わたしたちの庭

犬飼ハルノ

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グィネス・ブルーノ伯爵夫人

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 大きな鉄の内門が開く。
 すると、堅牢で豪華な屋敷の正面に大勢の人が整然と並んで立っているのが見えた。

「え……」

「先ぶれが行っておりますので。使用人全てではありませんが」

 馬車が止まり、扉が開く。

「フィリス様。お手をどうぞ」

 この旅で護衛を務めてくれていた騎士たちを束ねていた男性がステップの前に立ち、手を差し出してきた。

「ありがとうございます」

 最初は馬車の乗り降りの作法が分からず戸惑ったが、道中、侍女と彼らが丁寧に教えてくれ、なんとか板についてきたように思う。

「ようこそ、ブルーノ家へ。長旅でさぞお疲れでしょう」

 使用人たちを後ろに従え、道の真ん中に立つ貴婦人はおそらく、グィネス・ブルーノ伯爵夫人。
 プラチナブロンドの髪を優雅に結い上げた、まるでエルフの女王のように美しい女性だ。

「初めまして。ウエスト伯爵家の長女、フィリスと申します。この度は様々なお心遣いいただきありがとうございます」

 深く腰をかがめ、首を垂れた。

「丁寧な挨拶をありがとう。でも、これからはこのような挨拶は不要よ」

 気が付くと、夫人が目の前にいた。
 両腕に優しく手をかけて立つことを促される。
 すらりと背の高い女主人をフィリスは見上げた。

「息子の婚約者ですもの。貴方はこれからこのブルーノ家の一員よ」

 そう言って笑った目元はドレスの色と同じ深い青。
 思わず見とれてしまった。
 そんなフィリスに優しく笑いかけた後、夫人は使用人たちへ身体を向け、宣言した。

「さあ、皆さん。この方が次期当主夫人よ。私同様に、誠心誠意仕えてちょうだいね」

 夫人に倣って、フィリスは背を伸ばして両手をウエストの前に置き、彼らを見渡した。

「はい。奥方様」

 一斉に使用人たちが頭を下げる。
 ざっと音がして、空気が動いた。

「フィリス様。これからどうぞよろしくお願い致します」

 おそらく執事、または家宰だろう。
 初老の男性が代表して口上を述べると、全員それに倣った。

「フィリス様。これからどうぞよろしくお願い致します」

 驚いて、フィリスは目を見開く。
 ウエスト家で誰かに頭を下げられた記憶がない。

「フィリス嬢」

 夫人からの囁きに我に返る。
 深呼吸を一つつき、お腹に力を入れ、声を出した。

「挨拶をありがとうございます。フィリスです。こちらこそよろしくお願いします」

 姿勢を直した使用人たちはみな、フィリスのおぼつかない挨拶をまるで幼子を励ますような優しい微笑みを浮かべていた。
 視線の温かさに、身体から力が抜けていく。

「貴方を心から歓迎ます。本当に、よく来てくれました」

 フィリスは、胸の奥から込み上げてくる熱いものをこらえた。

 まるで、夢のよう。


 
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