僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

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第36話   僕がそばにいる理由

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「宮野くん!奥さん、子供産まれたって!」

その言葉が飛び込んできた瞬間、俺は手に持っていたカルテを落としそうになった。先輩看護師の声が、俺の耳に強烈に響く。

「えっ……え?」
一瞬、頭が真っ白になる。俺の奥さんって――裕貴先輩?いやいや、そんなわけが――。

先輩看護師はニヤリと笑って俺を指差す。
「そうそう、宮野くんのことだよ!休憩中に裕貴さんから電話があってね、無事に元気な赤ちゃんが産まれたって!」

言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
「本当に……ですか?」
先輩は頷きながら、にやにやと俺を見つめている。

「ほら、さっさと仕事終わらせて行ってきなよ!新米パパさん。」
俺は慌てて「ありがとうございます!」と礼を言うと、全力で動き出した。

急ぎ足で患者さんの処置を終えながら、胸の鼓動がどんどん早くなる。裕貴先輩が赤ちゃんを……。あの優しくて、どこか頼りない先輩が俺たちの大事な子供を――。

頭の中で彼の笑顔が浮かぶ。その笑顔が今、どんなに幸せに満ちているんだろうと思うと、涙が出そうだった。

「待っててください、先輩。」
俺は心の中でそう呟きながら、今日の仕事を全力で片付け始めた。


仕事を終えると、俺はほとんど走るようにして病院の廊下を駆け抜けた。先輩看護師に報告を受けてからずっと、胸が高鳴りっぱなしだ。裕貴先輩が赤ちゃんを――俺たちの子供を無事に産んでくれた。

病室のドアが視界に入ると、思わずスピードを上げた。心臓が爆発しそうなくらい早く動いている。

「先輩!」

俺は病室のドアを開けるなり声を張り上げた。裕貴先輩はベッドの上で穏やかに微笑んでいた。顔には疲れが見えるものの、その目には幸せが溢れている。そして、彼の腕の中には小さな赤ちゃんが包まれていた。

「歩夢くん……来てくれたんだね。」
「当たり前じゃないですか!」

俺はベッドに駆け寄ると、赤ちゃんを抱える裕貴先輩の隣に座った。赤ちゃんの顔を覗き込むと、なんて小さくて、なんて可愛いんだろうと思う。

「見て、歩夢くん。この子、あなたに似てるよ。」
裕貴先輩は疲れた声で笑いながらそう言った。

「本当だ……先輩、すごいよ。本当に……ありがとう。」

気づけば俺の目には涙が浮かんでいた。こんなに小さな命を、この手で守っていくんだ。そう思うと、感謝と愛しさで胸がいっぱいになった。

裕貴先輩の頬にそっと手を添えると、彼も静かに目を閉じた。
「歩夢くん……俺、頑張ったよね?」
「ああ、すごく頑張った。先輩は最高の奥さんで、最高のお母さんだ。」

裕貴先輩は微笑んだあと、少し真剣な表情で俺を見つめた。
「歩夢くん……俺のこと、名前で呼んでくれる?もう…結婚してるし。名前で呼んで欲しいな。」

その言葉にドキッとした。裕貴先輩――いや、裕貴の顔には少し恥ずかしそうな赤みが差していた。

「……裕貴。」

俺が名前を呼ぶと、裕貴は驚いたように目を見開き、それからすぐに柔らかな笑顔を浮かべた。

「……ありがとう、歩夢くん。これからも、よろしくね。」

俺は赤ちゃんをそっと撫でながら、彼の手をしっかりと握り返した。
「こちらこそ、裕貴。俺がずっと守りますから。」

二人で見つめ合い、心からの幸せを感じた瞬間だった。




  赤ちゃんの小さな寝息が静かな病室に響く。その穏やかな音が、疲れ切った裕貴先輩の顔をさらに柔らかくしていた。俺はベッドのそばに座り、彼の手を握りしめたまま、ただその姿を見つめていた。

裕貴先輩は、少しだけ笑顔を浮かべながらも、ふと不安そうな目を俺に向けた。

「歩夢くん……俺、本当にこれでよかったのかな。赤ちゃんが無事に生まれて、今こうして一緒にいるけど……俺、ちゃんとこの子の親になれるのかな……。」

その声は震えていて、彼の心の奥底にある迷いと不安が痛いほど伝わってきた。俺はその手をぎゅっと握り、優しく微笑みかけた。

「先輩、大丈夫だよ。俺たちは一緒にこの子を育てていくんだ。先輩がどれだけ頑張ってきたか、俺が一番知ってる。だから、何も心配いらない。」

裕貴先輩は視線を落とし、赤ちゃんをそっと見つめた。その小さな命に触れるたびに、彼の瞳が少しずつ涙で潤んでいく。

「……歩夢くん、俺、ずっと思ってたんだ。歩夢くんがこんな俺のそばにいてくれる理由って、何なんだろうって。」

その言葉に、一瞬息を呑んだ。彼の声には、迷いと同時に強い期待が込められていた。俺は一度深く息を吸い込み、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

「先輩が俺のそばにいる理由、それをずっと考えてたんだね。でも、俺がそばにいる理由はね、簡単だよ。」

「……簡単?」

「ああ、簡単。俺にとって先輩は、何よりも大事な存在だからだよ。」

裕貴先輩の目が大きく見開かれる。俺はその手をさらに優しく包み込みながら、心の底からの想いを伝えた。

「先輩が笑うだけで、俺は幸せになれる。先輩が辛いときは、俺がその痛みを全部引き受けたい。それが俺の生きる理由なんだ。だから、俺がそばにいるのは、ただ先輩が大事で、大好きだから。それ以上の理由なんて、必要ないよ。」

その瞬間、裕貴先輩の頬を涙が伝った。そして、その涙が一粒ずつ赤ちゃんの顔に落ちないよう、慎重に拭いながら彼は呟いた。

「歩夢くん……ありがとう……。俺、歩夢くんと一緒にいると、本当に幸せだよ。」

彼は赤ちゃんを優しく抱きしめ、ふと微笑みながら俺を見上げた。

「……俺、この子と一緒に、歩夢くんとずっと笑っていたい。だから、お願い。俺を……俺を、歩夢くんの奥さんにしてください。」

その言葉に、俺は息が詰まりそうだった。けれど次の瞬間には笑顔が浮かび、自然と彼の額にそっとキスをした。

「先輩、俺のほうこそ、ずっとそばにいてください。これからも、俺たちは一緒です。」

裕貴先輩は涙を拭い、もう一度赤ちゃんに目をやった。そして俺の手をぎゅっと握り返しながら、微笑みながら言った。

「ありがとう、歩夢くん……。君がそばにいる理由、今なら分かるよ。」


俺たちは互いに微笑み合い、そして赤ちゃんを見つめた。新しい命と共に、俺たちの未来が光に満ちていると感じた。

「僕がそばにいる理由」、それが今ここで、しっかりと形になった気がする。
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