は、忘れようとしても忘れられない声だった。恐る恐る振り返ると、そこには光が立っていた。

「あ…光……?」

喉が乾き、声が震える。なぜここにいる?どうして俺を見つけた?頭の中が混乱する中、彼はゆっくりと微笑みながら一歩近づいてきた。

「こんなところで会えるなんて、やっぱり俺たち運命だ。」

その笑顔にはどこか不気味なものがあった。以前の光とは違う、何か狂気じみた雰囲気が滲んでいる。

俺は無意識に一歩後ずさり、冷静を装おうとするが、声がうまく出ない。

「な、なんでここに……。」


光の視線が鋭く、絡みつくように俺を捉える。その場から逃げ出したいのに、足が動かない。
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