盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

王族って

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「今の話は、どういう事でしょうか」


 淡々と温度のない声で紡がれた言葉。感情を露わにして話すよりも、機械的に言葉が発せられる方がより恐ろしさを感じるようだなんて、知らなくてよかった。


「あのね、セシル。今のはお母様がよく言う冗談で……ねっ、そうでしょう、お母様」


 末妹離れを、の話は兎も角として、私をレーヴェ王国に連れていきたいと親戚レーヴェ王族が言い出すのは一種の交流で、私がレーヴェを訪れた時に使われる常套句のようなものだ。
 そう思える程に、親戚として情愛を抱いているという、親愛の証のようなもの。

 それに対して、お母様が『諦めてって言ってるでしょう』と笑い混じりに返すまでが毎回のお決まりのようになっていて。

 だからきっと今回もお母様は煽り文句には丁度いい常套句をわざと使用して、セシルと私を揶揄っているだけに過ぎないーー。


「あらぁ、ローナ。貴方まだ、冗談だと思っているの?」
「えっ」
「お兄様たちは本気よ」


 いつになく真剣な、揶揄の意図を感じさせない声色の母に困惑を隠せない。
 助けを求めるように兄の方を向く。


「……まあ、そう、だな」


 しかし頼みの綱だと思っていた兄から返ってきた言葉は、事態を深刻化させる肯定の言葉で。


 ……確かに私は、兄姉から一番に可愛がられているレーヴェ王族末妹の母に見た目がよく似ている。
 そっくり兄妹と謳われる兄さんだって、同じように母に似ている事に変わりはないが、そこは性別の差からか、私の方がより親戚から可愛がられている自覚も、ある。

 特に、母の上から二番目の兄である、ウィリアム伯父様は目に入れても痛くないと言わんばかりに私を可愛がってくれていて、失明した時などはクロイツに乗り込んでくる勢いであった。

 でもだからといって、あの方々が私をレーヴェに連れて行こうだなんて、本当に思っているはずがない。
 連れて行ったところで盲目の令嬢なんて何の役にもたたないし、そもそも数が多すぎて持て余してさえいる王家へさらに人を加える必要性を感じない。


 可愛がってるってだけで、そんな。お母様や兄さんの考えすぎなんじゃ……と私は大袈裟だと笑っていたのだけれど。


「レーヴェの血はレーヴェにあるべきだーとか、末妹は渡したのだから血を引く娘の方はレーヴェに返すべきだとか何とかそれらしい事を仰ってね、ウィリアムお兄様を筆頭にした、私によく似たローナをレーヴェに永住させようと結託しているお兄様お姉様方がヘンリーを唆した結果が、あの手紙なのよ」
「そうか……何故ローナがあの手紙を喜ぶばかりなのかと思っていたが……気づいていなかったのか」


 つまりお母様と兄さんの話を集約してヘンリー様から届いたあの手紙を解釈し直すとーークロイツ王国王太子殿下と婚約をしたままの状態では流石にレーヴェに移住させることはできないから、明確に破棄させた上で私をレーヴェに移動させるために、ハーン王国との結婚による国交改善案を明かしてくれた、という事になる。

 ……そんな馬鹿なと一蹴したいのに、頭によぎるのはこれまでの伯父伯母並びにその一族と過ごしてきた日々で。
 表にこそ出していないが、心の中では母と兄の言葉に大いに納得している自分がいた。


「それじゃあもしかして貴方、ノアの事も気づいてないのね」
「ノアが、何か……?」


 まだ私が知らない何かがあるのかと、ビクッと肩を震わせた私に、隣に座るギーゼラが気遣わしげに背中をさすってくれるのが何とも居た堪れない。


 ノアとは、お母様の三番目の兄であるチャールズ伯父様の孫で、私にとっては一つ歳上の従甥にあたる人物だ。

 歳が近いので、たまにレーヴェ王国を訪れた時に彼の双子の姉であるメアリーと共に三人でよく遊んでいた。
 私よりも色の濃い金色の瞳と、レーヴェ王族にはないふわふわとした金色の髪を持つ天使のような少年である。


 そのノアが、一体何だというのだろう。


「あの子が出会った時からずっとローナを一筋に思っているものだから、これ幸いとお兄様が婚約を取り付けようとしているのよ。貴方を手っ取り早く貴呼び寄せるのに、婚約は最適解ですもの」
「ーーへぇ」


 ここまで黙りで聞いていたセシルが短く相槌を打った。けれどその声は変わらず抑揚のない声で。

 今日はスイッチがよく入るなあ、なんて現実逃避してしまいたくなるけれど、隣から漂う只事ではない雰囲気が私を現実に引き戻す。

 何にもやましいことはないどころか、私さえ初耳の情報ばかりだけれど、この後セシルはどうなるんだろう……私も、どうされるんだろう。


 母はセシルの様子に気づいているのかいないのかーー母ならば面白がって態ととも言えるし、本当に気づいていないとも言えるーー何の影響も受けることなく、のんびりとした口調で話を続けた。


「でも大丈夫よ。ヘンリーはお兄様やお姉様に言われるがままに貴方をレーヴェに呼び寄せようとしているだけでしょうから、エドワードお兄様に訴えてしまえばいいのよ。エドワードお兄様に意見できるのなんて、ヴィクトリアお姉様くらいですもの」


 お母様の一番上の兄で、レーヴェ王国前国王陛下であったエドワード伯父様ならば、レーヴェ王国にいる伯父伯母ならば完全に抑えられるだろう。殆ど会ったことはないけれど、会うたびに可愛がってくださるものの、他の親戚のような溺愛は見られない。
 お母様の一番上の姉で、ミュンツェ王国の前王妃殿下であったヴィクトリア伯母様は会った事さえ無い。なのでレーヴェ王国の……というか、親戚間の取るに足らない問題に態々国を超えて口を出してくることはないだろう。


 それならば、お母様にエドワード伯父様に一筆書いていただければレーヴェの問題は解決、ということで話を終えてもいいのではないだろうか……?


 見えるわけではないが、チラリと横目でセシルの方を見る。私の視界に写るのは光を帯びた白い世界だが、そこは気持ちの問題である。


「ローナ」
「はいっ」


 突如名を呼ばれ、反射的に返事を返した。

 セシルは何を言うのだろうかと身構えた私の背中と膝裏に手を伸ばしたかと思うと、ヒョイと簡単な動作で自身の膝上に私を乗せた。

 突如として訪れた抱擁ではない至近距離と、家族と友人がいる空間でーー今更とはいえーーあからさまに恋人らしい体勢を取られた事に頬が熱くなった、のだが。


「"ノア"とかいう男と今までにどんな事をしてきたか、どんな話をした事があるか、どこに触れたことがあるか。一つ残らず、何一つ隠す事なく、洗いざらい余すことなく全て話して」
「アッハイ」


 ーーそういう訳で。私はセシルの膝上という絶対に逃げられない場所に拘束されたまま、ノアと初めて対面した幼少期の話から最後に彼にあった去年の話までの全てを徹底的に明かす事となった。


 お母様はエドワード伯父様に送る手紙の内容を兄さんと相談して、とりあえず私とセシルの婚約が決まりそうだという事を最優先に記そうという話をしていたらしい。


 そして、取り残されたギーゼラはというと。


「……いつもこんな感じ?」
「……ええ、そうですね。概ねは」
「大変だね」
「もう慣れました」


 セシルが力を込め過ぎて割れたティーカップを片すアンに労いの言葉をかけ、二人は顔を見合わせて苦笑していたのだった。



   *      *      *



 そうして私とセシルの婚約は貴族院会議で可決されて。


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